攻略対象のイケメン度が半端ないです
私は真っ新なノートを机に広げ、思いつくままに書き始める。
まず最初は何と言ってもダイアモンド国第一王子エリク・ダイアモンド。その名の通り、光の当たり方によって幾通りにも輝く極上のプラチナブロンドに、これまた見る角度によって色味を変える不思議な瞳、一級の芸術作品と称されるほど整った顔立ちと体躯。見目だけでもこれだけ麗しいのに、神様のお気に入りなのか聡明で運動神経も素晴らしく、性格はザ・王子。あ、ディスってるわけじゃなくてね。クールな性格だけど誰に対しても分け隔てなく接して、女子にはご褒美にしかならない茶目っ気と意地悪さ、ちょうど良い感じにリードしてくれる強引さもあって、ほとんどの女子が大好物なタイプじゃないかな。本当は人を手放しに信じたいが、王子であるがゆえに心から人を信じることができないと諦めていたところを裏表のない天真爛漫なアミルに惹かれるのがゲームストーリーで、他の令嬢と違ってエリクに媚びず自分らしさを貫くクロエに心奪われるのが小説ストーリーだ。
次に我が義兄リム・ルベライト。ダイアモンド国で有力な公爵家の一つ、ルベライト家の長男。さっきも少し話したけど、ルベライト家には養子でやってきたから私と血の繋がりはない。要するに、私とまったく似てなくて美形。栗色の柔らかそうな髪に瑞々しいライムを思わせる瞳、穏やかな印象の目元に、黙っていてもほんのりと微笑んでいるように見える唇。文句なく眉目秀麗。そしてそこから醸し出される色気が温厚な性格と相まってとんでもない。エリクのカリスマ性とは違う方向で老若男女全てを魅了する。自分にまとわりつくシトラスを筆頭に強気な女性に迫られることが多く女性不信になっていた彼だが、明るく元気で癒し系のアミルやさっぱりとして気遣いのできるクロエに出会うことで初めて恋を知るのがリムルート。
続きましてステュアート・ベリル。ダイアモンド国騎士団所属でエリクの専属護衛。こちらも何とも言えない色気漂うアッシュグレーの上質な髪に情熱的な深く濃いワインレッドの瞳。少し目尻が上がった凛々しい目元と大胆不敵な笑みを浮かべる唇。豪放な性格に面倒見の良さ、そしてちょっとたらしチックなのがたまらない魅力だ。実にけしからん。悶える。そんな彼だが幼い頃妹を守れず妹の膝に傷痕を残してしまったことから『守る強さ』を求めすぎて自分を蔑ろにするところがあり、「私にもあなたを守らせてください」とお互いに守り合うことをアミルから、「守ってもらうばかりは性分じゃない」とともに戦うことをクロエから学ぶ。
それからライセ・スピネル。ダイアモンド国王に仕える有能な宰相を父に持つ彼もまた将来エリクの下で立派に宰相を務めるだろうと期待の高いクールなイケメンだ。ダークチョコレートを思わせる上品な髪色と紅と碧を織り交ぜたような瞳はとても妖艶な色合いで、その整った顔に滅多と笑顔を浮かべない彼のミステリアスな雰囲気をより際立たせる。ちょっぴり天邪鬼な性格に見え隠れする優しさに悶絶する女子も多いだろう。父親の有能さに羨望と劣等感、家族を顧みない姿に嫌悪感を抱いている彼に「あなたはお父様とは違う」と優しく伝えるのがアミル、「得意分野が違うだけでしょ」とあっけらかんと言ってのけるのがクロエ。
最後はケント・エメラルド。ダイアモンド国に隣接するエメラルド国の王子で、アミル達の通う学園に留学する。溶かしたバターのような黄金色に輝くブロンドの髪とエメラルドの名に恥じない美しく淡い翠の瞳。もちろん容姿端麗。いつもにこやかで言葉遣いも丁寧、柔らかい物腰。これだけでも十二分に美味しいのにそこへ隠し味のように『腹黒属性』というスパイスが加わって彼の色気は止まるところを知らない。王族として決められた人生を歩むだけだと思っていたケントは平民であるアミルの自由さに、転生令嬢であるクロエの奔放さに興味を持つ。ちなみに彼は隠しルートキャラでもある。
・・・と、まぁこんなものかな。
転生令嬢であるクロエの考え方とかすごく共感したし、クロエはただただ破滅フラグ回避目的で行動しているだけなんだけど結果的に攻略対象の心の琴線に触れて逆ハーレム展開。いやー攻略対象達がお互いにクロエの気を惹きたくて牽制しあったりしてるの見てきゅんきゅんしたなぁ。悪役令嬢転生ものによってはヒロインの性格がゲームと違ってぶりっ子だったりワガママだったり、はたまたヒロインまで転生してて『私がこの世界の中心なの!』みたいな痛い子だったりするけどアミルは普通に良い子で、クロエと親友になるのも感動したんだよー。
他の悪役令嬢転生ものにも好きなものたくさんあったけど、小説『悪役令嬢に転生したけれど、わたしはげんきです』は書籍もコミックも買って何度も読み返すくらい大好きだった。
うーん、自分が破滅フラグ付きでモブまがいの残念令嬢じゃなければ彼らと同じ世界に転生できたことはちょっと嬉しかったりするんだけどな。なんとも複雑な心境だわ。
私はそんなことをしみじみ思いつつノートを捲り、何か他に書き記しておくことはないかと考えていたら侍女のベルがお父様達とのお茶の時間だと知らせに来てくれた。私は慌ててノートを引き出しの奥に隠し、部屋を出る。
今日のおやつは何だろう。