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悪役令嬢は和食をご所望です  作者: 朝日奈 侑
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早くも悪役令嬢対決ですか?

 はーい、皆さんこんにちは!シトラス・ルベライト八歳、今日も客間からお届けしております。

 今日のゲストは私が前世から愛している小説『悪役令嬢に転生したけれど、わたしはげんきです』の主人公クロエ・ガーネット様です!今日も今日とて同じ八歳とは思えぬほどお美しい!相手()を値踏みする眼差しがまるで女帝ですたまらん!

 ・・・・・・・なんでこんなことに?



 エリクの茶会や訪問を乗り越え、やっと平穏な和食作り生活に戻れると思っていた矢先、鮮やかなガーネット色に縁どられた手紙が届いた。手紙が書かれた日から二週間後、クロエ・ガーネットがシトラス・ルベライトとお茶の時間を共にしたいとのこと。『お茶しませんか?』的なお誘いというよりは『行くから準備して待ってろよ』という先触れに近い。私、暇を持て余してる子だと思われているのかしら?だとしたら大変心外だ。私にだって色々予定があるのだから。和食作りとか家庭教師の授業とか和食作りとか。


 そもそもクロエは私に何用だろう?この前の茶会では話どころか挨拶すらしてないし、ルベライト公爵家の書斎にある本を全て読み尽くしてしまったリムが国立図書館へ行ってクロエと出会うまでストーリーは始まらないって安心してたんですけど。これがストーリー補正というやつ?でも今のクロエって前世の記憶を思い出す前よね?記憶を思い出すのはクロエが十歳になる誕生日だから・・・一年半年後くらい?高飛車な頃のクロエに会ってもリムはときめくのかしら?うーん、わからないけどできればリムとクロエが出会ってしまうのは避けたいな。ほんとなんでクロエわざわざ私に会いに来るんだろう?・・・取り巻きへのスカウトとか?だとしたら丁重にお断りしなければ。


 しかし結局危惧していたリムとクロエの対面は回避できた。当日リムはお父様の領地視察に同行したからだ。

 とりあえずちょっとホッとしたものの、クロエとのティータイムを考えると憂鬱は憂鬱だ。

 お茶請けは手紙を受け取った日から何にしようか色々考えた結果、どら焼きにすることにした。白玉粉やもち粉があれば白玉団子を使ったスイーツや苺大福、練り切りなど選択肢が豊富だったんだろうけど、ないものは仕方ない。ジル料理長に頼んで小豆を買ってきてもらい、餡子を作る。


 まず小豆を優しく洗って大きめの鍋に入れ、たっぷりの水で煮る。沸騰したら火を止め、蓋をして二十分くらい蒸らす。蒸らし終えたら、小豆をザルにあげて煮汁を捨てる。再度鍋に小豆を入れ、ひたひたの水で煮る。一度沸騰させてから火を弱めてコトコト煮ること一時間。豆が指で簡単に潰れるかどうかを確かめた後、砂糖と水を入れて強火にかけつつ焦がさないよう混ぜる。味を引き締めるため仕上げに少しだけ塩を加えて餡子は完成。前世を含めて初めて作ったのでドキドキしながら味見したけど、私好みの控えめな甘さで我ながら上出来だと思う。


 次はどら焼きのカステラ生地だ。常温に戻した卵をボールに割り入れ、砂糖とハチミツを入れて泡だて器で混ぜる。水を加えて薄力粉やベーキングパウダーをふるい入れ、ダマがなくなるまで混ぜた後二十分ほど生地を休ませる。フライパンに油を引いて熱し、生地を円形に広げて焼く。焼き色がついたら返して裏も焼き、冷ます。充分冷めたら作っておいた餡子を乗せてもう一枚の生地で挟む。

 うん、かなりいい感じなんじゃないかしら?ぽってりとした見た目も可愛いし、美味しそう。じゅるり。


 ご提供するにあたって味見をしようとしたところ、ベルに「シトラス様!そろそろお着替えにならないと!」と自室へ連行された。

 着替え終えたところでクロエが到着し、冒頭へ戻る。



 「先日エリク殿下がこちらへお越しになったそうですわね」


 クロエは一口紅茶を飲んで、カップをソーサーに置きながら言った。

 カップをソーサーに置くだけなのになんでこんなにもうっとりとした仕草になるんだろう?

 そんなことを考えて返事もせず呆けていた私をクロエがじろりと見つめてきたので慌てて口を開く。


 「え?あ、そう、ですね」

 「シトラス様がお詳しくてらっしゃる異国の文化について聞きに来られたとか」

 「はい。ヒスイ国の食文化について、少しだけですが」

 「エリク殿下はまたこちらへお越しになる予定ですの?」


 『今度一緒に市場へ行こう』と誘いは受けているものの、再度訪問するという話はなかった。あんまり頻繁に訪れると婚約などを疑われるということはエリク自身重々わかっていたようだし、今後度々ルベライト家に足を運ぶということもないだろう。


 「いえ、おそらく先日限りだと思います」

 「まぁ!それでしたらわざわざ(わたくし)がご忠告差し上げなくても大丈夫そうですわね」

 「ご忠告、ですか?」

 「エリク殿下が一度お越しになったからと言って婚約できるかもしれないと期待なさらない方がご自身のためだってことですわ」


 おぉ・・・小説では前世を思い出した後のクロエしか知らなかったけど、前世を思い出す前のクロエってこんな感じだったのね。悪役令嬢っぽいすごい!

 今までたくさん悪役令嬢転生ものを読んできたので、本物の悪役令嬢感を目の当たりにできるとはちょっと感動だ。

 私が感動に高揚していると、クロエはふとテーブルの上に置かれていたどら焼きに目を留めた。


 「これは・・・何ですの?」

 「あ、これは『どら焼き』というヒスイ国のスイーツです」

 「あら、お茶請けでしたのね。てっきり大きなキノコでも出されたのかと思いましたわ」


 あ、見た目がお気に召しませんでしたか。私も本当はフルーツタルトやアイシングクッキーにした方が無難かなと思ったんだけど、エリク殿下がご興味を示されたヒスイ国のスイーツの方が話が盛り上がるかと・・・嘘です私が食べたかったんです。あ、もしかしてどら焼きの表面にハート柄とか花柄の焼き目をつけたら印象が変わったのかもしれないわ。次からはそうしよう。

 クロエはナイフとフォークでどら焼きを切り分けるとさらに怪訝な顔をした。


 「中身はずいぶんと黒いですけれど・・・これはチョコレートクリームか何か?」

 「これは『餡子』と言って、『小豆』という種類の豆を砂糖で甘く炊いたものです」

 「あんこ・・・豆・・・」


 あ、理解に苦しむって顔してる。『出されたものにナイフを入れたにもかかわらず食べないなんて体調でも悪くない限りマナー違反にあたるので食べないといけない。でもこんな得体の知れないもの食べたくない』という内なる声が聞こえてきそうだ。

 

 『やはり普通にフルーツタルトとかにすればよかった。ごめんね』と申し訳なく思いつつ私はいただくことにする。本当は某有名猫型ロボットのように手で持ってかぷっといきたいところだが、公爵家令嬢としてはNGなのでクロエと同じようにフォークとナイフで小さく切り分けて食べる。クロエの一口分よりちょっと大きい気がするけど許容範囲よね、いただきまーす!

 口に入れた瞬間カステラ風生地のふんわりとした柔らかさと餡子のねったりとした食感とともにハチミツと卵の風味、そして餡子の強いながらも上品な甘さが混ざり合う。ケーキもチョコレートもクッキーも大好きだけど和菓子も美味しいよね・・・好き・・・・・!


 私があまりにも美味しそうに食べているからか、クロエは渋々といった感じでどら焼きを口にした。どら焼きをフォークとナイフで切り分けて口に運ぶ金髪美少女・・・ちょっと不安になるくらいシュールだぜ。


 その時だった。クロエが突然目を見開いたかと思うと、そのままどこか虚空を見つめるような顔で固まった。


 「え、あの、クロエ様?」


 そんな硬直するほど口に合わなかったのだろうかと心配になり思わず声をかけると、クロエは一瞬びくんっと驚いたように身体を震わせ、それから私を見た後辺りをきょろきょろと見回した。

 なんだろう?ちょっと様子が変だ。なんとなく彼女の雰囲気も先ほどと違う気がする。


 「あの、クロエ様?もしかしてお口に合わなかったでしょうか?それかご気分が優れないようでしたらお休みになれる部屋をご用意致しますが・・・」

 「だ、大丈夫です。えっと、急で大変申し訳ないのですが、今日のところはこれで失礼させていただいてもよろしいでしょうか?」

 「え?あ、はい」


 そうしてクロエは慌ててルベライト家を去っていった。突然どうしたのだろう?なんか態度も少しおかしかったな。こう、豪然たる態度だったのが殊勝なものになったような・・・あれ?なんか・・・この感じ、もしかして・・・・・。

 私の中で一つの可能性が浮かび上がる。

 もしかしてクロエ、どら焼き食べて前世を思い出した・・・!?

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