なんだか騒がしいようです
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がんばります!!!
どうもこんにちは、シトラス・ルベライト、八歳です。
お父様達と市場へ遊びに来たんだけど、どうやらお父様達が迷子になったみたい。
もぉー良い歳した大人が二人もいたのに迷子になるなんて仕方ないわねぇ。
・・・なんてな。ごめんなさい迷子になったのは私です。
でも私は中身がアラサーだから、お父様達とはぐれたぐらいで泣きじゃくったりしません。こういう時は変に動き回らずここでじっとしているのが得策・・・
「一体どうしてくれるんだ!?」
突然そんな怒声が耳へ飛び込んできたので私は一瞬ビクッとなった後、声のした方へと顔を向けた。
そこには小綺麗なスーツに身を包んだ四十代くらいの男性と素朴なワンピースにエプロンをした二十代くらいの女性がいた。男性は存在感のある眉の間にしっかりと皺を寄せており、こめかみには青筋が立つほど明らかに怒っている。そんな男性を前に女性は今にも倒れそうなほど蒼褪めて頭を下げていた。
一体何があったのだろうかとよくよく見てみると、男性の履いている靴の下に潰れたトマトがあった。女性の足元にはトマトが山のように入った籠が置いてあることから察するに、女性の運んでいた籠から落ちたトマトを男性が踏んでしまったようだ。
「申し訳ありません。必ず弁償を・・・」
「私はザック・アンバー侯爵に仕えるコーネルピン伯爵家のダグラスだぞ。あいにくと安物は着ていない。平民の君にこの汚れた服や靴を弁償できるのかね?」
よほど瑞々しいトマトなのだろう。ダグラスと名乗った男性の靴やパンツの裾にトマトの果汁が飛んでいた。女性はダグラスの言葉にどう答えたら良いかわからず困り果てているように俯いている。
女性が何も言い返してこないのを良いことにダグラスは続けた。
「この靴と服だけで君の家の生活費一ヶ月分くらいするはずだ。どうする?所有物を換金して金を作るか?君の家にそんな高価なものがあるとも思えんが・・・もしくは身体で返すかね?よくよく見ればなかなかの見目をしているようじゃないか」
「やめろ!」
二人の間に若い男性が割って入る。
「彼女をそんな目で見るな」
「ほう?私にそんな口をきくなんて礼儀がなってないな。君は彼女の恋人か何かかね?それなら君が代わりに弁償してくれてもかまわないよ。三十万ジェル、君に払えるとも思えないが」
ダグラスの台詞に男性が言葉に詰まった。
ちなみにジェルというのはこの世界の通貨で、一ジェルが前世の一円に相当する。三十万ジェルだとダイアモンド国の平民一家庭一ヶ月分の平均生活費を優に上回る額だ。いくら大切な恋人であっても「はいそうですか」と簡単に肩代わりできるような金額ではないだろう。男性がたじろぐのも無理はない。
その頃の私はというと・・・腹わたが煮えくりかえっていた。
なんだ?この絵に描いたようなクズ?
え、なに?トマト踏んでちょっと靴汚れただけよね?お気に入りの高価な靴が汚れたらたしかにちょっとテンション下がるけどそんなの洗えば済む話じゃない?野良犬の置き土産踏んづけたのならまだしも、トマトなんて清らかなもんでしょ。むしろ事故とは言え食べ物を踏んづけてしまったことに良心は痛まないの?私だったらもったいなくて申し訳なくて潰したトマトに土下座してるところよ!
しかもそのカスみたいな自己紹介も何?ザック・アンバー侯爵に仕えるコーネルピン伯爵家のダグラス?虎の威を借りる狐だってもっとまともな借り方するわ!だいたい仕えに出てるってことはコーネルピン伯爵家当主でもないってことを露呈しているだけで、むしろ格好悪いんだと思うんですけど。あんたの何がそんな偉そうにネチネチ言える要素だっていうの?だいたい領民あってこその貴族ってことをお忘れなのかしら?あんたが公衆の面前で嫌らしく叱責している人達が一生懸命働いてくれているから私達貴族は生活できてんでしょうが!
私は怒りに震えながら何か手立てはないかと思考を巡らせた。
私みたいな小娘が感情のままに出ていったところであのくそみたいな男に鼻であしらわれるだけで終わりそうな気がする。悔しいけど権力があって顔も通るのはお父様であって私ではない。しかも下手して失敗してお父様の顔に泥を塗る結果になってしまってもいけない。かと言ってこの状況を誰かが打開してくれるのを何もせず待っているだけなんて・・・。
そこまで考えたところでダグラスが踏み潰したトマトの上から足をどけた。そのトマトを見て、私はあることを思いつき、一度大きく深呼吸すると騒ぎの中心へと一歩踏み出した。