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悪役令嬢は和食をご所望です  作者: 朝日奈 侑
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念願の市場デビューです

ブックマークしてくださった方、評価してくださった方、本当にありがとうございます!

とっても嬉しく、すっごく励みになります!!

 ダイアモンド国ルベライト領の市場は観光地としても有名なほど多種多様な店が並び、食材はどれも新鮮で雑貨は趣向を凝らしたものばかりだとお父様が馬車の中で説明してくれた。


 「ネクター様の手腕の賜物ですね」

 「そんなことはないよ。領民と領地に恵まれているだけさ」


 お父様とジル料理長の会話に耳を傾けつつ、私は窓の外を見ていた。

 本当は使用人と馬車を共にする貴族など変わり者以外の何者でもないと思うが、私はお父様のこういうところをとても好ましく思っている。出かける直前お父様自身で選んだネクタイの柄が信じられないくらい奇抜だったけど、それもなんだか憎めない愛嬌だ。ちなみにネクタイはお母様が怖いくらい良い笑顔でまともなものを突きつけたのでお父様はそれに決め直してくれたけど。あんなネクタイで市場を歩かれた日には今後ルベライト家を名乗るのが憚られるところだった。ありがとう、お母様。



 市場に降り立った私は一瞬言葉を失った。そこはお父様から聞いて想像していたものよりずっとずっと大きい市場だったからだ。新鮮さを物語る野菜や果物が木箱に積み上げられた店や試食用に肉や魚を焼いて香ばしい匂いを漂わせる店、思わず目を引くガラス雑貨や味わいのある木製食器の店など数えきれないくらい軒を連ね、店員達が溌剌と客に声をかけている。とてもにぎやかだ。


 「すごい・・・!!」


 あ、あのお店搾りたての果物ジュース売ってる!

 私はさっそく目についた店に駆け寄ろうとした。そこで軽く腕を引いて止められる。振り向くとフィオが呆れたような顔をしていた。


 「勝手にどこか行って迷子になったら困る」


 たしかに。

 私より二ヶ月誕生日が早いだけなのに彼のこのしっかりさは何だ?こちとら中身アラサーなんだけど。え?私が子供っぽすぎるだけだって?ちょっと何言ってるかわかりません。


 「シトラスを止めてくれてありがとう、フィオ。はぐれないよう僕がちゃんと見ているね」


 ふいにリムが私の肩に手を置いて自分の方に引き寄せる。その拍子にフィオの手が私の腕から放れた。

 んん?なんかリムの笑顔がいつもと同じようでいてちょっと雰囲気違う?フィオの顔もあいかわらず無表情だけどいつもより少し温度が低いというか。リムとフィオの間の空気もなんか微妙な気がする。この二人って仲悪かったっけ?まともに話すの今日が初めてのはずなんだけど。それとも私が危なっかしいから心配してぴりぴりしているのかしら?中身アラサーなので迷子になっても落ち着いて対処できますから大丈夫ですよ二人とも。


 まず何を見に行きたいかと問われて「お米を売っているお店」と即答したら案の定全員に「え・・・」という顔をされたが、希望通りお米を売っているお店へ連れていってもらえた。基本的にジャバニカ米の量り売りという感じだったが、さすがこの世界で最大級の国・ダイアモンド国にある有名な市場だけあって少量だがジャポニカ米とインディカ米も売っていた。

 やっと会えたねジャポニカ米・・・!

 感動の対面を果たしている私を見て、ジル料理長が今回の仕入れでジャポニカ米を少し買おうと言ってくれた。感涙極まれり。


 「それにしてもこれはヒスイ国で主食とされている品種のお米ですよね?どうやって仕入れているんですか?」


 私が不思議に思って口にすると米屋の店主が答えてくれた。


 「よくご存じですね。恥ずかしながら私は米に目がなくて・・・色々な米を買いたくて年に一度、ヒスイ国とルビー国に米を仕入れに行くんですよ。」

 「そうなんですね。ちなみにヒスイ国へ行くにはどのくらいかかるんですか?」

 「ここからですと馬車に乗って最短でだいたい四日くらいですかね。朝一番に出発しても一日ではエメラルド国との国境は超えられませんからダイアモンド国で一泊、二日目にはエメラルド国中心部で一泊、三日目にヒスイ国との国境あたりで一泊・・・ヒスイ国の中心部に着くのは四日目の午後ですかね」


 なるほどなるほど。位置関係は兵庫県だ奈良県だと言っても国土面積は圧倒的に広いし、電車や車もないとそれくらいかかるのね。結構な遠出になるからこれはさすがに十年後くらいじゃないと行かせてもらえないかな。

 ちらりとお父様を見やると、その視線をお父様は笑顔で受け止めた。


 「シトラス、ヒスイ国に興味があるのかな?でもさすがに遠いから今すぐは無理だよ。もっと大きくなったらね」


 はい先手取られましたー。

 わかってます、わかってますよ。今度の家族旅行の行き先候補に挙がらないかなそしたら絶対醤油買おうとか期待したわけではないですよー。・・・大きくなるまでヒスイ国への旅を夢見ながら自力で和食作りがんばります。



 リムのリクエストで本屋に行ったり、ジル料理長が食材の見極め方や注文の仕方をフィオに教えたりしながら市場を回る。

 途中見たことない揚げ菓子が売っていて買ってもらった。揚げられて外側がサクサクになったもっちりスポンジの中にクリームチーズとブルーベリーのコンフィチュールが入っていてほっぺたが落ちそうなくらい美味しかった。実際落ちた。


 もちろん和食作りのためのリサーチも欠かさない。豆を売っているお店で大豆を見つけた。今回はジャポニカ米を買ってもらうので、大豆は次回にする予定。味噌や醤油、納豆にチャレンジする算段がまだ整ってないしね。小豆もあったから、どら焼きとか作れそう。もち米も見つかったらおもちを作ってぜんざいもいいな。ちなみにさっき米屋の店主が年に一度ヒスイ国へ訪れて米を仕入れていると聞いて「それなら醤油や味噌をヒスイ国から仕入れて売っているお店もあるのでは!?」と思って探してみてるけど残念ながら今のところ見つけられず。希望は見出せたけど一筋縄ではいかないようだ。むむむ。



 お父様達と歩きながら周囲を見回しているとふと菜の花を売っているお店が目に入った。

 菜の花!おひたしにしたら美味しいよねぇ。醤油ないけど。あ、てんぷらなら今すぐにでもできるかも!でも今日はジャポニカ米を注文してもらったし、これ以上は頼みすぎよね。これも次回かな。

 そう思って前を向き直った瞬間私は思わず立ち止まった。さっきまで前方を歩いていたお父様達が見当たらない。


 『シトラス は どうやら まいご の ようだ』

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