書斎に行ってみました
一日休んだフィオは熱も下がり、すっかり体調が戻ったとジル料理長からベル伝手に聞いたが、無理をさせてもいけないし、厨房に病人は厳禁だから大事をとって今日も自室で過ごすらしい。私もそれが良いと思う。
「シトラス様に風邪がうつっていないか心配していたそうなので、『問題ない』とお伝えしておきました」
「ありがとう、ベル」
お見舞いに行って風邪をもらってきては本末転倒だし、皆に心配や迷惑をかけるからそこはさすがに私も注意した。フィオの部屋から戻った時はきちんと手洗いうがいをしたし、スタミナをつけるために昨日の夕飯に出された鶏胸肉のハーブチーズ焼きをしっかりとおかわりまでした。対策ばっちりよ。
家庭教師が帰るのをお見送りして部屋へ戻る途中、書斎の扉が目についた。
そういえば、お父様がお土産でもらってきた東方の国の御伽噺に『おにぎり』が載っていたのであれば、その東方の国とやらには醤油や味噌などがあるんじゃないだろうか?もし和食文化の国なのであればぜひとも行ってみたい。
そして私はふとあることに思い当たった。もしかして東方の国についての本が書斎にあれば、和食追求に役立つ情報が何か載っているかもしれない。それにいつか東方の国へ行くにしても、そんな頻繁に行き来できるとは限らないから、事前に色々情報を学んでおけば東方の国へ行く際とても有意義な時間の使い方ができる気がする。
そう思うとなんだかとても心が躍った。異国への旅に思いを馳せるのって楽しいよね。
わくわくとした気持ちに背中を押された私はゆっくりと書斎の扉を開けた。書斎は私の部屋よりも広く、色とりどりの背表紙がびっしりと並んだ本棚が壁を埋め尽くしている。本棚の高さは天井まで届いているので、本棚が壁になっていると言っても過言ではないほどだ。扉と対面する壁は本棚と大きな窓が縞模様のように交互に並んでおり、窓から差し込む光が臙脂色の絨毯やモスグリーンのソファを鮮やかに照らしている。
前世の記憶を思い出す前のシトラスは勉強が嫌いで書斎に足を踏み入れたことがなかったため、まともに書斎を見たのはこれが初めてだ。
本の多さ、書斎の雰囲気に圧倒されながらも部屋へ入っていくと、頭上から名前を呼ばれた。
「シトラス?」
振り返ると本棚についている梯子に腰かけているリムがいた。
「お義兄様」
「シトラスも本を読みに来たの?」
読んでいたページにしおりを挟んで閉じ、リムが本を片手に器用に梯子を下りてくる。
「読みに来たというよりは書斎の扉が目に留まりまして。もしかして私の知りたいことが書かれた本もあるかもしれないと思って入ってみたのです」
「へぇ。何を知りたいの?探すの、手伝うよ」
『もうつきまといません宣言』をしてから、和食追求もあって食事の時間とお茶の時間以外私からリムに話しかけることは少なくなったが、リムの方からは時々ご機嫌うかがいのように話しかけてくれることが多くなった。中庭のヒマワリが綺麗だとか、面白い本があったとか。破滅は困るけれど、兄妹として仲良くできるのは大歓迎なので私は嬉しく思っている。
「ありがとうございます。以前お父様がお土産でもらってきてくださった東方の国の御伽噺が面白くて、東方の国に興味が出てきたんです。その国についての本などがあれば読んでみたいのですが・・・」
「東方の国?んーそれならヒスイ国のことかなぁ」
リムはそう言って迷うことなく書斎の一番奥の本棚に向かう。本当にあるんだ!やった!
それにしてもリムはもうこの書斎の本全て把握しているのかしら?さすが攻略対象、やることが神業です。