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(カイナル様は、グレイドさんが好きじゃないのかしら)

 中身も外見も真逆の二人である。気が合うとは思わないが、仲良くしたがるグレイドを煙たがってはいなかったか。

(グレイドさんの、距離の近さが問題よね)

 午後の休憩で堅いクッキーを味わいながら、次の任務が入っていると慌ただしく出て行った二人を思い起こす。

 カイナルの仏頂面を見た後では、書庫から出たことを怒られる時間もなくて、次の任務とやらには感謝しかない。

 今日ばかりは、視線を遮ってくれた制帽にも礼を言おう。

(カイナル様もグレイドさんも、いい人なんだけれど…)

 まあ、グレイドに関してはいいのだ。

 二人の仲も、この際どうでもいい。

 問題なのはカイナルだ。あれはきっと、行き過ぎている。

(素人の私が言うのも変だけど、やっぱり、やり過ぎよね)

 そこまで考えたところで。

「やあ、お疲れ!」 

 物思いを断ち切るように声をかけられて、隣に勢いよく誰かが座った。

 風圧が顔にかかり、反射的に眉を顰める。

「今日も本当に暑いよなぁ。ああ疲れた」

 眉間に刻んだ皺は、声を聞いた途端に本数が倍増した。

 正体は確認するまでもない。

 神聖なる女神の像を鈍器にしようと画策したのは、全てこの男のせいだ。

 休憩時間がかち合うのは仕方ない。

 閑散とした使用人食堂で席が隣り合うのも、割り切れないこともない。

「馬車は来るは騎馬は多いは忙しくてさ。様子を見に行けなくてごめんな?」

 力になるから頼って欲しいと大口を叩いたドービスが、前歯を見せてにっかり笑う。

 向けられた胡乱な眼差しに、臆する様子もなく。

 我慢できないのは。

 書庫の番人となったシュリアに、一日と空けず会いに来ることだ。

 その魂胆は明白。

 初対面の時、彼は「リーリアの妹」とシュリアを呼んだ。

 端々に差し込むのも姉の話題。

 過去、声をかけてきた多くの異性がそうだったように、「リーリアの妹」は姉に近付くための踏み台。

 サリエル夫人に書庫の鍵を返す際、困ったことはないかと尋ねられても、言いつけるほどの事ではないかと口を噤んでいるが。

 放置しているだけで、精神的には結構な負担である。

 異国の女神様は最終兵器。

 そう言い聞かせて、同じ面倒を毎日繰り返している。

「何度も言いますが、書庫に来て欲しいと思ったことは一度もありませんから」

 シュリアの対応は、グレイドを前にしたカイナルのようにそっけない。

 それなのに、どうしてだろうか。

「分かってるよ、今日は本当にごめん。明日は特に客も来ないって話だからさ」

 全く伝わらない。

(一体何なのよ!)

 人の気も知らず、呑気に欠伸をしながら、今日は何だったんだろうなあと大きな独り言を洩らしている。

「あんな良い馬、滅多に見ないぜ。相当なお偉いさんだろ。シュリアは何か聞いてる?」

 聞いてはいるが、天地がひっくり返ったとしても教える訳がない。

(ああ、鬱陶しい!)

 残りの紅茶を一気にあおり、シュリアは毅然と立ち上がった。

「もう行くのか? 頑張り屋さんだなぁ」

 背後で、いっそ清々しいまでの好意的な台詞を漏らされて。

 世の中には様々な人間がいるのだと、痛感したのである。

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