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「ついでと言っては何ですが」

 シュリアの危機が何故分かったのか。

 その答えがひととおり示されても、シュリアは今だ理解の途中だ。

 にもかかわらず、秘め事のような囁きが続く。

「我々は、あなたが再び狙われる可能性はないと思っています。あなたは犯人を見ることができなかったと証言しましたが、相手にしても同じ条件です。口封じは、あの夜にしなければ意味がなかった。ですから、どこの誰とも分からぬ目撃者を、今さら探し出して手に掛けようとはしないでしょう」

 そこまで言うと、ぐっと距離を詰めたカイナルは、声を出しかけたシュリアの手首を押さえた。

「あなたに四六時中張り付いている護衛は、あなたのための護衛ではありません」

 言葉が、吐息と共にシュリアの耳を撫でる。

「彼らは、王家の護衛です」

 騎士である前に貴族の一員として、カイナルだって理解している。

 王家の威信にかかわる事件の捜査状況は、当事者にも明かせない極秘事項だ。

 しかし、シュリアに迫る危険を払うためなら、剣を捧げた主であろうが気にしている場合ではない。

 規律違反の文字はどこにも浮かばず、そんな自分を不思議にも思わず。

 今のカイナルは、シュリアを守ることだけに懸命だった。

「エドルフさんや私が同行しているのは、万一の際に、もう一方の護衛からあなたを守るためです」

 受け答えを禁じられたシュリアは、意味が分からず目を瞬く。

「あなたは今や、囮なのです」

 頬に上っていた熱がすっと下がった。

「夜会の翌日、我が家で喋っていた貴族は王太子殿下の近衛です。この件は、事が事だけに王太子殿下の指揮で秘密裏に捜査されている。あなたを泳がせるように言ったあの男は、護衛という名目で手の者を張り付かせて、現れた「闇の光」があなたを害するのを待っているのです」

 現れただけでは捕縛できないから。

 実際に何らかの犯罪に踏み切らせ、騎士団に連行された犯人を横取りする。

 そのせいでシュリアに被害が及ぼうと、所詮、大事の前の小事だ。

 それを見抜いたルミエフは、比較的安全な朝には実兄を、騒動が起こりそうな帰路には騎士を護衛に付けた。

「昼間、ライザフ先輩を呼んだ通行人とは誰だったのでしょうね」

(そういえば…)

 どこぞの路地で若い女性が襲われていると告げて消えた、シュリアの恩人。

 表通りから見通せる場所でもなければ、「若い女性」が襲われているとどうして分かろうか。

 じわじわと不信感が広がる。

(私が平民だから?)

 平民というだけで、国に見捨てられるのか。

「私は、あなたを守る」

 呆然とするシュリアにその言葉を残して、カイナルはいつもの立ち位置へと戻る。

「これからは屋敷の中で待っていてください。私が行くまで決して出ないように。今日のように早く帰る場合は、騎士団に遣いを出してもらえるよう伯爵に頼んでおきます。それから、一人で外に出るような仕事も控えるよう伝えます。よろしいですね」

 とにかく絶対に一人になるなと念を押され、伝わる緊迫感に、シュリアも神妙に頷いた。

 それを見届けるように目を細めたカイナルは、掴んだ手首を放して再び歩き出す。

 そしてシュリアは。

 離れた熱を追いかけるように動いた手を、ぎゅっと握り締めた。

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