オーバーキル
「全員、着地したかっ?」
無線で葛城が班員に呼びかける。
「こちら佐和山と桂、配置に着きました!」
「こちら桐生と河本、配置完了」
暴れる黄泉の、その500mほど前方に2手に別れた葛城班が待機する。
班長の葛城は通信の山喜とともに、さらにその200mほど手前に陣取った。
「‥‥山喜、記録はどうした?」
葛城が尋ねる。
「いやぁ、それが」
山喜が素知らぬ顔で答える。
「着地の衝撃で『壊れ』ましてね。何処かに当てたんだと思います」
見ると、ヘルメットのメモリーカード装着部分に破損がある。
「‥‥『そうか』それは『仕方ないな』」
葛城も素っ気なく返す。
そう、『これ』もレベル3の対処において定められたプロセスの一部なのだ。無論、マニュアルに記述されてはいないのだが‥‥
葛城は双眼鏡で前方を確認する。
「‥‥来るな‥‥桂、桐生、準備は良いか?二連撃だぞ」
「こちら桂、何時でもOKだぜ」
「こちら桐生、準備完了。何時でも撃てます」
次第に、黄泉がこちらに迫ってくる。
葛城が時計を確認する。
そこへ、司令部から無線が入った。
「‥‥こちら司令部。『定時』はヒトマル時・ヒトヒト分・フタマル秒と計算された!タイミングを図ってくれ!」
「了解」
再び、時計に目をやる。
『10時11分20秒』‥‥あと、1分と15秒か‥‥微妙な時間になるな‥‥
頭の中でシミュレーションしてみるが、完璧なタイミングをとるのは困難を極めるだろう。
だが、それでも『やる』しかあるまい。
そう考えた時だった。
「‥‥よぉ、久しぶりだな‥‥」
葛城の肩を、背後から大きな手が叩いた。
『聞き覚えのある声』
ぎょっとして葛城が振り返る。
居たのは、五縄流柔術の同門『柏木重道』だった。
「柏木さん‥‥?」
「葛城、チャンと前ぇ見てろよ?‥‥今ぁ、オレは色々あって『空挺団』の所属なんだ。‥‥まぁ、そう心配すんなって。オレの仲間が近くに展開してる」
柏木が前を指差す。
目を凝らすと、確かに何人かが火器を抱えて建物の影に潜んでいるのが分かる。
「‥‥いつの間に‥‥」
「ふん!車で先回りしてたのさ。オレらは『降下する』だけが能じゃねーんだ。それより『タイミング』は任せたぞ?‥‥何しろオレらは『居ない事』になってっからな。オレは自分の無線で『タイミング』を仲間に伝えるのが『御役目』なんだよ」
なるほど。
『記録は壊れることになっている』というのは、こういう事か。
葛城は、その指示の意味を理解した。
黄泉への対処は、いくら出身母体が『自衛隊』であるにしろ、あくまで『特別編成された特殊部隊』である『スサノオ』の役目だ。そこへ、自衛隊の『本隊』が出てくると、政治的に後々厄介な話になるのは目に見えている。
だが‥‥『レベル3』となると、スサノオだけで対処しきれない。
それもまた、厳然とした事実なのだ。
「班長、来ます!」
山喜が声を上げる。
黄泉が、すぐそこまで突進してくるのが確認できる。
時計と、秒数をシンクロさせる。
3‥‥2‥‥1‥‥
「射っっっい!」
号令とともに、一斉にロケット弾が発射される。
夜の街並みに、赤い光を放つロケットの航跡が幾筋も伸びる。
瞬間。
眼も眩む真っ白な閃光が溢れ、視界を奪う。
そこから僅かに遅れて
ドォォォォォォン!!
耳をつんざく激しい轟音。
そして、かつて経験したことの無いほど猛烈な爆風が葛城を襲った。
「うわぁぁっ‥‥!」
風圧で浮き上がった身体は木の葉のように、くるくると回りながら宙に舞う。
気づいた時には、元居た場所から10m以上もフッ飛ばされていた。
「くっ‥‥」
全身に激しい痛みがある。身体を動かす事が出来ない。
耐衝撃スーツを着ていて『これ』だ。
恐らく、かなりの勢いで地面に打ち付けられたのだろう。
仲間は‥‥?班員達は無事なのか‥‥?
最初に考えたのは『それ』だった。
黄泉の動静は、二の次だった。
どうにか、痛む身体を圧して頭を上げる。
濛々と土煙が上がって、先が見えない。
街路樹の尽くが、なぎ倒されている。
近くのビルの窓ガラスが、粉々に割れているのが見える。
耳がキー‥‥ンと唸っている。良く聞こえない。
「あぐっ‥‥!」
再び、身体を地面に横たえる。
力が上手く入らなかった。
「い‥‥生きてるか‥‥葛城‥‥」
柏木の声が聞こえる。返事がしたいが、声を出せない。
辛うじて、顔を黄泉の居た方に向ける。
何かが動く気配は、無かった。
そして、煙が晴れる。
「見ろ‥‥葛城‥‥、目標は沈黙したぞ‥‥」
柏木が葛城の肩を抱き寄せた。
その眼前には、原型を留めないほどに爆散した『黄泉の亡骸』が地面に転がっていた。
そして、少しホッとしたのか。
そのまま葛城は意識を失った。