『覚悟』と『戦闘』
いつも思う事だが。
リーダーの葛城にとって『もっともイヤな瞬間』が、この時である。
『通常兵器を使用する』
それは即ち、周囲への『被害の拡散』を意味している。
モノが壊れる程度なら、まだ良い。
だが、周辺には逃げ切れずにビルの中などに隠れている人達が大勢居るはずなのだ。
無論、その人達に怪我をさせる訳にはいかない。
しかし、だからと言って躊躇に過ぎれば黄泉が暴れて元も子もなくなってしまう。
何処かで見切るしかないのだが‥‥
『腹を括るしかない』
そう覚悟を決める。いつも同じだ。
「山喜っ!ドローンで周囲に警報を出せっ!」
「了解!」
先程のジェット・ドローンを離陸させる。
そして、上空を飛び回りながら激しい警報を鳴らす。
ビビビビ!ビビビビ!
『避難してください!』『避難してください!』
大音量のメッセージが流れる。
怖いもの見たさ、というのか『影に隠れて黄泉とスサノオの闘いを見たい、ビデオに撮りたい』という『戦場カメラマンモドキ』が何処に隠れているのか分からない。
ここから先は『自己責任』の領域である、という宣言なのだ。
「行くぞっ!『砲手』準備はいいか?!」
「こちら桂、準備完了」
「同じく桐生、準備完了」
無線からは冷静な返答が返って来る。
二人が肩に担いでいるのは、今度こそ本当の『携帯用対戦車ロケット弾』だ。
しかも、その弾頭は自衛隊の協力も仰いで開発された対・黄泉用の『特別製』である。鋼鉄装甲に対しての破壊能力は劣るものの、貫通力と爆発力に関しては大幅に強化されている。
「射ぃっ!」
バシュゥゥゥ!
発射の反動が、砲手の二人に伸し掛かる。
次の瞬間、
耳をつんざく爆裂音と、その衝撃波が辺りに有るあらゆる物を押しのけようとする。
街路樹の幹が大きく仰け反るのが見える。
火の粉が一面に散らばって、明々と燃えている。
「弾着っ!」
「ど‥‥どうだ?」
桂が『結果』を伺う。
白煙が、徐々に晴れる。
「佐和山、ライトだ!黄泉を照らせ!」
葛城が指示を出す。
「はいっ!」
強力なライトが、『黄泉の居るであろう』空間を照らし出す。
辺りはシン‥‥と静まり返っている。
黄泉が動き出す気配は、ない。
「うっ‥‥!」
白煙が晴れ、黄泉の頭部が見えた。
「警戒を解くな!第二弾も用意しておけ!」
桂と桐生は『万が一』に備えて次弾の準備をしている。
「おおっ!葛城班長、あれを!」
山喜が指をさす、その先には。
炸薬弾によって大穴の空いた黄泉の『黒焦』が出来上がっていた。
「うむ‥‥」
とりあえず、『次弾』の必要は無いようだ。
「河本、生体反応の確認を急げ!」
「了解、センサーを射出します」
河本の声にもやや安堵の色が見てとれる。
やや、間があって。
葛城に河本から無線が入る。
「確認完了、『生体反応ゼロ』です。目標、沈黙しました!」
ふぅっ‥‥
ヘルメットの中で大きく息を吐く。
「‥‥司令部へ、こちら葛城。黄泉の沈黙を確認。支援班と回収班の手配をお願いします」
「了解。現時点を以って『駆除完了』とします。お疲れ様です。記録を止めてください」
その声を確認して、山喜が記録の電源を切る。
「お疲れ様でした、班長」
「ああ‥‥ご苦労さま。とりあえず、だな。‥‥佐和山達と合流して『被害』の状況を確認してくれ」
「了解しました!」
山喜が対角に居る佐和山の元に走る。
それを眼で追いながら、またひとつ
ふうっ‥‥
と、葛城は大きく溜息をついた。




