『駆除』開始
駆除班達は、いわゆる『フライング・スーツ』を身にまとっている。
更に小型のジェットエンジンを搭載し、推進力として利用していた。
これによってビル群の間を、まるでムササビのように飛び回ってピンポイントでの着地を可能にしているのだ。
グォォォ‥‥
空気を切り裂く音が鼓膜に響く。
微妙に姿勢を変え、アタック・ポイントへ向かう。
「‥‥こちら葛城、目標ポイントを確認。各自、配置につけ」
「了解!」
パラシュートを展開し、大きく減速をかける。
それでも着地時の衝撃は小さくないし、ビルの外壁などに激突すれば無事では済まない。高度な訓練と高い集中力を必要とする『接近戦術』なのだ。
ズザザザザ‥‥
各班員達が一斉に着地する。
その眼前には巨大化を始めている『黄泉』が居る。
ガゥォォォ!
黄泉が雄叫びを上げる。
異形、と言えばまさに異形だ。体長も10mを超えている。
もはや人形はしていない。完全に『怪物』だ。
そして、一旦『黄泉』となった『被害者』を元の人間に戻す方法は、無い。何故なら彼らは『すでに死んだゾンビ』なのだから。
くそったれがよ‥‥
『記録』を撮られているので口に出して悪態を吐く事は出来ないが、心の中で舌打ちをする。
装備担当の河本と佐和山が『別便』のジェット・ドローンで送られてきた装備の展開を始めていた。
ガシッ!
黄泉が信号機の柱を握る。
メキ‥‥メキメキ‥‥
信号機の鉄柱が、あたかもゴムで出来ているかのようにグニャリと曲がる。
ガゥォォォ!
黄泉が再びの雄叫びを上げる。
「‥‥よしっ!攻撃、第一弾開始っ!」
葛城が無線で指示を出す。
確かに『基準』としては『怪物化した時点で攻撃してよい』とされているが、『まだ何もしていなかったではないか。そこに差し迫る危機はあったのか?』という批判を躱すためには、『何かしらの物損』があった方が都合が良いのだ。
『砲手』担当の桐生と桂は、それぞれ黄泉を挟んで対角に構えている。
「第一弾攻撃っ、開始!」
バシュッ! バシュッ!
携帯用対戦車ロケット弾のような発射装置から、鋭い『銛』のような形をした弾頭が撃ち出され、黄泉に突き刺さった。
グゥゥゥッ!
黄泉が砲手の方に振り向く。
「特高電流、流せっ!」
葛城が指示を出す。
「特高電流、行きます!」
砲手の傍で待機する装備担当の佐和山と河本が、電源のレバーを入れた。
ガシャン!と大きな音がする。
黄泉に突き刺さった『銛』には、鉄心入アルミ電線が繋がっている。これによってバッテリーから2.2万ボルトの電気を最大5秒間、送る事が出来るのだ。
バリッ!バリバリ‥‥!
2.2万ボルトは半端な電圧ではない。
空気中の湿度が高ければ、絶縁シールドの上からでも『触れば感電死する危険がある』と言われるほどだ。
生身の『生物』であれば、如何に絶縁耐力の高い皮膚であっても『それ』を阻止する事は難しい。
そして、電流が流れればその発生するジュール熱で一瞬にして『燃え上がる』か、悪くすれば『爆発』するのだが‥‥
黄泉は、その電圧攻撃を全く意に介することなく、身体を大きく揺すった。
そのショックで、突き刺さっていた銛が外れる。
「ちっ‥‥!」
思わず舌打ちが出る。
まぁ‥‥『分かっていた事』ではあるがな‥‥
「電流、停止!」
外れた銛が他に接触すれば、2次被害に繋がる恐れもある。
そもそもだ。
他に損害を与えず、黄泉だけを『止める』ためにと開発された『電流攻撃』が通用したのは、ホンの最初の数体だけだった。
すぐに『適応』されてしまい、現在では電流攻撃は『やってはみるが効かないだろう』という前提になってしまった。
だがそれでも『制約』がある以上、やらない訳にはいかないのだが‥‥。
「攻撃、第二段階へ移行する!」
葛城の指示で、駆除のための『本格的な武器』が用意される。
いよいよ、此処から先は『2次被害も覚悟の上』の勝負なのだ。