夏の空は何処までも青く澄み切って
アマテラスが『灰』と化してから数日後。
葛城は剣術の師である、笹川の元に居た。
「‥‥ご苦労だったね」
笹川が労をねぎらう。
「いえ‥‥」
葛城が首を振る。
そして、アマテラスにトドメを討った『日本刀』を笹川の前に差し出した。
「ん‥‥?どうした。『それ』は君にあげた物だ。持って来る必要はないぞ?」
「‥‥。」
葛城は暫く黙っていたが、おもむろに口を開いて思いもよらぬセリフを吐いた。
「‥‥本日、『この刀』は先生に私の『介錯』をお願いしたく持参しました」
「は?『介錯』だと‥‥?」
笹川が困惑の表情を見せる。
「‥‥何を突然言い出すんだ?」
フラリとやって来た愛弟子が、突如として『我が首を斬ってくれ』という。笹川はその真意を計りかねていた。
「‥‥大勢、死にました」
葛城は下を向いている。
「アマテラスを蘇生させた時に、田端教授を含めて5名‥‥その後、アマテラスによって『黄泉』にさせられた人達や、その犠牲者‥‥スサノオからも死者が出ていますし、最後の戦いでは自衛隊からも犠牲が出たと聞いています。その総数は『約1万』とか。とても看過できる数では無いかと‥‥」
最終決戦の場となったF地区では今も尚、行方不明者の捜索が続いているというが。
その安否に楽観出来るものはなかった。
「それだけではありません。建物や人々の財産、道路や公共施設‥‥その尽くが犠牲になりました。金額で言うのなら5000億とも1兆円とも‥‥計り知れない被害です」
笹川は、静かに葛城を見つめた。
生来の『生真面目さ』は愛弟子の良き処ではあるが『その』被害全ての責任を自分が『被る』というのは、あまり褒められたものではあるまい。
「で‥‥その責任をとる‥‥と? だが、君はアマテラスを『倒した』ではないか? それは『功労』と言って差し支えないものだと思うがね」
笹川はそう慰めるが。
「自分は最小限、とるべき責任を取った迄です‥‥先生、私は『善行を積んだから』と言って『罪が許される』とは思っていません。『アマテラス蘇生に手を貸した』事、『それを野に放った犯人』である事、『アマテラスに知識を与えてA都や地元に甚大な被害を与えた事』‥‥そして『渓師範や柏木さんを死に追いやった事』‥‥もう、充分です‥‥」
葛城の肩は、ワナワナと震えていた。
「先生‥‥私は‥‥私には生き残る資格がありません‥‥どうか、私に『処罰』を与えてください!」
今でこそ『全ての事情』は政府によって『調査中』として伏せられているが。
何れ、それらの内情は表に出るだろう。『秘密』というのはどうしたって漏れるものなのだから。
そうなった時。
葛城に襲いかかるであろう世間のプレッシャーは計り知れないものになるだろう。
『それ』に自己を、どう向き合わせれぱ良いのか‥‥愛弟子は『自分の生命で責任を取る』と。
笹川は暫く黙っていたが。
「‥‥分かった、いいだろう。『それ』で君の魂が救済されるというのなら、『弟子の不始末』は『師匠が片を付ける』のが理というものだろう」
そう言って、立ち上がった。
「庭に出たまえ」
葛城が持参した日本刀を手に、笹川が庭に出る。
続いて葛城が庭に降り、笹川に背を向けてその場に正座した。
「‥‥すでに覚悟は決めて、参りました。遺書は自宅に残してあります‥‥ご存分に」
「うむ‥‥では、もはや何も言うまい」
笹川が鞘を払う。
そして。
「‥‥ヤァッ!!」
ブンと鈍い音を残して、刀身が葛城の『首根っこ』を捉えた。
「うん‥‥?」
葛城が異変に気がつく。
首元には確かに、刀身の当たる冷たい感触がある。
だが『自分は生きている』
よもや!
慌てて振り向くと、笹川はゆっくりと刀身を鞘に収めた。
「まさか‥‥『峰打ち』!」
葛城が絶句する。
「ああ、そうだよ」
笹川がにっこりと笑った。
「前に言ったろ?『剣術は生涯が型で終わる』とな‥‥今のが『介錯の型』さ。
君が私に『処罰』を求めるのなら、私はそのように『処罰』するだけだ。‥‥これで良かろう? 君は今『死んだ』のだ。今からは生まれ変わったと思って、人の世に尽くしなさい‥‥いいね?」
「‥‥。」
葛城は、下を向いて拳を握りしめている。
その顔は伺えないが、泣きじゃくっているのだろう。
「何をしている‥‥? 顔を上げなさい。さ、見てご覧‥‥いい青空だ。平和な‥‥いい青空だぞ‥‥?」
庭に染みるヒグラシの鳴き声が、夏の終わりを告げようとしていた。
完
本作は書き始めてから暫くの間、まったくアクセスが伸びず‥‥
「これはやっちまったかな?」
と、半分ほどを公開し終えた時点で『打ち切り』を考えておりました。
しかしそれでも『全ての作品は完結させる』というポリシーだけはあったので、大幅に話を短縮させた形で原稿を書き、公開予約状態にして放置してありました。
ところが。
事実は小説よりも奇なりと申しますが、終盤に入ったところで突然にアクセスが10倍、いや20倍に!
「何があった?!」と思っていたら、とある方から「感想」がつき、それが多くのアクセスを頂くキッカケになった事が分かりました。
まことに有り難い事です。
そのため『人目につくのなら、このままではダメだろう』と、ギリギリ公開していなかった『ラスボス戦』以降を大幅に書き換えました。
不細工は承知しておりますが、それでも一応、当初予定した形にはなったと思います。
この場をお借りして、私に勇気をくださった『にわとり・イェーガー』様に厚く御礼申し上げます。
タイトルについて。
私は自身の作品に『対比の構図』を用いる事があります。
チェインは『夏と冬』、RAINは『雨と晴れ』、五縄の桜は『勝ちと負け』等々‥‥
今回の『対比』は『昼と夜』でした。
最後の『平和な青空』は太陽光、すなわち『天照』を意図しています。
対して、闇夜にうごめくのが『アマテラス』。
その『双方』を包含する意図を以って、タイトルはローマ字表記の『AMATERASU』になっています。
‥‥まぁ、同様のタイトルが多いので検索対策という狙いもありますが(笑
最後に。
つたない物語にお付き合いを頂き、ありがとうごさいます。
一人でも多くの方に、気に入って頂ければ幸甚に存じます。
潜水艦7号 拝
追記(2019.04.12)
小説投稿サイト エブリスタにおいて、同名の名義で本作のリメイク版を公開しております。
大まかなストーリーラインは変わりませんが、肉付けを強化たてものです。
もしもお時間がござましたらどうぞ。




