表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
AMATERASU  作者: 潜水艦7号
35/35

夏の空は何処までも青く澄み切って


アマテラスが『灰』と化してから数日後。

葛城は剣術の師である、笹川の元に居た。


「‥‥ご苦労だったね」

笹川が労をねぎらう。


「いえ‥‥」


葛城が首を振る。

そして、アマテラスにトドメを討った『日本刀』を笹川の前に差し出した。


「ん‥‥?どうした。『それ』は君にあげた物だ。持って来る必要はないぞ?」


「‥‥。」

葛城は暫く黙っていたが、おもむろに口を開いて思いもよらぬセリフを吐いた。


「‥‥本日、『この刀』は先生に私の『介錯』をお願いしたく持参しました」


「は?『介錯』だと‥‥?」

笹川が困惑の表情を見せる。


「‥‥何を突然言い出すんだ?」

フラリとやって来た愛弟子が、突如として『我が首を斬ってくれ』という。笹川はその真意を計りかねていた。


「‥‥大勢、死にました」

葛城は下を向いている。


「アマテラスを蘇生させた時に、田端教授を含めて5名‥‥その後、アマテラスによって『黄泉』にさせられた人達や、その犠牲者‥‥スサノオからも死者が出ていますし、最後の戦いでは自衛隊からも犠牲が出たと聞いています。その総数は『約1万』とか。とても看過できる数では無いかと‥‥」


最終決戦の場となったF地区では今も尚、行方不明者の捜索が続いているというが。

その安否に楽観出来るものはなかった。


「それだけではありません。建物や人々の財産、道路や公共施設‥‥その尽くが犠牲になりました。金額で言うのなら5000億とも1兆円とも‥‥計り知れない被害です」


笹川は、静かに葛城を見つめた。

生来の『生真面目さ』は愛弟子の良き処ではあるが『その』被害全ての責任を自分が『被る』というのは、あまり褒められたものではあるまい。


「で‥‥その責任をとる‥‥と? だが、君はアマテラスを『倒した』ではないか? それは『功労』と言って差し支えないものだと思うがね」

笹川はそう慰めるが。


「自分は最小限、とるべき責任を取った迄です‥‥先生、私は『善行を積んだから』と言って『罪が許される』とは思っていません。『アマテラス蘇生に手を貸した』事、『それを野に放った犯人』である事、『アマテラスに知識を与えてA都や地元に甚大な被害を与えた事』‥‥そして『渓師範や柏木さんを死に追いやった事』‥‥もう、充分です‥‥」


葛城の肩は、ワナワナと震えていた。


「先生‥‥私は‥‥私には生き残る資格がありません‥‥どうか、私に『処罰』を与えてください!」


今でこそ『全ての事情』は政府によって『調査中』として伏せられているが。

何れ、それらの内情は表に出るだろう。『秘密』というのはどうしたって漏れるものなのだから。


そうなった時。

葛城に襲いかかるであろう世間のプレッシャーは計り知れないものになるだろう。

『それ』に自己を、どう向き合わせれぱ良いのか‥‥愛弟子は『自分の生命で責任を取る』と。


笹川は暫く黙っていたが。


「‥‥分かった、いいだろう。『それ』で君の魂が救済されるというのなら、『弟子の不始末』は『師匠が片を付ける』のが理というものだろう」

そう言って、立ち上がった。


「庭に出たまえ」


葛城が持参した日本刀を手に、笹川が庭に出る。

続いて葛城が庭に降り、笹川に背を向けてその場に正座した。


「‥‥すでに覚悟は決めて、参りました。遺書は自宅に残してあります‥‥ご存分に」


「うむ‥‥では、もはや何も言うまい」

笹川が鞘を払う。


そして。


「‥‥ヤァッ!!」


ブンと鈍い音を残して、刀身が葛城の『首根っこ』を捉えた。




「うん‥‥?」

葛城が異変に気がつく。


首元には確かに、刀身の当たる冷たい感触がある。

だが『自分は生きている』


よもや!

慌てて振り向くと、笹川はゆっくりと刀身を鞘に収めた。


「まさか‥‥『峰打ち』!」

葛城が絶句する。


「ああ、そうだよ」

笹川がにっこりと笑った。


「前に言ったろ?『剣術は生涯が型で終わる』とな‥‥今のが『介錯の型』さ。

君が私に『処罰』を求めるのなら、私はそのように『処罰』するだけだ。‥‥これで良かろう? 君は今『死んだ』のだ。今からは生まれ変わったと思って、人の世に尽くしなさい‥‥いいね?」


「‥‥。」


葛城は、下を向いて拳を握りしめている。

その顔は伺えないが、泣きじゃくっているのだろう。


「何をしている‥‥? 顔を上げなさい。さ、見てご覧‥‥いい青空だ。平和な‥‥いい青空だぞ‥‥?」



庭に染みるヒグラシの鳴き声が、夏の終わりを告げようとしていた。





本作は書き始めてから暫くの間、まったくアクセスが伸びず‥‥

「これはやっちまったかな?」

と、半分ほどを公開し終えた時点で『打ち切り』を考えておりました。

しかしそれでも『全ての作品は完結させる』というポリシーだけはあったので、大幅に話を短縮させた形で原稿を書き、公開予約状態にして放置してありました。


ところが。

事実は小説よりも奇なりと申しますが、終盤に入ったところで突然にアクセスが10倍、いや20倍に!

「何があった?!」と思っていたら、とある方から「感想」がつき、それが多くのアクセスを頂くキッカケになった事が分かりました。

まことに有り難い事です。


そのため『人目につくのなら、このままではダメだろう』と、ギリギリ公開していなかった『ラスボス戦』以降を大幅に書き換えました。

不細工は承知しておりますが、それでも一応、当初予定した形にはなったと思います。


この場をお借りして、私に勇気をくださった『にわとり・イェーガー』様に厚く御礼申し上げます。


タイトルについて。

私は自身の作品に『対比の構図』を用いる事があります。

チェインは『夏と冬』、RAINは『雨と晴れ』、五縄の桜は『勝ちと負け』等々‥‥

今回の『対比』は『昼と夜』でした。

最後の『平和な青空』は太陽光、すなわち『天照』を意図しています。

対して、闇夜にうごめくのが『アマテラス』。

その『双方』を包含する意図を以って、タイトルはローマ字表記の『AMATERASU』になっています。

‥‥まぁ、同様のタイトルが多いので検索対策という狙いもありますが(笑


最後に。

つたない物語にお付き合いを頂き、ありがとうごさいます。

一人でも多くの方に、気に入って頂ければ幸甚に存じます。


潜水艦7号 拝




追記(2019.04.12)

小説投稿サイト エブリスタにおいて、同名の名義で本作のリメイク版を公開しております。

大まかなストーリーラインは変わりませんが、肉付けを強化たてものです。

もしもお時間がござましたらどうぞ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ