『対応力』の差
葛城は、とっさに剣を下段に構えた。
下から切り上げる事でアマテラスの『右腕切断』を狙ったのだ。
今だ‥‥っ!
大型バスほどの長さを持つ刀身が、ブン‥‥と音を立てて空気を切り裂く。
しかし。
その刃は葛城の意に反して、アマテラスの腕を捉えることなく『虚空』を切り裂いた。
「何っ!」
アマテラスは『突進してくる』と見せかけ、その剣撃が『届く』寸前で急ブレーキを掛けたのだ。
『まんまとハメられた』と。それはアマテラスの‥‥と言うより依代である『柏木の』読み勝ちと言うべきだろう。まさに『それ』こそが、恐れていた『対応力』の‥‥
大きく崩れたムラクモの体勢を取り直す時間は、与えられなかった。
しまっ‥‥た‥‥!
次の瞬間。
アマテラスのタックルが決まり、ムラクモの巨体が地面に叩きつけられる。
ドズ‥‥ンンンンン!
辺り一面に、まるで地震でも起きたかのような衝撃波が走る。
「ぐっ‥‥!」
この『重さ』で硬い地面に叩きつけられるのは、とてつもない反動が来る。
『借りた身体』とは言え、触覚のそれはムラクモと共有している。そのため、その衝撃もまた、葛城自身の脳髄へ『痛みの信号』を伝達するのだ。
そして。
気づいたときにはアマテラスは自分の腹の上に、どっかりと腰を下ろしていた。いわゆる『マウント・ポジション』である。
まずいっ!
咄嗟に、両腕で頭の前をガードする。
頼みの綱である『剣』はその手から離れ、地面に突き刺さっている。さほど離れている訳ではないが、この位置からでは届かなかった。
アマテラスが、正拳突きの構えに入るのが見える。
渓を素体とした黄泉の頭部を『一撃で粉砕』した威力が、その拳には宿っているのだ。
‥‥果たして、ガードした両腕が何時まで『耐えられる』のか。
正直、葛城に此処からの逆転を可能にするアイディアは無かった。
「くそっ!何てことだっ!」
バン!と、山倉が司令室のモニターを激しく叩く。
「このままでは、折角のムラクモがツブされるぞっ!近くに攻撃可能な戦車か戦闘機は居ないのかっ!?」
「ダメです!ほとんどの部隊が黄泉の駆除に苦戦していて‥‥」
司令室中央のモニターには、各部隊と黄泉の動向が映し出されている。
黄泉達は、一様にアマテラスから離れる方向に目掛けて進撃しようとしているのが分かる。
もしも、この状況下で何処かの戦車や戦闘機、攻撃ヘリをムラクモの支援に回してしまえば。
『手薄』になったところで『一気の突破』を図られる危険が出てくる。
人類側が最新の電子機器とネットワークシステムで『連携』しているのと同様に、アマテラス側も『触手根』によって、全フィールドの情報を共有しているのだ。
「くそったれめ‥‥何処か、優勢に戦局を進めている処は無いのか? 少しでも早く支援を回さないと大変な事になるぞっ!」
だが。
「‥‥難しい、状況です」
モニターされている街は、何処もミサイルや砲撃の誤爆によって惨憺たる様相を呈しているが。
それでも、黄泉そのものに効果的なダメージを与えられていると認識できるものは無かった。
絶望的な状況下にあって。
ふと、葛城は恩師である笹川の事を思い出していた。
所詮、『型は型でしかない』か‥‥
『己の罪に決着をつけるため』と、スサノオに行く決意をした事を笹川に伝えに行った時。
笹川は、一振りの日本刀を葛城に手渡した。
「師匠として何も餞別らしき物も与えてやれ無いが、せめて『私の身代わり』と思って持っていけ」と。
或いは笹川も、愛弟子が『生きて帰れないかも知れない』事を覚悟したのかも知れない。『ならば、自身が刃と代わりて弟子を護ろう』とする意思の現れだったのか。
流石に『日本刀』を家に置くには用心が悪いので、アマテラスの装備課で保管して貰ってあるが‥‥
‥‥はは、流石に日本刀でどうにかなる相手じゃないな‥‥
突如、
グォォォォォォオオオオォォォオオオ!!
地響きがするほどの叫びを、アマテラスが発した。
それはまるで、勝利を確信したが如くの‥‥




