表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
AMATERASU  作者: 潜水艦7号
31/35

最初の一撃

「F-21地区!黄泉の出現を確認!」

「同じく、F-11地区にて黄泉を確認!」

「こちらもです!F-18‥‥」


司令室にアラートが立て続けに鳴り響く。

描く拠点のモニターには、それぞれ大型の黄泉が映し出されている。


どれも、タイプ的には『渓を素体とした黄泉』に似ている。

という事は、高速で機動する『レベル4』という可能性が高い。


「くそ‥‥全部で何体だ?!何体確認出来るっ!」


「全部で‥‥12体です‥‥」

モニター班が振り返って答える。


「ちくしょうめ!12体‥‥いや、『13体』同時攻撃かよ‥‥」


「こ、これは‥‥」

山倉の背後で広報が声を失う。


「裏を掻かれたか‥‥くそっ!」

山倉が唇を噛みしめる。


「な、何が起きたんだ?」

混乱して、広報の足がよろめく。


「『先手を打たれた』ってことだよ‥‥。こっちの『狙い』は、ムラクモによってアマテラスを『足止め』することだったんだ」


「え? ムラクモは、対アマテラス用の決戦兵器じゃなかったのか?」


「‥‥そんな簡単に倒せる相手じゃぁない。鴻池教授はムラクモによる撃破に自信があるようだが、絶対とは言えん。飽くまで『トドメ』は戦車砲やミサイルといった『近代兵器』だと想定している」


そうだった。

スサノオ側の戦略はムラクモによってアマテラスの『足止め』を図り、その間に包囲網を形成し、動きが鈍ったところで戦車砲などの重火器やミサイルによって『爆殺』することだった。


ところがアマテラスは『その裏』を掻き、一度に12体もの黄泉を同時に送り込んできたのだ。


これでは、スサノオの駆除班はもとより戦車隊などの自衛隊戦力も『そちら』に力を割かざるを得ない。そうしないと黄泉に『包囲網外』へ出られてしまい、住民に大きな被害が出てしまうからだ。


「何ということだ‥‥しかし、どうやってこれだけ離れた地点へ同時に黄泉を発生させる事が出来たんだ‥‥?」


広報が不思議がるのも当然である。各ポイントは何kmも離隔しているのだ。


「恐らく‥‥あの、地面に張り巡らした『触手根』だろうな。アレを通して、各地区の発生地点に『養分』を送っていたんだろう‥‥」


だが、今は呆然としている場合ではない。


「ちっ‥‥! 計画は狂ったが放置は出来ん」

山倉がマイクを握る。


「‥‥全部隊に告ぐ、発生した黄泉の『駆除』に全力を傾注せよ!まずは眼の前の脅威だ!それまでは、ムラクモに持ち堪えてもらうしかない」


「了解、駆除を開始します!」


各地区で、一斉に戦闘が始まる。

しかし、高速機動する『レベル4』の黄泉を相手に既存兵器の分が悪いのは明らかだった。

‥‥建物被害だけが、無情に増えていく。


「こうなれば‥‥ムラクモが勝つ事に賭けるしかないな‥‥」

山倉が、中央のモニターを見つめた。




その頃、『ムラクモ』はアマテラスと対峙していた。


アマテラスの『ボディ』は、スクネの『それ』である。アマテラスと融合してからも、外観に大きな変化はなかった。


アマテラスはムラクモと距離を取っている。

『斬撃』が届かないように、だろう。


思えば、葛城には『正面きっての戦いならば現時点での最強は柏木だろう』という『認識』があったのは否めなかった。

それは、アマテラスにも共有されていたと考えていい。


だからこそ、アマテラスは『確信』したのだ。

柏木が、師である渓を越えたのであれば『それが最強の依代』だと。

今になってみれば、それがよく分かる。


そして、それ故に。

葛城に不安と焦りの色は隠せなかった。


いくら得物が手に有るとはいえ、自分が『あの柏木』を相手に勝てるだろうか‥‥と。

恐らく、僅かでも狂いが生じれば歴然とした対応力の差で『倒される』だろう。


恩師である笹川師範は昔、『剣術は剣道と違って、現代に実戦はないのだ』と葛城に語った事がある。『故に生涯を型稽古で終わる』と。


どれほど型に鍛練したところで型は型。対応力を問われる実戦の勘は、実戦の積み重ねによってしか得られないのだ。


その点、実戦に実戦を重ねた『当て身』の柏木とは力量が違いすぎる。

『それ』は厳然とした事実なのだ。


グズ‥‥

地面のアスファルトが沈む音がする。アマテラスが重心を前のめりにしているのだ。


来るか‥‥

ムラクモが『剣』を構え直した。


実は、葛城の不安は『剣』そのものにもあった。

『バッテリー』である。


どうにかこうにか剣本体の開発は間に合ったものの、それを十分に機能させるための容量を持つ『バッテリー』がないのだ。


そのため、ヒーターと振動を使える限度時間は僅か『20秒』に過ぎない。

せいぜい使えて1回か2回。それが限界である。


剣のスイッチはまだ、OFFのままだ。


アマテラスはまだ、間合いをとって様子をみている。

『剣』と『当身』となれば、その間合いは当然にして剣の方が遠い。


勿論、助走からの『飛び蹴り』という手段も無くは無いだろうが『その可能性は低い』と葛城は読んでいた。

黄泉の身体が思ったよりも『重い』からだ。


生物の身体は3次元だから、身長が2倍なら体積は2の3乗で8倍になる。ましてアマテラスの『身体』は25mほどもある。その身長差はざっと15倍ほどにもなろうか。

体重差は比べものにもなるまい。


黄泉の場合は人間のそれよりも遥かに『密度』が低いらしく、そこまでの重量感は無いが、それでも通常の人間サイズと比べれば明らかに『重さ』を感じる。


『この重さ』では、飛び技は使い難くかろう‥‥というのが、葛城の『読み』なのだ。


まして、元々の素体である柏木にして130kgを超える巨躯だ。それほど飛び技に長けていたとも思えない。


とは言うものの、アマテラスとすればこの間合から無作為に突き技や蹴り技をそのまま繰り出すと『剣術師範代』たる葛城相手に格好の餌食となってしまう。


それだけの『技術』は葛城にもあるし、それは『柏木』の記憶にもある筈なのだ。

で、あるとすれば‥‥


『当身術』からは離れてしまうが。

この場合、剣戟として最も『イヤな攻撃』は『柔術』で使う『高速タックル』だ。


何しろ身体ごと体当たりを食らうと、斬りつけ難い上に組み付かれると勝負にならない。後はマウントを取られて一方的に殴られて『終わり』だ。


ミシ‥‥ミシミシ‥‥


アスファルトの沈みこむ音がビルの谷間に響く。

アマテラスの『構え』が低くなっている。読まれているのを承知の上で『来る』つもりなのだ。そういう処もまた『柏木らしい』と言えるだろう。


やはり‥‥『その手』で来るか‥‥

剣を握る手が、微かに震えるのが分かる。


『最初の一撃』が勝敗を分ける。

それは、両者ともに理解していると言っていい。


何故なら『これ』は文字通りの『真剣勝負』だからだ。

初手で少しでも相手よりダメージが大きい方が『圧倒的不利』に陥るだろう。そうなればもう、逆転の芽は無くなる。



そして、次の瞬間。


アマテラスは一気に飛びかかって来た。

それは、読み通りの『高速タックル』だった。


葛城は反射的に、剣のスイッチを入れた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ