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AMATERASU  作者: 潜水艦7号
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想定外の開始

太陽が、ビルの谷間に隠れようとしている。


過去もっとも『黄泉出現』が早かった時間は『日没直後』だった。

それを考えれば、アマテラスが何時動き出しても不思議はない。

司令室にも緊張感が高まっていた。


「どうだ?動く気配はあるか?」


ドローンが定点カメラを着地させているので、アマテラスの『影』は常時監視されている。


「いえ‥‥今のところ、動く気配はありません」


「そうか‥‥『ムラクモ』は?」


「すでに、接近しています」


モニターには、回収班の大型ヘリが映し出されている。


「念の為だ。ヘリには少し離れた地点に着地するよう、伝えてくれ。ヘリに攻撃されると防御手段が無いからな」


「了解です。回収班、こちら司令室‥‥」


コンテナは、指示通りに最前線バリケードのすぐ脇に着地を開始した。


「オーライ、オーライ‥‥」

地上スタッフが合図を送る中、慎重にコンテナが着地する。


「よーし、着地した。すぐに離脱してくれ」

地上班からの指示で、ヘリが空域を離れていく。


そして。


ガコン‥‥

コンテナが開く。


着いたか‥‥

ゆっくりと、『葛城』が身体を起こす。


「デカいな‥‥」


付近で待機する陸自の隊員が、ムラクモの巨体に思わず息を飲んだ。


「ああ‥‥何しろ人類側の『最終兵器』だからな‥‥」


ムラクモが外に出て、直立した。

太陽はすでに西に傾き、ほとんど陽の光は届かなくなっていた。


『頃合い』と言えよう。


「葛城君、聞こえるかね?」

インカムに鴻池の声が入る。


「‥‥聞こえます」

葛城が返答する。


「どうかね、気分は?」


「‥‥スケール感が可怪しいですね。周りのビルとか、戦闘車両がオモチャみたいに見えますよ」

気をつけないと、足で他の班員達を踏んでしまいそうになる。


「アマテラスの『触手根』は君の足元にまで達しておる。此処からの進撃は全て相手に伝わるだろう。従って隠す必要はない、一気に進んでくれ‥‥『剣』を忘れんようにな」


「‥‥持ってますよ」

ムラクモの手には、『専用の剣』がしっかりと握られている。


そこへ、司令室から指示が飛ぶ。

「時間だ。作戦を開始する!」


同時に、


「行きます!」


短く返答すると、ムラクモは一気に『隠れ家』へと飛び出した。


「ムラクモ、出撃しました!‥‥えっ?」


「どうした?!」

山倉が異変に気づく


「‥‥ムラクモの足が止まりました。まだ、『隠れ家』には遠いのですが‥‥?」


モニターには、立ち止まっているムラクモの姿が映っている。


「まさか‥‥」

山倉には、その姿にピンと来るものがあった。


『アマテラスは葛城から情報を収集している』とすれば。

或いは『その逆』もありうるのでは‥‥?

つまり『アマテラスの動向』が逆に、葛城へと伝わるという‥‥


「全部隊に緊急連絡っ!」


だが、『それ』は山倉の指示よりも早かった。

ムラクモが立ち止まった、その200mほど先から。


ズズ‥‥


『あの』禍々しい巨体が姿を現したのだ。

スクネを乗っ取った、あの‥‥

もう、誰の眼にも見間違えようがなかった。


「アマテラスですっ!」


司令室が一瞬にして大混乱に陥る。


「そんな馬鹿なっ!では、『隠れ家』に居たのは‥‥!」


山倉が絶句する。

もしや『ダミー』なのか‥‥?


考えもしなかった。いや、『甘く見ていた』と言って良い。『所詮は植物』だと。

だが、アマテラスは相手を吸収することで『その能力』をも吸収出来るのだ。そして今のアマテラスには『柏木』が吸収されている。そう、『勝つためには何でもあり』の‥‥。


「くそっ‥‥!外郭と中郭の陣形を外に広げろと伝えろ!急げっ!中心点が変わったぞっ」

山倉が怒鳴る。


「了解です!聞こえますか?!こちら司令室っ‥‥アマテラスの位置が変わりました。すぐにE地区方面を西に大きく拡大‥‥」


各担当が慌てて連絡をとる中、鴻池から山倉に連絡が来た。

「鴻池だ、気づいた事がある!」


「どうしたんです?!こっちは今‥‥」


「‥‥『おかしい』と思わんか‥‥?」

鴻池は何かを見つけたようだ。


「何がですっ!?」

イラつきながらも、山倉が聞き返す。


「アマテラスだよ!『大きさが変わっていない』んだっ!」


「はっ?意味か分から‥‥」


「昨晩、あれだけ多くの人間を取り込んだんだぞ!?100や200じゃぁ利かない数だ!いくらヤツでも『見た目の大きさ』を保てる限界を超えていなくちゃぁいかん!」


だとすれば。

『その差』が何を意味するのか。


「司令、大変ですっ!」

モニター班から叫び声が上がる。


「何てこった‥‥」


山倉が『それ』に気づいた時、すでに事態は『想定していた最悪』すらも超えようとしていた。



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