『葛城班』出撃
ギュン!ギュン!ギュン!ギュン!ギュン!ギュン!
小型輸送ヘリの2ローターが激しく回転を始める。
「搭乗確認っ!」
暗い荷室の中で点呼が入る。
「操縦、呉井!」
「通信、山喜!」
「砲手、桐生!」
「同じく砲手、桂!」
「装備、佐和山!」
「同じく装備、河本!」
「現場指揮、葛城!以下総員7名準備完了っ!」
点呼完了に間髪を入れず、司令部から無線が飛ぶ。
「了解!葛城班、出撃を許可する。速やかに黄泉を駆除せよ、以上!」
同時にローターの回転が勢いを増し、漆黒の夜空目掛けて飛び出した。
アマテラスや黄泉が跋扈するA都は高層ビルが立ち並ぶ大都市だ。
なるほど、アマテラスとしても『エサ』となる人間が集中している大都市は『都合が良い』と言えるのかも知れない。
また、これだけ建造物が多ければ追手から身を隠すにしても便利なのだろう。
反対に、駆除する側としては障害物が多いと地上からのアクセスには時間が掛かってしょうがない。
唯でさえ自動車道は渋滞の問題がある上に、黄泉が出現した周辺は概してパニックになっているから、接近は更に難易度を増す。
そのため、スサノオの各班は担当するブロックごとに近隣のビルにヘリコプターを待機させ、緊急事態の通報と出撃司令に呼応して『何時でも飛び出せる』ようにしているのだ。
こうした体制が確立出来た事で、黄泉の確認・通報から駆除班が到着するまでの時間は平均で5分を切るにまで短縮されるようになっていた。
「まもなく、E-21地区の通報現場の上空に到着します!」
操縦士の呉井から、各メンバーの戦闘用ヘルメットに無線が入る。
「了解、高度300mを維持して降下タイミングを指示してくれ」
そこへ、司令室から状況報告が入る。
「目標地点より高熱エネルギー反応確認っ!黄泉が『フェーズ2』に移行します!」
「ふん‥‥話ゃぁ『早くなった』な」
ボソリと、桂が呟く。
いくら相手が『黄泉』だとは言え。
元は人間なのだ。そこに変わりはない。
そして、それこそが話をややこしくしている原因とも言える。
すわなち『いくら怪物化しているとは言え、逮捕・裁判も経ずして、いきなり殺して良いのか?』という議論である。
まして、黄泉自身は自分の意思で怪物化しているのではない。あくまで立場的には『被害者』だ。
『それ』を『他の国民を危害から守るため』という大義名分があるものの、国家権力で殺す事を認めるのか。
激論の末、『暫定的』という注釈は着くものの黄泉が『怪物化した時点を以って、犠牲者が出ていなくても武器の使用を許可する』という判断に落ち着いたのだ。
そのため、『怪物化一歩手前』の状態では、直接に『駆除』する事は出来ず、せいぜいが『取り囲む』くらいしか手が無いのだ。
しかし今回は葛城班到着前に『怪物化』に移行している。
桂が言う『話が早くなった』というのは、これによって『何の躊躇もなく駆除が可能だ』‥‥という意味なのだ。
何しろ、手を打つのに早い方が越したことはないのだから。
「‥‥桂さん、そろそろ記録の電源を入れますよ?」
通信担当の山喜が『断り』を入れた。
『駆除』のプロセスには、様々な『制約』が入る。
何故なら、街中での武器の使用は『加害者兼・犠牲者』となった黄泉のみならず、他の住民や建物、設備等にも多大な影響や被害が出てしまうのが避けられないからだ。
そのため、そこに『不必要な攻撃』や『やり過ぎ』が無かったのか‥‥の検証は重要になる。
例えば極端な事を言えば『暴れる気配の無い黄泉を一方的に射殺した』となれば、それは『過剰防衛』を問わざるを得ない。
その時、『何がどうなって、その被害が出たのか』をキチンと特定しておくための『記録』なのだ。
なので『そこ』にもし、『不適切な言動』が残れば、それは後々に禍根を残すことにもなりかねない。
山喜の『断り』は、言外にそうした注意を促すためのものだ。
「準備してください!『降下位置』に来ました!」
呉井から無線が入る。
「‥‥よし、ハッチを開けろ!降下、開始っ!」
葛城が号令を掛ける。
地上から上空300m。
まるで星空のように光輝く都会の空へ、葛城班の6名が一斉に飛び出して行った。