決戦の準備は整った。
「おう、中々と‥‥急ごしらえにしては『似合ってる』な」
葛城の金属スーツ姿に、鴻池がウンウンと頷く。
「少し、動きにくいですけどね‥‥」
慣れない金属スーツの動きを確かめながら葛城は、しげしげと眺める。
「何、構いはせん。何しろ直接『それ』で戦う訳では無いからな。神経がうまく『ムラクモ』に伝達出来れば、それでヨシなんだ」
「それなんですが‥‥どういう感覚なんです? その『神経がつながる』というのは?」
『他人』の身体を使うという感覚は理解しにくいものがある。
「そうだな‥‥柏木君は『まず、全身の感覚を失う』と言ってたな。そして『巨人になった自分を自覚する』って。とにかく、時間が無いんだ。すぐに試運転と訓練を始めるぞ?それに乗るんだ」
鴻池が指し示した先には、車輪の無いバイクのような乗り物があった。
「これは?」
「『ライダー』と呼んでいる。酸素ボンベの容量不足問題やら何やらを解決するには、どうしても外部にそれなりの設備が要るんでね。それと共に『ダイブ』するんだ。最初はどうしても上手く身体が馴染まないかも知れんが、どうにか頑張って欲しい。『実戦開始』は‥‥今日の日没だ」
その頃。
「山倉司令、鴻池教授から『日没と同時』で作戦開始が可能だと連絡がありました」
「そうか‥‥どの道『それ』しか無いからな‥‥」
山倉がふっー‥‥と溜息を付く。
「それと、事前に連絡した通り『消防車とタンクローリー』を1台づつ回して欲しいと」
「ああ、聞いてる。スサノオのメンバーに用意させてるよ」
「今晩‥‥?ですか」
広報担当が尋ねる。
今朝からの必死の捜索によって、アマテラスの『隠れ家』は判明していた。それは、葛城が指摘した『結婚式場の吹き抜け』だった。ドローンがハッキリと『姿』の撮影に成功していたのだ。
其処は、F地区のど真ん中に位置している。
「ああそうだ。それまでに、こちらも準備を整える」
だが、広報は納得していないようだ。
「何故、日中に攻撃しないんです?相手は今、活動出来る時間帯じゃないんでしょ?なら、常識的に考えれば『今』がその時では?『敵』の位置は判明しているんだし、ミサイルとかで‥‥」
「無理だな。誘導ミサイルを使うには、ロケーションが悪すぎる。周囲に大きな影響が出過ぎる上に一撃必殺が期待出来ない。何しろ、ヤツらを確実に倒そうとするのなら『直撃』させて焼き殺さないとダメだからな」
山倉は取り合おうとしない。
「いや、しかし‥‥」
広報は尚も食い下がる。
「だったら、戦車部隊に突入させるとか‥‥」
「‥‥ドローンで撮影された画像を見てみろ。『敵』もそこまで馬鹿じゃぁないようだ」
山倉がモニターを指さした。
そこには、道路一面に『何か』が放射状に広がっているのが伺える。
「ん‥‥何です?この道路の上に見える『ひび割れ』みたいなのは」
「ひび割れじゃぁない。これはどうやら、アマテラスの『触手』らしい。『これ』が木の根みたいにF地区全体に展開されているんだ。多分、これに少しでも触れると『御本尊』に伝わるんだろうな。そしたら、速攻で逃げられるぞ?」
「‥‥。」
夜行性の生き物とは夜間に活動することが多いだけであって、昼間に動けない訳ではない。一度逃げられれば、その捕物は更に困難を極めることになるだろうことは容易に想像できる。
「では‥‥逆に夜中になったら出てくるという保証は?」
広報が尋ねる。
「出て来るさ。ヤツには『最後の決着』をつけなきゃぁいかん相手がいるからな。それだけは避けて通れないことは、理解してるだろうよ」
葛城が知り得た情報は、アマテラスに自動転送される。当然、葛城が『ムラクモ』を御して自分に向かってくることは、アマテラスにも伝わっているだろう。
ムラクモも、元々は黄泉の身体を使っているのだから昼間は活動効率が良くない。全力を出すのなら、やはり日が暮れてからが勝負だ。
『それ』も当然、アマテラスとて承知していると見て良い。
「‥‥仕方ないですね。では、そのように公式発表しますよ?」
「ああ、そうしてくれ。その間に、こちらも戦闘態勢を整えるよ。とにかく、こちらとしても最悪の事態を想定しながら用意しないと行けないからな‥‥」
山倉が司令席に戻る。
「スサノオの駆除班は全班で『第二エリア』内にて待機。戦車部隊も最前線付近にて展開しておくよう要請しろ。それと、空自にも連絡して作戦開始と同時に上空にて待機するよう依頼を頼む」
「‥‥了解です」
『最悪の事態』になれば、F地区全体に壊滅的な被害が出るかも知れない。或いはそれは『空襲並み』になる可能性すらある。しかしそれでも『ここ』で叩かなければ、その被害は更に大きくなるであろう。
「‥‥待ってろよ‥‥この『雑草野郎』め。現代人の底力ってヤツを‥‥見せてやる」
『隠れ家』で微動だにしないアマテラスを、山倉はモニター越しに睨んだ。




