アマテラス、進撃す
「‥‥っ!ダメだ、ターゲットを捕捉しきれない!」
アマテラスの周囲を『囲っていた』ヘリから無線が飛ぶ。
『タケル』と一体化し巨大化したアマテラスは、スサノオのヘリから巧みに攻撃を逃れつつ、そのまま人間がごったがえす地区へと突き進んでいた。
「何とかしてヤツを止めろ!このままでは大量の犠牲者が出るぞ!」
山倉がマイクに向かって怒鳴っているが、それも何か方法論として示せるモノがある訳では無かった。
「アマテラス、非避難区域に突入します!」
レーダー班から悲痛な声がする。
モニターには、猛突進するアマテラスの姿が映し出されている。
もしも非避難区域に侵入されれば。
その後の惨状は考えるまでも無かった。
「くっ‥‥そ‥‥いっそ『人間を取り込む時』にミサイルを『撃つ』か‥‥」
黄泉にしろ、アマテラスにしろ、人間を取り込む時には『一瞬』とは言え『隙』が出来る。『そこ』を狙うとしたら‥‥
しかし。
当然だが、爆破の衝撃によって相当の犠牲と引き換えを覚悟しなくてはならない。しかも、それで『100%倒せる』という保証はないのだ。
迷ったが‥‥
その一方で。
アマテラスには『そういう心情』を慮る必要なぞ、まるで無かった。
あっという間に市民が多く残っている地域に飛び込んで行った。
「あっ‥‥あっ!な、何だっ!アレは‥‥っ!」
闇夜に突如としてそびえ立つ『漆黒の巨体』に、人々が眼を奪われる。
次の瞬間、
「うぁぁぁ!」
集音マイクが、街中で響く人々の悲鳴を拾う。
「あ‥‥う‥‥」
司令室中には、声にもならない声が漏れ出ていた。
そのモニターの先で、人々が次から次へと『飲み込まれて』行く。
その数は10や20の数ではない。
「にげろぉぉぉ!」
阿鼻叫喚の大騒ぎを他所に、尚もアマテラスから無数に伸びる『触手』は手当たり次第に人間達を捉え続けている。
「野郎が‥‥人間様を舐めんじゃねぇぞ‥‥?」
意を決した山倉が、マイクを握った。
そして。
「攻撃ヘリ、聞こえているか?今なら『ヤツ』は止まっている!構わん‥‥ミサイル攻撃を許可するっ!」
「こちら11号機‥‥了解」
やや、躊躇しながらもヘリから返答が来る。
続いて、
「こちら13号機、了解」
「こちら14号機、了解」
万が一を想定した『対戦車ミサイル』だ。
無論、その爆破の反動で更なる被害は出るだろう。『取り込まれた人間』は『見殺し』になる。だが今は『それ』しか手が無いのだ。
「発射っ!」
ヘリの操縦士が、発射ボタンを押す。
バシュゥゥゥゥ!
3方向から一斉にミサイルが発射された。が‥‥
「あっ‥‥!」
司令室で誰かが小さく叫んだ。
アマテラスの巨体が『消えた』のだ。
そして次の瞬間。
ドドォォォォン!
ミサイル同士が激しく衝突し、爆裂を起こす。
激しい閃光と爆音が辺り一面を支配する。
濛々と土煙が立ち込める。
「ア‥‥アマテラスは!アマテラスはどうした?!」
山倉が怒鳴る。
「わ、分かりません!捕捉‥‥不能です」
モニターには噴煙しか映っていない。
「急げっ!ヘリに索敵を指示しろ!あれだけの巨体だ、そう簡単に隠れられるわけじゃぁない!」
山倉はそう言うが。
「こちら11号機、ダメです!煙が酷くて地上は何も見えません!」
悲痛な叫びが返ってくる。
物陰やビルの内部に侵入されているとすれば、その発見は容易ではあるまい。
チャンと調べようとするのなら部隊を地上を送るしかないが、そのリスクはあまりに高い。
これ以上、駆除班から犠牲を出さないようにするには接近戦は選択肢の外にあると言って良かった。
その晩は他からも応援を得て、空中から索敵を続けたが。
アマテラスはこの夜、それっきり姿を現そうとはしなかった。




