黄泉 vs 『黄泉』
「な‥‥何だ、アレはっ!」
ヘリに搭乗している全員で、コンテナから現れた『黄泉』を凝視する。
「何てこった‥‥何でスサノオのコンテナから黄泉が出てくるんだよ‥‥」
固唾を飲んで見守っていると。
ググン‥‥
コンテナに入っていた『黄泉』がゆっくりと出てくる。
そして、先程から街を荒らし回っていた黄泉と対峙した。
グォォォォォ!!
先に来ていた方の黄泉が咆哮を上げる。或いは、威嚇なのだろうか。
「危険です!近くに着地しますから、すぐに降りて安全を確保してください!装備の携帯を忘れずに!」
鮎川班の操縦士はそう言って、ヘリを急降下させた。
ババババ‥‥
ローターの風を受けながら、全員が急いでヘリを降りる。
「急げ!すぐにヘリが出るぞ!」
物陰へと移動すると。
「‥‥で‥‥『アレ』はどうなったんだ‥‥?」
コンテナから出てきた『真っ黒な黄泉』の事である。
「分からんが‥‥あっ!アレだっ!」
誰かが叫んだ先に、2体の黄泉が見える。
ドォォォ‥‥ン!
鈍い衝撃音が響く。
「み、見ろ‥‥あいつら『殴り合ってる』ぜ‥‥」
黒い黄泉が、先に出てきた黄泉を殴り付けている。
グラッ‥‥と、殴られた方の黄泉がよろめくが。
それでも姿勢を低くすると、黒い黄泉にタックルを仕掛けた。
次の瞬間。
それはまるで格闘家のような『体捌き』であった。
黒い黄泉は反射的に身体を撚ると、猛烈な勢いで膝蹴りを繰り出したのだ。
そして、その『膝』は先に仕掛けた黄泉の顔面を直撃した。
ドゴォォォォ‥‥ン!
衝撃で、辺りに轟音が響く。
「うっ‥‥!」
葛城が思わず耳をふさぐ。治ったばかりの鼓膜が痛いのだ。
ドォォォォ‥‥ンと地響きが続く。打たれた黄泉が倒れたのだ。
だが、黄泉はすぐに起き上がり、
グォォォォ!
再び、地面を揺るがす大きな雄叫びを上げた。
そして、足元で横倒しになっていた『大型バス』を両手で抱え上げた。
グォッ!
まるで気合を入れるかのように短い叫び声を上げると、そのバスを振りかざして黒い黄泉へと叩きつけた‥‥が。
黒い黄泉は『それ』をヒラリとばかりに躱し、そのまま振り下ろされたバスを片手で掴むと、グイと自分に引き寄せた。
「あ‥‥っ!」
隊員達は息を飲んでその光景に見入っていた。
バスを掴まれ、仕掛けた黄泉の体勢が大きく崩れる。
『それ』を、黒い黄泉は見逃さなかった。
渾身の‥‥と言って良いのか分からないが、とにかく『全力感』が漲る『右ストレート』が『敵』の顔面を直撃する。
ゴォォォォォン!!
一段と強い衝撃音が響き渡る。空気の振動で押し倒されそうなほどだ。
「うぅ‥‥」
隊員達が顔をしかめる。
ゆっくり眼を開けると。
最初に現れた方の黄泉は、原型を留めないほどに変形した顔面から煙を吹きながら地面に横たわって。
そのまま、完全に沈黙していた。
「た‥‥倒した‥‥のか?」
山喜が、恐る恐る前に出る。
後からやって来た『黒い黄泉』は何もせず、その場に立ちすくんでいる。
やがて。
バリバリバリ‥‥‥
先程の大型ヘリが現れる。回収班だ。
それを確認すると、黒い黄泉はそのまま現場を後にしてコンテナの中へと戻っていった。
ヘリはそのコンテナにフックを引っ掛けると、そのままヘリ本体に格納し、何事も無かったかのように去って行った。
「何だったんだ‥‥今のは‥‥」
隊員達は、その一部始終を只呆然と見守るしか無かった。
しかし、その中にあって。
『アレ』は‥‥
葛城は、身震いが止まらなかった。
それにどういう事情があるのかは判然としないが。
それはともかく、最後に黒い黄泉が見せた『その技』は間違いなく自身の修める『五縄流柔術』の技がひとつ『引き波』であった。
何で‥‥何で『黄泉』が五縄流を遣うんだ‥‥
「葛城班長、帰投ですよ!」
背後で、山喜が呼んでいることに。葛城は暫く気づく事が出来なかった。