レベル4『対策』
それは夜の9時過ぎだった。
ビーッ!ビーッ!
司令室に警報が鳴り響く。
「黄泉ですっ!」
久しぶりの事態だ。一気に緊張感が高まる。
「場所は?!」
「‥‥E地区です!画像、転送します!」
中央モニターに、街中に取り付けられた監視カメラの画像が映し出される。
「う‥‥!」
言葉に詰まる。
「デカいな‥‥」
画像で見るだけでも15m~20mほどはあろうか。
「E地区か‥‥くそっ、『近い』のはどこの班だ?」
本来、E地区は葛城班の担当だが、今はチームが編成出来ていない。
「鮎川班との混成チームが待機していますが‥‥」
「いきなりは難しいな‥‥仕方ない、近隣の担当班に応援要請を出せ。それと鮎川班には『無理をせず、状況把握を第一に努めろ』と伝えろ」
「了解です。鮎川班、こちら司令室‥‥」
司令室が慌ただしくなる中。
当直の司令である山倉は、手元にあった直通電話の受話器を取り上げた。
「‥‥山倉だ。黄泉が出た。おそらくレベル3以上‥‥もしかすると『4』の可能性もある。『アレ』は行けるのか?‥‥そうか、分かった。うん‥‥うん‥‥『GO』だ」
やや緊張の面持ちで、山倉が電話を切る。
「‥‥いよいよ『ご登場』って訳か」
黄泉発生の現場は、いつも以上に混乱していた。
「何てこったっ!‥‥司令室、司令室!こちら鮎川班っ!ダメだ、黄泉の移動速度が早すぎて地上降下ポイントが決められない!」
ヘリから悲痛な無線が飛ぶ。
「こちら司令室、何とか先回りできないか?」
「ダメだ!急に方向を変えたりしながら不規則に動いてやがる‥‥っ!」
鮎川班のヘリには葛城も同乗して、その状況を窓から伺っていた。
‥‥もしかして、ミサイル攻撃を『覚えられた』か‥‥。
だとすれば、相手はある程度の知能を有する『レベル4』という事になる。
このままでは『最終手段』のミサイル攻撃も使えない。
司令室から、命令が飛ぶ。
「今‥‥、『上』からの許可が出た。ヘリからの機関銃掃射で牽制してくれ。何とかして黄泉の移動範囲を限定するんだ。今、他の班からも応援が廻ってくる。彼らとともにどうにか『足止め』をして欲しい!」
「‥‥了解」
街中で機銃を使うのはリスクが大きい。何しろ流れ弾が1発でも市民に当たれば大事になるからだ。
しかし今はもう、そんな事を言っていられる場合ではなかった。
「分かりました‥‥撃ちますよ?良いんですね?」
「ああ、頼んだ」
その瞬間、
バリバリバリ‥‥!!
走る黄泉の背後から機銃を撃つ。
黄泉の足が止まって、背後を振り返る。
「高度を保て!接近し過ぎると何が起こるか分からん!」
班長・鮎川から指示が飛ぶ。
周辺の空域には、仲間のヘリも到着し始めていた。
「円を描くように!逃げ場を封じて連続射撃をっ!」
司令室からの指示に従って、そのぐるりから一斉掃射が始まる。
だが。
「この野郎‥‥効いてんのか‥‥効いてねぇのか‥‥」
無論、全ての弾が当たっているのでは無いのではあろうが。
効果的なダメージがあるようには見えていない。
その時、
「‥‥うん?」
葛城はふと、遥か向こうから1台の大型ヘリが飛来してくるのを見つけた。
「おや‥‥あれは‥‥『回収班』?」
大型のコンテナを積載している事から見て、回収班のヘリだと分かる。
よく見ると数機の護衛ヘリも帯同している。
しかし、彼らの『役目』は駆除が終わってからの『回収』だ。戦闘中に用は無いハズなのだが‥‥
ゆっくりと回収班のヘリが接近し、黄泉の近くでコンテナを切り離して着地させた。
そして、そのまま方向転換して現場を離脱する。
「あの‥‥コンテナは?」
窓の外から、葛城が凝視する。
黄泉も、そのコンテナに気づいたようだ。
「機銃掃射、やめ!直ちに現場空域を離脱し、操縦者以外は安全な場所に降下せよ!」
司令室は、そのコンテナの中身を知っているようだ。
「りょ、了解‥‥」
何が何だか分からないが、ともかくヘリは黄泉とコンテナから離れていく。
すると、
ガコン‥‥
コンテナの上部が開く。
そして、中から何か真っ黒い塊が姿を表す。
「‥‥何てこった‥‥見ろ、アレは‥‥」
鮎川班のメンバーが震えながら指し示す。
コンテナから出てきたのは、明らかに『黄泉』だった。