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AMATERASU  作者: 潜水艦7号
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静寂の中で

「‥‥おはようございます」


アマテラス対策の最前線、スサノオの本部基地はA都の外れにある。

此処に葛城が顔を出したのは、ミサイル事件から10日後の事だった。


「よぉ、葛城。生きてたみたいだな。もう動いてもいいのか?」

仲間たちが声を掛けてくる。


「ええ、お陰様で。どうにか生きてますよ‥‥」


当然、身体はまだ充分に癒えたとは言えない。『痛む』ものは痛むのだが‥‥どうにもじっとしてられる心境にはなれなかった。


「山倉司令、ご無沙汰しておりました」

通りかかった山倉に、葛城が挨拶をする。


「おう!元気そうでなによりだ‥‥事故は大変だったな。班員も半数がまだ入院だと聞くが?」


「はい‥‥仕方ありません。何しろ『そういう任務』ですから」

スッ‥‥と葛城が頭を下げる。


「‥‥そうか。ま、ここ最近は『黄泉(やっこさん)』も静かにしててくれてるからな‥‥色々と助かってはいるよ、何しろね」


ミサイル事件以降、黄泉とアマテラスの消息は途絶えている。


「そうですね、それは本当に‥‥ところで司令、『私のチーム』は今後どのように行動すれば?」

葛城が尋ねる。


「ああ、とりあえずは『鮎川班』と混成チームという予定だと聞いた。鮎川班も『人手不足』なんでな」


あの事件で、鮎川班も2名を失っているのだ。


「‥‥了解しました。後で連絡を取って合流します」

再び頭を下げて向きを変えると。


「あっ!葛城班長!」


通路の向こう側に、山喜の姿があった。

首元と襟口から覗く包帯が痛々しい。


「‥‥山喜、もういいのか?動いても」


「はは‥‥『それ』はお互い様でしょう。まぁ、ボチボチですよ。それより、鮎川班と合流だと聞きましたが?」


「ああ」

葛城が短く返す。


「人手不足は分かりますが‥‥急造チームは難しいですよ?お互いの空気感とか、呼吸が読めないですから」

山喜が心配そうな顔をする。


確かに、元々のメンバーで戦うのがベストではあろうが‥‥無い物を恨めしんでも始まるものではない。


「うん、流石に『最前線』は無理だろうな。特に『レベル3』が相手となると‥‥」

そこまで言いかけて、葛城が言葉を切る。


柏木が言っていた『チャンと考えている』というセリフが気に掛かったのだ。


いったい、何をする気なんだ‥‥

どう考えても『イヤな予感』しかしない。


「そう言えば‥‥」

山喜が話題を変える。


「自分は元々陸自の所属でしたが、葛城班長は最初から『スサノオ』なんですよね?」


「ああ‥‥」

葛城は、傍にあった長椅子に腰掛けた。


スサノオは『特殊組織』の体ではあるが、その実体は自衛隊の別働隊に他ならない。そのため、そのメンバーのほとんどは自衛隊からの選抜なのだ。ある意味、葛城は『例外』と言える。


「‥‥私は自分から志願したからな。スサノオ側としても『私』は、今となっては『動くアマテラス』を知っている唯一の人間だし‥‥『手元に置いておきたい』という思惑もあるんだろうな」


3年経った今でも、あの時の『絶望的な恐怖』は鮮明に覚えている。

あの、深い空洞のような意思を持たない瞳を‥‥


「そうですか‥‥班長が『遺失事件』で唯一の生存者だというのは私も聞いています」

山喜は、葛城の前で立ったままの姿勢だ。


「『そういう言い方』をするなら、そうとも言えるけどな‥‥しかし、見方を変えればアマテラスを逃してしまった唯一の『生きている責任者』という言い方も出来るんだよ。ならば、その罪は決して軽くは無い‥‥」


『これ以上、逃げる訳にはいかない』


それこそが、葛城がスサノオに志願した理由である。

『その決着』をつけるべく、自ら最前線に立つ事を望んだのだ。


「そうですか‥‥しかし、最前線は危険な場所です。自分らは厳しい訓練を受けてきましたが、班長には『そういう経験』が?」

そのセリフは、無理して最前線に立つべきではないのでは?という山喜の心遣いなのだろう。


「‥‥まぁね。『五縄流』という古武術の一派の‥‥『仮』ではあるとは言え、一応それでも『師範代』だよ。何しろ勝つ為には無茶苦茶をやる『何でもあり』の流派でさ‥‥『鍛えられてる』と言えばそうかもな」


五縄流は古くから政府機関との『繋がり』がある。


それは、警察や自衛隊に所属する特殊部隊の教練を担うためなのだ。

ここ最近まではこれを前宗家の片桐清三などが受け持っていたが、近頃は『養子』の桜生が受け継いでいると聞く。

こうした『パイプ』によって、葛城はスサノオに推薦されたのだ。


「さ‥‥行くか」

葛城が立ち上がる。


「鮎川班に合流しないとな‥‥」


「はい」

山喜が短く返した。




そして。

『レベル4』が出たのは、まさにその夜だった。


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