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AMATERASU  作者: 潜水艦7号
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奇跡の『蘇生』が出来まいか。

「‥‥すいません田端教授、もう一度お願いします。今、何とおっしゃいました?」


テントに戻った葛城はまだ、『アマテラス目撃』の動揺から覚めきっていなかった。


「だからさ。あの『彼女(アマテラス)』は『ほぼ生きたまま』で冷凍保存されている訳だろう?そこでだ。現代の技術を駆使する事で、どうにかして『蘇生』出来ないか‥‥という話なのさ」


田端の突拍子もない『提案』に、葛城は唖然とした。

「そんな事が‥‥本当に出来るのですか?液体窒素で凍らせた金魚を元に戻すのとは訳が違いますよ?」


「分かってるよ、そりゃぁ簡単にはいかんさ」

田端の眼は、すでに葛城の方を向いていない。


「けどな?まったく『可能性が無い』という事も無いんだ。実は知り合いに『その筋』の専門家が居るんだよ」


「専門家‥‥ですか?人体冷凍保存の?アレは確かロシアか何処かの民間企業がやってるそうですが『安全に解凍させる手立ては見つかってない』と聞いてますが」

葛城が訝しがる。


「いや、残念ながら『人体の専門家』ではないんだ。そうではなく、『その人』は鮮魚の(おろし)をしているんだよ。何でも遠洋漁業から持ち帰った冷凍マグロなんかを『釣りたての状態』に解凍させる特殊技術があるらしい」


田端はまるで、遠足を心待ちにする子供のように嬉しそうな表情をしている。


「なるほど、うまく解凍できれば近海物なみに価値は上がる‥‥と」


「ああ、昔はその人も家を継いで漁師をしていたそうだが、先代と違って『釣る』よりも『卸』をした方が性に合っているから、と言っててな。今では『そっち』を専門にしてるらしい。かなり『儲かっている』みたいだな」


教授も妙なところに知り合いが居るものだな、と葛城は感心した。


「しかし‥‥その方は『鮮魚卸』なんですよね?『こんな話』に乗ってくれるでしょうか?何しろ相手は魚ではなく『人』ですよ?」


「大丈夫だと思うぞ?何しろ少々‥‥いや、かなり『変わった人』だからな。『黒壇物産』という会社で‥‥」


え?『黒壇』?

葛城が耳を疑う。


‥‥何処かで『聞いた事がある』名前だぞ?『それ』は‥‥


「あの‥‥教授、『もしかして』ですが‥‥その方には『アザミ』とかいう娘さんが居ませんですか?」


「おぉ!君は黒壇さんの娘さんと知り合いなのか?それはそれは、話が早い。その通りだよ」


やはり‥‥か‥‥

『あいつ』の親ならば、さもありなんだ。『かなり』どころか、筋金入りの変人でも驚く要素はないだろう。


葛城は、ふと思い当たった。

ははぁ‥‥道理で、か。


以前の『五縄流宗家継承戦』でアザミが駆使した(トラップ)の数々は、相当な物量だったと思う。


とてもではないが、一介の女子高生如きに用意出来る資金では間に合うまいと見ていたが。なるほど『親』の財布がバックにあったのか。

アザミが『いい腕時計』をしてたのも、これで納得が行く。


「‥‥教授、確かに『そこ』なら引き受けてくれる可能性は大きいと、私も思います‥‥出来るのなら、ですが」


「だろう?まぁ‥‥ダメで元々というものだ。とにかく、写真も撮ってきたし後で電話を掛けて聞くだけでも聞いてみるよ」


そう言って、田端はニヤリと笑った。




『流石の』黒壇父も『冷凍人間の蘇生』という依頼には相当に面食らったと、後から聞いた。

だが、その日の夕方には黒壇父は車を飛ばして発掘現場に現れていた。興味を引いたのだろう。


「うー‥‥ん。『人間』かぁ‥‥」

写真をしげしげと眺めながら、黒壇父は唸っていた。


「どちらにしろ、前例(やったこと)が無いんだ。『絶対成功』とは言い切れんぞ?田端さん」


黒壇父と田端教授は旧知の仲らしい。


「そりゃぁそうだろうて。だがどうだ?可能性はあると思うか?」

田端も写真を覗き込む。


「そうだな‥‥何しろ『救い』はこの『温度』だな。マイナス25℃という温度で急速冷却されていれば、或いは‥‥。『この温度』からの解凍は、俺たちとしても最も経験がある部類ではあるし」


黒壇父は、腕組みをして考え込んでいる。


食品の『冷凍』における最大の問題は『水が凍ると体積が約1割増える』ことにある。これによって、ヘタをすると細胞膜が破裂してしまうのだ。


また、凍結に時間が掛かると氷が『結晶化』を起こす。氷の結晶は星型をしていて鋭い突起が出ててる。

この『突起』が細胞膜を突き破ってしまうと、組織内の液が滲み出る『ドリップ』と呼ばれる現象に陥るのだ。もうこうなれば、『蘇生』は完全に不可能になってしまう。


そのため『うまく解凍を』という事になれば、超緩速で常温に戻すしかないが、それでもヘタをすれば細胞に血が通っていないので今度は『壊死』という問題が出てくる。

言ってみれば『その矛盾』をどうにかするのが、『腕の見せどころ』というものであると言えよう。


「うまく『解凍』出来れば大学や私の名誉だけではない、生物学の大偉業ですぞ。それに黒壇さん、アナタとしても『良い宣伝』になるのと違いますかな?」

(そそのか)すように、田端が語りかける。


「はは‥‥参ったね。『宣伝』と来ましたかい。良いでしょうよ、何とかやってみましょうか。しかし‥‥」

黒壇父が顔を曇らせる。


「解凍は出来ても『蘇生』がね。ウチは『生き返る』までは流石にやらないからさ。」


すると、そこへ背後から声を掛ける男が居た。

「‥‥いや、解凍さえして頂ければ『蘇生』は我々が担当しましょう」


振り返ると、そこに居たのは鴻池教授だった。


「何とか‥‥なりそうでしょうか?」

心配そうに尋ねる田端に、鴻池が笑ってみせる。


「ええ、ウチはバイオ専門ですから。お陰様で『それなりに』研究資金や機材のツテがありますんで」


そうして。


『そう』とは公表されないままに、『アマテラス』は洞窟の最深部から8000年振りの日の目を見る事となった。


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