3-09. キング・アーサー討伐戦 2. 暴走する聖剣王
2018/12/30 旧第2章分割に合わせ通番を修正
* * * * *
翌日、風邪も完全に治ったありすは普通に登校した。体育だけは念のため見学するようにはしてもらったが。
幸い特に問題もなく一日授業を受けて帰宅。今日も桃香は一緒にクエストを受けるために恋墨家に寄り道してもらっている。
……別にここでなくても自室でもいいんだけど……まぁ桃香がそうしたいと主張しているし、ありすも「おっけー」と言っているのでいいか。ちなみに美奈子さんは今日も仕事のため不在だ。一応友達が家に来ることは知らせてはいるが……その相手が『七燿桃園』のお嬢様と聞いたら流石に何と言うだろうか。
それはともかく、今日こそはありすと桃香が一緒にクエストに参加することになる。日曜日にはヴィヴィアンの能力を把握するのが目的だったため、純粋にクリア目的でクエストに挑むのは今回が初となる。
その記念すべき初クエストが、キング・アーサーとかいう謎の存在の確認になってしまうのはどうなんだろうか。まぁ二人が気にしないのであればいいか。
「「エクス――トランス!」」
マイルームで二人が揃って変身する。
ノリの是非はともかく、二人が並んで変身するのを見ると、やっぱり魔法少女的なノリだなぁと思う。美鈴と一緒にクエストに行っていた時は、別々のマイルームだったしね。
”じゃ、行こうか”
今回挑むクエストは、またまた風竜の討伐クエストだ。何かやたらと多いなぁ……。
ただ今回は風竜だけではなく他のモンスターも討伐対象となっている。すっかりおなじみとなった火龍と、天空遺跡以来の登場となる水蛇竜が出てくるようだ。
……そういえばレーダーに映らない存在は、あの謎の少女の他にもいたなぁ。天空遺跡の紅晶竜たちもそうだった。アリスはいずれリベンジする気満々なようだけど、正直あんな危険なモンスターは私は二度と戦いたくはない――『ゲーム』をクリアするためにはいずれ挑まなければならないのかもしれないけど。
「とりあえずは――《エクスカリバー》使ってみるか?」
クエストの舞台は高山ステージ。天空遺跡に似てはいるが、別のステージだ。雲の上まで突き出た山々のステージで、上下の幅がかなり激しい。
ステージに入って早々アリスはそんなことを言う。
まずはキング・アーサーの確認をする。《エクスカリバー》の封印を行うかどうかはそれからだ。
でも、何が起こるかわからない。先にある程度モンスターを倒しておいた方がいいんじゃないだろうか。
”今回は討伐目標が多いし、ステージも広い。何が起こるかわからないから、まずはある程度敵を減らした方がいいんじゃないかな”
「うーむ、確かに……」
私の意見にアリスもちょっと悩むものの反対はしない。
仮にキング・アーサーを見る間もなくクリアしてしまったとしても、それはそれで別に構わない。他のクエストでも実験は出来るだろう。
「よし、では使い魔殿の言う通り、まずは敵の数を減らそう。
ゆくぞ、ヴィヴィアン!」
「はい、姫様」
アリスは《天脚甲》で、ヴィヴィアンは《ペガサス》を呼び出して高山ステージを飛行して敵を探しに行く。
魔力の節約のためにはアリスも《ペガサス》に相乗りしてしまえばいいのだが、そうするといざという時に素早く動くことが出来なくなってしまう。多少の魔力のロスは必要経費と割り切るべきだろう。
しばらく飛行しているとレーダーに反応が現れる。
ジェムによってレーダー機能は何段階か強化されており、以前のように水中や地中にいる敵は見えない、ということもなくなっている。地形も大体わかるようになっているので予期せぬ位置からの不意打ちも受ける心配は少なくなった。
その強化されたレーダーによって敵の大まかな位置はわかる。今私たちが飛行している切り立った崖付近にはおらず、崖を抜けた先の少し開けた高原に巨大な反応――おそらく火龍だろう――とそれより少し小さな反応が幾つか。小さな反応の方はマップの地形からして空中にいるので、こちらが風竜だろう。水蛇竜らしき反応は今は見えない。
どうもこの『ゲーム』の難易度的には、火龍と風竜は大体同格の相手と設定されているようだ。数からしてみると、火龍の方がやや上なのかも。
……正直、アリスにとって火龍は既に『ちょっと頑丈な雑魚』レベルにまでなっている。よっぽど油断しない限り負ける要素は全くない。ヴィヴィアンという頼れる仲間がいるのだからなおさらだ。
この間のクラウザーの反応から考えると……もしかして、私たちは『ゲーム』の想定をはるかに超えたレベルのモンスターと戦って来ているのかもしれない。他のプレイヤーがどんなモンスターと普段戦っているのか確認してみたいところだ――機会があればトンコツ辺りに聞いてみたい。
おっと、話が逸れた。今は敵に集中だ。
”二人とも、この先に火龍が一匹、風竜が――三匹いる。風竜は詳細はわからないけど、多分鮫型のやつだと思う。崖から開けた場所に出るから、そこで火龍の炎を食らわないように気を付けて!”
基本負ける要素はないとはいえ、直撃を食らうのは流石に拙い。遠距離攻撃には変わらず気を付けるべきだろう。
二人へと警告を飛ばし、また頷く。ま、今更この二人――特にアリスに注意することもないかな。
「よし、まずはオレが魔法を撃ちこむ。相手の動きを見てから、ヴィヴィアンがその後に召喚獣を叩きこめ!」
「はい、姫様」
さぁ、二人が連携して挑む初めてのクエストだ。どうなるか……?
キング・アーサーのことはとりあえず置いておいて、手始めに火龍と風竜を相手にすることとなる。
”さぁ、開けた場所に出るよ!”
向こうからも攻撃が来るか? それともこちらの先制攻撃で一気に片を付けるか? 何にしろ、ここからがクエスト本番だ。
――アリスとヴィヴィアンがそれぞれ戦闘態勢を整えつつ、崖の切れ目、わずかに開けた平原へと躍り出た瞬間だった。
『キング・アーサァァァァァァァァァァァァッ!!』
……は?
「「は?」」
どこからともなく聞こえてくる無駄に野太い雄たけび――いや、待って、なんで!?
”ヴィヴィアン、《エクスカリバー》使った!?”
「い、いえ……わたくしはまだ何も……」
確かに『サモン』は聞いていない。それはわかってる――だからこそ私たちが戸惑っているわけなんだが。
だが、私たちの戸惑いなど関係なく、あのトランプのキングを具現化したような巨人――キング・アーサーはそこに唐突に出現している。
『《王剣無双・一刀斬破ァァァァァァァァァァァァッ!!》』
――またもや《エクスカリバー》の一閃が敵を殲滅してしまう。
攻撃音に引かれて遠くから水蛇竜が接近してくる反応がある。
キング・アーサーもレーダー機能を持っているのか、的確に水蛇竜のいる方へ向かって移動を開始する。
「ちょっ……何なのだ、あいつは!?」
私たちから話は聞いていたものの、実際に目にしてみるとまた違うのだろう。流石のアリスも驚きの声を上げる。
……いや、何なのかと聞かれても……私たちの方がそれは聞きたい。
「と、とにかく奴を追うぞ! 使い魔殿たちの話が正しければ、奴に残りのモンスターを倒されたら……!」
そうだ、キング・アーサーの何が厄介かといえば、やつにモンスターを倒されたらクエストが『失敗』になることなのだ。
既に火龍と風竜が倒されている。クエスト失敗はほぼ確定しているような気もするが、だからといって指をくわえて見ているだけというわけにもいかない。
私たちはキング・アーサーを追いかけて残る水蛇竜の元へと向かう。
……が、結局私たちが水蛇竜を倒すよりも早く、キング・アーサーの《エクスカリバー》が周囲の山ごと水蛇竜を吹き飛ばしてしまっていたのだった……。
* * * * *
「……何、あれ?」
一旦ありすの部屋へと戻って作戦会議――というか状況をまとめようということになった。
開口一番ありすがそう言う。
うん、まぁ言いたいことはごもっともなんだけど……正直私もそれを問いたい。誰も答えられないんだけど。
”……念のため聞くけど、桃香は今回は《エクスカリバー》の召喚はしてないんだよね?”
わかってはいるが、言葉通り念のため、だ。
私の問いかけに桃香は頷く。
「はい……ありすさんに誓ってわたくしは今回は《エクスカリバー》の召喚は行っておりません」
何か妙なものに誓っているのは聞かなかったことにしよう。
桃香――ヴィヴィアンが《エクスカリバー》の召喚をしていなかったのはわかっている。もしかして私の知らないところで……とも考えたが、まぁそんなことをする理由もない。
つまりは……本当にサモンを使っていないのに勝手にキング・アーサーは現れたということになるのか。
ちなみにヴィヴィアンの魔力消費も確認はしていたが、不自然な減り方はしていなかったと思う。というよりも、最初に《ペガサス》を呼び出した後にキャンディで回復をしていなかったのだ。もし《エクスカリバー》をサモンで呼び出したとしたらその場で魔力切れを起こしていただろう。
「……ん……つまり、あの髭は……勝手に出てきた……?」
”まぁ……そうなる、のかなぁ……”
不可解極まりないが、とりあえず現状はそう結論せざるを得ない。
召喚していないのに勝手に現れて――しかも魔力消費もなしにだ――暴れ回ってモンスターを倒していく召喚獣……ヴィヴィアンの能力は一通り検証したとはいえ本当に全てを知ったわけではない。アリスの『神装』のようにまだ見ぬ力があってもおかしくはない。
……んだけど、どうもあのキング・アーサーはそういうのとはちょっと違うような気もするんだよなぁ……。
「……もう一回、クエスト行こ」
しばらく沈黙が続いたところでありすがそう言う。
……そうだね、何度か試してみてキング・アーサーが本当に勝手に現れるのかどうかを検証したい。
まぁ、クエストに行ってもキング・アーサーが出てきた時点でクエスト失敗確定になるのは仕方ないと割り切るしかないが。
「はい。わたくしも、アレの正体を見極めたいですわ」
桃香も賛成のようだ。
彼女の場合、キング・アーサーが出現するきっかけとなったのが自分の魔法なのだと変に責任を感じている可能性がある。
また変に思い詰めなければいいけど……いや、そこをフォローするのが私の役目か。
”わかった。とりあえずクエストに行こう。そして、キング・アーサーの出現パターンとかないか、色々と見極めよう。
……この際、クエスト失敗でジェムがもらえないのは諦めよう”
「ん、仕方ない……」
「はい……」
問題が起こるのは仕方ない。肝心なのは、発生した問題に対していかに対処するか――そして出来ればだが、同じ問題、また似たような問題が起こらないように対処することだ。
その意味では、キング・アーサーに対する問題が起こったのが『今』であることは最良のタイミングと言える。対クラウザー戦の時のような厄介な案件は抱えていないし、アリスもヴィヴィアンも一通りの成長は終えているのでガツガツとジェム稼ぎに躍起になる必要もない。ここで《エクスカリバー》に纏わる問題が出てきたことは、考えようによってはラッキーだ。もっと切羽詰まった戦いの時にいちかばちかで《エクスカリバー》を使ってキング・アーサーに引っ掻き回される……という方がよっぽど厄介だった。
”よし、行こう!”
ヴィヴィアンを迎えた私たち『チーム』の最初の課題――キング・アーサーに纏わる事柄、まずはこれを解決させよう。それによって、アリスとヴィヴィアンにも色々と変化があるはずだ。
……桃香の様子だけはちょっと注意してみておく必要はある。そのことだけは忘れないようにしておかないとね。
で、私たちは再び適当なクエストを選んでいったわけだけど……。
『キング・アーサァァァァァァァァァァァァッ!!』
「うわ、また出た!?」
『キング・アーサー、である!』
「……あ、ちょっと勢いが落ちていますね……結局《エクスカリバー》使うようですが……』
”くっ……こうなったら、もう瞬殺できる雑魚しかいないクエストに……っ!”
『キィィィィィング!!』
”うひぃっ!?”
『アァァァァァァァァァサァァァァァァァァァァァッ!!』
どんなクエストに行っても、キング・アーサーは現れ続けた。そして、その都度モンスターを倒され、クエストが失敗し続けている。
まぁキャンディを使っているわけでもないので特にマイナスはないのだけど……。
「……何なの、あれ……?」
少し前に似たようなセリフを言ったありすだが、今は明らかに苛立っている。
最初こそ戸惑いの方が強かったものの、何度も何度も現れては『獲物』をかっさらわれているのだ。流石に苛立ちの方が増してくる。
「……」
反対に桃香の方は回を追うごとに元気がなくなっている。笑顔は消え、口数も少なくなってしまっている。
……責任、感じているんだろうなぁ、やっぱり……。
ありすも直接桃香を責めるようなことはないし、そんな気は微塵もないだろう。実際、キング・アーサーに関しても『何か変なイベントが起きてる』程度にしか思っていないに違いない。
尤も、だからと言って桃香がどう感じるかは全く別問題だ。
実際桃香が責任を負う話でもないんだけど……うーん……。
”……よし、次はちょっと違うことを試してみよう”
「ん……何……?」
気分を切り替えるために私は思いつきを提案する。
今は色々と試してみるべき段階だ。何か考えるにしても材料が少なすぎる。だから嫌なことを考え始めると止まらなくなってしまう。
”試してみたいことは二つある。
まずは、桃香”
「は、はい?」
ちょっとだけビクつきつつ桃香が返事する。ちょっとだけ声が上擦っている。
構わず私は続ける――どれだけここで言葉を費やして慰めたとしても、きっと桃香はそれを素直には受け取れないだろう。責任感が強いというか、自罰的というか……。楽観的で無責任よりはいいのかもしれないけど。
”キング・アーサーが出てくるかどうかに関わらず、次は真っ先に《エクスカリバー》を召喚してみて欲しい――いや、まぁきっとキング・アーサーは出てくるんだろうけど”
「え、《エクスカリバー》をですか……?」
”うん。キング・アーサーが今まで出てきた時、特にヴィヴィアンの魔力が減っていたわけではないから、少なくともアレと《エクスカリバー》は連動していないと思うんだよね。まずはそれを確かめたい”
全くの無関係というわけではないとは思うが、『連動』はしていないと思う。
ここで確認したいのは、キング・アーサーが出てきたら《エクスカリバー》が呼べなくなるのか、あるいはその反対かを、だ。
とにかくキング・アーサーが一体何なのかわからない。正体を探るための手がかりが欲しい。そのヒントとなるのは……やはり《エクスカリバー》の存在だと思うのだ。
「もう一つは?」
ありすの問いかけに私は頷き答える。
”キング・アーサーが出てきたら――”
ちょっと危険な行動かもしれないけれど……。
”こっちからキング・アーサーに攻撃を仕掛ける”




