3-08. キング・アーサー討伐戦 1. 未だ平穏な時
2018/12/30 旧第2章分割に合わせ通番を修正
「……ん、おかえり」
クエストから帰ってきた私たちをありすが出迎える。
時間は予告通り30分くらいか。
”ただいま、ありす。
宿題はちゃんと終わった?”
「ん」
元々そこまで量が多くない上、ありすはそれなりに成績がいいため大して苦戦もしなかったのだろう。
机の上にプリント以外に携帯ゲーム機があることから、早々にプリントは片づけて暇つぶしにゲームをしていたようだ。
……怒るべきかどうするか、悩ましいところだ。
「……トーカ?」
ふと見ると桃香がベッドから出てこない。
……まさか、何かあったのか!?
「あ、はい。今出ます……」
なぜか残念そうに桃香がベッドから出てくる。
よし、後でお説教だ。
「……で、何か面白いことでもあった?」
桃香にお説教をしてそのままの流れでうやむやの内に解散しようともくろんだ私だったが、それよりも早くありすがクエストについて尋ねてくる。
しかも、ヴィヴィアンの特訓の成果についてではなく『面白いことがあったか』と来たもんだ。
……まさかとは思うけど、実はクエストの内容を見ていたとかない……よなぁ?
”……別に何もなかったよ? ね、桃香?”
「は、はい。至って普通のクエストでしたわ、ね、ラビ様?」
私たちは顔を見合わせて互いに曖昧な笑みを浮かべる。
「……ん」
いつも通りのぼんやりとした顔だが、その視線に疑いの色が込められているのがわかる。
「ラビさん」
”え、何?”
ありすが私を抱きかかえると――
「かぷっ」
”ぎゃあっ!?”
何といきなり私の耳に噛り付く。
がっつりと歯を立てて噛みついたわけではなく『甘噛み』レベルではあるが、突然の行動に思わず悲鳴を上げてしまった。
「……この味は、嘘をついている味……」
それでわかってたまるかよ。
……いや、まぁ実際嘘ついているわけだけど……。
助けを求めるように桃香の方を見ると……。
「……」
何かを期待するかのような眼差しでこちらを――というかありすのことを見ている。
ダメだ、てんで助けにならない!!
”う、嘘なんてついてないよ!”
「んー?」
必死に弁解する私だったが、ありすは全く表情を変えないまま、また耳をかじる。
”うぎゃあ!?”
「んー……やっぱり嘘の味がする……。
ラビさん、嘘は良くない、よ……?」
と言いつつ更にもう一噛み。
あーもー、何なのこの子!?
「あ、あぁ……」
桃香は桃香で指をくわえて見ているだけだ。というか、何だそのうらやましいと言わんばかりの表情は!?
”わ、わかった! わかったから噛まないで……っ”
想定外のありすの攻撃に、私は観念するしかなかった……。
「……何、それ……?」
仕方なく最後のクエストで起こった出来事について話しはしたものの、ありすは微かに眉を寄せて怪訝な表情をする。
一個も嘘はついていないし、誤魔化したり意図的に伏せたりした事柄はない。謎の少女についても、キング・アーサーについても正直に話している。
まぁ、正直に話したところで訳の分からない出来事だったのは否定できないが。話してて私自身、頭がおかしくなったのかと思ったくらいだ。特にキング・アーサーのくだりについては。
今までも色々な体験をしてきたが、あのキング・アーサー程『変な』体験はしたことがない。というか、意味不明すぎる。
あ、今気づいたけど、クエスト失敗で終わったのも初めてだったかも。
”私たちにも何が何だか……”
「ですわね……」
呼び出した張本人がわからないってのはどうなんだ、とは思うけど桃香を責められまい。魔法に関してはわからないことも多いし、何よりあの時は確かに《エクスカリバー》を呼び出したはずなのだ。キング・アーサー出現の直前に確かに剣が召喚されているのは私も見た。『全書』にも《エクスカリバー》が登録されており、キング・アーサーなんて載ってない。
考えられるのは《アングルボザ》の時のようなコントロール不能な暴走状態になったか、なんだけど……それともちょっと違うような気がする。
……敢えて言うなら、ホーリー・ベルが最後に使った《絶装》の方が近いんじゃないかと思う。もちろん、《絶装》に比べれば強烈なデメリットがあるわけでもない……あ、いや、クエスト失敗したからそれはデメリットとはいえるかもしれないけど。
「んー……」
ありすも考え込んではいるが、まぁ答えは流石にわかるまい。
「……わたしも実際に見てみないとわからない、かも」
「そうですわね、一度見てみるのが良いと思いますわ」
まぁそうだよね……見てみないと信じられないよね、こんな話。
でも。
”今日はダメだよ。また明日ね”
「……ちぇー」
こういうところはなぁなぁにするわけにはいかない。
不承不承ながらもありすも頷き、キング・アーサーの確認はまた明日以降ということにした。
また《エクスカリバー》を呼び出せばきっと呼んでもいないのに出てくることだろう。それでモンスターを倒されてクエスト失敗になるようであれば、残念ながら《エクスカリバー》は《アングルボザ》に続いて封印することになるだろう。幾ら強くても、結局クエストが失敗してしまうのでは何の意味もないしね。
ということで今日のところは解散し、明日に備えるのであった。
……だが、この時の私たちの考えが甘かったことを、次の日に思い知らされることになる……。




