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3-07. ヴィヴィアン特訓編 3. 理解不能、制御不能

2018/12/30 旧第2章分割に合わせ通番を修正

「ご主人様、一つ試してみたい召喚があるのですが、よろしいでしょうか?」


 ――うわぁ、何か嫌な予感がするぅ。

 アリスといいヴィヴィアンといい、こういう状況でよく新しいことを考えついて、しかもそれを試そうとするよなぁ……度胸があるというかなんというか。

 とはいえ、今回のクエストの主目的は『ヴィヴィアンの戦闘経験を積む』ことである。戦闘経験と一口に言っても、実際にモンスターと格闘するだけではない。新しい召喚魔法を思いついたのであれば、それを積極的に試して『使える』かどうかを判断したいところだ。

 ……まぁ、それが風竜大量発生という状況でなければ諸手を挙げて賛同するところなんだけど……うーん。


”……わかった。いいよ”


 ちょっとだけ悩んだが、やはりここはヴィヴィアンに任せることとした。

 もしこの状況を打破できない、それどころか言葉を選ばなければ『役に立たない』召喚獣であったらすぐにリコレクトすればいいし、仮に魔力が切れそうになったのならキャンディを使って回復すればいい。

 流石に風竜が想定以上に発生している状況だ。キャンディの制限なんてこの際考える必要はないだろう。

 私の許可を受け、ヴィヴィアンは頷くと風竜たちから距離を一旦取る。

 向こうもこちらには気づいている。今は少女がいた辺りでたむろって様子を窺っているようだが、数が揃ったところでこちらへと一斉に攻撃を仕掛けてくるだろう。

 何かあっても対応できる距離まで引いてから、ヴィヴィアンが『その召喚獣』を呼び出す。


「サモン――《エクスカリバー》!!」


 おお!?

 おそらく、日本でも最も有名な『聖剣』――アーサー王の持つ《エクスカリバー》か!

 なるほど、これは確かに『強い』召喚獣だろう。ヴィヴィアンの召喚獣は武器や道具を呼び出した場合、その本来の性能以上の力を発揮することがわかっている。例えば、実在した剣であれば本当ならばそれは『ただの剣』であることには違いない。多少切れ味が良かったりはするかもしれないが、実在の剣はあくまでただの剣に過ぎない。

 しかし、ヴィヴィアンの召喚獣で呼び出した場合は事情が異なる。それが実在しようが実在しまいが、伝説にある通りかそれ以上の超性能を発揮することが出来るのだ。《コロッサス》なんかがいい例だろう。あれも元ネタはコロッセウム前に配置されたただの石像だが、召喚獣として呼び出したら自律行動する巨人となっている。

 さて、呼び出されたのは――特に飾り気もない、シンプルな両刃の西洋剣だ。やや横幅が広く、刀身も長い。人間が――特に小柄なヴィヴィアンが振るうには少し無理のある大きさだ。まぁ魔法なのでその辺はどうとでもなるのだろうが。

 特徴的なのはその刀身だ。良く磨かれた、まるで鏡のように煌めく刃……そして、『聖剣』の持つ魔力があふれ出しているのだろうか、虹色の光が迸っている。

 ……これは期待できそうだ。ヴィヴィアン自身が振るってもよいし、アリスに持たせても強力な武器となりそうである。

 気になる魔力消費量だが……これは流石に酷いものだった。《イージスの楯》とかの最上級の召喚魔法と同じで、一回使ったらヴィヴィアンの魔力がほとんど空になってしまうくらいだ。ということは、やはり威力には期待できるものがある。


”……これで戦う気かい?”

「はい。ご主人様から伺った、姫様の『神装』――それに匹敵するようなものが作れないか考えました」


 それで出した結論が、知名度抜群の『聖剣』というわけか。

 うん、とりあえず試しに使ってみよう。


「それでは参りま――っ!?」


 出現した《エクスカリバー》を手に取ろうとした瞬間、《エクスカリバー》がバチバチと何やら火花を散らす。

 召喚獣同士が接触しようとする弾かれてしまうから《ペガサス》に触れてしまったか、と思ったが違う。

 何だ、何か起きようとしている……?


「!! ご主人様、失礼します!」

”えっ、ヴィヴィアン!?”


 と、ヴィヴィアンが私をきつく抱きしめて《ペガサス》から飛び降りる。

 次の瞬間、《エクスカリバー》の周囲に激しい光が渦巻き――逃げ遅れた《ペガサス》がそれに巻き込まれ消滅してしまう。


”ヴィヴィアン、キャンディ!”


 《エクスカリバー》を使った時点で魔力はほぼ空になってしまっている。《ペガサス》も失った以上このままだと地面に叩きつけられてしまう。

 ヴィヴィアンの口にキャンディを放り込んで回復させ、改めて《ペガサス》を呼び出して落下することは免れたが……。


”……何だ、あれ……?”


 私たちは更に驚くべきものを目にした。

 先程まで《エクスカリバー》のあった位置に、『何か』がいた。

 何と言うか……トランプのキングがそのまま具現化したような……王冠を被り、立派な髭を蓄えた巨人が空中に浮かんでいた。

 その手には、さっきヴィヴィアンが召喚した《エクスカリバー》が握られている。大きさは謎の巨人に合わせて更に大きくなっている。もはや人間の扱えるような武器ではない。


”えっと……ヴィヴィアン、あれは……?”

「さ、さぁ……」


 ヴィヴィアンにもわからないらしい。

 風竜たちも突然の闖入者? に戸惑っているのか、私たちを狙うべきか謎の巨人を狙うべきか迷っているように見える。


『キング……』


 ん? 今の誰の声だ?


『キング……アーサァァァァァァァァァァァァッ!!』


 ――謎の巨人だ!

 まるで雷鳴のような低く轟く叫びが大気を震わせる。

 謎の巨人――暫定『キング・アーサー』は叫ぶと共に携えた《エクスカリバー》を構える。

 その視線の先には風竜の群れがあった。


『《王剣無双(エクス)――』

「……ご主人様、度々失礼いたします!!」


 キング・アーサーが剣を構えた瞬間、太陽の光とも思える程の輝きが放たれる。

 その魔力は余りに膨大で、まるでアリスの『神装』のよう――いや、もしかしたらそれ以上かもしれない。

 咄嗟に危険を感じたヴィヴィアンが私を再び強く抱きしめ、今度は《ペガサス》を全力で走らせる。キング・アーサーから逃げるように……。


『――一刀斬破(カリバー)》ァァァァァァァァァァァァッ!!』


 ――そして、光の奔流が辺りを包み――




”……うわぁ……”


 (モンスターはいたけど)見た目はのどかだった平原が地獄絵図に変貌していた。

 風竜たちのいた場所を中心に大地は大きく抉れ、無残なクレーターとなっている。

 吹き飛ばされなかった地面も《エクスカリバー》の余波を受けて炎上、周辺の草へと燃え移り辺り一面が火炎地獄と化している。

 《エクスカリバー》の直撃を受けたであろう風竜たちは一匹残らず……死体すら残らず消滅している。


『キング・アーサー! である!!』


 その様子を空中から見下ろし、敵がいなくなったことを確認して満足したのか、そう言い残してキング・アーサーもまた姿を消していった……。

 な、なにがなんだかわからない……。


”今のは、一体……?”

「わたくしにもわかりません……呼び出したのは《エクスカリバー》であったはず……」


 そう言いながら『全知全能万能魔導書』――めんどくさい、略して『全書』を捲って内容を確認する。

 私も横からのぞき込んでみたが、そこには確かに《エクスカリバー》が登録されていた。もちろん、あんなキング・アーサーなどというふざけた存在は載っていない。


”リコレクト……したわけでもないんだよね?”

「はい。勝手に消えたようです」


 ヴィヴィアンのステータスを確認してみたが、《ペガサス》を最後に呼んだ時と同じ魔力量しかなかった。リコレクトしたのであれば魔力は最大限まで回復しているはずだし……本当に勝手に消えたとしか思えない。


”……見なかったことにしよう”

「……はい?」


 しばし呆然としていた私たちだったが、考えても何にもわからない。

 ここは見なかったことにしておくのが一番いい――と思う。いや、もう考えるが面倒だという理由ではなく。ほんとに。


”私たちは何も見なかった、いいね?”

「……はい」


 ヴィヴィアンも頷いてくれた。

 よし、これでこのクエストでは何も起こらなかった。

 ありすに報告する時も、それで押し通そう――風竜と共に現れたあの謎の少女のことは流石に言っておこうとは思うけど、こっちもこっちで考えてもさっぱりわからない存在なんだけど……。

 実に高度な『大人の判断』の元、とりあえず討伐対象となっていた風竜は倒したことだし私たちはゲートから帰還しようとする。

 ……そこで気づいた。


”……は? クエスト失敗!?”


 なんで!?




 とまぁ、本当に予測不能、その上理解不能な出来事の起こったクエストであった。

 ……この時の私たちは、この『キング・アーサー』がとんでもないことを巻き起こすのだとは気づいていなかった……。

 そして――あの謎の少女が、後にあの『大災害』を引き起こす元凶であろうとは、この時はまだ知る由もないのであった。


小野山です。

なぜ「キング・アーサー」なる珍妙なキャラを出そうとしたのか……コレガワカラナイ。

ともあれ次回よりキング・アーサー編となります。

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