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3-05. ヴィヴィアン特訓編 1. アリスのいないクエスト

2018/12/30 旧第2章分割に合わせ通番を修正

 ヴィヴィアンを『鍛える』ことを目的にクエストへと挑んだ私たちだが、やはりアリス抜きでは色々と無理がある。


”うーん……鍛えるって言っても、何をすればいいのやら……”


 思いとしてはヴィヴィアン一人でも戦えるようにするということなのが、これがなかなか難しい。

 なにせヴィヴィアンの主たる能力は『召喚』――言葉を選ばなければ『他力本願』な戦闘スタイルなのだ。一体何を鍛えればいいものやら、というところからまず悩む。

 召喚獣に頼らずヴィヴィアン自身で切り抜けられるようにするかと言うと、これは上手くいかない。前に述べた通り、ヴィヴィアンのステータスは極端な体力特化であり、その他のステータスは軒並み低い。流石にメガリスレベルに遅れを取るようなものではないけれど、召喚獣抜きでは火龍には勝てないくらいだ。まぁそもそもヴィヴィアンの霊装自体がアリスのような武器ではないのだから、攻撃手段自体が乏しいのだけれど。《火尖槍》みたいな武器型の召喚獣を呼んで戦うという手はもちろんある。


「……」


 ヴィヴィアンはヴィヴィアンで黙して語らない。

 ……主の後を一歩下がって控えるメイドをロールプレイしているらしい。うん、まぁそれはいいんだけど。


”……よし、それじゃ、こういうのはどうだろう”


 二つほどクエストをクリアした後、私は思いつきを口にする。

 このまま漫然とクエストに挑んで行ってもジェム稼ぎにしかならない。ありすの思惑自体はともかくとして、ヴィヴィアンが単独でも状況を切り抜けられるようになる、ということ自体は私も賛成なのだ。

 で、私が提案したのはちょっと難易度が高めのクエスト――とは言っても、召喚獣の力を借りれば大したことのない相手ばかりだ――に挑む。そして、そこで召喚獣の『切り分け』をしようというものである。

 召喚獣の切り分けと言っても今までの召喚獣を『仕分け』するわけではない。状況に合わせて召喚獣を上手く使い分けられるように、ちょっとだけ『制限』をかけてクエストに挑むのだ。


「かしこまりました、ご主人様」


 私の提案に表情一つ変えずにヴィヴィアンは深々と頭を下げる。

 ……主に忠実なメイドのロールプレイなんだろうけど、普段の桃香と差がありすぎて未だに慣れない。というか、私を『ご主人様』と呼んで必要以上に傅くのは、なんというか……なれない。

 でもまぁ、今となっては何となくヴィヴィアンがなぜこういうキャラなのかはわかるんだよね。多分だけど、桃香の中での『完璧なメイド』を表しているのだろう。ありすの中の『お姫様』がアリスであるように。まぁ、そのモデルとなっているのは……言わずもがなかな。


”よし、それじゃ行こう。時間的に次が最後のクエストかな?”


 簡単なクエストを二回ほどクリアしてはいるが、瞬殺というほど早く終わったわけではない。

 ありすとの約束は30分だし、次が大体いい時間だろう。クエストに挑むだけならもっと何度も行けるが、桃香自身の体はありすの部屋で横たわっているのだ。あまり長居させるのも考え物だろう。それに、あまりに時間が過ぎると、ありすの不満がたまって物凄いことになりそうだし……。

 というわけで、ヴィヴィアンの召喚獣切り替えに最適だろうと思われるクエストをチョイスしてみた。

 討伐対象となるモンスターは5体と多めだが、一匹ずつはそこまで強力なモンスターではない。

 ……アリスが戦ったことのない新型のモンスターであることは黙っておこう。新しいモンスターと戦った、と言ったらそれはそれでありすが不機嫌になりそうだしね。




 で、私たちがやってきたクエストの舞台は、一面に広がる草原のフィールドであった。


”……これは微妙に視界が悪いね……”


 障害物が色々と転がっているフィールドではないのだが、辺り一面が背の高い草が生い茂っているため『見えない』範囲が広いのが問題だ。

 大体1メートルくらいだろうか、大人だったら腰か胸付近まである草で覆われた緩やかな起伏のある草原だ。巨大モンスターはともかくとして、小型のモンスターが同時に出てきた場合に草に隠れて姿が見えず、予期せぬ不意打ちを食らう可能性がありうる。

 討伐対象のモンスターは中型~大型なので問題ないが、同時に出てくる雑魚モンスターが小型の可能性があるのだ。


「……サモン、《ペガサス》」


 どうするものか、と私はひとまず黙っていたのだが、ヴィヴィアンは《ペガサス》を呼び出しその上に乗って空中へと飛び上がる。

 うん、まぁそれがひとまず正解かな。

 ――今回のクエスト、私からは逐一指示を出さず、ヴィヴィアンに考えてもらいながら戦ってもらおうとしている。もちろん、リスポーンなんてしないように気を配りつつ、怪しい時は私が声をかけるようにはしているが、基本的にはヴィヴィアンに任せるつもりだ。

 クエストの攻略中なら私が声をかけることが出来るが、今回の目的である『ヴィヴィアンが一人で戦う状況』というのは私の声が届かない対戦である場合を想定している。なので、私からのアドバイスは極力しないようにしているのだ。


”大丈夫かい?”


 ヴィヴィアンの腕に抱かれ――アリスの時とは違い、ヴィヴィアンは私を両腕で抱いている――ながら、問いかける。

 表情からは特に読み取れないが、私を抱きかかえる腕が微かに震えているように思えるのは気のせいか。


「……問題ありません、ご主人様」


 相変わらず表情一つ変えずにヴィヴィアンは答える。

 大丈夫だろうか、無理してないだろうか? 私もアリスも、ヴィヴィアンが無理だと思うことはさせたくない。今も彼女を『鍛える』とは言っているものの、無理なことをさせるつもりは毛頭ない――やり方次第でヴィヴィアンが一人で戦うような状況を作らずに済むことだってあるはずなのだから。

 私の内心の葛藤を察しているのか、きゅっと強く私を抱きしめつつヴィヴィアンが微かに微笑む。


「貴方様と、そして姫様のために戦うこと――それが今のわたくしの全てでございます。

 ご主人様、わたくしに対して気遣いは無用でございます」


 ……そうは言っても、彼女は変身している今は頑丈な魔法少女かもしれないけど、本当の彼女はたった10歳の幼い少女なんだ。それに、ちょっと『甘え』癖のある、まだまだ子供なんだし……。

 悩む私にヴィヴィアンは続ける。


「……『戦わなければ救われない』――姫様はそう仰りました。そのお言葉でわたくしは確かに救われ、今こうしております。

 そして、今戦っているのはわたくし自身の意思でございます、ご主人様」


 そこで一旦言葉を切り、更に私を強く抱きしめて続ける。


「だから――わたくしを使ってください、ご主人様。わたくしは、貴方様と姫様のために……この『ゲーム』のクリアのために、戦いたいのです」


 ――私とありすの最終目的が『ゲーム』のクリアであることは話してある。

 ヴィヴィアンを勧誘する時の口説き文句に使った『クラウザーへと一撃を食らわすこと』など、結局はそのための過程である。桃香は『ゲーム』のクリアまで付き合う必要なんてないのだ。

 それでも彼女は、私たちと戦うと言ってくれる。これが誰かに強要されたものではない、彼女自身の意思だとして――『甘ったれ』だった彼女が自分の意思で過酷な『ゲーム』のクリアを共に目指してくれるのであれば、こんなにうれしいことはない。

 でも、一個だけ訂正しておかなきゃね。


”……ヴィヴィアン、私とアリスのためだけじゃない。これは、君自身の戦いだよ。だから私は――うん、君を『使う』んじゃない。君と一緒に、戦いたいと思ってる。……もちろん、アリスもね”


 私の言葉にわずかに眉を動かしたくらいだが、その次には泣き笑いのような複雑な表情を浮かべて頷く。


「はい……!」


 では、彼女自身の今後の戦いのためにも――そして私とアリスと一緒に戦い抜くためにも、ヴィヴィアンの強化に励むとしよう。

 さて今回の相手だが……。


「ご主人様、現れたようです」

”うん、レーダーにも現れた!”


 手頃なクエストと言ったが、その相手は新しいモンスターである。アリスは戦ったことのない相手だ。今回の前にクリアしたクエストでも出てきたモンスターだ。

 その名は『風竜』という。


”……今度は……あれ、『サメ』かなぁ? またちょっと違うタイプか……”


 《ペガサス》にまたがり空中に飛び上がった私たちを追うように、遠くから三つの影が現れる。

 それは、私の言葉通り『サメ』――海にいるあの『鮫』である――に近い姿をしたドラゴンだった。

 大きさは全長で5メートルほどはあろうか、人間なんて一呑みに出来そうなくらいの巨体。全体的なフォルムは鮫そのものなのだが、異なるのは腕と足が生えていることだ。『鮫人間』というにはほど遠く、手足の生えた鮫と言った風情だ。

 真っ白な鮫型風竜の巨体はその名の如く風の中を泳ぐように宙を漂っている。

 今日、この前に挑んだクエストでも風竜は現れたのだが、その時は魚っぽい見た目だったのだが……。


「……風の竜だというのに、『魚』なのはどういうことでしょう……?」

”うん、なんだろうね、一体”


 ヴィヴィアンも疑問に思ったらしいが、まぁ私たちに答えがわかるわけがない。そういうものだと納得するしかないだろう。

 ともあれ、目に見えてる風竜は三匹。更に見えない場所にいるのが二匹――それが討伐対象だ。

 草むらの中にいるであろう小型モンスターはとりあえず無視だ。ターゲットの風竜は空中にいるだろうし、《ペガサス》で飛び上がること自体は間違いではない。


「申し訳ありません、キャンディを頂きとうございます」

”うん、わかった”


 《ペガサス》の消費は大きい。請われるまま私はヴィヴィアンにキャンディを使う。

 ――彼女の能力からして、キャンディの消費が多くなってしまうのは仕方ないと割り切っている。事前にヴィヴィアンにも遠慮しないように言っているが、召喚獣を『リコレクト』で回収することが出来るとは言っても、キャンディはケチらないようにしている。

 適宜召喚獣を呼べるように判断力を養うというのが今回の目的ではあるが、だからと言ってキャンディの制限をするつもりはない。かといって無制限に使っていいともしない。今回のクエストでは召喚獣一匹を呼び出している間にヴィヴィアンの魔力が回復しきっている状態を限界とした。つまり、《ペガサス》等の強力な召喚獣を一匹呼び出した後に全回復するのは一回までならオーケーということだ。最大でも強力な召喚獣は二匹までという制限でクエストに挑んでもらうことになる。流石に召喚獣一匹のみというのは制限がきつすぎる。


「……ふむ」


 見える範囲の三匹、そして未だ姿の見えない二匹とその他雑魚モンスターについてどう対処すべきかをヴィヴィアンは考える。

 彼女は決して頭が悪いわけではない。本人が『諦めて』しまうという悪癖はあるものの、彼女の地頭は悪くはない――どころか、むしろ優秀な部類だとさえ思う。簡単に手助けしてしまっては意味がない。彼女の動き方に任せようと私は口を挟まない。

 もし私が作戦を口にするのであれば――ここは《フェニックス》を呼び出して三匹の風竜へと突撃させるかな。《フェニックス》以外でもいいけど、とにかく『炎』属性を持つ召喚獣を呼び出す。ゲーム的に考えれば『風』属性なら『土』属性で対抗するのであろうが、実際に風竜に効くのは『炎』属性なのである。空気(というか酸素)が燃えるからだろうか。とにかく、風竜は基本的に『炎』に弱い……というか炎が効く。

 さて、ヴィヴィアンはどう判断するか――


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