2-34. No way out 11. 魔獣聖母
2019/4/21 本文を微修正
アングルボザ――その名はアリスの神装の名づけに際して色々と調べた神話の中で見た覚えがある。
確か、元ネタは北欧神話だったはず。悪神ロキとの間に、フェンリル、ヨルムンガンド、そして冥界の女王ヘルという三匹の怪物を設けた女巨人の名だ。
「……使い魔殿、何か、あいつモンスターっぽくないか?」
”う、うん……確かに”
ヴィヴィアンの召喚魔法で呼び出された魔獣・英霊はどれもがポリゴンで作られたような、言わば『ロボット』のような見た目であった。
対して今目の前に現れている《アングルボザ》はそうではない。明らかに『肉』を持つ、アリスの言う通り一匹の『モンスター』のようである。
まさか、と思ってモンスター図鑑を開いてみると――最近気づいたのだが、モンスター図鑑は私がモンスターを見た時点で登録されるようだ。流石に弱点とか細かい情報は倒さないとわからないままだが――そこには新しいモンスターが登録されていた。
その名は《アングルボザ・ヘル》――詳しい解説は読めないままだが、どうも《アングルボザ》は生み出した三匹の魔獣に対応する形態をとることが出来るようだ。名前から察するに、今私たちと対峙しているのは冥界の女王ヘルなのだろう。言われて見れば、女性の体を模した部分があるし、フェンリルやヨルムンガンドとは全く思えない姿だ。
……インストールによって暴走したヴィヴィアンがモンスター図鑑に登録される、というのもよくわからない事態ではあるが……私たちのやること自体に変わりはない。
”とにかく、《アングルボザ》を倒そう。クラウザーもあいつの中に隠れているようだし、倒さなければ話は進まないみたいだ”
「ああ、当然。
……ヴィヴィアンがどう決断するかもまだ聞けていないしな!」
うん。ヴィヴィアンはいずれにしろ、どうするかを決断しなければならない。そのことをアリスは既に伝えている。
彼女がどんな決断をするのかはわからないが、とにもかくにも《アングルボザ》を倒して解放してあげなければならない。ついでに、クラウザーも引きずり出してやる必要がある。
ここから先はいつもの大型モンスター退治と同じだ。難しいことは考えず、全力で相手を倒す。
「ext《剛神力帯》!」
先程クラウザーの榴弾で破壊されてしまった右腕を、再度《剛神力帯》を使って再生させる。
「ふふん、使い魔殿がいるおかげで、キャンディについては考える必要がないってのはいいもんだ」
無限に回復することは出来ないが、それでも普通の対戦の時のようにたった5個しかキャンディがないという状況ではない。
”魔力切れには注意しないとだけどね。
まぁ、在庫には余裕があるから、ガンガン行こう!”
いつもならこんなことは言わないのだが、今は何か嫌な予感がする。
ヴィヴィアン――《アングルボザ》がモンスター図鑑に登録されていることもあるし、長引かせずに早めに決着をつけた方がよいと思うのだ。
私たちの態勢は整った。これから攻撃を開始しよう……とした時に、《アングルボザ》もまた同時に動き始める。
「……なんだ!?」
女体部分を取り囲む爛れた肉塊から、ぼたぼたと何かが垂れ落ちる――血液か、膿か。赤黒く濁ったそれが地面に落ちると同時に、私のレーダーにモンスター反応が現れる。
地面に落ちたそれが、人型へと変貌してゆく。
「小型モンスターか!」
《アングルボザ》が今は冥界の女王ヘルの形態をとっているということは、あれは……おそらく冥界で彷徨う死者であろうか。
無数の屍人が出現してしまった。
”……どれもモンスター反応ありだ。気を付けて!”
屍人もモンスターであるということは、アリスのギフト【殲滅者】の出番でもある。一匹一匹はおそらく小型モンスター扱いであろうが、数が多い。しかも、《アングルボザ》から血膿は絶え間なく垂れ流されている――かなりの強化が見込める。
まぁ屍人に構っている間に《アングルボザ》が何かをしてきたり、もしかしたら『手遅れ』になる可能性もある。屍人の相手はほどほどにしておくべきだろう。
アリスにそのことは言い含めておく。
「うむ、雑魚をいくら片づけても仕方ないからな。当然、全力で行くぜ!
cl《赤爆巨星》!!」
まずは挨拶代わりの《赤爆巨星》を放つ。
一撃の威力は《赤色巨星》よりは減っているものの、この魔法の特徴は着弾と同時に爆発し、周囲に爆風と火炎をまき散らすことだ。より広範囲攻撃に適した魔法と言える。
私の期待通り、爆風が屍人の群れを吹き飛ばす。
「……ん? 思った以上に弱いな、こいつら……」
次々と《アングルボザ》から生み出されているとは言え、あっさりと屍人の群れが蹴散らされていくことに怪訝な表情をするアリス。
思った以上に弱い、確かにそうだ。メガリスよりも弱いんじゃないかと思えるくらいだ。
もっとも、《アングルボザ》は絶え間なく屍人が生み出され続けている。いくら弱いとは言っても数で押し込まれると少々辛い。《赤爆巨星》もずっと連打し続けるわけにもいかない――《アングルボザ》本体へと攻撃を仕掛けつつ、ついでに屍人の数を減らしていく方がよいだろうか。
「ならばまとめて――cl《赤・巨神壊星群》!!」
先程編み出した新たな魔法を放つ。
無数の爆裂する巨星が《アングルボザ》、そして周囲の屍人の群れを吹き飛ばす。
――はずだった。
”イクイップメント――《アームズウェポン》、ラーンチ《カノン》!!”
《アングルボザ》の肉体を鋼鉄の装甲が覆い、更に四本の腕に装着された巨大砲台から光弾が発射される。
発射された光弾がアリスの魔法と激突し、空中で相殺してしまう。
”クラウザーの魔法か!?”
《アングルボザ》に飲み込まれたのかと思っていたが、どうやらクラウザーの意識が消えたわけではないようだ。
……なるほど、私たちをまとめて葬る、と言っていたのも伊達ではない。奴は制御不能な《アングルボザ》を本能のまま暴れ回らせるだけではなく、裏から魔法で強化をしていくつもりのようだ。
今のところ《アングルボザ》は屍人を生み出しているだけでさしたる攻撃力は持っていないように思える。けれど、クラウザーの魔法も合わせて使ってくるとなると、これはかなり厄介かもしれない。
「ははっ、なーに、心配はいらんぞ、使い魔殿」
《赤・巨神壊星群》を相殺されたというのに、アリスは全く気にしていないという風に笑う。
「さっきも言った通りだ。
苦し紛れに巨大化した悪党の末路なんて、決まり切っている」
いやいや、そうは言っても……。
「問題ない。あれがどんな化物であろうと――オレが勝つ!」
そう言って、アリスは不敵に笑った――




