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2-31. No way out 8. デスマッチ

◆  ◆  ◆  ◆  ◆




”くそっ、まさかこんなことになるとは……!!”


 七燿桃園の敷地内、人があまり立ち入ることのない林の内にクラウザーはいた。

 対戦が終了して現実世界に戻るなりクラウザーは吐き捨てる。

 正に完敗だ。誤魔化しようもないほどの完全敗北を喫してしまった。

 今回の対戦に当たって、クラウザーはヴィヴィアンに対して万全と思える対策を施した。

 昨日は丸一日クエストに費やしジェムを稼ぎ、ひたすらにステータスを上昇させた。尤も、ヴィヴィアンの魔法は召喚した魔獣が主体となるため本人のステータスの上昇はさほど重要ではない――体力、魔力の限界値の上昇はもちろん重要ではあるが。

 ステータスを上げた理由は、第三の魔法――切り札たる『インストール』のためだ。サモンで呼び出す魔獣や英霊を彼女自身の体へと乗り移らせ、あらゆる能力を何倍にも引き上げる魔法である。ただ、強力な反面負荷が高く、今のヴィヴィアンではコントロール不能の暴走状態に陥ってしまうのが欠点だ。事実、先程の対戦で《フェニックス》をインストールしたものの、ヴィヴィアンはそれを制御しきれていなかった――結局アリスの《竜殺大剣》の『不死殺し』というとんでもない隠し玉によって無意味に終わったが……。

 彼も『チート』を使ってアイテムを規定よりも多く使えるようにしたが、それも無意味に終わった。ヴィヴィアンがいかに魔法を使ったとしても、アリスの『神装』が常時発動している状態では意味をなさなかった。

 せめて、ダイレクトアタックありであれば――と悔やむが自分から対戦を挑んだ場合はその条件を付けることが出来ない。


”――チッ、ここまでか”


 このままでは勝てない。

 さっきの対戦によって所有ジェムは0、どころかマイナスに突入している。このままヴィヴィアンをユニットとし続けて『借金』を返したとしても、今後の戦いは勝ち抜けないだろう。

 見切りをつけるべき時だ。

 クラウザーは冷静に判断する。

 『負けたまま』というのは癪に障るが、勝てないユニットのまま固執してもこの場はともかく今後に差し障る。予定よりも早いが、()()()()へと移行すべきだろう。また、ダイレクトアタックについては早急に()()()()()しなければならない。

 ヴィヴィアンの魔法は稀少だ。切り捨てるには惜しい――が、本人が『使えない』以上はさっさと切り捨ててしまった方がよいだろう、とクラウザーは結論を出す。

 まずはこの場から離脱、次のユニットを見つけて『借金』を返すところから始めなければ……そう思い、行動を開始しようとした時だった。


”ようやく会えたね、クラウザー。はじめまして”

”な、に……!?”


 男なのか女なのかわからない、どこかとぼけたような口調の声――この場にいるはずのない声が聞こえてきた。


”てめぇ……っ!?”


 茂みから現れる、耳だけが異様に大きい異形の小動物――使い魔、ラビだ。

 本来ならばここにラビがいるはずがない。ラビのユニットは離れた家にいるはずだし、そこで一緒に対戦に入ったはず――いや、


”まさか……”


 ラビに続いてクラウザーへと近づく人物が一人。

 鷹月あやめだ。


”クソ共が……っ!!”


 ラビは対戦が終わってからここに来たのではない。最初からあやめと共にクラウザーの近くで対戦を始めたのだ。ありすは自室から対戦へと臨んだのだろう。

 クラウザーを挑発し対戦するように仕向け、そして敗北後に逃走される前に決着をつけようとしていたのだろう。


”対戦コマンド選択――対象(ターゲット):クラウザー”


 ラビがクラウザーの位置を把握、対戦依頼を投げつけてくる。

 イレギュラーであるがゆえに直接対戦をかけてくることはないという思い込みがあった。しかし、相手の近くにいれば対戦をすることが可能となる。

 クラウザーの視界の端に、対戦希望者が現れたことを示すアイコンが現れる。


”さて、どうする、クラウザー? 都合がつかないなら拒否してくれてもいいけど? 『今日はちょっとなぁ~』とか、思うなら、ね”


 ラビの言葉は挑発だ。そんなことはわかっている。

 わかってはいるが――


”てめぇ――”


 ここまで『舐められて』黙っていられる程、クラウザーは冷静ではなかった。

 それに何より、向こうから対戦を仕掛けてきたのは好都合だ。ダイレクトアタックが有効に出来る。それはラビも覚悟の上だろう――だが、()()()()()()()()ということまでは気づいていないだろう。


”いいだろう、後悔させてやる!”


 なぜ、クラウザーが『最強』と呼ばれるか。

 なぜ、クラウザーが『対戦特化』と称されるか。

 その意味をラビは知ることになるだろう――知った後、後悔しても遅い。

 ここから先は、プレイヤー同士の存在をかけた『デスマッチ』だ――!!




*  *  *  *  *




 私の立てた作戦はそう複雑なものではない。


『”……というわけで、私はあやめのところにいるから、ありすは真っすぐ家に帰って来たら、部屋で準備しててね”』

『ん……わかった……』


 まずはクラウザーからの対戦依頼が来るのを待つ。来たら対戦を受けて『勝つ』。ここが最初の関門だ。とにもかくにもアリスがヴィヴィアンに勝たなければ話にならない。

 そして対戦に勝った後が第二の関門――『運』が絡むところだ。

 続けて二回目の対戦を()()()クラウザーに対して挑まなければならない。ここでクラウザーが対戦を受けるかどうか――私個人としては70%くらいで受けるとは思っていたが、クラウザーが想定以上に冷静ならば『逃げる』こともありうる――これが『運』要素だ。

 なので、私は『運』の絡む要素を可能な限り少なくするために色々と策を弄した。

 一つは最初の対戦の結果、クラウザーが対戦を受けざるを得なくするために工夫をした。図らずも前回までの対戦で散々挑発したことも組み込んでいる。まず、制限時間を無制限にして『必ず決着がつく』ようにした。これは以前にも述べた通りで二回目の対戦のようにこちらが判定負けをしてしまわないための保険だ。本命は、負けたら破産確実の超高額BETである。ここで『借金』を負った場合、私から直接対戦を挑めばクラウザーが受ける確率は飛躍的に高まる――なにせ、その対戦でダイレクトアタックをありにして勝てば『借金』は帳消しになるのだから。万が一の判定負けを防ぐのは、こちらが『借金』を負わないためでもある。

 そしてもう一つは、私から対戦依頼をかける前にクラウザーに逃げられないようにするための策だ。こればかりは私一人ではどうにもできない。

 だから、あやめに『お願い』をした。

 あやめに頼んだのは二つ。ありすが――引いては桃香嬢が家に帰ってくるより前に、私を再度あやめの部屋へと連れて行ってもらい、あやめの部屋で対戦を開始すること。私の都合で一度家に帰らなければならなかったため、準備が出来次第あやめに迎えに来てもらう必要があったので携帯電話の番号を聞いておいた。

 もう一つあやめに頼んだのは、対戦が終了したと同時に私を連れてクラウザーの元へと向かってもらうことである。クラウザーの居場所を聞いていたとしても、私の足では逃げられる可能性が高い。場所もわかっているあやめに抱きかかえられて連れて行ってもらう方が圧倒的に早い。あやめにクラウザーの近くまで寄ってもらう必要があり危険もあったのだが……彼女は快諾してくれた。

 ……まぁ、一つ誤算だったのは、私はあやめの部屋で対戦を開始するつもりだった――対戦時間が無限になるので待っているあやめの負担にならないようにと思っていた――が、あやめはクラウザーに逃げられる可能性を減らすため、と私を抱いたまま外で待つことにしたということだ。おかげで対戦後すぐにクラウザーのところへとこられたのだけど、ケガをしている彼女に大きな負担を与えてしまった。


『”ありす、これが最後の対戦だよ!”』

『ん、今度こそ決着をつける……』


 そしてついに私たちはクラウザーと最後の対戦へと挑む。


”いいだろう、後悔させてやる!”


 私の対戦依頼をクラウザーが受ける。

 ……これが三つ目の、そして最後の関門だ。

 すなわち、ダイレクトアタックありの対戦で勝つこと――ここで勝てなければ何の意味もない。

 大詰めだ――ここで決着をつける!


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