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2-28. No way out 5. 手負いの獣

*  *  *  *  *




 後の戦いはほぼ一方的にアリスが攻め立てる展開となった。

 宣言通り、アリスは一切の手加減を加えず、ヴィヴィアンへと剣を振るい魔法を放つ。ヴィヴィアンは召喚をする暇もなく、防戦一方となっている。

 《竜殺大剣》を《イージスの楯》で受け止めても、楯の横から《剛神力帯》の拳が襲い掛かり殴り飛ばす。

 距離が離れようが詰められようが、更にアリスがマジックマテリアルをばらまき続け、次々に魔法を発動させて逃げる隙も召喚する隙も与えない。


「う、うぅ……!」


 もはや大勢は決した。このまま戦い続けても、ヴィヴィアンはアリスには勝てないだろう。


「cl《赤色巨星(アンタレス)》、ab《爆弾(ボム)》――ext《赤爆巨星(ベテルギウス)》!!」


 少し距離が離れたヴィヴィアンへと向けての極大魔法――ヴィヴィアンは《イージスの楯》で受け止めるしかない。

 しかし、これはいつもの《赤色巨星》とは異なる。《イージスの楯》に着弾すると同時に、その場で大爆発を巻き起こす。


「――っ」


 如何に《イージスの楯》が頑丈であらゆる攻撃を防ぐと言っても、それはあくまで楯で防いだ部分だけの話だ。

 《赤爆巨星》の爆発は楯の周囲――地面毎巻き込んでヴィヴィアンを吹き飛ばす。

 悲鳴すら上げることなく……いや、悲鳴は爆発音にかき消されてしまっているのだろう、なすすべなくヴィヴィアンが吹き飛ばされ、それをアリスが追う。


「サモン――」

「遅いっ!!」


 召喚しようとしたヴィヴィアンへと向けて《竜殺大剣》を振り下ろす。

 そして、ついにその刃がヴィヴィアンへと届き――彼女の左腕を切り飛ばす!


「ぐぅぅぅぅっ!!

 ……《ペルセウス》!!!」


 半ば悲鳴のような声で《ペルセウス》を召喚する。本人は着地すらできず地面へと落下、叩きつけられてしまう。

 召喚された《ペルセウス》は空中を飛びまわり、アリスへと切りかかる。そのおかげでアリスは地上のヴィヴィアンへと追撃することは出来なかった。


「ちっ、邪魔なやつだ……!」


 正面から切りあうとなると《ペルセウス》はかなり手ごわい。彼の持つ楯――女神アテナから賜った鏡の楯は『神装』の攻撃すら防ぐし、手にした剣もまた頑丈。本人の剣術もあって《竜殺大剣》《剛神力帯》の三か所同時の攻撃を巧みに捌く。

 一方、地上へと落ちたヴィヴィアンはキャンディで魔力を回復し、


「さ、サモン……《ナイチンゲール》!」


 更に新しい召喚を行う。

 呼び出したのは《ペルセウス》と同じく人型――《ペルセウス》に比べたら小型の、桃色の結晶で形作られたものだ。頭にはナース帽のようなデザインの帽子が、そして右手には巨大な注射器を持っている。

 ……《ナイチンゲール》は流石に私も知っている。看護師の祖に当たる人だっけ。そんな人まで召喚出来るのか……というか、こっちの世界にもいたんだ……。

 呼び出された《ナイチンゲール》は切り飛ばされたヴィヴィアンの左腕を手に取ると、それを切断面に当て――なんとその場で縫合を開始する!

 いやいや、絶対おまえ《ナイチンゲール》じゃないだろ! と突っ込みたくなるが……魔法に対して言っても仕方ないことか。

 わずか数秒でヴィヴィアンの左腕が元通りになる。体力ゲージはきっと回復していないのだろう、今までのアリスから受けたダメージを回復するためにグミを口に入れる。


「cl《赤爆巨星》!!」


 と、上空で《ペルセウス》と戦っていたアリスが、《ペルセウス》を巻き込むように眼下のヴィヴィアンへと向けて再度《赤爆巨星》を放つ。


「ひっ……!?」


 既に《イージスの楯》は離れた位置に転がっている。

 回避すらできずに、折角回復したばかりなのにヴィヴィアンは《赤爆巨星》の直撃を受ける……。

 巻き込まれた《ペルセウス》と《ナイチンゲール》も、流石にアリスの極大魔法を受けては無事では済まない。《ペルセウス》にしても楯でガードできるのはせいぜいが武器攻撃くらいだ。両者とも跡形もなく吹き飛ばされてしまった。


「……おや、まだ生きていたか」


 爆発によって巻き上がる土煙のせいで視界が良くない。

 ヴィヴィアンの位置を見失ったアリスだったが、焦ることなく《竜殺大剣》を一閃、煙を吹き散らす。

 そして煙の向こうで地面に仰向けに倒れているヴィヴィアンを発見する。

 ――先程も《赤色巨星》の直撃を受けて生きていたし、《赤爆巨星》一発では体力を削り切ることが出来ないであろうことは予測済みだ。呆れるくらいの頑丈さであることは間違いないが。

 ただ、メイド服を模した『霊装』はボロボロになっており、本人の体もあちこちに火傷を負っているのがわかる。再度《ペルセウス》、そして《ナイチンゲール》を失ったことでキャンディも残り一個しかない。

 もう彼女は『詰ん』でいる。体力回復のグミはともかく、魔力の回復が出来なくなった時点で負けが確定だ。

 ……ヴィヴィアンにもっと消費が少なく使いやすい魔法があればそれでも逆転の目はないことはないが、強力な反面消費の高い召喚魔法では魔力の残量が中途半端に残っていたとしてもどうにもならないだろう。アリスやホーリー・ベルのような魔法ならば、魔力の残量が少なくてもそれなりに立ち回れるのだが……。


”……クソがっ!”


 クラウザーも私同様、状況は把握しているはずだ。彼の脳裏には今『敗北』の二文字が迫っていることだろう。

 ここでヴィヴィアンを倒せば対戦は終了だが……なぜかアリスはそこで追撃を仕掛けない。剣を持ったまま、ゆっくりと倒れたヴィヴィアンへと向けて歩み寄ってゆく。

 まさか余裕ぶっているわけではないとは思うが、何を考えているのかわからない――けど、やっぱり口は出さない。アリスを信じる。


”ヴィヴィアン! まだ終わってねぇぞ!”


 意外なことにクラウザーがヴィヴィアンを叱咤する。まぁ、ダイレクトアタックなしの状況では声をかけるしか出来ないし、戦意を失いかけているであろう自分のユニットに声をかけるのは普通と言えば普通だろうが……。

 ……が、私のクラウザーに対する認識が誤っていないことはすぐにわかった。


”とっとと魔力を回復しろ! てめぇ、負けたらどうなるかわかってるんだろうな!?”


 そう言いながらクラウザーの尻尾が動く。

 ……あの動き、まさか……!?

 私からは見えないが、まるで空中にある見えないボタンを押しているように思える。

 何だ、何をしている……!?


「う、くぅ……」


 呻きながらヴィヴィアンが起き上がり、そして最後のキャンディを口に入れる。

 アリスはその様子を止めもせず見つつ、ある程度の距離を取ってその場で止まる。


「サモン……《ヒュドラ》!」


 そしてヴィヴィアンが最後の魔力を使って呼び出したのは魔獣――九つの首を持つ巨大なヒュドラだった。

 大きさは《コロッサス》よりも大きい。加えて首が九つもある。攻撃範囲も攻撃力もおそらく彼女の持つ召喚魔法の中では最大級のものであろう。

 そんな《ヒュドラ》を見ても、アリスは詰まらなそうな表情をするのみだ。

 ……まぁ、そりゃそうだ。幾ら巨大な魔獣を呼び出したとしても、もはやどうにもならない。《巨星》系の魔法の直撃を受ければ流石に壊せるし、そうでなくても今使っている『神装』で十分対処可能だ。

 何よりもこの《ヒュドラ》でヴィヴィアンの魔力は打ち止めである。転がったままの《イージスの楯》をリコレクトしたとしても、もはや後一種類しか召喚することができないのだから。

 だが、ここでヴィヴィアンが予想外の行動をとる。


「負けるのは嫌、負けるのは嫌……」


 恐怖で見開かれた目――恐れの対象はクラウザーか、それともアリスか……おそらく両方だろう――でぶつぶつと呟いていたヴィヴィアンが、6()()()()()()()()()を口に入れる!

 そして、彼女が新たな魔法を使う。


()()()()()()――《フェニックス》!!」


 魔法を発動させた瞬間、ヴィヴィアンの体が『変化』する。

 全身を赤い炎が包み込み、背中からは同じく炎で作られた翼が現れる。

 《フェニックス》――炎に包まれた『不死鳥』の召喚……!? いや、違う。彼女は『サモン』ではなく『インストール』と唱えた。それはつまり……。


「へぇ、それがお前の最後の魔法か。自分自身に対して魔獣を召喚――いや、憑依させた、ってことか」


 『憑依召喚魔法(インストール)』――それがヴィヴィアンの第三の魔法か! 自分自身にサモンで呼び出す魔獣や英霊を乗り移らせ、その力と融合する魔法だ。

 ……いや、それ以前に!


”何でキャンディがまだ使えるんだ!?”


 そちらの方が問題だ。

 私は戦闘中、口出しはしないかわりにクラウザーとヴィヴィアンの様子を常に見張っていた。

 ヴィヴィアンは既に5つのキャンディを使い切ったはずだ。カウントを間違えた……? いや、そんなことはないはず!

 ……と、そこで気づいた。さっきクラウザーが取っていた謎の行動……あれはまさか……。


”……『チート』か……っ!”


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