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2-21. 決戦前 1. 七耀桃園にて

 アリスとジェーン――いや、ありすと美藤嬢との間で何があったのかはわからない。

 けど、今回の件、すなわち桃香嬢のことについてお互いに何か思うところがあったのは間違いないだろう。

 『責任』がどうとか言っていたが……一体何についての『責任』なのか。




 結局、対戦はアリスの勝利に終わった。しかも、割と圧倒的な差で。

 ジェーンが弱いというわけではないとは思うが、お互いに最初から全力で魔法をぶつけ合った結果――反則に近いレベルのアリスの『神装(プロヴィデンスギア)』がジェーンを打ち破ったのだ。

 《アルゴス》を通じて見てはいたはずだが、ヴィヴィアンとの対戦では《イージスの楯》によって防がれていたため本当の破壊力を見るのは初めてであったろう。


「あ、あわわわ……」

”うっそだろ、おい……」


 平原ステージの大地を吹き飛ばし地形すら変え、戦闘音に引かれて迂闊に近づいてきたモンスター諸共まとめて一掃した『神装』の威力に、シャロもトンコツも唖然としている。シャロに至っては唖然とするどころか完全に震えあがっている。

 ジェーンは跡形もなく消滅している。対戦なのでリスポーンはかからないはずだが……。


「ふぅ……」


 『神装』を撃つ前にキャンディで回復していたため、ギリギリ魔力が残っている状態での勝利だ。アリスの変身は解けていない――まぁ既に正体が知られているわけだから、今更見られたところで問題ないわけだが。

 アリスの一撃でクエストの討伐対象も倒してしまっていたようだ。いつでも帰還できるが……。


「使い魔殿、戻ろう」

”あ、うん。

 ……ジェーンは大丈夫……?”


 恐る恐るトンコツに聞いてみると、


”お、おう……復帰はさせられるが、まぁもうクエストもクリアしちまったしな……”


 とりあえず無事らしい。

 ちなみに乱入対戦が始まった場合、ユニットは倒されても即時復帰が可能らしい。その他の細かい設定は通常対戦と同じである。ただし、モンスターの攻撃も一緒にやってくるので、モンスターに倒された場合はリスポーンになってしまうようだ。

 乱入対戦はモンスターとの戦いも含まれている。迂闊にはしない方がいいかもしれないな……ただ、BETがされないため勝者側に一律で投入したユニット数掛ける10000ジェムもらえるというのは美味しいけど。敗者側はジェムの支払い以外ペナルティはないが、モンスターが残っている状態で対戦に負けたらプレイヤーが危険に晒される確率が増すのは間違いない。更にダイレクトアタック有りなのだから、乱入対戦の危険度はかなり高いと言える。

 ちなみに、今回の対戦だとまだシャルロットが残っているため対戦は終了していない。ここで決着をつけるためにアリスが攻撃するのもシャルロットに可哀想なのでどうするのかと思ったら、トンコツは『降参(リザイン)』を選択して対戦を終了させてくれた。そういう機能もあるんだ。


”えーっと、それじゃ……”


 何と声をかければいいのやら。

 ジェーンの正体を知られるわ、10000ジェムも私に取られるわ……トンコツ的には踏んだり蹴ったりとしかいいようのないクエストだったろう。

 呆然としている二人に一応挨拶をしてから、私たちはゲートから帰ることとした……。




*  *  *  *  *




 その後はいつも通りクエストに挑んでジェムを稼いだりしていたものの、クラウザーからの対戦依頼はやってこなかった。

 彼の性格からして毎日挑んでくるんじゃないかと思っていたんだけど……。


「今日、サクラはお休み……」


 クエストの合間に気になったので聞いてみたら、どうも桃香嬢は学校に来ていなかったらしい。

 病欠ということにはなっていたそうだが、心配ではある。


”……それで、結局ジェーンとの戦いは何だったの?”


 本当はトンコツたちと別れたすぐ後に聞きたかったのだが、ありすが『後で話す』と言っていたので保留にしていた。

 今はもう20時を過ぎている。もうそろそろ寝る時間だ。ありすが寝る前に聞いておきたい。


「ん……」


 ありすはちょっとだけ困ったように眉を寄せて考え込む。

 やがて彼女の口から、今回の件の大本――ありす曰く『事態をややこしくした原因』となる、桃香嬢について語られる――




*  *  *  *  *




 翌日、金曜日。

 今日もありすは普段通り学校へと行く。

 出がけに美藤嬢と会い辛くない? と尋ねたが、『何で?』と言わんばかりに首を傾げるだけだった。まぁありすより美藤嬢の方がどっちかというと心配ではあるんだけど。


”さて……行くか”


 今日の私は考えるのは止めた。というより、考えることはもう余り残っていない。

 昨日考えた通り、まずはクラウザーの居場所を突き止めることを優先することとしたのだ。

 桃香嬢の家については場所をしっかりと聞いてある。にわかには信じられない家だったんだけど、『……見ればわかる』と意味深にありすが言っていたので、まぁ実際に見てみた方が早いだろう。

 仮にクラウザーに見つかったとしても、とりあえず現実世界であれば問題はないだろう。その場で対戦を吹っかけられる可能性もあるが、私が受けなければそれで済む話だ。

 ……尤も、ありすの話を信じるとして、私がクラウザーに見つかるどころか、私がクラウザーを見つけること自体がちょっと難しい感じもするんだけど……。

 ともかく、学校から帰ってくるまでは調査フェイズだ。私は恋墨家から出て、聞いた通り桜家――『七燿桃園』の家へと向かう……。




 ――『七燿桃園』。

 それは一体何なのか?

 昨日ありすから話を聞いた後、調査に出る前にインターネットでも調べてみた。

 結論から言うと……ありすの住むこの世界、私の前世でいう日本に当たるこの国には、『七燿』族という特殊な人間たちが存在している。前世で言うと……皇族が近いかもしれないが、この七燿族はもっと一般に近い位置にいるようだ。具体的には、この国を牛耳っている一族と言える。『特権階級』と言い換えてもいいかもしれない。更には政治家だったり大企業を支配していたり……とにかく影響力が強い一族のようだ。

 その名の通り七燿族は七つの家に分かれている。そのうちの一つが、桃香嬢の『七燿桃園』だという。更に七つに分かれた上で、普通の家と同じように別れているのだとか。彼女の名前は『桜』桃香となっているが、より正しくは『七燿桃園』の分派である『桜』家の娘であるということだ。

 『桜』家は七燿桃園の中でも本家に最も近い家柄の一つであるという。お嬢様っぽいとは思っていたが、本当にお嬢様であるようだ。いや、むしろ『お姫様』だろうか。

 この七燿族、日本にあたるこの国を文字通り七分割して支配しているという。まぁ支配と言っても昔のように年貢を取り立てたりとかは流石にしていないみたいだけど、実際に昔はそうだったらしい。その名残で、この国は大きく七つの地域にわかれているのだとか。

 ありすが住む地方は『七燿桃園』の領域であるという。七燿桃園の領域は、現代日本で言うと東京の東側、千葉、茨城、埼玉、栃木、群馬辺りのようだ。東~北関東辺りに当たるのかな? ちょっと私は地理に自信ないんだけど――今まで気にしてなかったけど、住所表記も日本なら都道府県・市町村といった風に続くが、この国だと七燿領域・地区名となるようだ。ありすの家だと……『桃園 桃園台地区』になるのかな? 地区名の前にもう少し大きめの分類があるんじゃないかとは思うけど、そこまではわからなかった。もうちょっと調べたらわかるだろうけど、それは今は必要ない情報だ。

 七耀族の由来についてははっきりとしていない。天から降りてきた神の国からやってきたものたちの末裔である、とこの国の創造神話には記載されている。神話はともかく現実としてのルーツも諸説ある。古代で有力だった七つの豪族だとか、古の支配者が七つに分かれたとか、大陸からの渡来人たちの末裔だとか……とんでも系なら『宇宙人』だとか、七耀の人間は普通の人間とは違った『異能力』としかいいようのないものを持っており、それを使ってこの国を支配しているとか……。

 はっきりとしていることは、七耀族の影響は今もなおこの国に根差しており、無視することは出来ないということだ。流石に『異能力』だと宇宙人だのはないとは思うけど、異世界だしなぁ……それに私たちが巻き込まれている謎の『ゲーム』もあることだし、絶対にありえないとは思えないのが何ともまた……。

 ともかく、桃香嬢の家はこの『七燿桃園』の一派であり、かつ本家にかなり近い家であるということ――そして、私たちのいる『桃園台』という地名の通り、この辺りは『七燿桃園』のいわば『おひざ元』であるということだ。

 そんなところに住んでいる桜一族の家は、果たしてどのくらいの豪邸なのだろうか……。


”……嘘でしょ?”


 呆然と私は呟いた。

 ありすの通う桃園台南小から東の方へ向かって徒歩五分。私の足だと十分以上かかるけど……。そこに大きな『壁』があった。

 その壁は延々とどこまでも続いているように見える。少なくとも、学校よりも更に大きい敷地を持っているようだ。

 意を決して壁を乗り越えて入り込むと、そこから更に信じがたい光景が広がっていた。


”…………嘘、でしょ?”


 思わずまた呟いてしまう。とにかくそれくらい、『ありえない』光景が広がっているのだ。

 ――壁の向こうには、『街』があった。

 道路があり、信号があり、広場があり、幾つもの建物があり――そこに様々な人がいた。

 事前にありすから話を聞いていなかったら、そこが『家』であることに気付かなかったかもしれない。

 壁がどこまで広がっているのかわからない。とにかく、圧倒的な広さだ。比喩ではなく、本当に一つの街がそこにはあった。


”なるほど……これは、クラウザーを隠せるわけだ……”


 大きく開けた広場や、小さな森のようなものまである。あの巨体を隠す場所は幾らでもありそうだ。

 ……あれ? 私の目の錯覚かな、線路のようなものも見えるんだが……。

 ありすの話によれば桃香の住む家だけではなく、他の分家も住んでいたり、各家の使用人の住居もこの中に含まれているらしい。また、病院や商店、果てはガソリンスタンドまであるらしく……この敷地内には学校や警察等公的機関以外の大抵ものがあるということだ。本当に冗談抜きで一つの街である。

 なお、私は壁を勝手に乗り越えて敷地内に入り込んだが、普通はそんなことは出来ない。壁のどこかにはちゃんと何か所か門があり――守衛さんが24時間いるらしいけど――通行はチェックされているとのことだ。ありすたちクラスメートなら入ることも出来るだろうが……そうおいそれと入るには憚られる。まぁ、聞いたところだと、敷地内には体育館や運動場もあり、そこで地域のスポーツクラブ等も活動しているらしいので私が思うよりは解放されているのかもしれない。

 私は、この広大な敷地のどこかに潜むクラウザーを探すのだ。

 ……うーん、果たして見つけられるだろうか……不安になってくる広さだ。

 ぼやいても仕方ない。とにかくやれることはやろう。

 意を決して壁の中へと入り、私はクラウザーを捜索することにする。

 まず向かうのは、桃香嬢の住む家だ。敷地内がいかに広いとはいえ、桃香嬢とそう遠く離れた位置に隠れるとは考えにくい。クラウザーとしても監視しやすいように比較的近い場所にいたがると思う。

 桃香嬢の家は割とすぐにわかった。壁の中の敷地内に、更に壁に覆われた豪邸が見える。ご丁寧に表札まで掲げられている――『桜』の名を持つ家が複数ある可能性もある、とりあえず全部探すしかないか。


「……あ」

”……え?”


 外から家の様子を窺っていた時、誰かが私に気付いた。

 ……振り返るとそこには見覚えのある少女――確か、桃香嬢の御付きの……鷹月あやめ、だったっけ――がいた。


”に、にゃーん……?”


 とりあえず私は猫の真似をしてごまかそうとした。勝率今のところ0パーセントだけど!


「……あなたは、もしかして今お嬢と戦っている子の使い魔(ユーザー)……?」


 ダメでした。

 そして、予想外の言葉が彼女から飛び出てきた……。


小野山です。

ヴィヴィアン編も今回から最終決戦編が始まります。

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