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2-20. アリスとヴィヴィアン 15. 責任の所在

”対戦を始めるには二つ方法がある。マイルームの機能で対戦相手の検索が出来るから、そこから対戦相手を選んで依頼を投げる方法。ただし、こちらはランダムで対戦者リストが変わるため、狙った相手と必ず戦えるわけではない。

 ……お前さんがクラウザーにいきなり対戦吹っかけられたのは、運が悪かったとしか言いようがないな”


 ポジティブに考えれば、逆に運がいいともいえるかもだけど。まぁそれはいいや。


”もう一つが、他のプレイヤーに接近して直接対戦コマンドを入力する方法だ”

”そのもう一つの方が、昨日トンコツが私に対してやった方法?”

”ああ。付近に別のプレイヤーがいる時に『対戦可能』を示すアイコンが出てくる。あとは画面の指示に従っていけばいい。クエストでの乱入でも同じことが出来るが、こっちが出来るのはCOOP可能なクエストに参加してからでなければならないな”


 私の方から対戦する方法はわかった。けど……結構ハードル高いな、やっぱり。どうしてもクラウザー本人の近くに行かなければならないみたいだ。

 ふと気付いたが、この方法で私と昨日対戦したということは……トンコツ自身、クラウザーのような大型動物の姿ではなく、私やジュジュのような小動物の姿をしているのかもしれない。あと、昨日の対戦相手がジェーンではなくシャロだったことから、シャロも意外と近所に住んでいる――具体的には同じ小学校の生徒である可能性が非常に高い。

 ま、シャロの正体は今はどうでもいい。知ったところで、私はどうこうする気もないし。というよりも、前回の場合はむしろジェーン(暫定美藤嬢)の方のがあり得るか。

 ジェーン(暫定美藤嬢)がトンコツを持って恋墨家近くまで移動――同じクラスだし、住所録とかもあるだろう――して、そこで対戦開始。ジェーンが対戦相手になるとその場で意識を失って倒れてしまうので、離れたところにいるシャロの方が来た、ということなのかな。

 ……トンコツの弱みを握れば更に情報を引き出せるかも、という黒い考えもないわけではないが。彼とはそれなりに上手くやっていけそうな予感もしてきたし、シャロのことは偶然でもない限りは探ることはしない。美藤嬢は……まぁ、うん……。アリスとお相子ということで。


”お前さんがクラウザーと戦うのであれば、やつが対戦を挑んできた時にダイレクトアタックを解禁するしかないだろう。

 ……お前さんの方からクラウザーに対戦依頼をかけられるのであれば話は早かったんだが……”

”それは、クラウザーは確実に自分が挑まれた場合はダイレクトアタックを『可』で設定するから、ということ?”

”そうだ。やつがそれを狙わない理由がない”


 ……うーん……。


”気になってるんだけど、他のプレイヤーを倒したい、となった時に、この対戦モードって使いづらくない?”


 疑問に思っていることを直球で尋ねる。

 この『対戦でダイレクトアタックを可にする』というやり方、ものすごく効率が良くないと思う。なにせ、挑まれた側が条件を決められるのだから、ダイレクトアタックを拒否してしまえばそれで終わりなのだから。

 それ以前の問題として、対戦を『拒否』されたらどうしようもない。

 私の疑問について、少し考え込んだ後、トンコツが答える。その答えは意外なものだった。


”それは――他のプレイヤーの排除は、別にこの『ゲーム』の勝利条件()()()()からだ”

”……そうなの?”


 意外だった。

 てっきり自分以外のプレイヤーを蹴落としていく、言葉を選ばなければ『デスゲーム』的なものなのかと思っていたんだけど……いや、それならそもそもフレンド機能を実装したりしないし、最初から対戦モードのみにしていたか?


”まぁ、確かに他のプレイヤーが減ればその分だけ最終的な勝者となる確率が上がる。極端な話、自分以外の全てのプレイヤーがいなくなれば、その時点で自動的に勝利は約束されたようなものだ。

 だが、勝利にとって必須ではない。逆に極端な話をすれば、全プレイヤーが生き残っているままでも、最終的な勝利者となれる可能性はある”

”その勝利条件っていうのは――”

”それは言えない”

”ですよねー”


 そんなことだとは思った。

 ううん……しかし、余計わからなくなってきたぞ……。何をもって『勝利』と言えるのかわからないのもそうだし、ますますこの『ゲーム』が何だかわからなくなってきた。

 一つはっきりしたことは、


”まぁとにかく……クラウザーは、自分以外のプレイヤーを対戦で排除して、その『勝利』とやらを得ようとしている……だから、危険だしさっさと倒したい、と。トンコツはそう思っているわけだ”

”……あぁ”


 そして、それが出来るだけの実力、もしくは『何か』がある、と。

 確かに競争相手が全ていなくなれば自動的に勝てる。それは道理だ。戦法としては間違っていないとは思う。

 ……まぁ、結局のところ、この『ゲーム』の最終目的が不明なので他のプレイヤーを排除する以外の勝利条件がわからないままなんだけど……それは答えられないって言うしなぁ。

 この件については棚上げだな……多分、私たち自身でいずれ辿り着かないとならないことだろう。




 その後、他の対戦モードについての説明も受けた。こちらについては、まぁ機会があれば改めて語ろうと思う。

 他にも対戦における設定項目について疑問に思ったことを聞いた――こちらの方は思った以上の収穫があった。私の脳裏にクラウザーを追い詰めるための作戦のひな型が思い浮かんできたが……詳細は後で考えることとする。

 後はクラウザーについての話も聞いたが、余り得るものはなかった。『対戦特化』と言われるだけあって本人の戦闘力が高めなのはわかっているらしいが、じゃあ具体的にどんな能力を持っているのかまでは流石にトンコツも知らないらしい。

 ……何となく、前評判だけが独り歩きしてしまっている感も否めない。

 ただ、もしかしたら『チート』を使う可能性がある、ということだけは頭の隅にとどめておく。


”こんなところか?”


 それなりの時間話し込んでしまっていた。

 幸い、《アルゴス》で監視していたモンスターがこちらへとやってくることはなく、邪魔されることなく話は出来た。

 聞いておきたいこととかは他にもいっぱいあるんだけど、きっと大半は『答えられない』になるだろう。


”そうだね。対戦については結構聞けたし”


 クラウザーを倒す方法は、やはり対戦でのダイレクトアタックを狙うしかない。

 ただ、ダイレクトアタックを可にしてしまうと、クラウザー自身も対戦に介入できるようになってしまう。そうすると色々と苦戦する要素も出てくるだろう――特に警戒すべきはクラウザーが『チート』を使ってくるかどうか、という点だ。

 とはいっても、クラウザーを倒すのであれば『今』が最適なのも間違いない。ヴィヴィアンしかユニットがいない状態で、かつそのヴィヴィアンならばアリスがどうにか出来る『今』が好機と言える。


「話は終わりか?

 よし、それじゃ――」


 クエスト討伐対象を狩って、解散しようか――


「ジェーン、やるぞ」


 が、アリスは『(ザ・ロッド)』の先端をジェーンへと向ける。

 え、何してんの?


「……本当にやんなきゃダメ?」


 言いつつもジェーンも自らの霊装――真っ白い巨大な『ブーメラン』だ――を呼び出し手に取る。


”おい、お前ら!? 何だ、話が違うぞ?”

”いや、私にも何がなんだか……ちょっとアリス、ジェーン!?”


 情報提供の見返りに敵対しない、と言った傍からこれって拙いんじゃないの!?

 そういえば、話し合いの開始前にアリスとジェーンの二人で何かありそうな雰囲気だったけど、まさかこうなるなんて思わなかった……。


「使い魔殿、悪いがこればっかりは譲れない。

 言ったはずだぞ、ジェーン。()()()()()と」

「……うー……」

「もちろん、オレにも責任がないとは言わない。だから、まずはオレたちで白黒はっきりつける。

 安心しろ。ここできっちりオレが勝って、貴様の分の責任もオレが背負ってやる」


 アリスの言葉に、ふぅ、とため息をつくジェーン。

 そして岩から降りて霊装を構える。


「……わかった。わかったけど――流石にアタシが負けること前提で話されるのは、腹立つんですけど!?」

「ふふん。そう思うなら全力で来い。もちろん、オレも全力で行くが」


 二人の間で事前にどんな話がされていたのかはわからない。

 が、私とトンコツの間でどんな話がされようとも、最初から二人はここで戦うつもりだったみたいだ。


「使い魔殿、ちょうどいい。練習がてら、トンコツに対戦依頼をしてくれ」

「師匠、悪いけど、乱入対戦開始してもらっていーい? あ、ダイレクトアタックはお互いしないから」


 クエスト中の乱入対戦を行うと、こちらは自動的にダイレクトアタックが可になってしまう。

 なのでお互いに使い魔は狙わないという取り決めで対戦をするつもりなのだろう。私とトンコツにとっては割と致命的なことについての口約束なんだけど……まぁ何となくアリスとジェーンなら大丈夫な気はする。


「あ、あのぅ……? 私は……?」


 全く話を聞かされていないのであろうシャロはおろおろとしっぱなしだ。


「あー、シャロは……念のため師匠を守っておいて。シャロが守っているなら安心でしょ、師匠?」

”……本っ当、勝手に動くやつだな、お前は!?”


 トンコツも怒っているようだが、最後にはため息をついて、


”……仕方ない。ここでお前らにへそまげられても困るからな……。

 いいだろう、乱入対戦を受ける。で、お互いにプレイヤーは狙わない、シャロは参加しない。いいな!?”


 二人のわがままを受け入れたようだ。


「ありがとう、師匠!」

「おう、感謝するぞトンコツ。誓ってジェーン以外には手を出さないぜ!」


 トンコツが納得したのなら、まぁいいか……。


「ちょっと待ってくださいぃ! その、ラビさんは……?」

”あ。出来れば私もガードしてくれるとありがたいかな”


 流れ弾とか怖いし。特にアリスの場合は……。


「それじゃ、ラビさんもこちらに――」

”いや、待て!? それじゃ俺の姿が見られ――いや、こっちがお前を人質にするとか考え……”

”ありがとうシャロちゃん、それじゃ遠慮なく”


 トンコツの抗議の声を無視してシャロの方へと走る。

 これでシャロが私を攻撃する――という展開も無きにしも非ずだが、ここで私へダイレクトアタックをして倒してしまったらクラウザーと戦うものがいなくなる。そんなことはしないだろう。

 ……それにしても、私たちをガードする役目をジェーンから任されたということは、シャロは《アルゴス》による監視だけではなく防御、あるいは回避能力に優れているということか。


”待て、待てって!? おい!?”


 半泣きのトンコツの声。

 構わずシャロの方へと近づくと……。


”――うぇ?”


 シャロのすぐ側に隠れていただろう、トンコツの姿を見て思わず変な声が出た。

 いや、これは……何ていうか……。


”……ちなみに、『トンコツ』って、誰が名前つけたの?”

「えっと……すみません、私ですぅ……その、ちょうどお腹が空いてて……」


 そこにいたのは、私と同じくらいのサイズの――『牛』だった。しかも、白と黒のまだら模様……乳牛だ。乳牛って食べられるんだっけ? いや、どっちにしても豚骨は牛にはないけど。

 あれ? 何かこんな感じのちぐはぐなアスキーアート見たことあるぞ?


”……プレイヤー名って、自分で付けられないものなの?”

”…………こっちの呼び名はユニットが最初につけたものが固定されるんだよ……”

”そっかー……大変だね、トンコツも……”

”……うあー、笑われるより辛ぇ……”


 強く生きて、トンコツ!




 ――とまぁ、私たちの茶番を余所に、アリスとジェーンが本気での対戦を開始した……!


小野山です。

設定すら考えていなかったけど何となく話の流れで突発的に出してみたキャラクター、ジェーンです。

シャルロット登場時点で名前だけは出してましたが、アレを書いてた当時には本当に出すつもりないキャラでした。ネタとして設定は考えましたが。

キーワード『野生少女』でネタを考えました。名前のジェーンは、ジャングルの王者的なアレから。

シャルロット、トンコツ共々今後もちょくちょく出てくるかもしれません。

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