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10-05. 三界制覇戦 2. 『魔』

*  *  *  *  *




 ……何とかオオカミから逃れることはできたけど……。


「ん……結構、厳しい……」


 流石にありすも渋い顔をしている。

 まさかあんなにあっさりと全滅間際まで追い込まれるとは思わなかったよ……初見殺しもいいところだ、あんなの。


「はぁ……何で気付かなかったかな……」

「うにゃー……これはあたしらの失態だったにゃ」


 楓と椛は別の理由で落ち込んでいるみたいだ。

 どうやらオオカミとは『黄泉津大神(ヨモツオオカミ)』のことみたいだ。確か、元の世界だと死後のイザナミノミコトのことだったっけ。こっちの世界でも同じような神様がいるらしく、楓たちの専門分野と言えなくもないだろう――忘れがちだけど、二人は一応巫女さんだしね……。


「ああ、まぁ知ったところで予測できたかっつーと微妙だけどな」

「ふーたん、はなたん……よしよし」


 落ち込む姉たちをなっちゃんがよしよしして慰めている。かわゆい。

 まぁともあれ、仮に事前にヨモツオオカミということがわかったとしても、だからと言って有利に立ち回れたかと言われると微妙なところなのは確かだ。


「……ラビ様、それに楓様、椛様。よろしければ後1~2回ほどオオカミに挑戦したいのですが、構わないでしょうか?」


 と、ずっと後方に控えて【演算者(カリキュレーター)】を発動させ続けていたあやめがそう提案してくる。

 ふむ……彼女には何か突破口が見えてきたのだろうか。


”どうしようか。予定変更して今日はオオカミに集中しようか?”


 倒せるなら倒したいのは確かだけど、残り2体――あれと同等かそれ以上のモンスターが控えていることを考えると……。


「んー、やっぱり予定通り、アンリマユとインティも一度挑んだ方がいいと思う」

「はい。わたくしもそう思いますわ」

「ひ、一通り見ておいた方がいいんじゃないかな……」


 小学生ズが意外にも冷静な判断だ。躍起になってオオカミにリベンジしようとするかも、とちょっと心配していたんだけど。

 あやめもそう言われ、


「承知しました。確かに『三界の覇王』全てを一度見て、並行して攻略法を考えた方が効率が良さそうですね」


 とあっさりと納得した。

 うん、その通りだ。一度全部見てしまった方がいいだろう――上手い具合に攻略法が思いつけば、来週の平日に人数を絞って戦えるかもしれないしね。


”じゃあ、今日は予定通りに行こうか。

 どうする? ちょっと休憩する?”


 あまり長い時間オオカミと戦ってたわけじゃないけど、精神的にはかなり疲れただろう。

 皆に聞いてみると、一旦現実に戻って一息つこうということになった。

 現実で少し休憩したら、次は『魔』のアンリマユに挑戦することになったけど――オオカミ同様、これもとんでもない相手なんだろうなぁ、きっと……。




*  *  *  *  *




 さて、休憩して頭をリフレッシュ。

 オオカミ戦のことは一旦忘れ、私たちは今度はクエスト『「魔」界への挑戦』へと挑むこととした。

 相手は『アンリマユ』――一つの神話体系における、悪の頂点たる魔神と同じ名を持つモンスターだ。きっと一筋縄ではいかないだろうな……。




”こ、これは……?”


 アンリマユのクエストへとやってきたんだけど、これまたおかしな光景が広がっていた。


「……白黒映画みたいだね……」


 そう、クロエラの言う通り『白黒映画』の世界のような風景が広がっていた。

 場所は……多分、平坦な砂地だ。360度、延々と真っ白い砂地があるだけだ。空はかなり黒に近い灰色が広がっているだけである。

 ……色の濃淡は多少はあるのかもしれないけど、とにかく灰色の空に白い大地があるだけの、殺風景――ともちょっと言い難い、現実離れした光景である。


「? あれ、うーみゃん……ゲートがないみゃ?」

”え? あ、ほんとだ……ランダムスタートなのかな?”


 周囲を見渡してたウリエラが、クエストゲートがないことに気が付いた。

 いつもだったらやってきた場所にゲートが残っているんだけど、今回は私たちの目に見える範囲にはゲートはなかった。

 うーん? 以前の『冥界』の時だと、トンコツたちが同じ状況だったみたいだしそういうこともあるのかも……?


「ふん、まぁアンリマユを倒せば問題ないだろう」

「うん。ぶっ飛ばせば解決」

「うふふっ♪ 今度は負けませんよ~」


 ……アリスたちは前のめりだなぁ……。


”ともかく、アンリマユを探そう。どこかにはいるはず。

 ぱっと見た感じオオカミの時みたいに洞窟に入ったりする必要はないみたいだし……”


 ちょっとだけ編成を考え、すぐに告げる。


”クロエラとジュリエッタがバイクで移動をお願い。地面の下からいきなり襲ってくるかもしれないから、ジュリエッタが警戒をお願い。

 残りのメンバーは空を飛んで行こう”


 クロエラも飛べるっちゃ飛べるんだけど、やはり『バイク』という形状のせいか地上を走るのが一番スピードが出るみたいだ。

 だから、飛行が得意ではないジュリエッタと共に地上組へ。

 残りのメンバーは空から広い視点で周囲を見張り、あるいは空中から攻撃だ。

 アンリマユがどんなモンスターかわからないうちは慎重に行こう。


「じゃあ、ボスたちはちょっと離れていた方がいいかな?」

「うん。ジュリエッタたちが『エサ』になれるかもしれない」

”う、うーん……その言い方はアレだけど……”


 アンリマユが地上のクロエラたちと上空の私たち、どちらを先に狙うかにもよるけど――オオカミの八種の雷神の時みたいに、下手に固まって一気に全滅させられる……とならないようにある程度距離を開いておいた方が無難か。

 ……皆、なんだかんだでやっぱりオオカミ戦が心に引っ掛かってるみたいだなぁ。

 アストラエアの世界での死闘を潜り抜け、ユニットも8人になったし、メギストンも一部を除いて苦戦もせずに倒せたことで少し天狗になっていたのかもしれない。

 私もそうだけど、『三界の覇王』やラスボスをこれから相手にするのだ。気を引き締め直さないとね。


”あ、レーダーに反応!”


 だだっぴろい白黒の砂漠を進んでいると、レーダーがモンスターを捉えた。

 ……が、なんだろう、この反応……?


「……妙にちっちゃいみゃ……?」

「……これ、メガリスよりもちっちゃいモンスターにゃ……?」


 同じくウリエラ・サリエラも共有しているレーダーの反応を見て首をかしげている。

 二人も同じということは、私の勘違いではないみたいだ。

 どういうことかというと、レーダーの反応が『小さい』のだ。オオカミみたいな巨大な反応ではない。それこそ、メガリス並……いやそれ以下のサイズのモンスターとしか思えない反応なのだ。


「む? ……サイズはともかく、問題は中身だろう?」

「そうですねぇ。もしかしたら、ユニットのような強さなのかもしれませんよ、我が主よ」

”……そうだね。何にしても油断は禁物だね”


 モンスターについては大きさ=強さが成り立つことがほとんどではあるけど、だからといって例外がないわけではない。

 『冥界』で戦った『冥界への復讐者(ジ・アヴェンジャー)』や宝石芋虫なんかは小型ではあったけど、決して他に比べて弱いなんてことはなかったし。

 油断せず、私たちはレーダーの反応に従い移動――相手を視界に捉えた。


「…………むぅ……?」


 が、相手を見てアリスたちも首をかしげてしまう。


”……あいつがアンリマユなのは間違いない、けど……”


 モンスター図鑑にも載ったのを確認。

 間違いなくレーダーが捉えた反応=アンリマユではある。

 ……あるんだけど……。


「め、()()()()()()()だみゃ……」

「み、見た目に騙されない方がいいにゃ……」


 そういうサリエラだけど、戸惑いを隠せていない。




 アンリマユの見た目は……何というか、『影人間』としか言いようがない。

 ひょろっとした人型の影が立ち上がっている……って感じだろうか。

 人間でいえば、痩せた成人男性くらいの大きさだろう。それが、身体の起伏も何もわからないくらい『真っ黒』に染まっている。

 そんな影人間が、よたよたと白黒砂漠をこちらの方へと向かって歩いてきている。

 ……見た目だけから判断したら、正直メガリスよりも弱そうにしか見えないけど……。


”……何をしてくるかわからない。遠距離攻撃で様子を見よう”

「ふん、そうだな。では――cl《赤色巨星(アンタレス)》!」


 見た目がひ弱そうでも、何かしらの凶悪な特殊能力で攻撃してくるタイプかもしれない。

 そう警戒し、ひとまず遠距離攻撃を仕掛けて様子見――状況次第で切り込んでいく、という攻め方だ。まぁ、オーソドックスな『いつも通り』の戦い方とも言えるけどね。

 アリスの放った《アンタレス》がよたよたと歩いているアンリマユに迫り……。




”…………は?”


 思わずそんな間の抜けた声を上げてしまう。

 他の皆も同じような反応だった。


「た、()()()……のか?」

”……う、うん……”


 特に《アンタレス》を撃ったアリスが一番戸惑っている。

 まさかこれ一発で決着がつくとは思っていなかったのだろう。

 ……嘘だろと思うけど、実際にクエストクリアの通知がやってきているのだ。


”クエストクリアみたいだし……倒したのは間違いない、はず……”

「マジかよ……?」


 マジなんだよねぇ……。

 嘘だと思いたいけど、確かにクエストクリアになっているし――いや、まぁクリアできたこと自体は嘘であって欲しくはないんだけど。

 皆も困惑しているが……。


「……マスター、帰還しましょう」

「……ですわね。ここに残っていても仕方ないですし」

「むー……出番なかったですー」

”そ、そうだね……”


 何か釈然としないけど、『三界の覇王』の一角を倒せたのであればそれは喜ばしいことだろう。

 ……オオカミがやたらと強かっただけで、アンリマユも残るインティもそんなに怖い相手ではない? それとも、オオカミも不意打ちでやられただけだから事前に準備しておけばそんなに怖くない?

 などと色々と考えつつも、私たちはクエストから脱出しようとして――気が付いた。


”あ、あれ? そういえば、()()()()()()()()()()()()()?”


 来た時には一応気付いていたけど、未だにゲートは見つかっていない。

 まぁ敵もいないならのんびり探せばいいのかもしれないけど――




 ……なんてちょっと呑気なことを考えた私だったけど――ここからがアンリマユ戦の本番なのだということに嫌でも気付かされた。




”!? ちょ、モンスター反応!?”

「す、すごい数みゃ!?」

「あ、拙いにゃ! くろ、ジュリにぇった!」


 突然、レーダーを埋め尽くす勢いでモンスター反応が現れたのだ。

 敵が出てきたのは地上――ということは、バイクに乗って移動していた二人が危ない!

 すぐさまサリエラが警告を発し、皆して救援に向かおうとするものの……。


「! ヤバいな、上からも来ているぞ!」

「こ、これは……!?」


 私たちよりも上空から、真っ黒い影のようなものが幾つも降り注いでくる。

 地上にもアンリマユのような黒い影が溢れ出てきている。

 ……姿は様々だ。獣型、蟲型、植物型、魚型、蛇型etc……大小様々な『影絵のモンスター』が次から次へと溢れ、私たちに一斉に襲い掛かってくる。


”な、なんで!? クエストはクリアしているのに……!?”

「――マスター、()かもしれません」

「! そういうことみゃ……?」

”え……どういうこと!?”


 お姉ちゃんズが何かに気付く。

 何に気付いたのか私が尋ねるよりも速く、サリエラが叫んだ。


「アンリマユを倒したからモンスターが溢れ出てきたってことにゃ!」


 ……そうか、確かに流れとしてはそうなるか。

 でも、じゃあ何で? という疑問が残るが……。


”――あ、まさか……特記事項の2つ目って……()()()()()()!?”


 私はクエスト説明文に書いてあったことを思い出す。




 『魔』界への挑戦

 勝利報酬:2,500,000ジェム

 特記事項:

  ・撤退時、クエスト自動失敗

  ・()()()()()()()()()()()使()()()()()()()()()()()()




 ……この特記事項の2つ目、一体何でこんなことが書かれているのか理解できなかったけど――今の状況から導き出される答えは一つ。

 アンリマユ戦は、アンリマユを倒して終わりではない。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()なのだ。

 だから2つ目の特記事項だ。

 アンリマユ討伐後の無数の敵を無視して『離脱』系アイテムで脱出できてしまったら簡単に過ぎる。

 故に、たとえクエストクリアの通知が来た後でもアイテムでのショートカットは許さず……襲い来る敵の群れをどうにか捌きつつ、どこかにあるゲートを探し回るというクエストなのである。

 ……なるほど、クエストにやってきた時にゲートが近くにないわけだ。

 ゲートの位置がわかっていたら、クエスト開始時に誰か一人をゲートに残しておいて他でアンリマユを討伐。モンスターがわいてきても即クリアできちゃうわけだし……。


”な、なんて底意地の悪いクエストなんだ、これ!?”


 舞台となる白黒砂漠はどこまでも広がっており、クエストの境界もあるかどうかわからない。

 しかも起伏もなく風景に全く変化がない。

 そんな中でどこにあるかわからないゲートを探し回る――しかも大量のモンスターを捌きながら――とか、他のクエストとは求められている能力が全く異なるクエストだ。


「も、もうダメみゃー!?」

「ぜ、全滅しちゃうにゃー!?」

”……くそぅ、撤退するよ、皆!”


 影が世界を覆い尽くし――私たちをも吞み込もうとしていた。

 このまま戦っていてももう無理だろうと判断、私は躊躇わずに『離脱』を使っての撤退を選択した――




 ……そして、特記事項に書かれていた通り、クエストクリアしていたにも関わらず『離脱』を使ってマイルームに戻ってきた瞬間、クエスト失敗の通知がやってきたのだった……。


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