10-01. エピローグ ~THE END OF THE WORLD
■ ■ ■ ■ ■
世界は終わりを迎えた。
何の予兆もなく、緩やかにでも破滅的な何かが起こったわけでもない。
ただただ唐突に全てが『死』へと追いやられた。
誰も、何も、ただ一つの抵抗すらできず、わけのわからないまま――世界の全てが『死』に絶えた。
……これが終焉。
世界の終わり。
全ては『奴』の思惑のまま――『ゲーム』は終わりを迎えようとしていた。
しかし、私は確信している。
ここからが本当の勝負なのだと。
私の思い描く理想の未来がすぐそこにまで迫っているはずなのだと。
その未来を創る者こそが――『彼女』なのだと。
* * * * *
私たちは敗北した。
……認めたくないけど、そう認めざるをえないほどの状態であることは確かだ。
「く、そ……!」
世界を覆い尽くす巨大な竜の背に倒れたまま、私は毒づき立ち上がろうとするけど……。
「ぐぅっ……」
上から踏みつけられ、無様に呻くことしかできない。
「ふふっ、ははははははっ!」
私を踏みつけながら楽しそうに嗤う『そいつ』こそが――
「くそっ……エキドナ……!!」
「全く……楽しいなぁ」
全ての元凶なのだ。
姿こそ『ドクター・フー』であるが、今や完全にユニットと化し名前も『エキドナ』へと変わっている。
そしてその中身は……。
「気分はどうだ、ラビ?
後一歩でキミが勝つはずだったのに……世界の全ては死に絶え、キミの子供たちも全員死に、この世の終わりを目にした気分は」
「おまえ……!!」
そう――この世界に生き残った人は誰もいない。
正真正銘、私とエキドナ以外の全ての存在が……『星』そのものすらもが死に絶えたのだ。
桃香も、千夏君も、楓も、椛も、なっちゃんも、雪彦君も、あやめも――
……そして、ありすは私の目の前で――
「ああ、本当に楽しいなぁ……結局は全て私の計画通りに終わった」
「こんなのが……こんなのが、お前の計画だって……!?」
何もかもを『死』へと追い込み、何一つとして残らないこの有様が『こいつ』の計画通りだとはとても信じたくない。
……いや、違う。『こいつ』のことを考えれば、最後にはこうすることこそが目的だったのだろう。
最初から全て『こいつ』に都合のいいように操られていた――私たちだけでなく、あのクラウザーやヘパイストスでさえも……!
「長い……本当に長い時間がかかった。
確かにキミを始めとしたイレギュラーによって多少の狂いは生じたが……ふっ、まぁ計画に支障はなかったな」
一度は『こいつ』らの企みを打ち破り勝利したと思ったのに……最後の最後にとんでもない『隠し玉』によって逆転されてしまった。
……その結果、私以外の全員――どころかこの星そのものが『死』へと追いやられてしまったのだ……。
「もはや為す術はない。
キミの『能力』も今となっては使い道はないだろう――が……ふん、その目はまだ諦めていないと見える」
「くっ……!?」
諦めるわけにはいかない――この状態から仮に『こいつ』に勝てたとして、どうなるという問題はあるけど……。
それでも、ただ黙って『こいつ』の良いようにされるわけにはいかない。
ありすたちだって、きっと怖くてたまらなかっただろうに……変身できないまま最後まで抗っていたのだ。
ならば、私が諦めることは絶対にできない……どうにかして『こいつ』に一矢報いなければ、死んでも死にきれない……!
「ふ、最大の脅威であった恋墨ありすは既に死んだ。キミ自身に私は脅威を感じてはいないが――ふむ、しかし油断はできないか。
ならば、確実に始末するとしよう」
エキドナがそういうと共に、私たちの近くの地面――『竜』の背が割れ、眼下に死に絶えた星の姿が見える。
……大地も海も、大気も……何もかもが死に、無数の生物がいた痕跡一つ残っていない、灰色の岩塊――それが、今のこの『星』の姿だ。
頭上を見上げても、ただひたすらに真っ暗闇が広がるだけで星一つ見えない。
無限に広がる宇宙の中、存在しているのは私とエキドナ、世界を滅ぼす『竜』と……星の死骸たる岩塊だけしかないのだ。
『星』だけが死んだのではない。言葉通り、『世界全て』が『こいつ』によって殺されてしまったのである……。
「これにて『ゲーム』は終わり――全プレイヤーの敗退、そしてイレギュラーの排除を以て終了とする」
能力の後遺症で手足も動かせない私は何の抵抗もできず……。
「イグジスト《終焉剣・終わる神世界》――くくっ、さらばだ、ラビ」
「ちく、しょう……!!」
燃え盛る炎の剣が現れ、私へと振り下ろされる中……『何か』ないか、私は必死に抵抗の術を探し出そうとしていた……。
* * * * *
……最後の戦いにおいて私たちは取り返しのつかない敗北を喫してしまった。
それも全て『奴』の計画通りだったというわけだ……。
数々のモンスターをどれだけ倒しても、『三界の覇王』を倒しても、そしてラスボスでさえも……何もかもが無駄だった。
『奴』は私たちだけでなく、『ゲーム』に参加した全ての使い魔やユニットを嘲笑い、己の望む都合の良い結末――『死』へと誘っていた。
一体どうすればこの敗北を避けられたのか……結局避ける術など存在しなかったのかもしれない。
――それでも。
それでも、何かなかったのか……どうしても考えてしまう。
私に振り下ろされる刃が本当にスローモーションのように見える……と同時に、今までのことが脳裏に過る。
これが『走馬灯』というものか……。
* * * * *
なぜこんなことになってしまったのか――話は『ラスボス戦』にまで遡る。
…………ここから先に語るのは、私たちの敗北へと至る物語だ。