9.5-10. 終焉への進撃 ~ラスボス戦開始
……そんなこんなで時は過ぎ去ってゆく。
気が付けばもう3月の半ばへと差し掛かろうとしていた頃だ。
ひな祭りも終わった更に翌週の日曜日――私たちは再び桃園演習場の桜家別荘へとやってきていた。
”……見事に位置が変わってるね……”
「はい……」
前に来た時には演習場の中を色々と突っ切っていった先にあったはずの別荘の位置が、もうちょっと歩いていきやすい場所へと移動していた。
『眠り病』の時と同じく、現実が捻じ曲げられているとしか思えない事象に皆も首をかしげていたけど――正直私にも訳が分からないし説明のしようもない。
だから、
「その……えぇっと、以前の件で救急車が来れないと不便ということで、移動させたようです」
とあやめが苦しい言い訳をしていた。
小学生ズは『すごーい』と感心していたけど、流石に中学生ズは誤魔化せない。
が、突っ込んでも無駄だともわかっているのか、深くは聞いてこなかった。
『”……ジュウベェの時とか「眠り病」の後始末とかは「ゲーム」側の仕業という線も考えられたけど……”』
『……別荘を移動させる理由は「ゲーム」側には全くありませんよね……』
こそこそと遠隔通話であやめと話し合うが、まぁもちろん答えは出てこない。
ただ『ゲーム』が何かしたという線は、少なくとも別荘の移動については消えたと思っていいだろう。
……運営であるゼウスがわざわざこんなことをするとは思えないし理由もない。
そうなるとますますわけがわからなくなるんだけど……。
「ラビさん、あや姉?」
”あ、うん。行こうか”
ここでうだうだと別荘の移動について考えていても仕方ない。
私たちは再び別荘へと向かっていった。
私たちがここへとやってきたのには理由がある。
美鈴と会った後、攻略チャートに沿ってメギストンたちを撃破していき、『三界の覇王』も撃破。
……メギストンはともかく『三界の覇王』についてはぶっちゃけクリアできないんじゃね? と思えるくらい苦戦はしたんだけど――まぁこの件については後ほど話そう。あのありすでさえ『……無理ゲー?』と渋い顔をして唸っていたくらいなのだ……。
前座の『三界の覇王』ですらあの有様だったのだ、果たしてラスボスはどれほどのものなのか……皆してため息をついていたくらいだ。なっちゃんはよくわかってないみたいだけど皆が暗い顔をしてため息をついてたのを見て、ちょっと涙ぐんでた……。
それはともかく、私たちはついにラスボスへと到達したのだ。
で、ラスボス戦がどの程度時間がかかるかわからないし、途中で家族に見られたりして面倒なことにならないように、ということで『別荘に遊びに行く』という体で集まったというわけだ。
『三界の覇王』討伐までにどのくらいの時間がかかるかわからなかったからどうしたもんか、と思ってたけど、あやめが楓たちとも相談してある程度目途を立てて別荘を押さえたらしい。
……いや、ほんとこういうことに関して、あやめより頼りになる人を私は他に知らない。楓たちだって同じだ。
『頼りになる』ということであれば、うちの子たちって皆何かしらに秀でているので頼りにならない子って誰一人していないけどね。なっちゃんだって、具体性はなくとも私たちに見えない『何か』を見て、危険を事前に察知したりできるしね。
…………あれ? もしかして一番役に立ってないの、私……?
――気を取り直して。
”さて――皆、いよいよだね”
別荘について一息ついた後、ちょっと広めの部屋へと全員集合。
今回は各自の家で昼ご飯を食べた後に集合なので、軽くお茶を飲んだりしたくらいだ――なっちゃんは『あれ! あれたべたい!』ってあやめと姉たちにねだってたけど……『あやめ特製具沢山やきそば』はまた今度の機会ということで宥めた。
「ん……色々大変だった……」
「本当ですわね……」
「ああ……やっぱ『三界の覇王』がきつかったな……」
うん……皆そんな感想だよね……。
「運任せはお姫ちゃんの幸運でなんとかなったから良かったけど……」
「普通に強い奴もいたにゃ……」
「ぼ、僕はあの金色の芋虫探すクエストが嫌だったよ……二度とやりたくない……」
雪彦君が言っているのは、メギストンのうちの1体を討伐する時のやつだな……。
強さとしては本当に大したことのない、『雑魚』としかいいようのない相手なんだけど……こいつが本当に厄介で、芋虫モンスター――『メタルキャタピラー』の討伐クエスト時に確率で出てくるレアモンスターだったのだ。
桃香の幸運によってあっさりとレアモンスターを引けたはいいけど、次々とメタルキャタピラーを呼び出すタイプだったのでとても酷い絵面な上に、それに隠れて逃げ回るから大変なクエストになったんだよね……。
「うゅ? な、なっちゃんはねー、おっきい『りす』たん!」
「…………アレは最悪でしたね……」
なっちゃんが言っているのもメギストン――そして最後に倒したメギストンでもある――のうちの一体だ。
こいつ、あやめが同意したように『最悪』の敵だったんだよね……とにかく、単純に『強い』敵だった。ぶっちゃけ、ムスペルヘイムクラスだったと思う。
メガリス・ギガリスの討伐数が一定数に到達した時に出現する、『特殊モンスター』――その名も『ペタリス』だ。
……『ゲーム』最弱モンスターのメガリスの上位種だし大したことないだろー、なんて私たちの誰もが思っていて『最後に回してもいいか』としていたモンスターなんだけど……正直、戦ったのを後悔したくなるくらいの強さだった……戦いを避けるわけにはいかない相手だったんだけどさ。
これがもう本当に強い。見た目は山のように大きなリスなんだけど……とにかくタフだわ攻撃力高いわ素早いわでガチで苦戦したのだ。8人で挑んだにも関わらず、だ。なんかの冗談だと思いたいくらいだった……まぁ最後はアリスとガブリエラがリュニオンしてのごり押しで削った上で、魔力を全消費する覚悟で《星天崩壊・天魔ノ銀牙》をぶち込んでようやく倒せはしたんだけど。
なっちゃんの言葉に、ふっとありすたちの目からハイライトが消えたような気がした――あれはトラウマにもなるよね……。
”ま、まぁ色々あったけど……何とかラスボスまで私たちはたどり着くことができた”
気を取り直して――
とにもかくにも、メギストン、『三界の覇王』を倒したことで私たちはラスボスへと挑む条件を全て満たし、晴れて挑戦権を得ることができた。
来週に小中学校の終業式があるので、春休みまでに決着をつけたい――と思っていたので、予定通りと言えばその通りだ。ちなみにあやめは既に卒業式を迎えているのでかなり時間に余裕はある。
”――! クエストも出現してるね”
私の言葉に皆の表情も引き締まる。
なんやかやあっても、『ラスボス戦』を目指して私たちは戦ってきたのだ。
その目的にようやく到達したのだ。
……もちろん、『ラスボスにたどり着く』ことが最終目標ではない。『ラスボスを倒してゲームクリアする』ことこそが最終目標なのだ。
ここからが本当の戦いの始まりなのだ。
「ラビさん……どんなクエスト?」
ありすに促されクエストの詳細を確認。
<
ラストバトル:星獣ガイア討伐
>
……クエスト名に『ラストバトル』が明記されているので間違いない。
そしてクエスト名からして、ラスボスの名は『星獣ガイア』――シンプルだが、名前からしてかなりやばそうな相手だというのはひしひしと伝わってくる。
他にも報酬についてや特記事項やらもあるけど、今は割愛。
クエスト名を皆に告げて反応を見てみたが――
”……よし、準備ができたら行こう!”
誰一人として『恐れ』を感じていなかった。
戦意は十分。ここに至るまで様々な戦いを経て成長したし、準備もしてきた。
……うん、ここで逃げるはありえない選択肢だね。
私たちにあるのは『ラスボスと戦って勝つ』、それ以外の選択はない。
――『ゲーム』の終わりが目前に迫っている。
私たちはそれに向かって最後の戦いへと挑もうとする。
……しかし、それが更なる戦いの幕開けになるとは、この時の私たちには思いもよらないのであった……。
小野山です。
第9.5章はこれにて完結。次回より第10章となります。
次回更新は2022/12/5からを予定しています。