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9-68. 深淵に囚われし者たちのバラード

*  *  *  *  *




”あれは……まさかピースたち!?”


 ルナホークが私たちの方向へと飛んでくる『何か』を捕捉するのと同時に、地上の椛からピースたちがこっちへ向かっていると聞いた。

 私にもこちらへと迫る小さな光が見え――


”うわぁっ!?”


 お互いにとんでもない速度で飛んでいるため、一瞬で交差――ぶっちゃけよく見えないまますれ違ってしまった……。


「……!」

”……どうしたの、ルナホーク?”


 ハッとした表情ですれ違った『何か』の方へと僅かに振り返るルナホークであったが、


「…………いえ、問題ありません」

”そっか。

 でもどうしよう……アレ、ピースたちだよね? 中枢の方へと向かったみたいだけど……”


 心配なのはそこだ。

 ピースたちがまだ残っていたこと自体にも驚きだったけど、どうやら自分たちの意思で宇宙へと飛び立ったらしいし……。

 私が口にした不安に対し、ルナホークは僅かに笑みを浮かべて言った。


「『後は任せて』――()()はそう言っていました」

”…………そっか……”


 私にはわからないけど、仲間(ルナホーク)がそう言うのであればそうなのだろう。

 どちらにしてもありすも動けないし、魔力回復できない以上ルナホークの火力も発揮できない。

 私たちは一刻も早く地上に戻らなければならないのだ。

 ……戻ったところで、一体何ができるのか――そんな思いを抱いてはいたものの……。




◆  ◆  ◆  ◆  ◆




 ルールームゥが変じた《ウァサゴ-3》が、()()()()()()()とすれ違った。


<ピー……ピピ>


 それが何なのか、ルールームゥは気付いてはいたが、内部にいた他のピースはそもそもすれ違ったこと自体にに気付いてはいなかった。

 仮に気付けたとして、それが何になるかと問われれば――特に意味のある情報ではないだろう。


「てめぇら、覚悟はいいな?」


 クリアドーラの問いかけに対して、ピースたちの態度は様々だった。

 ジュウベェやヒルダ、リオナなどの戦意十分なものたちもいれば、フブキのようにガタガタと震えて怯えているものもいる。

 ……その怯えの理由はこれから起こることではなく、これまでにしてきた自分の『罪』に対してのものだとは、クリアドーラにもわかっている。

 だから責めることはしない。

 自分(クリアドーラ)たちのように『戦うことで償う』という割り切りができないことは悪いことではない。むしろ普通のことだろう。

 戦ったところでそれで『罪』が帳消しになるとはクリアドーラたちも思っていない。

 ……それでも戦わなければ、『何か』を成さなければやりきれない――その思いに衝き動かされているという程度の違いしかない。


「ふふっ、戦うのがお嫌であれば――あたくしが斬ってさしあげましょうかぁ?」


 ジュウベェの言葉は脅しではない――二つの意味で。

 戦うのが嫌であれば楽にしてやる、と言っているだけではない。

 彼女のギフト【殺戮者(スレイヤー)】の効果でステータスを底上げするためにも、最終的にはピースたちは斬られなければならないのだ。

 魔力回復ができず、魔力が尽きると同時に今度こそ消滅してしまうピースたちをそのまま散らせるのは惜しい。

 ならば、消える前にジュウベェが斬ってステータスを上げた方が良い……そういうことだ。


「……斬るのは最後にしてほしい、かな」


 フブキ同様、暗い顔で『罪』に怯えていたボタンが代表してそう答えた。


「せめて――少しでも、あいつの邪魔してからでないと……ってのはあたしたちも同じだから」

「……くふふっ、えぇえぇ……そうでしょうとも」


 少しでもピースたちが動いて『ダメージ』を与えておいて、消える寸前にジュウベェがパワーアップする……その流れこそが最も効率が良くなる。

 『情』などジュウベェにはない。

 あるのは、自分たちを利用したヘパイストスへと『吠え面をかかせる』という思いだけだ。

 そのために効率の良い手段を選ぶ……それだけを考えている。


「ふん、どうやら見えてきたようじゃぞ」


 未だ戦いの決意を全員が固められたとは言えない状態ではあるが、状況は待ってはくれない。

 ルールームゥの映し出す外の様子を見ていたヒルダが、目的地が近づいてきたことを全員に告げる。




 ――彼女たちが目指していたのは、当然のことながら宇宙空間に浮かぶラグナ・ジン・バランの中枢である。

 ピースだった頃にナイアやエキドナが話していた内容を覚えていたため、中枢の存在はしっていたのだ。

 そして、その中枢を使うのは『最終手段だ』、とナイアたちが密かに話していたことも……。




 今、中枢は浮力を失い次第に重力に引かれ星へと落下しようとしている。

 ラビたちが予想した通り、中枢が落ちれば甚大な被害を及ぼすことになるのは疑いようはない。

 彼女たちの知るところではないが『最終手段』とは、中枢を落として星そのものを破壊――ヘパイストスの『侵略の証拠』全てを消し去るというものだったのだ。

 ヘパイストスの予想を超え、ラビたちが中枢へと乗り込んできてしまったがために中途半端な狙いしか定めることはできなかったが、それでも落下させることには成功した。

 エル・アストラエア付近へと落とすことが成功するかどうかは不確定となってしまったが、それでも星に壊滅的なダメージを与えられればそれで良い――どう転んでもヘパイストスにとって都合のいい結末になるようにしていたのだった。




 しかし、ヘパイストスの企みは、彼自身が作り上げたピースたちによって妨げられることとなる。




◆  ◆  ◆  ◆  ◆




「突っ込め、デク!」

<ピピッ!!>


 《ウァサゴ-3》が落下しようとしている中枢へと無理矢理特攻――壁に穴を開けて突破口を切り開く。


「くふふっ! ではでは、参りましょうかぁ!」

「うむ、アビサル・レギオンの皆よ、これがワシらの最後の戦いじゃ!」


 ルールームゥの開いた穴から、次々とピースたちが中枢内部へと乗り込み、とにかく魔法を放ちまくって破壊活動を始める。




 中枢の落下を止めることは不可能だ。

 《ウァサゴ-3》はあくまでも宇宙を飛ぶための魔法――中枢を引っ張って遠くへと持っていく、という用途には使うことはできない。仮にやろうとしてもパワーが足りない。

 だから落下自体を止めるのではなく、()()()()()()()()()()

 そのために、中枢をとにかく可能な限り破壊するしか残された手はない。

 ……これはピースたちにしかできない戦いだった。

 仮にアリスが魔力を全快させていたとしても、いかなる神装をもってしても中枢を砕くことは不可能だろう。ありえるとすれば《星天崩壊(エスカトン)天魔ノ銀牙(ガラクシアース)》を何度も撃ち込むという荒業しかないが、ラビからの魔力回復も尽きている現状ではやはり不可能だ。

 何よりも、中枢の破壊に成功したらしたで、全員宇宙空間に放り出され死ぬことになる。リスポーンは可能ではあるが、使い魔はどうにもならない――そのまま宇宙の塵と化すだけだ。

 だからこそ、ピース以外にやれるものはいない。

 使い魔もおらず、魔力が尽きたら消えるだけの(ピース)ならば、後のことなど考えずにただひたすらに全力を尽くせば良い。


 ……その上で『世界を救える』のであれば、せめてもの慰めにもなろう。




 ヒルダから強化(バフ)を受けたピースたちが、各々の全力を尽くして中枢を内部からひたすら攻撃し続ける。

 力及ばず消えかけたピースは、ジュウベェが介錯――【殺戮者】の糧とする。

 また、ヒルダ自身も『仲間の犠牲』によりステータスを増強、特殊能力はなくとも単純な腕力だけで中枢を破壊しようとする。




 そして――残ったのは、ヒルダ、ジュウベェ、クリアドーラ、ルールームゥの4人だけとなった。


「はぁ、エクレールがいてくれたらもっと楽にやれたんじゃがのぅ」


 そうヒルダはぼやくものの、エクレールが早めに解放されたのは本人にとっては良かったのだろう、と内心では思っている。

 ……確かにエクレールがいれば、【抉潰者(スクィーザー)】によってより効率的に中枢を削ることはできただろうが。


「俺様も、そろそろ限界だな……」

<ピピッ、ピー……>


 魔力回復ができないというのが最大のネックとなってしまっている。

 自分たち――本人の意識はなかったが――がどれだけマイナーピースの犠牲の上に立っていたのかを、改めて痛感する。

 同時にヘパイストスの創った『最強の軍団』が、実はどれだけ脆く儚いものだったのかも。


「ワシも次が限界じゃ。

 ――ジュウベェ、後は頼むぞ」

「……えぇ、えぇえぇ……必ずや」


 ヒルダたちはジュウベェの『中身』がヘパイストスと同郷の存在であることを知らない。

 また、ジュウベェが現れるよりも前にゲームオーバーとなっていたため、彼女の所業を知らない。

 知っているのは、ジュウベェの『強さ』だけだ。

 最後のこの時に至るまで自分たちの意思を持つことは出来ず、互いに『仲間』とも思えるほどの『絆』があるわけではないが――それでも『強さ』という一点においては互いに信用はしている。

 ジュウベェはここに至るまで【殺戮者】でステータスを上昇させることだけに集中、あるいは攻撃能力に乏しいピースへと魔法剣を貸し出すことだけにとどめていた。

 全ては『最期の一撃』を繰り出すため――


「っし、んじゃやるか! ヒルダ、デク!」

「うむ。最後の花火を打ち上げるとしよう」

<ピッ!>


 ジュウベェへと後を託し、三人は最後の魔法を解き放つ。


「【破壊者(デストロイヤー)】起動! 何もかもぶっ壊せ!! 剛拳 《愚麗斗怒羅號怨薙琉グレイト・ドラゴンナックル》!!」

「アビサル・レギオンの同志たちよ、その恨みの全てをぶつけてやるのじゃ! レジデンス・オーダー《ファントム・レギオン》!!」

<[システム:トランスフォーメーション《バルバトスー8》]>

<[システム:撃滅セヨ]>


 これまでの総攻撃で既に中枢はその大部分に大きな傷を負っていた。

 そこにアビサル・レギオンでも『最強』の三人の、全てを込めた攻撃が叩き込まれ――ついに中枢が大きく割れた。


「……では、終わらせましょうか」


 最後の力を使い果たした三人へととどめの一撃を放ち自身を強化、中枢が割れることにより宇宙空間に放り出されたジュウベェ――

 真っ二つに割れた中枢ではあるが、まだ地上へと落ちた際には甚大な被害をもたらすことには変わりない。

 だから、ジュウベェも自らの命を惜しまずに『最高の一撃』を見舞うことにする。


「くっふふふ! あぁ、楽しみですねぇ~……ヘパイストスがどんな顔して悔しがるのか!」


 この中枢墜とし以上の手段をヘパイストスであろうとも流石に用意はしていないだろう。そもそも、自分が負けるとは微塵も思っておらず、中枢墜としも『最終手段』として仕方なしに使うことになったのだから。

 だから、ここで中枢を破壊し細かい破片にして無害化させてしまえば、もはやヘパイストスはアストラエアの世界に手を出すことはできなくなるし、何よりも『証拠隠滅』も『口封じ』も実質的に不可能になるのだ。

 ジュウベェ(クラウザー)にとってはアストラエアの世界を守る義理も意味もない――他のピースと違って『罪』の意識はないのだ。

 けれども、自分を捕らえて良いように操ったヘパイストスへの『仕返し』をするには、こうするのが一番だとわかっている。


「抜刀 《強化(ごうか)剣》、《召喚剣》」


 ジュウベェが最後に選んだ魔法剣は――意識したのかどうか、本人にもわからない――ジュリエッタの『ライズ』とヴィヴィアンの『サモン』を彼女なりに再現したものであった。

 《強化剣》の力で宙を蹴り姿勢を制御、《召喚剣》がかつて自分が敗北した原因である《エクスカリバー》を模した剣へと変化。


「『報い』を受けなさい、ヘパイストス」




◆  ◆  ◆  ◆  ◆




 その日、その時、地上にいたものたちは空に輝く眩い輝きを見た。


 ――まるで太陽がもう一つ現れたようだ。


 見た者は口を揃えてそう表現していた。

 ほんの一瞬だけ、太陽の昇った空が更に強い輝きに塗りつぶされ――すぐに見えなくなった。




 遥か彼方、エル・アストラエアの住人たちが避難させられた大陸においては、未だ夜は明けず――彼らは見た。

 無数の『流れ星』が空を駆けてゆく様を。

 その『流れ星』が、世界を滅ぼそうとした邪神の残滓であることは知る由もなく、ただひたすらに……大人も子供も、誰もが『世界が平和になりますように』と流れ星に願いを込める。




 ピースたちによって破壊された中枢の落下自体は結局止められなかった。

 しかし、彼女たちの命を燃やし尽くした最後の攻撃により、確かに中枢は砕かれたのだ。

 大きな破片はまだ残っていたものの、それらも落下中に摩擦で小さくなる、あるいはボロボロと崩れ跡形もなく消えていった。

 地表へと到達した破片はあったが、影響は軽微――せいぜいが人のいない地面に少し大きめの穴を穿つだけにとどまった。

 ……幾つかは廃墟に落下したものの、既に人はいなく被害はほぼないに等しいものである。




 ヘパイストスの最後の悪あがきはラビたちとピースたちによって完全に潰えた。

 長きに渡り世界を蝕んでいた異世界からの侵略は完全に終わりを迎えたのであった……。


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