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8-90. Requiem for a Bad Dream 8. インフェクション・オブ・Z

 アリスとノワールが外へと出て行った後、私たちはベララベラム対策の続きを話し合った。

 やはり焦点となるのはゾンビ化の原因たる感染魔法(インフェクション)だ。


”ここまでで推測できることは――”




自動発動魔法(パッシブスキル)であり、インフェクション自体を止めることはおそらく無理

・ベララベラムに触れることで『ゾンビ化』する可能性が高い。空気感染はしないと思われる

・ゾンビ化した生物からもおそらく感染する

・ゾンビ化した生物には元の意識が残っている可能性がある?




”……って感じかな?”

「後は、ベララベラムの『叫び』に反応して動くってとこかみゃ。もしかしたら『操っている』のかもしれないみゃ」


 そうだ、それもあった。

 『叫び』で活発化するというより、『叫び』がゾンビたちへの何かしらの『指令』となっていると考えた方が自然か。実際に起きた事象にも合致していると思う。

 ……元の意識があり普段は自分の意思で行動は出来るけど、『叫び』で強制的に戦いの場に出されることもある……って感じかな。


「ワタクシたちの時モ、蟲のゾンビが現れル前に『叫び』が聴こえまシタ」

”ふーむ、あんまり細かい命令は出来ない感じっぽいね。『一斉攻撃』とかそういうおおざっぱな命令が出来ると思っておいた方がいいかな”


 ゾンビの数が多くなると、個別に操るのはまぁまず無理があると思うし。

 ……それに、『ゾンビを操る』っていう能力がベララベラムの本来の能力にはないんじゃないかって気はしている。少なくとも魔法ではないのは確実だし、もしかしたら『ゾンビをある程度操れる』っていう効果のギフトかもしれないが……。


「ご主人様、一通りの治療を終えました」

「きゅいっきゅー」

”あ、お疲れ様、ヴィヴィアン……とキュー”


 幸い、ピッピ以外に重傷者はいなかったし、ゾンビに傷つけられた人もいなかった。逃げる時にちょっと転んだり程度だったみたいだ。

 クロエラの方も打撃のショックで昏倒しているだけで目立った外傷もなく、体力ゲージも少し減っていたくらいなのでしばらくすれば目が覚めるだろうということだった。

 ひとまず安心かな? いやまぁピッピについてはやっぱり傷が治らないので不安なのに変わりはないが……。

 ともかく、ヴィヴィアンとピッピも交えて話の続きだ。

 ちなみにキューは何かやたらとヴィヴィアンに懐いているっぽくて、彼女に抱きしめられている。


”ガブリエラとジュリエッタだけど、ゾンビ化した影響ってどうなんだろう?”


 街の住民も気になるけど、私にとっては二人のことの方が心配だ。

 アリスがガブリエラと『戦っていた』ということから考えて、同じ使い魔のユニットであっても互いに攻撃が通るようになってしまっているのは間違いないだろう。

 一番の心配は以前の《終極異態(メガロマニア)》の時みたいに、リスポーン不可でモンスター同様に本当に死んでしまうんじゃないかっていうことだが……。


「……うーん、絶対確実とは言えにゃいけど、《メガロマニア》暴走と同じことにはならないとは思うにゃー」

「そうみゃ。今回のは『ベララベラムの魔法』の効果でそうなってるだけみゃから、そこまで無茶な判定はされみゃいんじゃないかみゃー」


 ウリエラたちの見立てでは《メガロマニア》とは違い、大丈夫なんじゃないかって話だった。


”言われてみれば、ジュリエッタたちも含めてゾンビたちってレーダーには映ってなかったんだよね。モンスター扱いはされてない……せいぜい『ユニット扱い』ではありそうだね”

「まー、可能な限り傷つけないようにしておいた方がいいとは思うみゃ」

”だね”


 その点については言われるまでもない。

 それにジュリエッタたちではなく街の住民ゾンビの方のことを考えれば、ゾンビを倒さないように気を付けなければならないだろう――流石にドラゴンゾンビとかは倒しちゃってもいいと思うけど。


「後ハ……ワタクシはガブリエラサンとしか戦っテませんガ、魔法は使えないようでシタね」

”なるほど……”


 アリスにも遠隔通話で聞いてみたが、やはり『そういえば魔法は何も使ってなかったなぁ』と返ってきた。

 まぁガブリエラはぶっちゃけ魔法をあんまり使わないでも戦えちゃうからなぁ……それでも『オープン』『クローズ』は使いそうなもんだけど、どちらも使ってないということは、『ゾンビ化したら魔法は使えない』と考えても大丈夫かなって気はする。


「ジュリエッタもノロノロと歩いているだけでございましたね」


 距離が離れてはいたけど、ジュリエッタなら魔法を使えれば即使って敵――この場合は私たちだっただろうけど――に接近しようとするだろう。

 そうしなかったってことは、やはり魔法が使えない……ってことじゃないかな。


「魔法の使えないジュリエッタなんて、ただのおチビですわ」


 …………うん、まぁ……確かにその通りだけどさ……。

 脅威となるのはガブリエラの方だけ、と言えばまぁ間違いはないか。


”とりあえず、魔法が本当に使えないかどうかはわからない感じだね。多分使えないとは思うんだけど、それ前提にものを考えるのはちょっと危険かな”

「ベララベラム倒す前に邪魔されにゃいように足止めが必要ににゃったら、その足止め役が気を付けておけばいいと思うにゃ……ゾンビ化ともども」


 楽観していいわけではないが過剰な警戒も不要――それが私たちの『ゾンビ』に対する結論だった。

 脅威なのは『数』、そして下手に倒してしまうわけにはいかないという、『攻撃不可の壁』として機能するところだ。

 これらを潜り抜けてベララベラム本人を速やかに倒す、そしてゾンビ化の治療をしなければならない。

 ベララベラムを倒せばゾンビ化が解除されるというのであれば話は早いのだが……。


”後は……ベララベラムをどうやって倒すか、っていうのとゾンビ化の治療方法だね……”


 とにもかくにも、異様な能力を持つベララベラムをどうやって倒すか――嫌な想像だけど本当にゾンビみたいに不死身の可能性もあるけど――ここが難問だ。

 ロトゥンというほぼ一撃必殺の凶悪な攻撃魔法を掻い潜って攻撃するか……加えて触れるだけでヤバいかもしれないので『何』で攻撃するかも問題であろう。


「アノ……疑問なのデスガ……」

”? オルゴール、なに?”

「ソノ、大変申し上げにくいのデスが……ジュリエッタとガブリエラサンはともかく、街の人ハ……果たして助けることができルのでショウカ……?」

「……オルゴール、何が言いたいのみゃー?」


 若干『圧』の籠ったウリエラとサリエラの視線を受け、躊躇うような素振りを見せつつも自分の意見を続けて話す。


「『ゾンビ』とハ、『動く()()』のことデスよね……?」

”まぁそうだね”


 確か『ゾンビ』って元々はどこかの宗教で出て来る用語じゃなかったっけ? こっちの世界でどうかはわからないけど、その辺は不思議大好き千夏君に聞いてみたら知ってるかもしれない。

 とにかく、ゲーム的には『動く死体(リビングデッド)』≒『ゾンビ』と考えていいだろう。

 ……あ、そうか……オルゴールの言いたいことがわかった。


”……『動く死体』ってことは――”

「あ……」


 ウリエラも気付いたみたいだ。

 そう、動く()()――つまり、もう()()()なのではないか、ということなのだ。


”い、いやでも……ゾンビ化が本当に映画の『ゾンビ』と同じと限ったわけでは……”

「み、みゅー……もしオルゴールの言う通りだったら、たとえナイアたちを倒したとしても……」


 ウリエラの心配はわかる。

 うろ覚えだけど、人類が生存するためにはある程度の人数が必要だったはずだ。それは単に労働力とかいう話ではなく、ある程度の人数――もちろん男女セットでだ――がいなければ、人類の数を増やすことが出来なくなるとかそんな話を聞いた覚えがある。

 最悪なことに、このエル・アストラエアでゾンビになっていないのは……残念だけど、おそらくこの避難所にいる巫女さんたちと婆やさんくらいだろう。

 人数も足りないしそもそも男性がいない。

 ではエル・アストラエア外ならどうかと言われると……正直望みは薄い。元々九大国がことごとく滅んでいる状態で、更にナイアたちがどこに行ったかを考えると……割とガチでこの世界で生き残っているのは、ここにいる人たちだけという可能性が高い気がする……。

 だから、仮にベララベラムを切り抜け、無事に私たちがナイアたちをこの世界から退けることが出来たとしても……この世界の人類はもう滅びの道を歩むしかないんじゃないか……。

 …………まぁピッピさえ生き残っていれば『最終手段』を取ることは可能なんだけど……それはウリエラたちには話せない内容だ。それに、できれば『最終手段』は使って欲しくはくないしね、リソース的にも心情的にも。

 でも、こちらが望む望まないに関わらず、ゾンビ化=死だった場合には――どうしようもない。

 その事実を今更ながらに突きつけられ、私たちは暗く沈むが……。


「? うにゃ?」


 なぜかサリエラだけはそんな私たちを不思議そうに見て首を傾げている。

 ……サリエラが理解してないわけないんだけど……。

 …………ん? あれ?

 そう言う私も、何かが頭の中に引っかかっている感じがある。

 えっと、何だろう……?

 自力でその引っかかりの正体に気付く前に、サリエラがさらっと言う。


「手遅れになんてなるわけないにゃー」

「なぜでショウ?」


 自分の意見を否定されてむっとしたわけでもなく、こちらも首を傾げて尋ね返すオルゴール。

 サリエラは笑って答える。


「だって、()()()()()()()のにゃら――()()()()()()()()()()()()()にゃー」

「? エっと……?」

「! そ、そうだったみゃ!」

”……あ……そうか!”


 サリエラの若干含みをもたせた言い方のおかげで、私とウリエラも同時に気付く。


”この世界の人間なら――()()()()()()()()()……!”


 そう、私の知る人間とこの世界の人間の、最も大きな違いは()()だ。

 この世界では死者は『結晶』となるのだ。映画みたいな『動く死体』になんてなりようがない。

 ……言われて思い返すと、ノワールも『ゾンビ』という概念はあんまりピンと来てない感じの話し方だったような気もする。


「そうにゃ。だから、魔法で無理矢理ゾンビ()()()感じにさせられてるだけで、ゾンビ化さえ治れば元通りになるはずにゃ」


 ……それは希望的観測を含んだものだったかもしれない。

 けど、絶望に打ちひしがれているよりは何百倍もマシだった。


”…………そうだね……サリエラの言う通りだ。どっちにしたってゾンビ化は何とかしないといけないわけだし、解決できるものとして考えよう”


 でないと流石に心が折れそうだ。

 オルゴールも少し俯いて何事か考えた後、こくりと頷く。


「了解しまシタ。ワタクシも協力いたしマス」


 彼女にも何か『裏』の思惑があるのかもしれないけど、少なくともナイアの味方ではないことは確かだ。

 こちらもジュリエッタ、ガブリエラと戦力が減っている状態だ、彼女が協力してくれるというのは非常にありがたい。


”うん、頼むよオルゴール。

 ――さて、話は戻って対ベララベラム戦とゾンビ化の治療方法だけど……”


 もしベララベラムを倒さないでもゾンビ化を何とかできる目途が立てば、かなり戦いやすくなる。

 ここは並行して考えた方がいいのではないだろうか。

 そう提案した私に対して、サリエラは少し真面目な顔で告げる。


「……ゾンビ化の治療については、あたちに考えがあるっていったにゃ。そのために――」


 と、ヴィヴィアンと――オルゴールへと順に視線を向けて続ける。


「二人には絶対にゾンビにならないように気を付けて欲しいんだにゃー」

「わたくしたち……」

「……でございマスか?」


 指名された二人は、指名の理由がわからず揃って首を傾げているが否はない。

 ふむ……?

 ヴィヴィアンについては何となく想像はつく。おそらくは《ナイチンゲール》が必要なのだろう――こと『治療』という面にかけて、《ナイチンゲール》以上の能力は私たちのチームには存在しない。

 でもオルゴールはなぜだろう? 『糸』を使っての治療は……切り傷を縫合したりとかには使えるかもしれないが、ゾンビ化の治療には使えないような気もするけど……。

 皆の疑問に答える前に、今度はウリエラが言う。


「んで、ベララベラム戦については――ブラン」

「うー……なにー……?」


 膝枕(ノワール)が無くなってしまい、硬い床の上に寝転んでいたブラン。

 相変わらずダラダラとしているけど……。

 構わずウリエラはブランに向かってきっぱりと宣言する。


「ノワールが傷を負っているこの状況で、ベララベラムとまともに戦えるのはブランしかいないみゃー。だから、ブランにがんばってもらうことになるみゃー」

「ふーん…………え、ぼく?」

”あー……まぁ確かに現状そうするしかないかもね……”


 ノワール曰く、彼女はゾンビ化しないようだった。

 となれば同じく結晶竜(インペラトール)であるブランもゾンビ化しないと思われる。

 なにせ相手に触れるだけでゾンビ化する恐れがあるのだ、ゾンビ化しないブランたち結晶竜こそが対ベララベラムの切り札となるのは間違いない。

 それに、ブランの力は『氷』『凍結』だ。傷つけずにゾンビたちの動きを封じ込めるにはうってつけの能力と言えるだろう。


”私からも頼むよ、ブラン。もちろん、私たちも援護するから”

「うぅー……ごろごろしてたいー……」


 流石にそろそろダメージも乗り物酔いも回復してきているだろう。

 悪いけどブランにも頑張ってもらわないと、誇張抜きにこの世界は『人類滅亡』してしまう。


「具体的な戦術はこれから考えるみゃ。うーみゃんもお願いみゃ」

”もちろん”


 ウリエラたちだけに任せっぱなしというわけにもいかない。

 今ある手札でベララベラム+ゾンビの群れをどうするか……なかなかの難題だが、考えなければならないだろう。


「それでゾンビ化の方なんにゃけど――」


 やや言いにくそうにサリエラは『ゾンビ化の治療』方法についての作戦を語り始める。




 ……それは、手放しには賛成できない、けれどもそれ以外に方法はなさそうな――とんでもないものであった……。


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