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8-21. BAD DREAM RISING 6. 崩壊

*  *  *  *  *




 回避する間もなく私たちは光に飲み込まれたと思ったけど――


”……生きてる……?”

「あ、あぁ」


 特にダメージもなく無事だった。

 ……あ、そういうことか。

 私たちから見えるクリアドーラの位置が変わっている。

 ということは、おそらくは『顔のない女』が私たちをワープで助けてくれたのだろう。今度はアリスだけでなく私も飛ばしてくれたみたいだ。

 さっきまで私たちのいた位置は――酷い有様だった。

 床が弾道に沿って大きく抉られ、超高温なのだろう淵が溶解している。

 直撃を受けたらどうなったのかなんて想像もしたくない……。


「ふん、避けたか。まーいいさ。てめぇらにはもう用はねぇからな!」


 クリアドーラも私たちの生存には気付いたが、言葉通りこちらには一瞥をくれただけですぐさま中央の『樹』へと向かう。


「いかせるか!」


 もう一度あの魔法が来たら、今度はかわす――アリスには防ぐ術がないので回避するより他ない――つもりで、怯まずにすぐさまクリアドーラへと突っ込む。

 位置的には私たち・クリアドーラ・『顔のない女』、そして『樹』といった形になる。

 私たちを守ってくれたのはありがたいが、ちょっとだけ距離が離れてしまったのが問題だ。

 アリスも突っ込みながら巨星系魔法を撃ちこんでいくものの、


「へっ、それで邪魔してるつもりかぁっ!?」


 クリアドーラの持つチェーンソーライフル……としか言いようのない霊装が振り回されるだけで魔法が破壊されてしまう。

 霊装がいくら頑丈とはいっても限度があるだろう……と思ってよく見ると、彼女の霊装が何やら黒い炎のような『オーラ』で覆われているのが見える。

 魔眼の力……ではないか。さっきの魔法を使う直前、「【破壊者(デストロイヤー)】」という単語が聞こえた。

 おそらくはそれが彼女のギフトなんだろう。効果は推測だけど、『攻撃の対象を問答無用で「破壊」する』……辺りか。

 それならばさっきの魔法のとんでもない破壊力も理解できる。どう考えても、アリスの神装を遥かに上回る破壊力だったし、ギフトの効果を上乗せしての威力だったのだろう。

 ……無茶苦茶な効果だし、一撃ではなくまだ効果が続いているっていうのが反則じみている。

 今まで使って来なかったことを考えると、もしかして時間制限とかがあるのかもしれない。


”アリス、あいつの霊装に気を付けて! 多分、触れただけでヤバい!”

「ああ! クソったれ、次から次へと!!」


 毒づきたくなる気持ちもわかる。

 ただでさえ強敵だというのに、魔眼の力でパワーアップ、更に(暫定)触れたものを破壊するギフトまで使える……。

 こと『破壊力』という点で、アリスすらをも圧倒的に上回る正しく『破壊王』と言えるだろう。

 その一点でこちらの行動をことごとくねじ伏せて来るというとんでもない相手だ。

 ジュウベェみたいな不死身ではないんだろうけど、そもそも有効なダメージを与えることが今までにも出来ていない。




 ……そして、一番重要なことは――ヤツが『魔眼』を持っているということだ。

 ということは、外のモンスターに取りついていた『魔眼』とも関係があるということ。『魔眼』を身に着けたクリアドーラが操られているように見えないことから、限りなく『首謀者』側の存在であるということがほぼ確定した。

 もう一つ、クリアドーラの『魔眼』を見て私は思い出した。


”ドクター・フーがどこかに隠れているかもしれない!”

「! あいつか……!!」


 何か見覚えがあると思ったけど思い出した。

 正月のムスペルヘイム戦――倒した後に現れたドクター・フーが謎の力でヴィヴィアンの動きを封じたことがあったが、その時にヤツが手にしていた宝石……あれとそっくりなのだ。

 全く同じものかどうかまではわからないけども、さっき聞こえた声……あれも聞き覚えがあったけどドクター・フーの声だったように思う。

 果たして姿を隠しているだけなのか、それともこの場にはいないのか……どちらかはわからないが、ヤツが関わっているのは疑いようがない。クリアドーラもヤツを知っているようだったし。

 ……やはり、このクエストで起きている異変にはドクター・フー、そしてその使い魔の可能性が非常に高い。

 そしてドクター・フーが関わっているということは、どうしても去年の『冥界』のことが頭を過る。

 『冥界』の黒幕の可能性が高いヘパイストス……。

 ここに来る前に楓たちに説明した通り、『眠り病』にしろこのクエストの異変にしろ、様々な事柄がヘパイストスを指しているとしか思えない。


”どうにかここを切り抜けて、ヤツの使い魔――いや、ドクター・フーに辿り着かないと!”

「そうだな! ext《赤色巨星(アンタレス)》!!」


 アリスにもわかっているのだろう。

 全ては繋がっている。

 ()()の問題を解決すれば、私たちの目的である『眠り病』の解決に繋がるって。


「ぐははっ、もう手遅れなんだよぉっ、てめぇらはっ!!」


 《アンタレス》をあっさりと破壊しながら、クリアドーラは一直線に『樹』へと向かう。

 進路を妨げるように『顔のない女』もワープ攻撃を繰り出すけど、ほんのわずか進路を逸らさせる程度にしかならない。

 まずい、このままだと向こうの方が先に『樹』に辿り着いてしまう……!


「もう一度……ext《天狼脚甲(スコルハティ)》!」


 砕け散った《スコルハティ》を再度装着し、危険ではあるが一気に距離を詰めようとした時だった。




「!? な、なんだっ!?」


 走り出そうとしたアリスがバランスを崩し転倒してしまう。

 クリアドーラからの攻撃を受けたわけではない。

 大きく地面が揺れたせいだ。


「はっ、言ったろ。もう終わってるんだよ、全部なぁっ!!」


 地面の揺れを予測していたのか、クリアドーラはバランスを崩すこともなくすぐにまた走り始める。

 《スコルハティ》を装着したとは言え、この差は致命的だった。


「ご苦労だったな、番人さんよ!」

《アギラ――》


 同じく体勢が崩れた『顔のない女』が迫るクリアドーラへと手を掲げようとするが、それよりも早くヤツの霊装の刃が『顔のない女』の頭上半分を吹き飛ばす……。


「チッ、首落とすつもりだったが……まぁいい」


 このフロアの守護者であろう『顔のない女』がやられてしまったことにより、今度こそクリアドーラを阻むものがなくなってしまった。

 『樹』に近づくことの出来ない空間の歪曲も完全に消滅、それにもうワープでヤツを飛ばすことすら出来なくなった。


”だ、ダメか……!?”


 『封印』を守るにしても、アリス一人ではクリアドーラを止めることは出来ない。『顔のない女』の協力があってすら無理だったのだから猶更だ。

 『封印』――『バランの鍵』がヤツらの手に渡ったらどうなるのか、封じているという『ラグナ・ジン・バラン』がよみがえったらどうなるのか全くわからないが、少なくとも『眠り病』の解決には何一つとして結びつかないだろうことは予想がつく。

 でも……どうすることもできない……!


《ゼツ・テオバルト・ゼツ・ダン》

「なにぃっ!? こいつ、まだ――」


 と、そこで頭を半分吹っ飛ばされたはずの『顔のない女』が動く。

 彼女の呟きと共に『樹』を構成する『チューブ』がほどけ、何本もの触手となってクリアドーラへと襲い掛かる。

 四方八方から襲い掛かる触手だが、それだけでクリアドーラが止められたら苦労はしない。

 突然の攻撃に驚きはしたものの、


「ハッ、この程度!」


 すぐに触手がただの『物理攻撃』だと気づいたクリアドーラは、向かってくる触手を霊装で切り刻む。

 くっ、防衛機能としては弱すぎる……! 触れたら強制ワープとかそういうものでもないようだ。

 だが切られてもすぐにそこから再生――いや、まるでギリシア神話の『ヒュドラ』のように触手の数がどんどん増えていっている?

 ……それでもわずかに前進する速度を落とすくらいで大した足止めにもなっていない……!


「行かせるか!」


 と、ここでアリスがクリアドーラへと追い付いた。

 さっきの謎の震動は気にはなるけど、その原因を探っている余裕はない。

 『樹』を構成していたチューブは既に全て解けて触手となり、クリアドーラを攻撃している。

 つまり『封印』はむき出しになってしまっているのだ。

 触手の攻撃を抜けてしまったら、それでクリアドーラに『封印』が取られてしまう。

 それだけは避けなければならない。


「どいつもこいつも……うっとうしいんだよぉっ!!」


 クリアドーラの振り回す霊装は今まで以上に注意だ。

 下手に『ヴィクトリー・キック』や神装を使ってしまったら、一瞬で破壊される可能性がある。

 接近しつつ、アリスは《剣雨(ソードレイン)》などの消費の低い連射系の魔法を放ってクリアドーラを牽制。触手の妨害を補助しようとする。

 いくら向こうが強いと言っても、手数で攻められたら全てを対処することは難しい。

 ――なんてことはなかった。


「うぜぇ!! 剛拳 《愚羅毘帝麗怒(グラヴィティレイド)》!」


 クリアドーラが吼えると共に霊装を一閃。

 向かって来ていた魔法もろとも触手を一気に薙ぎ払う。

 さっきの空間異常を無理矢理破った『重力』攻撃だ。

 攻撃の軌道に沿って空間が歪み、巻き込まれた触手たちが潰されていく。

 潰された触手は再生できないみたいだ。神話の『ヒュドラ』と同じで、焼き潰されたりしたのはどうも再生できないっぽい。

 拙い、向こうの消費がどれほどかわからないけど、このままじゃ『封印』に先に辿り着かれるのは間違いない!


《――ニム・エティン・ダン》

”え!?”

「なに!?」


 私とアリスへと向けて『顔のない女』が手を翳す。

 全くのノーマークだった! てっきりアリスに対しては攻撃してこないと思ってたのに!?

 予想外の攻撃だったため回避することも出来ず、私たちは不可知の攻撃に晒され――




”……あれ!?”


 今度は私も含めてワープさせられたのだけど、場所が予想外だった。


”『バランの鍵』!?”


 私たちが飛ばされたのは同じ封印の間内――それも、必死に守ろうとした『封印』のすぐ目の前だったのだ。


「チッ!? てめぇら!?」


 クリアドーラも私たちが移動させられたのに気付き忌々しそうに舌打ちするけど、触手によってすぐにこちらへは攻撃することが出来ない状態だ。

 でもあとほんの数十秒足らずでヤツもここへ到達するだろうことは確実だ。


《ラグナ・ジン・バラン・ノ・セル・オ・セト・ソーゴロエンタ・ニ・トムッタ、ユグドラシル・ノ・オド・テオバルト・エティン・オ・ティ・ラティ、アバド・ラティ・ユグドラシル》


 『顔のない女』の長い呟きの後……。


”『封印』が……”


 『樹』内部にあった白い光の塊が急速に輝きを失い――その中から現れた野球ボールくらいの小さな『水晶』のようなものが私の目の前へと転がってくる。

 どういうことだ……? まさか、『顔のない女』が自主的に封印を解いて私に渡そうとしている?


「――クソっ、撤退だ使い魔殿!」


 戸惑う私に対してアリスの行動は素早かった。

 すぐさま転がった『水晶』を拾うとその場から離れようとする。


「…………チッ、任務失敗か。ま、しゃーねーな」


 『封印』と思しき『結晶』がアリスの手に渡ったのを見て、詰まらなそうにクリアドーラはそう呟く。


「悪ぃな、失敗したわ。()()()()()()()()()()()

「くそっ、ヤバい!?」


 クリアドーラが呟いた数瞬後、再び封印神殿全体を激しい震動が襲う。

 今度は一回限りじゃない、何度も何度も――まるで外部から攻撃しているかのような連続した震動が襲ってくる。

 ……い、いや、これは『まるで』じゃない……!!


「間に合わない!?」


 これは本当に攻撃をしているのだ!

 天井が崩れ落ちて来るだけではない。崩れた先から赤い光線――まるで柱のような太い、巨大なビームが降り注いでくる!


”こんな……!? 『外』の敵……!?”


 まさかこんな滅茶苦茶な攻撃を仕掛けて来るようなとんでもない化物が外にもいたってことか!?

 それじゃあ、外にいる皆はどうなった!?

 外の様子を確認したくても、その余裕すらない。


「くくく……ぐはははははははははははっ!!」


 崩れ落ちる神殿。その中でクリアドーラが哄笑を上げる。

 ……イカれてる……目的とする『封印』が自分で確保できなかったからって、何もかもを――自分自身さえ含めて吹っ飛ばそうとするなんて……!

 この広間は結構深い位置にある。ここに至るまでの迷宮部分を全て崩したとしたら、とんでもない量の瓦礫になるだろう。

 如何にアリスの魔法が破壊力があると言っても、落ちて来る瓦礫を全部壊しながら地上へ到達するのは流石に不可能だ。

 その上で更に謎の地上からのレーザーが降り注いでいるのだ。

 かといって瞬間移動能力なんて持ってないし、強制移動でアリスだけを地上に送ることは出来るけど、私はここから逃げることは出来ない……いや、最悪私の命は捨てるにしても、そうなると彼女たちはこのクエストから脱出した瞬間に『ゲーム』から離脱することになってしまう。

 ……ここでアリスたちが『ゲーム』から外れてしまったら、『眠り病』の解決は不可能になる。ピッピとのコンタクトを取っているのが私たちだけな以上、他のプレイヤーが後を引き継ぐということも出来ない。


《代行者》


 崩れゆく神殿の轟音、クリアドーラの哄笑が響き渡る中――『顔のない女』の、決して大きいわけではないが、まるで頭の中に直接響くような声が聞こえる。




《――神のご加護が(ごっど・びー)あらんことを(うぃず・ゆー)




 彼女のその言葉が聞こえたと同時に、私たちの真上から赤いレーザーが降り注ぎ――そこで私の視界が一旦途切れた……。


小野山です。

第8章3節はこれにて終了となります。

次回4節は、一週間開いて3/8より更新となります。

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