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8-14. 天空遺跡の秘密 6. 封印神殿突入

*  *  *  *  *




 アドラメレクの方も心配だけど、今は皆に任せるしかない。

 ガブリエラたちの方はルージュの問題は無事に解決したっぽいし、そう時間もかからずに合流出来るはず……彼女たちが加われば、アリスが欠けたとしてもアドラメレクに対抗できる、とは思う。

 ノワールもこの後また魔眼に囚われたりしなければ何とかなるだろうし……。

 ……うん、今はアリスと一緒に『封印神殿』のことに集中しよう。


「さて、使い魔殿。どう思う?」


 《神馬脚甲(スレイプニル)》を使って山を全速力でかっ飛びながら、アリスがそう尋ねて来る。

 どうって言われても……言いたいことは山ほどあるんだよねぇ。


”……うーん、とりあえず大分『当たり』に近づいてきているかなって気はする”


 色々とあるが、結論としてはやはり私たちの当初の目的――『眠り病』を解決してあやめを助ける、というものにやはり()()が沿っているんじゃないかって思うことだ。

 『魔眼』なんていう訳の分からない存在からして異様だし、一足早く『封印神殿』へと向かったという侵略者のことも気になる。

 やはりこの天空遺跡には『何か』があるのだ。

 その『何か』が何なのかまでは不明だけど、それが鍵であることは疑いようがない。

 ……果たして最奥にあるという『封印』を守り抜くことで『眠り病』が解決するのかどうかはわからない。そもそも『眠り病』の原因も『クエストに行っているから』というのは間違いないんだけど、今のところ敵のユニットと出会っていない――オルゴールも結構アレなんだけど……嘘を吐いているんじゃなければ魔眼のことは全く知らなかったみたいだし……。


「ああ、オレもそう思っている。おそらくは、ここからが本番だ」

”……と言うと?”


 私の言葉にアリスは好戦的な笑みを浮かべつつ答える。


「ノワールのヤツが言ってただろう? 『侵略者』が先に行っていると。『眠り病』とこのクエストが関係しているのであれば、そいつこそが『眠り病』の患者――ユニットである可能性が高い」

”まぁ……そうだね”

「ふふっ、魔眼種もなかなかだが、やはりモンスターよりもユニットの方が手ごわいだろうからな」


 ……楽しみ、というわけね。

 現実世界の状況は決して油断できるものではないんだけど、その状況にあってアリスは尚も『ゲームはゲーム』として楽しんでいるみたいだ。

 さて、不謹慎だと怒るべきかどうか悩ましいところだ。

 ……まぁ今はいつも通りの態度のアリスを『頼もしい』と思っておくことにしよう。


”見えてきた!”


 そうこうしている内に、私たちの視界に『封印神殿』の姿が入って来た。

 やはり、さっき見えたヴィジョンと同じ古ぼけた石造りの巨大な建物だった。

 となると、あのヴィジョン……もしかしてノワールが私に見せたものだったりするのかな? どうもノワール自身の救出よりも『封印神殿』の方を優先して欲しいみたいだったし、それを訴えかけようとしていたのかもしれない。


「……扉が破られているな」

”うん。侵略者とやらがやったんだろうね”


 他にはこれと言って目立った破損はない。

 中に入る前にちょっと立ち止まって神殿の外観と周囲を確認する。

 天に向かって更に高く伸びる山――というかもはや『崖』だ――に抱かれるように神殿は立っている。

 ぱっと見た感じだと奥行きがそれほどないし、もしかしたら崖自体をくりぬいて作られたものなのかもしれない。山の内部まで続いていて外観からはわからないくらいの広さであるかも。


「ジュリエッタが見たら喜びそうな遺跡だな」

”確かに”


 これにはアリスも苦笑い。彼女も大分ジュリエッタの趣味がわかってきたらしい。

 名前は忘れちゃったけど、確か元の世界にも崖に幾つもの穴が掘られた遺跡――何とかの石窟寺院みたいなのがあった。それを更に大規模にしたようなのが『封印神殿』である。

 しかもロケーションは雲の上まで伸びる山の上ときている。

 何ともロマンあふれる古代遺跡だ。ジュリエッタ(千夏君)の大好物であろう。


「…………この『山』……?」

”ん? どうかした?”


 と、アリスが『封印神殿』からその裏にある『山』の方を見て怪訝そうに首を傾げる。

 釣られて私も見てみるが……うん? 確かになんか違和感があるような……?


「……いや、気のせいか。一瞬、『山』じゃなくて『枯れた樹』に見えたもんでな」

”……ああ、確かに……”


 ゴツゴツとした岩でできた山のように見えたが、言われて見ると硬い樹の肌に見えないこともない。

 枯れた、とアリスは言っているけど、どちらかというと石化、いや化石となった巨大な樹……だろうか?


「まぁ、幾らファンタジーな世界とは言え、こんな巨大な樹はあるまい」


 ――それにそこまで重要な話でもなかろう。


 そんな呟きを残しつつ、アリスは今度こそ『封印神殿』の入口へと視線を向ける。

 ……どうだろう? 確かにこの局面においてはそこまで意味はないだろうけど、引っかかるものはあるんだよね……。


”――よし、じゃあ私たちも突入しよう。侵略者はもう結構進んでいると思うし”

「そうだな。ノワールの言う『封印』とやらを守り抜かねば、話は進まぬだろうしな」


 具体的にどういうものなのか、どう守ればいいのか、侵略者に奪われたらどうなるのか……それすらも全く分からない状況だけど、ノワールと落ち着いて話をするためにもまずは『封印』を侵略者から守らなければならない。

 まぁつまり、侵略者を撃退しさえすればそれでオッケーという、ある意味ではわかりやすい展開にはなった。

 これ以上は観察に時間はかけられない。

 私たちは壊された扉から『封印神殿』内部へと向かって行った……。




*  *  *  *  *




 予想通りではあったが、『封印神殿』内部に入った途端に『ゲーム』的にはマップ切り替えの扱いなのだろう、レーダーに外の様子が映らなくなってしまった。

 これでもうアドラメレクの状態を私が確認することも出来ない。

 ……あ、そうか。そうなるとレーダー共有機能を持っているウリエラとサリエラも敵の様子がわからなくなってしまうのか……そこはもう諦めるしかないか。


「これは……」


 中に入った途端、私たちが目にしたのは――


”酷いね……”

「ああ」


 壁も床もボロボロに崩れ落ちた有様であった。

 年月が経ったことで崩れた、ではない。

 明らかに何者かによって破壊された形跡だ。


「どうやら相手はかなり凶暴なヤツのようだな」


 建物の残骸に紛れて、マネキン人形のようなものが幾つも転がっている。

 一瞬オルゴールの姿が頭によぎったが、あちらとは違いこれらの残骸は一目で『人形』とわかるものだ。

 完全に壊されているにも関わらず消滅していないということは、少なくともユニットではないだろう。


”『封印神殿』って言うくらいだし、もしかしたら神殿の守護者(ガーディアン)なのかな?”

「だろうな。で、侵略者とやらは邪魔なこやつらを破壊しながら進んでいるってわけか」


 もし私たちが侵略者よりも早く辿り着いていたとしたら、無数のガーディアンに襲われていたということになる。

 ……侵略者に感謝すべきではないだろうが、建物内でガーディアンに襲われるのは流石に厳しかったので助かったと言えば助かったか。


”急ごう!”

「うむ。……だが、この調子だと敵もまだそこまで先には進んでいないかもしれないぞ」

”そうかな?”


 ノワール救出の時に見たヴィジョンの時点で、既に神殿の扉は破られていた。

 あれからそこまで時間は経っていないが、かといって短い時間というわけでもない。

 神殿の規模にもよるけど結構進んでいるんじゃないかって私は思うんだけど……。


「……凶暴なヤツ、って言ったろ? おそらくこいつは破壊しないでもいいものも壊して進んでいる」


 いつになく真剣な表情でそう言うアリス。

 ……なるほど、言われてみれば確かに。

 ガーディアンたちはともかく、周囲の壁やら床やらは戦闘の形跡だけでは説明がつかないくらいに壊されている。

 力が有り余っているのか、とにかく目に付くものを壊しながら進んでいる――そんな印象を受ける。

 アリスの言う通りなら、この侵略者は避けられる戦いも避けず、ある意味では律儀に障害物を排除しながら進んでいると思える。となれば、歩みは思ったよりは遅いかもしれない。

 もちろん、だからと言って私たちものんびりとはしていられないんだけどね。


「気を付けろ。向こうがこちらに気付いたら戦闘は避けられぬぞ」

”うん、わかってる”


 相手がユニットだと仮定すると、レーダーには映らないのだ。

 こちらが気付くよりも早く向こうに気付かれた場合、不意打ちを受ける可能性もある。それに、建物内だし向こうが破壊の限りを尽くしていると瓦礫やらで視界も悪くなる。

 ……とは言え、私に出来ることはアリスから離れないように、そして妙なものを見逃さないようにする、くらいしかないんだけどね……。




 神殿入口の広間の奥から更に先へ。

 そこそこ広めの通路が奥へと伸びていっている。正確な距離はわからないけど、外から見た神殿の奥行きを軽く越えておりこれまた予想通り『山』の内部にまで広がっているようだ。

 あるいは、外から見える『神殿』はあくまで入口の『門』的な役割であって、本当の神殿は全部『山』の中にあるのではないか……そんな気もしてくる。


「結構複雑だな……」


 神殿内部はまさしく『迷宮』となっていた。

 通路があちこちに伸び、枝分かれしているのだ。

 レーダーのマッピング機能が働いてはくれているものの、通路の数が多くてはっきり言って逆に見づらいくらいである。


”う、これ迷いそう……”

「だな。まぁいざとなったら壁を全部ぶち抜いてしまえばよいだろう」


 幸いにも、いつかの『密林遺跡』の時みたいなオブジェクト破壊不可というような制限はついていないらしく、試しに壁を《竜殺大剣(バルムンク)》で斬ってみたところ普通に斬れた。

 だからアリスの言う通り、方向さえわかっていれば例えば《嵐捲く必滅の神槍(グングニル)》を連発するなどして一直線に穴を開けて脱出、ということも出来ると言えば出来る。


「それに――ふん、オレの言った通りだったろ?」

”まぁね。わかりやすいっちゃわかりやすい”


 侵略者はとにかく手あたり次第、としか言いようがないくらいの暴れっぷりであちこち破壊しながら進んでいる。

 行き止まりにならない限りはその破壊の跡を辿っていけばいいのだ。

 私の方はレーダーの範囲であれば行き止まりとかも先読みでマッピングしてくれているので、間違った道にはほとんど入らずに済んでいるから時間のロスも少ないはず。

 ……これなら相手に追い付くのも割とすぐかもしれない。

 そんな期待が沸き上がって来た時だった。


「! 近いぞ!」

”うん! 私にも聞こえた!”


 そこまで大きくはなかったけど、何かを破壊――いや『爆破』するような爆発音が聞こえてきた。

 侵略者に追い付こうとしているのだ。

 私たちは互いに頷き合うと口を閉じ、喋らずに音の聞こえたと思われる方向へと先を急ぐ。

 ……多少卑怯ではあるかもだけど、こちら側から不意打ちを出来るのであれば戦闘では有利になるだろう。

 相手と話し合いをする余地は今回はないと思う。

 モンスターに取りつき操る『魔眼』なんていうものを扱っているし、十中八九この侵略者は『敵』であろうと予想しているからだ。


『”アリス、多分先制攻撃して問題ないとは思うけど、一応様子を確認してからにしよう”』

『おう、わかったぜ』


 っていうか、ユニットだとしたらそもそも乱入対戦にしなければ対戦出来ないかな? まぁそれならそれで互いにダメージは通らないけど、妨害しつつ先に『封印』を目指してしまえばいいか。

 声を潜め、なるべく物音を立てないように――向こう側の破壊音が凄くてよほどの音を立てない限りは聞こえないとは思うけど――接近する。


『む、部屋か』


 薄暗い通路を進んだ先、明かりが漏れている部屋と思しきところから音が聞こえて来る。

 ……壁やらを破壊する音に混じって『オラァッ!!』だの叫び声も聞こえて来るけど……。

 部屋の入口からそーっと中を覗き込んでみると……。


『……なんだ、ありゃ……?』


 想像通り、やはりユニットと思しき人影が部屋の中で暴れ回っていた。

 襲い来るマネキン人形(ガーディアン)を拳で粉砕し、勢い余って更に床とかまでも粉砕している……実にパワフルな戦い方だ。

 ここに来るまでの間、彼女が倒していたためだろう、私たちは一回もガーディアンとは戦っていないのでどの程度の強さかはわからないけど、神殿の外側ではおそらくノワールたちが『番人』として見張っていたと思われる。となると、ノワールたちと同等の強さはあるんじゃないかとは推測できるが……まるで雑魚を薙ぎ払うかのように、あっさりとその人影はガーディアンを退けている。


「……ん?」


 あ、ヤバい。気づかれた!

 ふと振り返った彼女が、通路から覗く私たちに気が付く。

 アリスもアリスで、見つかったことなど気にもしないというように、隠れる様子もなく堂々と姿を晒す。


「なんだぁ……てめぇ……?」


 いかん、全くもって友好的な態度じゃない……。

 ギラリとこちらを睨みつけ凄む彼女は――だがしかし、その態度や戦闘力からはかけ離れた姿をしていた。

 身長はかなり低い。多分10代前半くらいだろう、ユニットにはよくある割と幼めの姿だ。

 全く手入れがされていないのであろう痛んだ金髪は足元まで伸びるほど長く、またボサボサのため左右に広がり放題だ。それがまた獅子の鬣のようにも思える。

 特徴的なのは……その幼い容姿に似合わない服装だ。

 まず着ているものがおかしい。真っ黒のコートにズボン……と一瞬思ったけど違う。

 アレは、いわゆる『学ラン』――それも、遥か昔の不良が来ていたような、改造学ラン……『長ラン』に『ボンタン』ってやつだ。

 胸元はサラシを巻いているだけで、シャツも何も着ないで長ランを羽織っている状態である。

 そして頭には同じく黒の学帽……。

 ――端的に言えば、古めかしい不良、いやツッパリ……いやそれでもまだ不足だ。アレはもはや絶滅して久しいと思われる『番長』ってやつだと思う。


「ふん、貴様がノワールの言う『侵略者』か」


 こちらを野獣のような鋭い眼光で睨みつけてくるのにも堪えず、アリスは堂々と姿を現し《バルムンク》を構える。

 うぅ、戦闘は避けられないとは思ってはいたけど……ここまであからさまに霊装を構えちゃったらどうしようもないよね……。

 アリスが構えるのを見て、彼女は嬉しそうににぃっと笑い、こちらも拳を構える。

 彼女の霊装はおそらく両拳――に嵌められた銀色の輪っか。いわゆる『メリケンサック』だろう。

 どうやらとことんまで『番長』を模したユニットみたいだ。


「あぁ? ……そうか、てめぇが俺の”敵”かぁ?」


 !?


「こっちのセリフだぜ、時代遅れの骨とう品」


 凄み返すアリス

 ……意外と性格似ているのかもしれない。

 だが、アリスに視線に『ビキィッ』と擬音が出そうなくらい、相手はキレた様子を見せる。


「”上等(ジョートー)”だよ、てめぇ……?」


 戦闘はやはり避けようもない。ていうか二人ともやる気満々だ。

 元々そのつもりだったし、何よりも()()()()()()理由が出来てしまった。


”君は……ドクター・フーの仲間か!?”


 私がそう判断した理由はただ一つ。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()――ドクター・フーと、あの時一緒に現れた『ルールームゥ』というロボット少女。それに、トンコツたちが遭遇した『ゾンビ少女(ベララベラム)』、ヨームたちが遭遇した『奇術師(ルシオラ)』『和装少女(ボタン)』と同じだ。

 辛うじてわかるのは名前のみ。

 この番長めいた姿をした少女の名は『クリアドーラ』と言う。


「あぁ!? ドクター・フーだぁ? あいつを知ってるってことは……そうか、てめぇらが()()――」


 クリアドーラの反応だけだと、ヤツの仲間なのかどうかは判別つけにくいが……少なくとも知り合いであるようだ。

 そして、ヤツの知り合いだということは――ほぼ間違いなく『敵』だと思っていいだろう。

 私の想像を裏付けるかのように、クリアドーラが更に深く構え、完全に臨戦態勢となる。


「くくくっ、詰まらねぇ『任務』だと思ってたが、てめぇらなら”愉しめ”そうだなぁ?」

「ふん、貴様もジュウベェと同じタイプか。虫唾がはしる」


 ――ああ、そうか。何か既視感があると思ったら、確かにジュウベェ(クラウザー)と同じタイプなのか。

 あいつと全く一緒かどうかまではわからないけど……その意味でも元々話し合う余地なんてなかったってわけか。


”アリス、気を付けて。あいつの能力が全くわからない”

「へっ、まぁいつものことさ。問題ねぇ!」


 それもそうだけどさ……。


「あんま”調子(チョーシ)”くれてんじゃねーぞぅ、ダボがぁっ!!」


 そう言うなり、クリアドーラがアリスへと向けて突進。メリケンサックを嵌めた拳を振るって来た……!!




 今回の『事件』において、私たち――いや、アリスにとって最大の障害となる宿敵・クリアドーラとの戦いはこうして始まったのである。


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