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7-17. 異なりし理 5. 宇宙からの来訪者?

 星明(しょうみょう)神社からの帰り道――

 桃香はあやめに連絡し、迎えに来てくれるとのことで一安心だ。……いや、あやめの車に乗ること自体が安心できるのかどうかというのは置いておいて。

 待ち合わせは桃園台南小前にしたので、そこまでは私たちの一緒に行くことに。

 ありすと桃香だけだったら流石にそれでも心配だけど、千夏君も一緒にいてくれるならまぁ安心かな。千夏君だってまだ中学生だし、私からしてみたら心配なのは変わりないんだけど……。


「んー、ピッピの話、よくわからない……」

「そうですわね。どう判断したらいいものか……」


 南小に向かいがてら、一時なっちゃんたちとともに離れていた千夏君に聞いた内容を説明する。

 千夏君もチラチラとは聞いていたみたいだけど、流石になっちゃんから目を離すことも出来ず中途半端な話しか聞けていないみたいだった。


「うーん……全部本当のことって鵜呑みにもできねーけど、嘘つく理由もなさそうなんだよなー」

「ん。もしわたしたちを罠にはめる気なら、こんな回りくどいことする必要、ない」


 今日の話の感触で、ピッピが『ラビたちが自分のことを完全に信頼してくれた』なんて考えるようなお花畑な頭をしているなら、信頼させてから罠に嵌めるという手も使えるとは思うけどね。

 ただ、彼女も自分でわかっている通り、そこまで私たちはピッピのことを『無害』だと信じたわけではない。

 まぁ話の内容はわかったし、どこか彼女も必死な様子が見えたから『手伝ってもいいかな?』くらいには思っているけど……。

 問題は話の内容そのものがちょっと『ゲーム』から逸脱しているのが不安なこと。


”正直、この『ゲーム』の『安全』って信用できないからねぇ……”


 結果的に何もなかったから本当のところはどうだったのかは今となってはわからないが、千夏君(ジュリエッタ)のことや『嵐の支配者』のような現実に影響を及ぼすモンスターの存在がどうしても頭にちらつく。

 クエストの外側に出て行って、もしそこでリスポーン待ちになった時に、果たしてクエスト内と同じように復活できるのかどうかわからない。

 復活できないだけならばまだしも、それで現実の肉体にも影響が出て来やしないか、ってのは本当に不安だ。


「でも『報酬』はちょっと気になるかな」

「あら? 千夏さんは気になりますのね?」

「そりゃな。残り二か月半ってのが本当だとしたら、今のペースだと結構キツイんじゃねーか?」

「ん……」


 これから毎日、学校とか関係なく『ゲーム』をひたすらやり続けるのであればクリアできるかもしれないけど、そういうわけにはいくまい。

 それにピッピの言葉によれば、モンスターを倒し続けるだけでは勝利条件は完全には満たすことは出来ないらしいし、他の特殊な条件については私たちには全く手がかりがない状況だ。

 無駄な時間を費やして期限切れになって終わり、という終わり方は流石に嫌だしね……。

 ありすの気持ちもわかるけど……うーん、難しいところだ。


「まぁ、しばらく考える時間はあるんだし、今結論を出さなくてもいいんじゃねーか?」

”そうだね。これについてはもうちょっと皆で考えてみよう”


 もし三人が私に判断をゆだねる、となっても相談は続けるつもりだけどね。




 そうこうしているうちに、南小前に到着。

 少し待っているとあやめの車がやって来た。

 ……前は異様なノロノロ運転だったのに、何か今日はやたらとスピードが速い……逆に怖くなってくるスピードだ。


「お待たせしました。

 ありすさんと蛮堂さんも送りますよ?」


 と、心からの親切心で言ってくれているであろう申し出を丁重に断り、桃香を車に乗せて私たちは徒歩で帰ることにした。

 ……荷馬車に載せられる子牛よりも悲しそうな目でこちらを見る桃香に手を振って別れる。

 …………いや、だって安全には代えられないし。双方とも。


「……それでは蛮堂さん」

「っす」

「ありすさんのことをよろしくお願いいたします」

「はい。了解っす」


 おや?

 まぁここからありすの家はすごい近いけど、千夏君が送ってくれるというのであれば更に安心だ。

 逆に千夏君の帰りが少し遅くなってしまうことの方が気になるくらいだけど……。

 何だろう、今のあやめと千夏君のやり取り……?


「ほれ、行くぞ」

「ん」


 とにかく家に帰るか……。

 千夏君に促され、私たちも恋墨家へと帰ろうとする。


「……そーいや、おまえん家ってどこにあるんだ?」

「このすぐ近く。学校の裏にある……」


 送ってもらうほどの距離でもないといえばないんだよね。

 まぁ千夏君の家から見ると回り道ってほどの回り道ではない。多少遠回りになるくらいか。


「そうか。……うーん、俺が家まで行くの、嫌じゃないか?」

「ん? 別に……」


 ありすは全く気にしていないようだ。千夏君の方がむしろ気にしているくらいだ。

 確かに『ゲーム』では接点あるとはいえ、他人には説明しづらい間柄だし、『ゲーム』以外では全く接点がない二人だからねぇ……。

 周りからしてみたら、見知らぬ男子中学生が女子小学生の家に……って見えちゃうし、千夏君が気にするのも当然と言えば当然か。


「……まぁ、ちょっと今回は嫌って言われても近くまでは送っていくつもりだったけどな……」

”ん? 何か理由あるの?”


 彼の性格からして、ありすに『嫌』って言われたらそれ以上押すことはないと思える。

 でも、今回に限ってはそうではないようだけど……何かしらあるのだろうか?


「あー……実は今日集まる前に、あやめさんからも言われてたんすけど……」


 少し言いにくそうに千夏君が言う。

 ちなみにあやめはもちろん今日の集まりのことは知っているし、最初は自分も参加すると言っていたんだよね。

 ただ今回はピッピにもしかしたら警戒されるかもしれない――特にあやめは別の使い魔のユニットなのだ――ので桃香の迎えだけお願いしていたのだ。

 で、今日の話は知っているので千夏君に何かしら予め連絡を入れていたみたいだけど……。


「うーん……よく考えたら、ありんこの前で話すことじゃない気がしてきた……」

「……なつ兄、隠し事はよくない」


 言いつつちくビームで攻撃するありす。

 それを払いのけつつ、渋々といった様子で千夏君は理由について語る。


「その……つい最近、何日か前に北尚武台の方でちょっと事件があったんすよね。俺もあやめさんに言われるより前に、地元ニュースで見たんすけど」


 北尚武台というと……(らん)の『らぁめん屋』よりも更に奥に行った先だ。この間、あやめと一緒に彼女の同級生を送っていった方だな。

 確かヨームが以前『ゲーム』の範囲が北尚武台辺りまでと言ってたっけ。

 ここからだと歩いて行けない距離ではないが、子供の足ではかなり時間もかかるし現実的ではないかも。せめて自転車に乗っていかないと厳しい距離だろう。


”事件?”

「ええ。その、ちょっと言いにくいんすけど……夜中に女子高生が襲われたって」


 ……っ、そ、それは確かにちょっとありすがいる場では言いづらいな……。


「あやめさんはそこそこ近い場所で事件が起きたことを心配していて、もしあやめさんが迎えに来れない場合は俺に頼む、って連絡してきたんす」

”なるほど……確かに心配だね……”


 ありすや桃香もそうだし、あやめ自身だって心配だ。

 私の知り合いでも、嵐なんて諸に尚武台方面に住んでいるし、あやめの同級生たちもあっちに住んでいる子がいる。


「ん……そういえば、先生が変質者がいるから気を付けなさい、って言ってた気がする」


 こっちの小学校でも話に上がっているか。まぁ事件そのものが無くても、今時の学校なら皆そういう注意はするだろうけどさ。


「んー、でもちょっと変な事件なんすよね……」


 ……ありすの前では話しづらい、という自覚はあるが気になることがあるのか千夏君は首をひねっている。

 そうだった。千夏君、古代遺跡とかのロマンも好きだけど『怪事件』とか『未解決事件』とかも好きなんだった。


「どう『変』なの?」

「いや……その襲われた女子高生なんだけど、財布と服を奪われたって話なんだよな」

”…………んん? 服??”


 財布はまぁわかる。

 服については……私が想像した『襲われた』っていう状況とも少し違うようだ。千夏君は『奪われた』と言っている。


「……泥棒?」

「っていうか、強盗だな。で、どうも犯人は『女』だって証言しているらしい」

”……奪衣婆(だつえば)じゃないか……”


 何だ、北尚武台は地獄の入口なのか……? っていう不謹慎な冗談は心の中に留めておくとして……。

 少し前に尚武台から北尚武台の方にかけて少し治安が悪くなっている、という話は聞いたけど……女の強盗が女子高生から財布も服も盗んで行ったということか……?


「でさ、ここからはローカルニュースには載ってなくて、被害者の知り合いから何か色々と回って来た『噂話』なんだけど……」


 千夏君も一旦話し始めたら止まらなくなったのか、出どころの怪しい『噂話』まで始める。

 ……彼も結構お喋りなところあるなぁ。まぁおかげで話しやすいといえばそうなんだけどさ。


「その女子高生、まぁあんま素行がいいわけじゃなくて夜中に一人でふらふらと出歩いてたんだと」

”……”


 一瞬、襲われたのも自業自得と言いたくなったけど、やめておこう……。


「それで北尚武台――っていうかそれよりちょっと北の方に、『自然の森』って公園があるんだが……知ってるか?」

「んー、前に行ったことがある」

「そうか。俺もガキの頃に何度か行ったくらいかな。まぁ夜中に普通は行かねー場所に、そいつは行ったらしい。

 ……で、そこで()()んだと」

”……え? な、何を……?”


 何か急に怪しげな話になってきたぞ……?

 千夏君はニヤッと笑って続ける。


「UFO……としか言えない、変な光が見えたと」

「……むー、強盗の次はUFO?」


 どうやらありすはUFOは特に信じていないみたいだ。

 それにしても奪衣婆にUFOかぁ……何か話が取っ散らかっているなぁ。

 ……と思ったら、話には続きがあるようだ。


「いや、まだ続きがあるんだ。

 何でも、()()U()F()O()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()――って言っているらしい」


 ――はぁっ?


「……宇宙人の強盗……?」

「どこまで本当かわからねーけどな。所詮噂話だし」

”むぅ……”


 奇妙な話だ。

 だが一つ確かなことは、財布と服を奪われるという強盗事件は起こったということ。これは事実だろう。

 ……で、犯人が宇宙人かどうかはともかく、『女』であることもおそらく事実なんだと思う。

 どうして財布だけでなく服まで――言葉通りの『身ぐるみ』全部剥いでいったのかまではわからないが……『噂話』によると、『裸の女』に襲われたっていうし、そのために服を奪われた……? じゃあその裸の女はどこから現れた……? 何で裸なんだ……? とか色々と謎がある。


「まー、そういうわけでおめーをしっかり送ってく、って話よ」

「ん、わかった。ありがと、なつ兄」

「やっぱ、あんまり遅い時間に集まるのは止めた方がいいっすね。次ピッピたちと顔合わせる時は、土日の昼間に時間作って……とかの方がいいっすね」

”だね。まぁピッピも今回は急いでいたみたいだし……”


 向こうだって女子中学生と3歳児なんだ。あんまり遅くに外を出歩くのはよくないだろう。特に3歳児のなっちゃんなんて、親にも心配をかけていないかどうか……。




 そんな話をしている内に、恋墨家まで特に何事もなく到着。

 そこで千夏君とも別れる。


”うーん……なんか物騒だねぇ……”


 北尚武台ということはそこそこの距離はあるけど、近場と言える程度の距離でもある。

 私たちの住む桃園台の方にも強盗犯がやってくる可能性だったありえるのだ。


「……ん」


 わかっているんだかいないんだか、いつものぼんやり顔のままありすは頷くのみであった……。


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