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7-16. 異なりし理 4. 合理と道理

 ……やはりか。

 まぁそれもピッピの自己申告を信じるならば、だけれど……。

 というか、『ゲーム』の期限については私が知らないだけで他のプレイヤーは実は知っていることなのかもしれない。


”残り二か月半くらいで、『勝利条件』を自力では満たせない――そのための時間がないってことか……”

”そういうことよ。

 もっと細かく言うと、去年の8月半ばにスタート……9月いっぱいまでは猶予期間として、10月からが本格的な『ゲーム』の期間ということになっているわ。だから、『ゲーム』の期間は正しくは半年間ということになるわね”


 去年の10月までは猶予期間……お試し期間みたいなものかな? あるいは、本格的にスタートする前の『バグ探し』の期間だったのかもしれない――いや、まぁ本格スタートした後も結構バグあったけど。

 10月っていうと対戦機能が追加された時か。

 ……なるほど。プレイヤー同士の『蹴落とし合い』が可能になったタイミングがなんであんなに遅かったんだろうと思ってはいたんだけど、正式なスタートが10月からだったからなのか。

 まぁ猶予期間と言われてても、私たちはその時点で既にレベル5のモンスターに挑んだりしていたわけだが。改めて考えると、確かにいつだったかトンコツ辺りが言ってた通り、私たちの進行速度は速すぎだな……。


「……んー……」


 ありすも残り時間が短いということで、若干渋い顔で悩んでいる。

 ピッピの言葉を信用するなら、そもそもの話として『クリアされることを想定していない』、言い換えると『クリア不可能』なはずの『ゲーム』なのだ。

 ……久しぶりにこれ言うけど、マジで『クソゲー』だな……自称・開発者がいる手前口には出さないけどさ……。


「あの、ピッピ様。わたくしからもよろしいでしょうか」

”なに、桃香ちゃん?”

「今年の3月末――わたくしたちが進級するまでが期限というのは、とりあえず理解いたしましたわ。

 それで……期限が来た後、どうなるのでしょうか?」


 どうなるって……『ゲーム』が終わるだけでは……。


「――いえ、はっきりと尋ねましょう。()()()()()()()()()()()()()()のでしょうか?」


 ……あ。


”うーん……はっきりとしたことはわからないけれど――というか、まだ完全に決まったことではないから断言はできないけど、しばらくの間……そうね、おそらく一か月程度は何も変わらないと思うわ。

 なぜかというと、『ゲーム』終了からしばらくの間は各プレイヤーの結果の集計を行う必要があるからね。今のところ、その集計期間には自由にクエストに挑むことが出来るようになる予定よ――まぁその期間にどんなクエストをクリアしても、三月までの結果だけで集計することにはなるけど”


 ピッピの答えは桃香の質問に対しては明確に答えていなかった。

 ただ、一か月程度は『ゲーム』が終わっても猶予がある――あくまで予定らしいが――らしい。

 ……そっか、私も半ば忘れかけていたけど、この『ゲーム』が終わった後に私がどうなるかは全くわからないんだよね。

 ピッピやトンコツたち『正規の』プレイヤーはおそらく元の世界に戻ることになるとは思うけど、訳も分からずこの『ゲーム』のプレイヤーとなった私がどうなるかは想像もつかない。

 そういう意味で言えば、ピッピにだってわからないのかもしれない。


”桃香、今は私のことは考えないでおこう。ありすも。

 ……でも、心配してくれてありがとう”

「ラビ様……」

「ラビさん……」


 二人とも何かを言いたげにしていたものの、最終的には頷いてくれた。

 『ゲーム』がいつ終わるかなんて今まで考えもしなかった――確かに『クリアする』というのが私たちの目標だったけれど、どうすればクリアできるかもわかっていなかったしまだまだ遠い未来のことだと無意識に思っていたのかもしれない。

 でもピッピの言葉を信じるとして、残り時間は意外と短い。


”今は、『ゲーム』について集中しよう。残り時間がわかったっていうのは、ある意味で良かったよ……ダラダラと『ゲーム』を続けるだけで、期限内にクリアできなかったってなるのはちょっと嫌な終わり方だしね。

 だったら……クリアした後のことはその時に考えるとして、今は『ゲーム』クリアについて考えよう。その方が()()()だと思うし”


 まー私がどうなるかなんて、本当に誰もわからないことなんだろうし……それについてあれやこれや考えるのは今は時間の無駄だと私は思う。

 まずは私たちの目標である『クリア』について考えた方が合理的ってもんだろう。

 ……でもなぜだろう、ありすも桃香も私のことを非難するかのような目で見ている……。


”……私が言えた義理ではないでしょうけど、あなたも大概ね……”


 ピッピにまで何か呆れられてしまった!?


”え、えーっと……。

 ……話を戻そう。『ゲーム』の期間が三月末までというのを信じるとして、そこまでにクリアできないっていうのは……?”


 明らかに誤魔化しているけど、強引に私は話を元に戻そうとする。

 私の意図はわかっているだろうけど、ピッピはそれにのってくれる。


”勝利条件のうち一つは、さっきあーちゃん……ありすちゃんが言った通りの方法で解決できないこともないわ。とにかく出て来るモンスターを全部倒していけば、というやつね。

 別にそんなに隠すようなものでもないし、おそらくあなた以外のプレイヤーは知っているから教えてあげるけど、『モンスター図鑑に登録している数』が多ければ多いほどポイントが高くなるわ”


 ポイント……つまりは、この『ポイント』を全プレイヤーで比較して、高い方が勝者となるのかな? まぁこれは何となく予想はしていた。

 確かにありすの言う通り、全部のモンスターを倒す勢いで戦っていけばモンスター図鑑はかなりの数が埋まることになるだろう。


”でも、モンスターにも『(ランク)』があるわ”

「ん、レベルのこと?」

”完全にイコールではないわ。確かにレベルが高ければそれだけ格付けも高い、と言えるけれど……そうね、いわゆる『ボスモンスター』と言えばいいのかしら? そういうモンスターが存在するの”

”普通のクエストに出て来る、群れの中のボスとかそういう意味ではないんだよね?”


 どちらかと言えば、RPGとかで敵に出て来る『四天王』とかそういう感じの意味なんだろう。


”そうね。詳細は今は教えられないけど、ある特殊な条件で出て来るボスモンスターが何体かいるわ。そして、それらの先に待つもの――いわゆる『ラスボス』もいる。

 そうした『大物』を倒せれば、モンスター図鑑の数がそこまで揃っていなくても高ポイントを得ることが出来るわ”

”……逆に、『大物』を倒さず、他のプレイヤーが倒しているとそこで逆転されかねない、か……”

”もちろんモンスター図鑑以外にも幾つかポイント――というかクリア条件となるものもあるけどね”


 理屈としては納得のいくものだ。

 まぁ他のプレイヤーに『勝つ』こと自体は私たちの目標には含まれていないが、『ゲーム』クリアが勝者となることとほぼイコールと言う話だし……いずれ私たちは『ラスボス』に挑む必要がありそうだ。

 そして、そのラスボスに挑むためには普通にやっていたのでは時間が足りないということか。

 これ以上聞き出すには、私たちが報酬を受け取る前提でないと流石に無理かな。


”ピッピの出せる『報酬』についてはわかったよ。正直、即答するのは難しいからもう少し考えさせてほしいかな”

”もちろんよ。……ただ、そこまで時間に余裕があるわけでもないから、なるべく早くに返答はいただきたいわ”


 ありすはさっき即答で『いらない』とは言ったものの、『ゲーム』の期間が残り二か月半くらいしかないことを考えると……ちょっと悩ましい報酬であることは確かだ。

 ピッピは急いでいるようだけど、言葉通りすぐに頷くことは出来ない。やはり一度持ち帰ってありすたちと相談したいかな。


”で、話を更に戻すんだけど、急いでいる理由の二つ目は?”


 元々その質問に答えるためには『報酬』についての説明が必要だと言っていた。

 報酬の話が長くなってしまったのでここで軌道修正しておこう。


”さっきも言った通り、『ゲーム』の期間は残り二か月半程度しかないわ。それは言いかえれば、私たちがユニットの力を使って戦えるのも二か月半ということになる”

「で、でも先程はその後も一月ほどは猶予があるとおっしゃっていませんでした?」

”確実ではないわね……まぁ多分大丈夫だとは思うんだけど……”


 開発者ではあるが、そこについては断言できないらしい。

 まぁどちらかと言えばそのあたりは『運営』の方の話になるだろうしね。それに、ピッピもこちらの世界に使い魔として現れている以上、元の世界の方と話をすることは出来ないのかもしれない――前にトンコツに眠る方法を聞いた時、『ログアウトできない』と聞いたので基本的にはこちらの世界にいるはずだ。


”わかった。つまり、ピッピはユニットの力が使えるうちにヘパイストスとの問題を解決したい。だから急いでいるってことだね”

”そういうことになるわ。このことについてはおそらく向こうも予想しているはず……だから、二か月半のうちに決着をつけるため動くと思うわ”

「……期限切れまで逃げられたら?」


 ヘパイストスがちょっかいを出さなくなるのであればそれはそれで良さそうだけど、『ゲーム』終了よりも後になってからまたちょっかいをかけ始めてきたらどうするか?

 確かにピッピ側がユニットの力を使って対抗しようとしているのがわかっているのであれば、相手にせず逃げ回るというのは賢い手だろうと思う。正に『相手の嫌がることをやる』の典型だ。


”いえ、おそらくそれはないわ――理由は全部は説明できないけど、『ゲーム』が終わった後にヘパイストスがこちらに手を出すことはかなり厳しくなっているはずなの。

 だから、向こうも『ゲーム』の期間内に決着を付けたいはずなのよ……皮肉なことにね”


 何ともまぁ、お互いに面倒な状況になっているみたいだ。

 根拠は置いておいて、ピッピとしては『ゲーム』の期間が終了さえすれば本来はヘパイストスを気にする必要はなくなる。なので、『ゲーム』の期間内をどうにかやり過ごせれば本来は良かった。

 対してヘパイストスは、ピッピがユニットの力を利用しようとしていることがわかっていても、『ゲーム』の期間内にどうにかする必要が出て来てしまった。

 結果として、二人は残り二か月半という短い時間で全ての決着をつけざるをえないという状況に陥ってしまっているのだ。


”話すことが出来ない系が多いのは、まぁもうしょうがないとして……うーん……”


 片方だけの言い分を聞いて、もう片方を倒す手伝いをするってのにはちょっと引っかかるところがある。

 でもヘパイストスに関しては『冥界』の件もあるし、正直『実はいい人だった』ということはなさそうな感じはするんだよね。もちろん今時点での私の感想に過ぎないけど。


”……わかった。さっきも言ったけど、ちょっと即答は出来ないから考えさせてくれないかな?”

”ええ、それはいいわ。ただ……私もさっき言ったけれど、余り時間に余裕はないと思うわ。出来れば……来週か再来週には返事をいただきたいわね”

”う、うん……”


 何か私の予想よりもちょっと余裕があるくらいなんだけど……まぁそれはそれでありがたいが。


”それで――ラビたちが私に協力してくれるというのであれば、一つお願いがあるの”

”なに?”


 この上さらにお願いがあると来たか……まぁ協力するのであれば、という条件だしこれも聞くだけ聞いておくか。


”出来ればでいいのだけど、四人目のユニットを入れて欲しいのよ”

”四人目を?”

”ええ。理由は単純で、戦力を少しでも増やしたいからね。他にも協力してくれる人はいるけれど、ラビなら今から新しいユニットを増やしても育てる余裕があるでしょう?”

”うー……そうだねぇ……”


 わからないでもないけど……。

 うーん、でもあんまりこの『ゲーム』に関わる子を増やしたくないという思いは今も変わらないしなぁ……。

 確かに一人ユニットが増えたとしても、ジェムには相当な余裕があるしステータスだけならアリスたちに追い付かせることは出来るっちゃ出来る。


”……そっちについてはちょっと難しいかな……? まぁ、考えておくよ”


 きっぱりと断るのはとりあえず避け、大人の言い回しで濁しておくこととする。

 ……まぁピッピなら私の言外の思いは汲み取っているだろうが。


「……四人目と言えば、ピッピのところ、あと一人いるはず……?」


 ありすが尋ねる。

 ああ、そういえばそうだったっけ。昨日の対戦も結局ガブリエラ・ウリエラ・サリエラの三人しか出てこなかったから忘れかけてた。


”そうね……”

()()()、恥ずかしがり屋だから」


 最初の対戦の時もそんなことを言ってたなぁ。

 今回は現実世界で会うわけだし、猶更か。


「にゃはは。でも、バンちゃんがいるってわかったら気が変わるかもしれないにゃー」

「ん? 俺? ……もしかして知り合いなのか?」


 こちらの話が一段落するのを横で聞いていたのだろう。

 なっちゃんとの遊びを切り上げ、三人もこちらの会話へと混ざる。


「ううん。バン君と会ったことはない……はず」

「まー、あたしたちが家で話してるからバンちゃんのことは知ってるにゃ」

「んん? 家でって……おまえら他に兄弟いたっけか?」


 そうか。千夏君は二人と小学校から同じだったし、クラスも同じだったことがあるっていうからある程度は家族構成も知っているのか。


「弟が一人いるにゃー」

「……正確には従弟(いとこ)……だけど、弟みたいなもの」

「へー。そりゃ知らんかった」


 ふむ。従弟ではあるが、二人の口ぶりからしてどうやら一つ屋根の下で暮らしているっぽいな。

 で、その子もユニットなんだけど……男の子だし抵抗があるんだろうな、きっと。千夏君だって吹っ切っている――というよりはもう開き直っているだけみたいだし。

 でも千夏君=男の子もユニットをやってる、って知ったらもしかしたらその子もやる気を出す……いや、他のユニットの前にも現れる気になるかもしれない。そういうことを椛は言っているみたいだ。

 別に無理して現実で会う必要はないとは思うけどね。


「……まぁ、あの子の場合はあーちゃんたちが……」

「ん?」

「何でもないにゃ~」


 ……?


”とりあえず、伝えたいことは伝え終わったわ。今日はもう時間もあれだし、一旦解散しましょうか”

”そうだね”


 ちょうど18時になろうかというところ。確かに今日のところはここで終わった方が良さそうだ。

 ピッピ的には本来の目的であった私たちへの要望――あるクエストへと赴き、そこから外側へと出てヘパイストスと戦ってほしい――を伝えられたし、私たちとしては元々ピッピが何を考えているのかを知りたかったので、彼女の考えを知ることが出来たのは良かったと思う。

 これ以上遅くなると、ありすと桃香はかなり問題だ。一応、今日は遅くなるとは親には伝えてはあるけど……。


「ん、今日は――無理そう」

「ですわね♡」


 何が無理かって、この後家に帰ってからの対戦のことだ。

 見ると、椛に抱かれたなっちゃんが大分うとうとと眠そうにしている。


「にゃはは。バンちゃんといっぱい遊んでお眠になっちゃったかにゃ~?」


 そんなに長い時間千夏君に遊んでもらったわけではないとは思うんだけど、どうやら割と体力の限界まで遊んでいたようだ。

 ……実は話の間、特に触れはしなかったけど結構うるさかったんだよね……子供らしくて微笑ましいとは思うけど。

 3歳児ならもう夕ご飯を食べて早めに寝てもおかしくない時間……だとは思う。

 どうやら、初日の対戦の時もなっちゃんは彼女にとって相当遅い時間まで起きていたんだろう――昼寝とかを考慮してもかなり遅い時間には違いない――事情を知らなかったとはいえ、悪いことをしたかな……。


”なっちゃんも眠そうだし、解散しよう”


 『ゲーム』をするのであれば、今回はピッピたち抜きで私たちだけでクエストに行くことになるかな。




 こうして私たちはピッピたちとの面談を終え、帰路に着くのであった。


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