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7-13. 異なりし理 1. 星見座の姉妹

*  *  *  *  *




 とりあえず学校内で待機していたありすと桃香も呼び出し、私たちは全員集合することとなった。

 二人が来るまでの間に千夏君に聞いてみたところ、コンビニで待機していた時に星見座(ほしみくら)の双子の姉――楓と出くわし、そのままこちらに連れてこられたようだ。

 やはりと言うべきか、向こうはこちらのことを既に知っていたらしく「下手人確保」とかよくわからないことを言いつつも、楓は千夏君を連れて来たらしい。

 で、もう一人の双子・(もみじ)の方はというと、小さな女の子と一緒に校門前に集合する予定だったらしいが、この子が一人で先に行ってしまって慌ててピッピと一緒に駆けつけてきたということだ。


「……ん、その人たちが……」

「あら? 確か星明(しょうみょう)神社の……?」


 そっか、お正月にはありすはいなかったけど桃香は彼女たちに会っているか。


「ほら、なっちゃん。ご挨拶は?」


 うーたんうーたんと私に抱き着いていた女の子は、千夏君やらありすたちやら見知らぬ人間が増えたためか椛の後ろへと隠れてしまっている。

 でも、興味ありそうにチラチラとこちらを覗き込んでは恥ずかしそうに笑っている。

 ……ほんと、ほっこりするかわいらしさだ。


「…………あーたん?」

「……ん?」


 椛に促された女の子だったが、ふとありすへと視線を向けると不思議そうに首を傾げながらそう言った。

 『ありす』だから『あーたん』ってことかな?

 ……あれ? いや、まだありすは名乗っていないはず……?


「にゃはは。そうにゃ、あの子が『あーたん』にゃ」

「あーたん!!」


 椛が(なぜか)肯定すると、女の子はぱぁっと笑顔を浮かべてありすの足元に駆け寄る。


「ん……」


 普段から接触の無い小さな子に纏わりつかれ、ありすも困惑気味だ。


「まぁ♡ とっても可愛らしい子ですわね♡」


 困惑するありすに助け船を出すように、桃香が女の子へと目線を合わせるように屈んで頭をナデナデする。

 ……子供嫌いじゃなかったんかい……いや、いいけど。


「お名前は?」

「んー、なっちゃん!!」

「なっちゃんさんはいくつですか?」

「んーと…………みっつ!!」

「うふふっ♡ ちゃんと言えましたね、えらいえらい♡」

「んふー」


 ニコニコと笑顔を浮かべて頭を撫で繰りしてくる桃香に、褒められてご満悦の女の子――『なっちゃん』。

 自己申告が正しければ3歳ってことか。赤ちゃん……って言うほどじゃないけど、予想通り本当に小さな子だったみたいだ。


”えーっと、どうしようか、ここで話すのもちょっとアレだけど……”


 放課後も過ぎて学校内から生徒が出て来ることはないけど絶対ではない。

 それに屋外なので寒いし……私やピッピは平気だろうけど。


”そうね。場所を用意しているから、そっちに移動してから続きは話しましょう”

「飲み物もある」


 そう言って楓の方が手に持ったビニール袋を掲げて見せる。

 千夏君と会ったコンビニで買ったものらしい。


「にゃはは。着いてくるにゃー」


 どうやらピッピたちの方で場所を確保しているみたいだ。

 私たちは彼女たちに着いて行くことにした――流石にもうお互いの顔を見ているし、何よりも千夏君の知り合いなので妙なことをしてくることもないだろうと思うし。




*  *  *  *  *




 半ば予想はしていたが――


「さ、どうぞ」


 私たちが案内されたのは『星明神社』であった。

 あまり大きくない社の横にある建物――社務所とでも言うんだろうか? そこが一応居住スペースのようになっている。

 とは言ってもここで普段暮らしているわけではないのだろう。漫画とかで見る、『宿直室』みたいな感じで一時的に休むだけの部屋っぽい。流し台とかはあるけれどお風呂はない。


「ん、お邪魔します」

「お邪魔しますですわ♡」


 私たちが案内された部屋は8畳間程度だろうか。一部屋としてはそれなりの広さではある。

 机は端に片されており、予め人数分の座布団が車座に置かれていた。まぁ今更だけど、やっぱりピッピたちの方は私たちのことを把握していたらしい。


「じゃあ、適当に座っちゃって」


 いつもの語尾に『にゃ』を付けない椛がそう言う。……何だろう、こっちの方が普通だというのに、なぜか違和感があるや……。


「にーたんにーたん!!」


 楓と椛が人数分のコップを用意してコンビニで買ってきた飲み物と配ろうとしている間、私たちは座って待つことにしようとしたのだが……。

 『なっちゃん』が激しく座布団をバンバンと叩いて『にーたん』を呼ぶ。


「…………俺?」

「にーたんはここ!!」


 どうやら千夏君のことで合っているようだ。この場に『にーたん』――『兄たん』に該当するの、千夏君しかいないしね。

 なっちゃんはある席に千夏君に座ってもらいたい、と激しく主張している。


「……まぁ、いいけど……」


 正直これが楓や椛だったら――彼女たちの人格がどうこうよりも、そういう知恵がある年齢という意味で――何かしら罠やらを仕掛けないこともないんだろうけど、なっちゃんだしなぁ……3歳児に『いたずら』以上のことは出来ないと思う。

 戸惑いつつも千夏君が言われた座布団に胡坐(あぐら)をかいて座る。


「あーたんはこっち!!」

「ん……?」


 千夏君から見て右隣の座布団をバンバンして、今度はありすを。


「ひめたんはこっち!!」

「はいはい♡」


 左隣をバンバンして桃香を。

 ……桃香も今は珍しく――と言っていいのかよくわからないが、『お姉さんモード』になっているらしく、なっちゃんにデレデレだ。可愛いもんね、仕方ないね。


「うーたんはこっち!!」

”うわっ!?”


 油断していた私をなっちゃんが抱きしめる。

 そして――


「なっちゃんはここ!」

「おぅふっ!?」


 私を抱きかかえたまま、千夏君の膝の上へとダイブする。

 不意打ち気味に乗っかって来たため千夏君も呻いたものの、そこまで大きなダメージを受けたわけでもないみたいだ。


「……むふー」


 そしてなっちゃんはというと、ものすごくご満悦そうな顔だ。

 …………この子、フリーダムすぎる……!


”もう……撫子(なでしこ)ったら……”


 はぁ、とピッピはため息を吐くものの、なっちゃんを咎める様子はない。


「こーら、なっちゃん。いきなり乗ったらお兄ちゃんがびっくりするにゃ。ちゃんとお膝にのせて、ってお願いしてからにゃ!」


 こちらの様子に気付いた椛がなっちゃんをたしなめる。

 ……また語尾が『にゃ』になってる……?


「……にーたん、なっちゃんのせて?」


 椛に言われて、もう膝の上に乗っているものの、千夏君の顔を見上げて可愛らしくおねだりする。


「……ああ、わかった。いいぞ」


 色々と複雑そうな顔をしたものの、ここでなっちゃんを振り払えるほどの度胸は千夏君にはないらしい――いや、むしろ乗せて上げる方が正しいと思うけどさ。

 千夏君本人の許可は取れた、と言うことでなっちゃんは堂々と千夏君を座椅子にして、私を抱きしめてくつろぎモードに入る。


”さて、それじゃあ全員揃ったことだし……始めていいかしらね?”

”……そうだね”


 なっちゃんには突っ込むだけ無駄だろうとピッピも私も諦め半分だ。

 まぁ、敢えてここでなっちゃんをどうこうする必要もないだろうし……話を聞くだけなら私が聞いておけば済むことだ。


”まずは改めて自己紹介を――”

「あーたん、あくす!!」

「……?? ん、握手……?」


 さぁ話を始めようかという時に、なっちゃんが身を乗り出して右隣りのありすへと手を差し出す。

 どうやら握手を求めているらしい。


「にゃはは……なっちゃん、今『握手』がブームみたいにゃー。

 ……ごめんね? 一回握手してあげれば満足してくれると思うから、あーちゃんお願い出来ないかな?」

「ん」


 別に握手くらいは構わないのだろう、ありすは頷くとなっちゃんの手を握り返す。


「んー!! んー!!」

「……」


 ……と、ありすと握手したなっちゃんは、必死に手に力を込めているようだ。

 だけど悲しいかな、3歳児の握力ではどうにもならない。

 力いっぱい握り返すわけにもいかないし、ありすもどう対応したらいいのか困惑している。


「…………もしかして、ガブリエラ?」


 困惑しつつ、ありすが椛たちへと確認する。


「いえーす」

「にゃはは……」


 ……そっかー……まぁそんな気はしてたけど、どうやらなっちゃんがガブリエラの正体だったみたいだ。

 でもそう考えると色々と腑に落ちることはあるんだよね。

 見た目の大人っぽさとは真逆の行動とか、中身が3歳児だと思えば色々と納得はいく。

 初対面の時の握手も『悪気があって』やったわけではないのだろう――本当に、邪気もなくなっちゃんの時のノリで握手をしたものの、パワーだけはガブリエラなのでアリスの手を握りつぶしそうになってしまった、というだけで……。

 ……色々と危うい子なのだけは間違いない。年齢も年齢だし、しっかりと見てあげておかないとどんな危険に巻き込まれるかもわかったものではないし。


「ちなみに、私がウリエラ」

「あたしがサリエラにゃー」


 楓の方がウリエラ、椛の方がサリエラらしい。椛の方は本体も変身後も『にゃー』なのでわかりやすい。


「……わたしがアリス」


 力いっぱい握りしめるのに飽きたのか、今度は握手したまま手をブンブン上下に振り回してキャッキャしているなっちゃん――『撫子』ちゃんにさせるがままにしつつ、ありすも自己紹介をする。


「えっと、ヴィヴィアンですわ」

「…………ジュリエッタだ……」


 千夏君だけは物凄く嫌そうにだが、続いて自己紹介。

 まぁ、千夏君の気持ちはわからないでもない。変身後とのギャップがすごい上に、異性のクラスメイトにそれを知られたんだしね……男の子だもんね、仕方ないね。




 順番が前後してしまったが、今度は本体の方の自己紹介をお互いにした。

 と言っても、この中で初対面なのはありすとなっちゃんだけなので主に二人――いや、なっちゃんはあんまり聞いてなさそうなので実質ありすに星見座(ほしみくら)姉妹の紹介をした感じだけど。




 改めて彼女たちについてまとめよう。

 まずは星見座(かえで)――眼鏡をかけたローテンションな双子の姉だ。ウリエラへと変身するらしい。

 ローテンションな割には発言内容とかは物凄く軽くて、どういう子なのかいまいち掴みづらい……。


 双子の妹の方が(もみじ)。こちらは緩くウェーブのかかった髪で、中学二年とはちょっと思えないくらいの色気がある。

 ……まぁ、なぜか語尾に『にゃー』と付ける時があって、口を開いているとあんまり大人っぽくは見えないんだけど……。

 こちらの変身後はサリエラとなる。


 で、なっちゃんこと『撫子』――10歳近く年齢は離れているものの、彼女は楓・椛の妹であることは間違いないみたいだ。

 変身前後のギャップがある意味で千夏君以上にあるが……この子がガブリエラへと変身するらしい。

 ありすとの握手にも満足したのか、今は座椅子(千夏君)にもたれかかり、私の耳をピコピコと動かしてキャッキャしている。


 目の前で彼女たちが変身するところを見たわけではないので、もしかしたら嘘を吐いている可能性はゼロではないが――まぁ嘘を吐く理由も思い当たらないし真実であるとは思う。

 まぁガブリエラたちの正体が自己申告通りだとすると、色々と納得いくことも多いので特に疑う必要もあるまい。


”そういえばさ、桃香と千夏君のことはともかくとして……ありすのことも事前に話してた?”


 どういう経路かはわからないが、ピッピが恋墨家へと直接やって来たことから考えても事前にありすのことも知っていたと思って間違いないだろう。

 それとなーく確認する程度のつもりで私は尋ねてみるが、意外な答えが返って来た。


”ああ……お正月に貴女たちに会った時点では、()()あーちゃん――ありすちゃんのことは知らなかったわ。

 ラビのことも、最初は桃香ちゃんの家にいるとばかり思っていたんだけど……”


 私の質問の意図とはズレた回答ではあるが、これはこれで興味深い回答だ。

 どうやらピッピは私たちのユニットの構成を全て知っていたわけではないみたいだ。お正月に神社で会った時に私のことも見て、桃香たちがユニットであることには気づいたのだろうけど……あの時一緒に美々香とあやめもいたし、誰が私の正式なユニットなのかはわかっていなかったのだろう。もしかしたら、美々香たちも私のユニットと思っていたのかもしれない。

 多分、ピッピの口ぶりからして、一度桃香の家まで来ているのかもしれない。でも冬休み明けで既に私は恋墨家に戻っていたため不在……そこからまた私の居場所を探したのかもしれないなぁ。

 ……ふと、私たちの正体を知っている口が軽い上に妙に交友関係の広いフレンドのことを思い浮かべたが……まだ何とも言えない。


”でもさ、さっき校門で会った時にありすのことをすぐにわかったみたいだし……”


 別に咎めるつもりはないけれど、少し気にかかっていたことを口にしてみる。

 あの時は流したが、なっちゃんがありすを『あーちゃん』といきなり呼んだことは気になる。


「あー……そのことねぇ……」

”うーん……”


 と、なぜか椛が苦笑いを浮かべる。

 はて? 説明しづらい事情でもあるのだろうか? ……まさかとは思うけど、ありすたちの写真をどうにか入手して、それをなっちゃんに事前に見せていたから――とか?

 なんてことを思ったものの、彼女たちの返答は予想の斜め上のものであった。


「あたしやフーちゃんにはわからないんだけどねー。なっちゃんにはわかっちゃうんだよね」

”……んん? どういうこと?”

「撫子は、うちの一族でも百年に一度の『天才』……色々と見えないものが見える――みたい」


 …………え、まさかのオカルト?


「まー、話半分に聞いておけばいいよー。なっちゃん本人も、自分が何が見えているのかまだそんなに理解してないみたいだし。

 ねー、なっちゃん?」

「ねー、はなたん?」


 今度は椛とキャッキャするなっちゃんであった。

 ……真面目に取るなら、どうやらなっちゃんには本来の姿と変身後の姿が結びついて見ている、ということなのだろう。姿が二重になって見えているのか、それとも違う姿なんだけど同一人物だと頭で理解できちゃうようになっているのか……どのように見えているのかは私たちからはわからないけれど……。

 うーん、やっぱりこれについても嘘を吐いているようには思えないし、嘘を吐く理由もない気がする。

 …………まぁとりあえず『そういうもの』だと思っておくとしよう。


”――こほん。それじゃあ、時間もそんなにないことだし……早速本題に入らせてもらうわね?”

”あ、うん。そうだね”


 ピッピの言う通り、そこまで時間に余裕があるわけではない。

 集合が17時だったし、移動時間とここに着いてからの諸々でそこそこ時間が経ってしまっている。

 できれば18時には解散したい――桃香の家が遠いので本当はもっと早くが望ましいが――ので、ちゃっちゃと本題に入ることはこちらとしても望ましい。

 リアルで会うのも『盗聴対策』なので、もし普通におしゃべりしたいのであれば後日チャットでもしてもらえばいいんだし。


”ラビ、あなたと急いでフレンドになった理由――それは、私と組んで()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()なの……”


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