7-09. エンジェル・ハイロゥ 8. 天使に復讐
さて、昨日に引き続き今日もピッピたちとの対戦だ。
ダイレクトアタックの有無、掛け金、参加人数については昨日と同じ――ダイレクトアタックについては言うまでもないか。
制限時間はちょっと長めの『30分』としておいた。正直ガブリエラたちの戦闘力を考えれば、望む望まないに関わらず短期決戦とならざるをえないんだけど、かといって15分では時間に追われる感じがして無用な焦りを覚えるかもしれない。
対戦フィールドはやっぱりランダムを選んだ。
で、来た場所はというと――
”……うわぁ……これまた『不利』な場所じゃないの……?”
薄曇りの空――雲じゃなくて『煙』で覆われた、かなり空気の悪いフィールドは、一面『鉄』で覆われていた。
荒野フィールドに構成は似ているんだけど、地面にしろ岩にしろ、全てが『鉄』で出来ているのだ。
明らかに人工的なフィールドだが、人が住むような建物は一切見えない。時折何の用途に使うのか不明な『鉄塔』が生えてはいるんだけど、到底住居には見えない。
「ふむ、『鋼鉄フィールド』ってところか」
「なるほど、これではウリエラの《ゴーレム》は強力になるでしょうね」
「……望むところ」
うちの子たちは全く後悔する様子はない。
まぁヴィヴィアンが言った通り、これで相手に勝てれば『言い訳のしようもない』勝利だとは言えるだろう。
……そこまでしないでも勝ちは勝ちだと私なんかは思うんだけどなぁ……。
”こんばんわ、ラビ”
”あ、ピッピ……こんばんわ”
昨日と同じように、少し離れた場所からピッピが空を飛んでやってくる。
私たちの後方から来たので気づくのが遅れてしまった。
「ふふふっ、ごきげんよう」
「……みゃー」
「にゃははっ」
続いてガブリエラたちもやってきて、私たちの近くへと降り立つ。
”じゃ、皆揃ったことだし――対戦しようか”
”あら? やる気ね?”
意外そうにピッピが言うけど――
”まあ、負けたままってのも何だしね”
そういうことだ。
……私だって負けっぱなしで良しとは別に思っていない。
ただピッピの目的がわからないので、場合によっては対戦を避けてもいいかなーって思ってただけだ。
うちの子たちがヤル気満々な以上、あるかどうかもわからない危険のことを考えて私が引くわけにもいくまい。
「ふふ、やはり貴女たち、いいですわね♪」
「…………みゃ」
「…………にゃ」
相変わらず笑みを浮かべるガブリエラに対し、ウリエラたちは若干警戒の色を見せている。
「良し、やるぞ貴様ら」
「はい。姫様の御心のままに――」
「うん。今日は負けない」
アリスたちのやる気は充分。それぞれの霊装を構える。
対するガブリエラたちも霊装を構え――
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Ready――Fight!!!
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私たちとピッピたち、二度目の対戦は始まった。
* * * * *
『敵の嫌がることをやる』
……そう言ったのは私だ。ありすたちもそれを含めて色々と対策を考えた。
そして、相手も同じことを考える可能性はある、ということも理解していた。
しかし――まさか、こんな手段を取ってくるとは……!!
「リュニオン――《ウリエラ》《サリエラ》!!」
対戦開始直後、ガブリエラはいきなりリュニオンを使い、三人の合体を行ったのだ。
――これ、考えうる限り私たちにとっては『最悪』の選択なのは間違いない。
三人を分断して各個撃破する、という戦術はこれでもう成り立たなくなってしまったからだ。
おそらく、誰と対戦するにしても、ガブリエラたちにとってリュニオンでの合体は最上の選択肢であると思う。普通のユニット相手であれば、細かいことを考えずともステータスと魔法の暴力で対多数戦であっても問題なく蹂躙できるだろう。
……そう、普通の相手、であれば。
ガブリエラたちにとって計算違いなのは、うちの子たちは残念ながら『普通』とは縁遠い存在だったということだ。
「! メタモル――《竜鱗形態》!」
ガブリエラたちには悪いけど、この事態は想定済みだ。
向こうが追い詰められた時には必ず使ってくるだろうとは予想していた――そして、『敵の嫌がることをやる』という基本を考えるなら、ガブリエラたちが私たちが最も嫌がる戦法を初手からとってくる……つまり、彼女たちの最強形態であるリュニオンによる合体を使うかもしれない、ということまで予測している。
そうなった時にどうするか? アリスたちは色々と相談しつつ、一つの答えを見出していた。
ジュリエッタが速攻でメタモルを使い変形――だが、いつものようにジュリエッタがそれで戦う、というわけではない。
禍々しい形状の『鎧』へと変形したジュリエッタが、アリスの身体を包み込む。
「サモン《アロンダイト》」
ジュリエッタが変形した鎧を纏ったアリスに、更にヴィヴィアンが《アロンダイト》を召喚して渡す。
……これが、三人の出した答えだ。
向こうが三人で合体してくるのであれば、こちらも同様に三人の力を一つにする。
「さぁて、行くぜ!」
ヴィヴィアンはアリスの後ろから適宜召喚獣で援護、メインで戦うのはジュリエッタの『鎧』を纏ったアリスとなる。
ガブリエラたちも『光の槍』を作り出し、【詠唱者】を起動。
初っ端からクライマックスだ……。
ちょっとでも気を抜けば、一気にガブリエラに押しつぶされてしまうかもしれない、かなり危険な状態ではある。
でも――もし、ありすたちの予想が正しければ、この状態は私たちにとって『チャンス』と言えるかもしれないのだ。
「はぁっ!!」
《アロンダイト》を手に、アリスが切りかかる。
ガブリエラも『光の槍』で剣を受け止めるが、アリスは止まらず何度も切りかかる。
一番拙いのは、昨日一気にアリスたちを全滅させたゲロビーム……《ネツィブ・メラー》を撃たれることだ。
裏を返せば、それさえ撃たれなければまだ何とかなる、ということである。
まぁ【消去者】【贋作者】と厄介な能力はまだまだあるんだけど……とにかく《ネツィブ・メラー》だけは避け続ける以外の対処法がない。
<クラッシュ>
「mk《欠片》!」
と、【詠唱者】がサリエラの魔法を使ってくる。
すぐさまアリスが魔法で小さな欠片を作ってぶつけ、相殺。
その間も止まらず剣を振るい、ついにガブリエラの胴体に浅くだが切り込む。
「!? これは……」
昨日の対戦から通して、初めてダメージらしきダメージを与えることが出来た。
驚いたような表情を見せるガブリエラだが、致命傷にはほど遠い。
ダメージを受けたこと自体よりも、他のことに驚いているようだ。
……それはそうだろう。一撃が致命傷となりかねないガブリエラの攻撃を回避しつつ、並行して放たれる魔法を迎撃してのけただけではなく、反撃までしてきたのだから。
「まだまだ!」
「くっ……」
その後もアリスの攻撃は続く。
切り結ぶだけではなく、隙を見ては至近距離から《赤色巨星》などを撃ち込み大きな隙を作っては《アロンダイト》による斬撃で削る……。
非常に地味だが、着実に相手の体力を削る戦い方だ。
<……【消去者】起動。対象:《アロンダイト》>
『……メタモル《光神剣態》』
【消去者】を使われても、すぐさまジュリエッタが対処。新しい剣を速攻で出されるとは思わなかったか、ガブリエラが反応するよりも早く切り付ける。
むしろ、この《クラウソラス》の方がアリスたちにとって『本命』の武器である。
『炎獄の竜帝』ムスペルヘイムの破壊力を凝縮した光の剣は、威力だけ見るなら武器型魔法の中でもトップクラスである。言ってみれば、ビーム攻撃を削った《エクスカリバー》、あるいは火炎属性を減らした代わりに物理攻撃力を上げた《終焉剣・終わる神世界》のようなものだ。
流石のガブリエラも、《アロンダイト》を消したと思ったらもっと強力な武器を出されるとは思いもしなかっただろう。
「サモン《アロンダイト》――上手く合わせてください」
「おう!」
そして更にヴィヴィアンが消された《アロンダイト》を再召喚、今度は自分で手に取る。
もちろん接近戦を仕掛けるつもりなど彼女にはない。
ガブリエラへと張り付き、連続攻撃で動きを止めようとするアリスの横から、少し距離を取って《アロンダイト》を振りかぶるヴィヴィアン。
「魔力解放――《妖精剣・湖光奔流》!!」
……どうしてこう……魔法の剣ってビーム兵器になるんだろう……?
私の疑問はともかくとして、《アロンダイト》から放たれた鮮やかな青の閃光がガブリエラへと向かう。
それに合わせて、アリスは後ろへとステップ。巻き込まれたところで大したダメージは受けないが、視界が光で塞がれるのを嫌ったか。
<【贋作者】起動。対象:《アロンダイト》>
すぐさまガブリエラも【贋作者】を使い、《アロンダイト》をコピー。ヴィヴィアンの攻撃の威力を殺ごうとする。
威力の7割を相殺された《アロンダイト》は、ガブリエラの強靭なステータスに阻まれそこまで大きなダメージを与えられたわけではない。
だが、確実にダメージは積み重なってきている。
「はぁっ!!」
アリスも光が止むか止まないかの内に再度前へと出て切りかかるが、ガブリエラはやはり片手でその一撃を止める。
<オープン>
接近戦を仕掛けても今のアリスにはなぜか勝てないとわかったのだろう、オープンを使って空間を開きアリスを後ろへと飛ばそうとする。
しかし、オープンを使った先には既にアリスの姿はなく――
「うぐぅっ!?」
素早くガブリエラの横へと回り込んでいたアリスの剣が、ガブリエラの胴体へと突き刺さった……!!
…………うーむ、何というか、ありすと千夏君の予想通りの展開となってきているな、これ。
私は対戦前の会話を思いだしていた。




