7-07. エンジェル・ハイロゥ 6. 天使との決着
「うおっ!?」
全く予想外だったウリエラたちの突撃……。
直前で気づいたためアリスは《ゴーレム》の体当たりをかわすことは何とかできた。
「申し訳ございません、姫様」
「いや、仕方ない」
離れた位置で戦っていたはずのウリエラたちが、ジュリエッタたちを振り切ってこちらに来るとは思わなかった。
……てっきりどちらかが頭数を減らして、数の上で優位に立つ――そういう戦いだと思っていたけど。
「御姫様、大丈夫?」
ヴィヴィアンに遅れてジュリエッタも合流する。
三人ともダメージらしきダメージは受けていないが、それは相手も同じ。
対戦時間はもう半分を過ぎている……このままだとドローということもありえるか? そんな決着をアリスたちが喜ぶとは到底思えないけれど……。
「……思ったよりやるみゃー」
「にゃ。でも、あたちたちも負けてあげるわけにはいかないにゃ! りえら様!」
「ええ。それでは決着をつけるとしましょうか」
ウリエラが魔法を解除、《ゴーレム》がただの岩塊に戻る。
……一体何をする気なんだ?
「リュニオン――《ウリエラ》《サリエラ》」
――んなっ!?
両手でそれぞれウリエラとサリエラを掴んだガブリエラが、再びリュニオンを使う。
対象はウリエラとサリエラそのもの……!?
止める間もなくリュニオンは発動、ガブリエラたちの姿が光に包まれ――
「……こいつは……!?」
「これが、どうやら彼女たちの『本気』、のようですね」
「むー……」
光が晴れた後に現れたのは、ガブリエラをベースとした姿であることは変わりなかった。
しかし、ところどころが変わっている。
一番大きな変化は、背中から生えている翼が一対ではなく二対――ウリエラとサリエラの分の翼が増えていることだ。
瞳の色も、鮮やかなブルーだったのがルビーのような赤に変わっている……これもウリエラたちの目と同じだ。
「【詠唱者】起動」
更にここで、今まで使用していなかったギフトを使う。
ガブリエラの両肩から半透明に透き通った人形――いや、ウリエラとサリエラの姿が浮かび上がる。
どういう効果かはわからないけど、戦闘準備は整った……そう思っていいだろう。
「……征くぞ、ヴィヴィアン、ジュリエッタ!」
「はい、姫様」
「うん。これでケリをつける」
相手の能力がわからないくらいで怯むアリスたちではない。
お互いにこれが最後の激突になる――そう予感していた。
「クローズ!」
最初に動いたのはガブリエラ。
右手の鍵を真っすぐに突き出し、虚空へとクローズを使う。
「くっ!?」
予想通り、空間そのものを『閉じる』ことでアリスたちを自分の手元まで引き寄せてきたのだ。
三人は一気にガブリエラの目の前までワープさせられてしまう。
ガブリエラは鍵を振りかぶり――三人まとめて薙ぎ払おうとする。
「ジュリエッタ!」
「がってん!」
しかし、引き寄せられて戸惑ったのも一瞬。すぐに態勢を立て直したアリスたちは反撃に移る。
「ライズ《ビリオンストレングス》!」
自身の腕力を超強化する魔法を使うと共に、ガブリエラの腕へととりつき動きを封じようとする。
「ぐっ……!? なんてパワー……」
ライズを掛けているというのに、ガブリエラの振り下ろしを止めるので精一杯のようだ。
強引に腕を振り回されるだけで振り解かれてしまうだろう。
動きを止められるのはほんの一撃――だけど、その一撃を止めるだけでも十分すぎる時間だ。
「ext《天魔禁鎖》!」
ガブリエラの腕を止めた一瞬の隙をついて、アリスが《天魔禁鎖》を使い完全に動きを封じ込めようとする。
この魔法であれば、たとえどんな腕力を持っていようとも力尽くでどうにかするのは難しい。
<オープン>
「なにっ!?」
ところが、鎖がガブリエラの身体に絡みつくよりも早く、両肩に浮かんだ幻影が魔法を使う。
オープンによって再度空間が『開かれ』、ガブリエラが後ろへと離れて行ってしまい《天魔禁鎖》は空振りに終わる。
……これがガブリエラのギフト【詠唱者】の効果、なのだろう。
あの両肩の幻影はただの映像ではない。おそらくだけど、シューティングゲームで言うところの『オプション』みたいなものなんだと思う。
それがガブリエラ本体とは別に、並行して魔法を使う……そういう効果なんじゃないだろうか。
ウリエラとサリエラの姿をしてはいるものの、今ガブリエラの魔法を使ったということは、見た目通りではないことを意味している。
<クローズ>
《天魔禁鎖》が外れると共に、すぐさまクローズで接近。
「サモン《ペルセウス》!」
「ライズ《アクセラレーション》、メタモル!」
空間を『開閉』することによる瞬間移動にももう慣れたみたいだ。
すぐさまヴィヴィアンとジュリエッタがカウンター気味に魔法を使いガブリエラを迎撃しようとする。
「来なさい、魔槍アポカリプス!」
ワープしてくると同時にガブリエラも動く。
彼女の左手に現れたのは先端がドリルとなった槍――サリエラの霊装である。
……あ、ということは……?
<クラッシュ>
やっぱり!
幻影がサリエラの魔法を使うと同時に、先端のドリルが高速回転を始め――呼び出したばかりの《ペルセウス》へと突き刺さる!
「ライズ《インパルス》!」
サリエラの能力については、戦っていたジュリエッタたちの方が詳しいだろう。
《ペルセウス》がやられるのはもはや防ぎようはないが、考えようによってはジュリエッタたちの方がダメージを食らわずに済むのだ。それはそれで悪くない……はずだ。
ジュリエッタは『衝撃』を付与してガブリエラへと拳を叩き込む。
……回避することも出来ずにまともにボディに食らったはずなのに、ガブリエラは揺らぎもしない。
「cl《赤色巨星》!!」
ジュリエッタの攻撃に合わせてアリスも至近距離から《赤色巨星》を撃ち込む。
だが、これは右手の鍵で受け止められてしまった。
「ふふっ、これで終わりにしましょうか」
<アニメート>
周囲に散らばる岩塊が再び意志を持ったかのように動き出す。
今度は《ゴーレム》を作るのではない。ただひたすら、散弾のように飛び散りアリスたちを無差別に襲う。
「ぐっ!?」
「サモン《イージスの楯》!」
ただの岩を飛ばしただけではない。魔法によって加速された弾丸だ。一撃で体力を削り飛ばされるわけではないが、何発も食らうわけにはいかない。
すぐにヴィヴィアンが《イージスの楯》を召喚。何も言わなくてもアリスとジュリエッタもヴィヴィアンの後ろへと避難する。
ガブリエラも後ろへと跳び、三人と少し距離を取った。
……今のアニメート、距離を取るためだけに使ったようだ。
岩の散弾は止む気配はない。
「……しまったな……」
「うん、防御しないで突っ込めば良かったかも」
突っ込んだところでダメージを受けるのは変わりないが、ガブリエラの動きを止めることが出来なくなってしまった。
一人犠牲になる覚悟で散弾に突っ込み、その隙に残り二人が防御しつつ攻撃、という方が良かったかもしれない――結果論ではあるが。
「オープン!」
そしてほんのわずかな時間ではあるが、フリーとなったガブリエラが自らの身体に鍵を突き刺し、オープンを使用する。
何だ……何をしようとしている……?
ガブリエラのやろうとしていることはすぐにわかった。
オープンによって『開放』されたのは――ガブリエラ自身の保有している『魔力』だ。
「……ヤバい!」
ガブリエラはアリスのような『放出系』の魔法を一切持っていない――そう思い込んでいた。
実際にオープン、クローズ、ゲート、リュニオン……そのいずれも直接魔力を魔法に変えて攻撃するものではない。たとえウリエラ・サリエラと合体したところで、魔法の性質そのものは変わることはない。
だが……合体することで可能になる攻撃もあったのだ。
「ふふふっ……さぁ、いきますわよ! リュニオン《聖斧ジェネシス》《魔槍アポカリプス》《神鍵ハロウィン》!」
<アニメート>
<ブラッシュ>
リュニオンによってガブリエラたち三人の霊装が一つに合成され――それに対してアニメートで開放した魔力の塊を纏わりつかせ、ブラッシュによって強化……。
現れたのは、巨大な一本の『光の槍』だった。
これこそがガブリエラたちの最大威力の魔法に違いない。
「受け止められますかしら? 解き放て――《ネツィブ・メラー》!!」
『光の槍』から真っ白な光……『レーザー』が発射される。
しかも一瞬の光線ではない。ずっと照射し続ける、いわゆる『ゲロビーム』ってやつだ。
「わたくしの後ろへ!」
「サンキュー! そのまま抑えててくれ……オレも神装を使う!」
ただ、タイミングは最悪だった。
咄嗟の発射であればもしかしたら防げなかったかもしれないが、事前にヴィヴィアンは《イージスの楯》を召喚している。
《ネツィブ・メラー》の光が《イージスの楯》にぶつかるものの、それを突破することは出来なかった。
流石にどれだけ威力が高くても、『あらゆる攻撃を遮断する』という性質を持った《イージスの楯》はどうにもできないみたいだ。
<……【消去者】起動。対象:《イージスの楯》>
……だが、敵の能力は私たちの予想を遥かに上回っていた。
ウリエラの幻影が呟いたのは、ギフトの発動……ウリエラかサリエラのギフトが使われたのだ。
「……なっ……!?」
それと同時にヴィヴィアンが驚愕の表情を見せる――が、すぐにそれは見えなくなった。
なぜならば、《イージスの楯》が何の前触れもなしに消滅し、《ネツィブ・メラー》の光がヴィヴィアンを呑み込んでいったからだ……。
「ヴィヴィアン!?」
楯の裏から横へと移動し、相手の攻撃に紛れて神装を使おうとしていたのが幸いだった。アリスたちは《ネツィブ・メラー》に飲み込まれることはなかったが……。
『光の槍』をそのまま振り回し、アリスとジュリエッタも一気に薙ぎ払おうとするガブリエラ。
「――くそっ!! ext《嵐捲く必滅の神槍》!!」
「メタモル――《災獣形態・焔》!!」
戸惑ったのはほんの一瞬。
ここで動かずに《ネツィブ・メラー》を食らって負けました、ではヴィヴィアンの犠牲が報われない。
すぐさまアリスが《グングニル》を放ち、別方向からジュリエッタも炎の獣と化して襲い掛かろうとする。
<【贋作者】起動。対象:《嵐捲く必滅の神槍》>
「うふふっ、《嵐捲く必滅の神槍》!!」
――んなっ!?
再び幻影がギフトを使うと、何とガブリエラがアリスの魔法――《嵐捲く必滅の神槍》を使ったのだ。
相手への絶対命中という効果を持った神槍同士が正面から衝突……流石に威力自体はアリスの魔法の方が上回り撃墜はしたものの、威力のほとんどをガブリエラの魔法に殺されてしまった。
神槍の攻撃に合わせて突進していたジュリエッタへと『光の槍』を突きつけ、アリスの神槍は何と左手一本で受け止めてしまう。
「う、ぐっ……」
「ジュリエッタ!」
『光の槍』で胴体を貫かれたジュリエッタも致命傷を負う。
アリスはというと、《嵐捲く必滅の神槍》を使ってしまったために魔力がほぼ空に……既に何度か神装を使ったり大魔法を連発していたため、回復アイテムもほぼ品切れだ。
……元より、回復する隙すら、ガブリエラたちは与えてくれなかった。
「終わり、です。
オープン――《ヘヴンズゲート》!」
最後の魔法は、全ての魔力を結集させた『光の槍』自体に使われた。
一点集中に照射するのではなく、全方位……逃げ場のない広範囲に魔力の嵐が吹き荒れる……。
既に致命傷を負っていたジュリエッタはそれに耐えきることが出来ず、体力がゼロとなり消滅。
アリスは辛うじて体力ゲージが残っていたものの……。
「クローズ!」
「くっ……しまっ――」
態勢を立て直すよりも早く、ガブリエラがクローズを使ってアリスを引き寄せ――『光の槍』を突き刺してとどめを刺すのであった……。
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Winner ピッピ
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……こうして、突然対戦依頼を申し込んできたピッピたちとの戦いは、私たちの完全敗北で終わるのであった。




