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6-32. かつて英雄だった少年へ 5. 死闘・ムスペルヘイム

*  *  *  *  *




 プラムの魔法――《聖天囲うは祝福の花園ユグドラシエラ・アスガルズ》の効果により、ムスペルヘイムに弱体効果が付与されているようだ。

 周囲から生えた樹が『檻』を形成しているだけではなく、地面の下にまで深く根を張っているらしい。

 溶岩の勢いが衰えたと思ったが、どうも周囲の地盤ごと植物が持ち上げているっぽい。


「……へっ、なるほど。プラムの作った『特別リング』ってところか」


 《ユグドラシエラ・アスガルズ》の範囲はかなり広い。詳しい大きさまでは目視ではよくわからないけど、多分学校の校庭よりも全然広い範囲だろう。

 その範囲の淵に生えた樹が地面を持ち上げ『堤防』を作り、溶岩が外に溢れ出さないようにせき止めているみたいだ。

 地面の下も持ち上げられることにより切り離され、そのおかげで溶岩の勢いが衰えているのだろう。


「今、なら……ヤツの力は、回復しない、わ……」

”なるほど、やっぱりムスペルヘイムは『炎の神獣』とかじゃなくて、『火山』の化身ってことかな?”

「おそらく、ね……私、の、魔法……で、大地との接続、を、断った、わ……」


 途中で予想はしていたけど、プラムの魔法がそれを裏付けてくれた。

 地面――大地そのものと接している限り、ヤツは無限の力を得ることが出来るのだろう。

 なにせ火山、あるいは大地の下にある溶岩自体の化身なのだ。詳しいことはうろ覚えだけれど、いわゆる『地球型惑星』だっけ? そういう星の地下には幾らでも溶岩があるはずだ。そこから力を得ているのであれば、ムスペルヘイムのあの不死身っぷりやら力を吸収して巨大化していったりも納得できる。

 ……そんなモンスター、どうして現れたんだ、とかそんなの作るなよ、とか思うところはあるけどさ。


「じゃあ、プラムの魔法が効いているうちに決着付ける」

”そうだね。どのくらい持つの?”

「……ヤツ、が暴れなければ……1時間は。で、も……」

”そんなわけない、よねぇ”


 タイムリミットはそう長くないと思った方が良さそうだ。

 それまでの間に、今度こそムスペルヘイムにとどめを刺さないと、どうしようもなくなってしまう。

 ……この島を守るには時間内に倒し切らなければならない。


「こちらから、も……援護する、わ……後は、お願い……」


 そう言い残すと、唐突にプラムの姿が消える。

 ……消えたその後、甲板の上にはしなびた何かの『実』のようなものが落ちているだけだった。


”え? プラム!?”


 彼女に瞬間移動とか、そういう魔法があるのだろうか? いや、おそらく彼女の魔法は『植物』関連のみのはず……。

 では一体どういうことか、と思った時だった。

 ムスペルヘイムと私たちを隔離した植物のリングが動き出す。

 特に周囲の『檻』を作っている樹から、横方向へと枝が伸びてムスペルヘイムへと向かう。

 ……まさか……。


”この樹全部……プラムなの……?”


 どこからかプラムが操っていると言うより、樹そのものが意志をもって動いているように見える。

 そうなるとさっき私たちの前に現れたプラムは、本人ではなくて一時的に出した分身ということになるのかな。


「殿様……これが多分、最後のチャンス。無駄にしたくない」

”っと、そうだね。プラムの魔法もいつまでもつかわからない……ジュリエッタ、お願い!”

「うん。ジュリエッタがあいつと戦うから、殿様は作戦を考えて」


 ……そうきたかぁ……。

 いや、でも否はない。

 私に出来ることをやるだけだ。ジュリエッタが私に頼ってくれているのだから、それに全力で応えよう。


「キャプテン、()()貸して」

「アレ? ……ああ、アレか! いいぜ!」


 ジュリエッタの要望に応え、オーキッドが霊装を取り出す。

 それはムスペルヘイムの分身との戦いの時にも使った、この船の『碇』だ。

 普通に攻撃したのでは通じないどころか、逆に熱でダメージを受けてしまう。

 でも武器を使って攻撃するのであれば、少なくとも触れても熱によるダメージはかなり軽減できるだろう。それならばジュリエッタも遠慮なく全力で戦うことが出来る。


「キャプテンとキンの字はどうする?」

「ジュリ公の使い魔とメイドのねーちゃんはこっちで預かっとく。

 ……それでいいよな?」


 最後の問いかけはジュリエッタではなく私に向かってだ。


”うん、お願い。ヴィヴィアンが気が付いたら、私もジュリエッタのところに向かうよ”


 作戦を考えるだけならこの船の上でもいいんだけど、そうなるとヴィヴィアンの魔力回復がおぼつかなくなるし、何よりも後方に控えているだけなんて耐えられない。

 ……まぁ、正直この『リング』内にいる限り安全な場所なんてそうそうないと思うけど。


「我もこの船に残ろうぞ。機を見てこちらよりも援護する」

「だな。アタシも大砲撃つから、巻き込まれないようにしてくれよ!」

「わかった」


 残念ながらオーキッドとキンバリーの二人にはムスペルヘイムへとダメージを与える術がほぼない。

 大砲だってちょっと注意を惹く程度の役割にしかならないだろう。

 それでも全くの役立たずというわけじゃない。

 『エンペルシャーク』ならば溶岩の海でも自在に走ることが出来るのだ。もしジュリエッタやプラムが溶岩に落ちそうになっても助けることが出来るだろう。


「じゃ、行ってくる」


 そう言い残し、ジュリエッタは巨大な碇を手に飛び立つ。

 とにかく与えられた時間内にムスペルヘイムをどうにかする作戦を考えなければならない。


”……あれ? そういえば、シオちゃんは……?”


 と、そこで私はようやくタマサブローとシオちゃんがこの場にいないことに気が付いたのだった……。




◆  ◆  ◆  ◆  ◆




 一人ムスペルヘイムへと向かったジュリエッタだが、心細さなど微塵にも感じていなかった。

 なぜならば。


 ――ヴィヴィアンなら、きっと平気。すぐに目が覚める……。


 そう確信しているからだ。

 先程までに比べて、客観的に見れば状況は劇的によくなったというわけではない。

 プラムの魔法によって弱体化しているとは言っても、ムスペルヘイムの圧倒的巨体には変わりない。となれば、当然攻撃力や防御力もそこまで変わってはいないだろう――少なくとも火口で戦った分身よりは上回っているはずだ。

 オーキッドから碇を借りたためジュリエッタ自身の攻撃力は増したが、それだけでは到底倒すことは難しい。時間を掛ければいずれ削り切ることは可能かもしれないが、プラムの魔法が解ける方が絶対に早い。

 しかし、ジュリエッタは『状況は劇的に良くなった』と考えている。

 単なる楽観ではない。これもまた、彼女は確信しているのだ。


 ――プラム、キャプテン、キンの字……もちろんジュリエッタとヴィヴィアン……。

 ――これだけの戦力がいれば、殿様ならきっとあいつを倒す方法を思いつく。

 ――だから、ジュリエッタはそれまであいつを食い止める……!


 それは自分の使い魔(ラビ)への信頼だった。

 ラビは不思議な存在だ。

 この世界に来る前、この世界とよく似た世界で生きていた頃は、何の変哲もない会社員だった……と本人は言っているものの、対モンスターだけではなく対ユニットにおいてもなぜか的確な『答え』を見出している。

 後になって振り返れば『なんだ、そんなことか』という思い付きであっても、実際に戦っている最中にはなかなか思い至ることは出来ない。

 そこにはおそらくラビの隠された才能だとか能力だとか、そういうものは()()だろうとジュリエッタは推測している。


 ――殿様が見ていてくれている……それだけで、ジュリエッタ、やる気出て来る!


 ラビは戦闘の最中――いや普段の時も――彼女たちのことをしっかりと見てくれている。

 直接戦っているわけではない、ある意味で『傍観者』であるが故に考えることが出来、そして『保護者』であるがために彼女たちの動きを見逃さない。

 だからラビは的確な『答え』に辿り着けているのだろう、そうジュリエッタは思うのだ。

 ……もっとも、だからと言って万能というわけでもなく、自分自身がちょっと忙しくなると去年のクリスマス付近の頃のようにありすたちへの気配りが疎かになるのだが……それはジュリエッタは知らない。

 自分たちだけでムスペルヘイムに敵わないのは悔しいが理解している。悔しいという思いはあっても、それを受け入れられるだけの度量をジュリエッタは既に得ている。

 しかし、一人一人ではムスペルヘイムは到底届かないとしても――共に戦う『仲間』が増えるということは、選べる手段が格段に増えることを意味している。

 それら無数の手段という『手がかり』さえあれば、きっとラビは有効な策を思いつくはずだ。

 ジュリエッタはそれを信じて待つ――待つだけでなく、戦うだけだ。


 ――でも、ジュリエッタもここで『強く』ならないといけない……!


 分身、そしてムスペルヘイム本体との戦いでジュリエッタは自分の力不足を痛感していた。

 決して奢っていたわけではないが、もう少し戦えると思っていたのだ。

 これでは『アリスがいなくても戦える』ということの証明にはならない。

 故に、ジュリエッタは考える――自身の魔法をいかに使えば、ムスペルヘイムへと牙を突き立てることが出来るかを。

 更にはラビがどのような答えを出すのかを。

 ラビを頼りにはしているものの、頼り切りになるつもりもない。

 絶望的な戦力差を覆すためには最終的には『(ユニット)』の力も重要となってくるはずだ。

 ジュリエッタの力が増せば、それだけ選べる手段が増えることになる。


「……行くぞ……っ!!」


 碇を片手に、動き出したムスペルヘイムへとジュリエッタは一直線に向かって行く……。

 ムスペルヘイム周囲を取り巻く高熱のダメージゾーンもやや弱まっているのがわかる。《フレイムコート》を使えば完全にダメージを遮断できるレベルだ。

 とは言え本体そのものの熱には変わりはないだろう。迂闊に触れればダメージを受けることは明白。


『ジュリエッタ、援護、する、わ……』


 どこからかプラムの声が響くと共に、周囲を取り囲む樹から伸びた枝がジュリエッタの近くまで迫る。


「助かる」


 枝を足場にしろ、ということなのだろう。

 一本だけではなくあちこちへと枝は伸び、尚も広がりを見せていた。

 自力で飛ぶことは可能だが、今はかなりの重量を持つ碇を手に持っている。足場がある方が戦いやすい。


「ライズ……《ミリオンストレングス》!」


 枝の上を走りながら自身に腕力超強化(ミリオンストレングス)を掛けつつ、碇を振り回して勢いをつける。

 まずはどの程度攻撃が通じるかを確認だ。


「ライズ《エアステップ》」


 新たなライズを使うと、ジュリエッタは枝から飛び降り空中へと躍り出る。

 ここに来るまでに使っていた飛行用のメタモルは既に解除している。

 そのままでは溶岩の海に真っ逆さまに落ちて行ってしまうが――


「はぁっ!」


 ジュリエッタが勢いよく何もない空中を蹴ると、まるでそこに足場があるかのように彼女の身体が蹴った勢いのまま突き進んでいく。

 《エアステップ》とは、極短時間ではあるものの『空中歩行』に近い効果をジュリエッタへと与える魔法なのだ。

 ほんの一瞬だけ、『空気』そのものを蹴って足場とするだけの魔法なので、正確には『歩行』とは言えないが……ライズで自身の強化をしているはずなのに、この魔法については自身以外にも作用している――そのことにジュリエッタはまだ気づいていない。

 自覚なき進化を遂げ始めているジュリエッタであるが、今はムスペルヘイムのことしか頭にない。

 勢いをつけて飛び、同時に碇を投げつける。

 ……が、ムスペルヘイムの鼻先にぶつかったはずの碇は、あっさりと弾かれてしまう。


「……むー、やっぱり硬い……」


 引き続き《エアステップ》で空中を飛び跳ね、プラムがフォローのために伸ばしてくれた枝に着地。

 相手は何もせずに攻撃を受けただけだったが……果たしてムスペルヘイムは自分が『攻撃された』と認識しているかどうかも怪しい。

 蚊の一刺しにもなっていない、そういう手応えであった。


 ――投げつけるだけじゃきっとダメ……近づいて、ライズを掛けて直接ぶん殴らないと……。


 そう思うジュリエッタであったが、同時にそれでもダメージを与えるのは難しいと感じていた。

 仮にダメージを与えられたとしてもそれが微々たるものにしかならないだろうとも。とてもではないが体力を削り切れるとは思えない。

 最終的にラビが『策』を考えたとしても、そこが最大の障害となるのは疑いようがない。


『! 来るわ、ジュリエッタ!』

「わかってる!」


 ダメージは受けていなくても『敵』は認識しているのであろう、ムスペルヘイムがギシギシと全身から軋ませるような音を立てながらジュリエッタへと視線を送り、前脚を大きく振り上げて叩き落そうとする。

 振り上げこそゆっくりとしたものだが、振り下ろしが異様に速いのは先刻見ている。

 枝の上を駆け、ジュリエッタが移動して攻撃を回避しようとする。


『グロウアップ《絞殺蔦樹(スネークバイン)》、インプルーブ《肥大化》!』


 援護としてどこからプラムが魔法を使う。

 ジュリエッタが足場としている枝から、更に別の枝――否『蔦』が伸び、それがまるで巨大な蛇のようになってムスペルヘイムを絡み取ろうとする。

 船上でラビが予想した通り、この樹そのものがプラムの肉体扱いらしい。彼女が自分の身体を『苗床』として植物を使うのをジュリエッタも見ている。


「……やっぱり、プラムと戦いたい……」

『後で、ね……!』


 プラムの出した蔦が振り上げた腕を絡めとり動きを封じようとする。

 それはほんのわずかな時間のことだ。

 だが、そのわずかな時間はジュリエッタにとっては充分すぎる時間だ。


「ライズ《アクセラレーション》!」


 ムスペルヘイムが強引に蔦を引きちぎりながら腕を振るうよりも早く、加速したジュリエッタが枝を駆けあがり攻撃範囲から逃れつつ側面へと回り込もうとする。

 それより少し遅れて、振り下ろされた腕が蔦を引きちぎり枝をもへし折る。

 腕を振り下ろすと同時に、溶岩の飛沫――ジュリエッタたちからしたら巨大な砲弾としか言いようがないが――があちらこちらへと撒き散らされるが、その大半はプラムが先読みして伸ばしておいた枝が受け止める。

 今一番怖いのは『エンペルシャーク』への攻撃だ。

 キンバリーの魔法である程度は防げるかもしれないが、流石に溶岩の雨を長時間防ぐことは難しいだろう。


「こっちだ……!」


 ムスペルヘイムの左側面に回り込んだジュリエッタが再度碇を投擲――と同時に、今度は自分自身もムスペルヘイムへと接近する。

 そして、


「ライズ……《()()()()ストレングス》、メタモル!!」


 現状、ジュリエッタの使える最大の腕力強化魔法を使いつつ両腕を巨大化させて、投げつけた碇を再度握り全力でムスペルヘイムの横面を殴りつける。


「あ、ごめんキャプテン……」


 殴りつけたジュリエッタの腕がしびれ、碇を取り落としてしまった。

 ムスペルヘイムの防御力が高すぎたせいで、ジュリエッタの腕が殴りつけた衝撃でしびれてしまったのだ。


「……でも、成果あり……!」


 すぐさま《エアステップ》でその場を離れつつ、ジュリエッタは小さく笑う。

 碇の一撃は相手に大ダメージを与えられたわけではない。ムスペルヘイムは衝撃でわずかに首を傾けた程度だ。

 しかし無駄な攻撃ではなかった。打撃箇所がわずかながら砕け、抉れている――ほんの少し、かすり傷としか言えないようなものではあるが。


 ――硬くて、重くて、デカいものを、ものすごいパワーとスピードでぶつければダメージは通る……!


 それが確認できただけでも成果はあったと言えよう。

 鎖ごと落としてしまった碇については……まぁ霊装の一部なのだ。オーキッドの魔力を消費すれば修復は可能だろう。

 問題は……。


「むー……でも、何使えばいいかな……」


 『硬くて』『重くて』『デカい』ものの心当たりがないことだ。

 正確にはないことはないのだが、それを用意するためにはオーキッドからまた霊装を借りなければならない。

 そして借りたとしても、ジュリエッタのパワーを以てしてもかすり傷程度にしかならないというところだ。

 ジュリエッタ自身のメタモルでも碇のようなものは作れるが、霊装程の硬さは再現できない。

 今はまだ目覚めていないようだが、ヴィヴィアンの召喚獣でも同様だろう。


『なるほど、ね……』

「プラム?」


 枝を伸ばし、蔦で妨害をしていたプラムが何かに気付いたようだ。


『ジュリエッタ、要、するに……やつに有効なのは、「勢い」、よ……』

「??」

『なら、問題ない、わ……』


 プラムの言うことが理解できず、頭にはてなマークを浮かべるジュリエッタ。

 その間もムスペルヘイムはジュリエッタへと向けて腕を振るい、また火炎弾を吐き出してくる。

 それらを《アクセラレータ》や《エアステップ》を駆使してかわし続けるジュリエッタだが、次第に追い詰められ始めていることを自覚していた。

 相手の攻撃は今は当たらないし、徐々に狙いが正確になってきているというわけではない。

 ただ、広範囲の攻撃をジュリエッタ一人に絞り始めているため、回避し続けるのが困難になってきているのだ。


 ――殿様たちが攻撃されにくくなってるのはいいけど、ジュリエッタの方が危なくなってきた……。


 プラムの足場や援護のおかげで、辛うじて回避しているのが現状だ。

 このままではいずれ直撃を受ける恐れがある――特に狙いを定めずに放つ攻撃は『意図』が読めないため回避しづらい。偶然命中してしまう、ということも起こりえる。

 幸いなのは相手があまりにも巨体なので攻撃の動作自体は見逃す心配はほぼない、というところだろうか。もちろん安心できるようなものではないが。


『シオ』

「はいでしゅ、プラムしゃま!!」


 プラムの呼び声に応え、おそらく樹上で待機していたのであろうシオがジュリエッタの前に姿を現す。

 今まで姿が見えなかったが、ここに駆けつけなかったのではなく何かしらの理由で様子を窺っていただけらしい。


『ジュリエッタ……シオ、を、協力……させるわ……』

「……わかった!」


 一瞬昨日の嫌な記憶がよみがえるものの、一人でムスペルヘイムに立ち向かうよりはきっといいだろうと思いなおす。


「シオちゃんがきょーりょくしてやるでしゅ! かんしゃするでしゅ!」

「……」


 誰のために戦っていると思っているんだ、と突っ込みたい気持ちを抑え――ジュリエッタが《アクセラレーション》を使用、シオを抱えてその場から一気に離れる。

 そのすぐあと、シオの立っていた枝がムスペルヘイムの放った炎弾によって吹き飛ばされていた。


「…………し、シオちゃんがてつだってやるでしゅから、その……」


 危うく死にかけたことを理解したシオが何やらもごもごと言っているが、構わずにジュリエッタはシオを抱えたまま枝を走って攻撃を回避し続ける。


「うん、()()()()()()、シオ」

「……!!」


 ジュリエッタの言葉にシオの顔がぱぁっと明るくなる。

 実際、シオの魔法とギフトについてジュリエッタは具体的には知らないが、少なくとも一回戦った限りではかなり攻撃的なものであった。

 上手く使えばムスペルヘイムに有効なダメージを与えられるかもしれない、と思い『頼りにしている』と思ったのだ。


 ――これで更に一枚手札が増えた……殿様、後はお願い!


 名もなき島にいる全ての魔法少女がムスペルヘイムへと立ち向かう。

 その数6名。

 ジュリエッタとヴィヴィアンだけでは無理でも、6名の力を合わせれば――それぞれの能力を活用すれば、何とかなるかもしれない。

 手札が増えればきっとそれだけ有効な策をラビが思いつき易くなるだろう、そうジュリエッタは思うのだった。


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