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6-15. 溶岩遺跡の冒険(後編)

◆  ◆  ◆  ◆  ◆




 洞窟はかなり広く、一行は特に身をかがめたりせずに余裕で進むことが出来ていた。

 足場は若干悪いがそれでも進めない程ではない。

 また、心配していた毒ガスについても特に発生はしていない――あるいは発生していてもライドウの言う通りこのフィールドでは当たり判定がないのだろう、影響は受けていない。


「……可憐なる魔獣公女よ、どう思う?」

「どう、って……何か、変な感じ」


 【日陰者】のおかげで真っ暗闇ではないもののかなり薄暗い洞窟を黙々と進んでいたが、やがてキンバリーがジュリエッタへと尋ねる。

 かなり曖昧な言葉ではあったが、何を意図した質問かはジュリエッタにはすぐにわかった。


「最初は、火山の噴火に巻き込まれて滅んだ遺跡だと思ってたけど……」


 道中、壁や床に外にあったような建物の残骸があることには気づいていた。

 最初は気にならなかったものの、次第にそれが()()()であることに気付いたのだ。


「この遺跡――まるで()()()()()()()()()みたいに見える」

「くくく……」


 想定通りの答えだ、と言わんばかりにキンバリーが笑う。


「公女よ、我はこう思うのだ――この遺跡は突如現れた火山に飲み込まれた、とな」

「んー? 何だよ、そりゃ。火山の噴火で滅んだ、と何が違うんだ?」


 いまいちジュリエッタたちの気付きにピンと来ていないオーキッドが首を傾げる。


「……火山の噴火に巻き込まれたなら、多分こうなってない……埋もれているだけだと思う」


 もしも町が火山の噴火で滅びた、となればもう少し違った形になっていたと思えるのだ。

 全部が全部そうとは限らないが有名どころであれば、ラビの世界で言う『ポンペイの遺跡』等がわかりやすい。

 火山灰や溶岩に埋もれた町ならば、オーキッドの言う通りなのだが……。


「まるで――何もなかった場所に、いきなり火山が出来て……それに飲み込まれたみたい……」

”……むぅ、ありえるのか、そのようなことが?”


 ある日突然、ただの平原だった場所の地下からマグマが噴き出し、地面を巻き上げて火山となる――そういう状況でないと、洞窟内の遺跡のことの説明がつかないとジュリエッタもキンバリーも思っているのだ。


()()がかつて人間、あるいは人間同等の生命の住処だと仮定するのであれば、まぁ()()()()()であろうな」


 ライドウの疑問にあっさりとキンバリーは答える。

 突如地面から火山が現れる――そのようなことは、ありえない、と。


「……うん、ジュリエッタもそう思う。ジュリエッタ、詳しくないけど、火山そのものが突然出来たりは……人間が生まれるよりもずっと昔なら普通にあったと思う。

 でも、人間が町を作れるくらいまで時間が経ったら……そんなこと、多分起きないんじゃないかって思う……」


 可能性としてはゼロではないが、少なくとも人間ないしはそれに匹敵する生命が存在する時点で、『星』の環境というのは基本的には安定している。

 『町』規模の集落を作れる文明があるとして、火山の近くに集落を作ることはあっても、火山の()には作らないだろうということだ。

 それに突然地面の下から火山が現れるということが起きるとは考えにくい。

 ただし、絶対に起こらないという保証もない。例えば、地球であれば海底火山等は現代であっても活動しているし、地上にある活火山も噴火したりもする。


「はぁん? 何か小難しいこと考えてんなー、おめーら」


 二人の疑問に対し、オーキッドは呆れたように言った。


()()()()()()()()? ゲームにそんな細けぇ理屈考えてどうすんだ?」

「……確かに……」


 オーキッドに言われて思い出すが、あくまでのこの世界は『ゲーム』の作った世界なのだ。

 色々と細かい理屈を考えたところで意味があるかと言われると、おそらくはないのだろう。そうジュリエッタは思い直す。

 ただ――少し心のどこかに引っかかるものがあった。


「くくく……」


 オーキッドの言葉に反論するでもなく、キンバリーは不気味に微笑むのみではあったが……。


”……”


 ライドウの沈黙について誰も触れることはなかった。

 彼の様子に気付かなかったのか、それとも気付かないフリをしていたのかは定かではない。




◆  ◆  ◆  ◆  ◆




 更に洞窟を進む一行。

 相変わらず薄暗く足場の悪い通路が続いていたが、やがて大きく開けた場所へと出ることが出来た。


「……キャプテン、気を付けて」

「くくっ、ここからが真の饗宴(カルナバル)の幕開けというわけか」


 先頭を進むジュリエッタとキンバリーが共に身構える。

 後ろにいるオーキッドにはまだ状況がわかっていないが、二人の言葉には反論せずに右手に曲刀、左手に銃型の霊装をそれぞれ手に取る。

 そのまま少し広間を進んで行くと、オーキッドにも状況がわかってきた。


「こいつぁ……」


 その光景を目にし、流石のオーキッドも絶句する。

 彼女たちの目の前に広がって来たのは、溶岩の海だ。

 どこかに光源があるわけでもなく、溶岩自体が煌々と熱を発し辺りを照らし出している。


「……毒ガスは大丈夫だったけど、このマグマはちょっと危ない……」


 人間ならばまともに立っていることが出来るような熱さではない。

 ユニットの行動を妨げるほどではないが、それでも明らかに『暑い』と感じられる程度には熱が発せられている。

 となれば、おそらく溶岩に落ちてしまったら致命的なダメージを受けるだろう、とジュリエッタは推測する。


「くく、なれば我らが使い魔にはしばし安全を優先していただこう――シャドウアーツ《ダークネスコート》」


 ユニットがダメージを受けるのであれば当然使い魔も同じだ。

 そう判断したキンバリーが影の『膜』を作り出し、ライドウを包み込む。

 流石に溶岩に落ちたならば無事では済まないだろうが、ある程度ならば熱や溶岩の飛沫、モンスターの攻撃を防ぐことの出来る防御用の魔法である。


”む、物の怪共の気配!”

「ああ、アタシらからも見える!」

「……マグマの中から……!」


 溶岩の海から幾つもの影が立ち上がり、岸辺にいるジュリエッタたちの方へと向かってきた。


”むぅ、『溶岩獣』、それに――ほほぅ! 『溶岩龍』とな! 相手にとって不足なし!!”

「……不足はないけど、ちょっと厄介……」


 相変わらずこの使い魔は好戦的だ――と自分のことを棚に上げてジュリエッタは呟く。

 溶岩の海から這い上がって来たのは、溶岩獣マグマドロンという名の小型モンスターが複数だ。

 まるで『生きている溶岩』と言った見た目の、不定形生物のモンスターである。実体としては、かつてラビたちが天空遺跡で戦った『ゴーレム』の溶岩版と言えるだろう。

 それと更に奥の方から向かってくる巨大な影は、溶岩龍――すっかりおなじみとなった火龍の亜種となる、溶岩内に棲息する魔獣だ。

 火龍とは異なる進化を遂げたためか、火龍に比べて手足は小さくなっているものの首・胴体・尻尾の全てが長く太く成長し、溶岩の中でも活動できるように甲殻は更に硬くなっている。

 モンスターレベルはそれぞれ『3』と『5』だ。場所の不利もあり、かなりの難敵と言えるだろう。


「ジュリエッタが前に出て引き付ける。キンの字とキャプテンはライドウを守りながら『道』を探して」

「くくく、よかろう!」

「おう!」


 相手にとって不足なし、とライドウが言ったものの三人はここで戦うつもりは全くなかった。

 なぜならば、ここは終点ではないからだ。

 溶岩の発する光で今までの洞窟より明るいと言っても外のような明るさではない。天井を見上げてみても、空は全く見えない。

 つまり、ここは火口ではない。

 三人の想いは一致していた。


『火山系のダンジョンなら、終点は火口でしょ』


 ということで。

 そもそもこの探検の目的はモンスターとの戦いではなく、この火山にあるかもしれない『お宝』の探索だ。

 避けられるのであれば極力戦闘は避けるべきだし、そもそも不利な場所での戦闘はしたくない。

 どこかに更に奥に続く道があるはず、とジュリエッタは推測しそれをキンバリーたちに探してもらう。

 それまでの時間稼ぎはジュリエッタが一人で行う――決して不可能なことではない、と判断した上でだ。


「ライズ《フレイムコート》」


 気休めにしかならないかもしれないが、一応炎属性の防御力を上げながらジュリエッタは上陸しようとするマグマドロンたちへと向かう。

 更に後ろには溶岩龍が控えている……まともに戦うのであれば苦戦は免れない相手だろう。

 ……この場にアリスとヴィヴィアンがいれば、きっと相手を殲滅して安全を確保してから先へと進むという判断をしただろうとは思うが、現状の戦力ではそれは少々厳しい。


「……お、あっちに奥に続く道みっけ!」


 戦闘開始からわずか一分足らず。オーキッドが道をあっさりと発見する。

 本人が知ることはないが、これもまた彼女のギフト【探索者(エクスプローラー)】の効果である。『探索』の名の示す通り、こうした『ダンジョン』などにおいて道を見つけ出したりマッピングをするのに役立つよう、暗視能力等が備わっているのだ。


「くくく……流石だな、我が盟友。

 ふむ、地面を歩いて向かうには少々困難か……ならば、溶岩を渡っていくのみ! 我が真影をここに――【日陰者(シェイダー)】、そしてシャドウアーツ《ダークネスプロムナード》!」


 見つけた道へと続く地面がない。

 溶岩の海の中にはポツポツと岩場があり、それを足場に跳んでいけばたどり着くことは出来るだろう――モンスターの妨害させなければ。

 モンスターを全滅させれば簡単に先へと進めそうだが、そもそも全滅させることが難しいのだ。

 そこでキンバリーはモンスターを倒さずに一気に先へと進めるように魔法を使う。

 彼女の影が長く一直線に伸び、溶岩の上を走る『道』と化す。

 ギフトの効果によって影は補強され溶岩の照り返す光で消えることもない。


「ジュリ公!」

「……うん、わかった」


 最悪、ジュリエッタならば影の道を使わなくてもモンスターを回避しつつ、空を飛ぶなりして行くことは可能だ。

 オーキッドたちが影の道を走って溶岩の海を渡り切るのを確認しながら、ジュリエッタも後を追って行った……。




◆  ◆  ◆  ◆  ◆




 その後も幾つかの溶岩の広間を抜けていった一行は、次第に火山の中心部へと近づいてきていることを実感していた。

 途中で何度もマグマドロンたちが現れたが、倒せるときだけ倒して後は無視して進んで行っている。溶岩龍に関しては、どうも大きめの広間にしか出てこないようでほとんど現れてこない――こちらは基本無視だ。

 一応帰り道のことを考えてリスクなしに倒せるものは倒すようにはしているが……帰り道も同じように回避して進んで行けるだろうし、最悪ライドウたちはその場でクエスト脱出アイテムを使うなりしてしまえばいい。ジュリエッタもラビに連絡して強制移動をしてもらえば安全に帰れる。


「そろそろ終点着いてもよさそうなんだがなー」


 プラムの花畑を出発してから、もう一時間以上が経過している。

 通常のクエストとしてはかなりの長丁場となっている。普通ならばとっくにクリアしているような時間が経ったわけだし、火山エリアに入ってからの移動した時間を鑑みるに終点――火口に辿り着いてもおかしくはない。

 現実で長時間眠っていても問題ないのであればまだ余裕はあるが……。


「……外……?」


 果たしてオーキッドの予想通り、不意に彼女たちの目に太陽の光が差し込んでくる。

 洞窟を抜けた先が外になっているようだ。

 ぐるぐると火山の中を回るような構造となっていたため方向感覚が狂ってしまっているが……。


「お、火口に着いたか!」


 ギフト【探索者】の効果のおかげで、オーキッドは方向を見失ってはいなかったようだ。


「気を付けて……ボスがいないとも限らない……」


 普通のクエストではないとは言え、モンスターは普通に棲息しているのだ。

 火山系のダンジョンにありがちな、火口にいるであろうボスモンスターがいないとは限らない。

 溶岩の広間へと出る時同様、ジュリエッタが警戒しつつ先頭に立ち、キンバリーとオーキッドが後に続く。


”む……拙者の索敵には特に反応がないな……”


 レーダーを確認したライドウが不可解そうに呟く。

 単にレーダー範囲の切り替わりが洞窟と火口で行われているだけなのかもしれないが……。


「それじゃ、行く……」


 何にしても目で確かめる必要はある。

 意を決しジュリエッタが洞窟から火口を覗き込み――


「…………っ!?」


 ――そこにあった()()を目にし、絶句した……。


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