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6-13. 海賊とのお茶会

「だっはっは! いやぁ、やるじゃねぇかおめぇら!」


 乱入対戦が終わり、ライドウが即オーキッドとキンバリーを復帰させる。

 で、復帰した後に私たちは一度砂浜から離れ、再び花畑へと戻ってきていた。

 ……もちろん、ライドウたちも一緒に。

 どかっと椅子に腰を下ろしたオーキッドは、さっきまでの対戦での敗北なんてまるで気にしていないかのように豪快に笑っている。


「くくく……」


 ……キンバリーの方はというと、何考えてるのかさっぱりわからない感じで意味深に笑っているけど。まぁこっちもそれほど気にしてはいないんだとは思う。

 うーん、この二人……最初の方こそやたらと好戦的ではあったけど、別に『悪人』って感じは全くしないんだよね。

 ついこの間、ドクター・フーなんていうどこからどう考えても『悪人』っていうのと遭遇したせいか、余計にそういう感じがわかるようになってきた。

 まぁそれを言ったら、ドクター・フーとかクラウザー以外にあからさまな『悪人』って呼べそうなのとは会ったことはないんだけどさ。


「……オーキッドも、キンの字も、面白い魔法だった……」


 実際に拳を交えたジュリエッタの方も、二人には悪い印象を抱いていないようだ。

 元々負けるとは思っていなかったが下手をすると……という感じではあった。実際、オーキッドが最後にスティールを空振りしなければ、ジュリエッタは結構追い込まれたんじゃないかと思える。

 対ユニットの経験を今後積んでいけば、この二人かなり強くなるんじゃないだろうか。


「ハッハァッ! だろ?」


 果たして誉め言葉かどうかは微妙なところだけど、オーキッドはジュリエッタに言われて上機嫌だ。


「ほれ、こういうことだってできるんだぜ!」


 そう言うと、突如彼女の傍らに大きな木の(たる)が出現する。

 え? 一体いつの間に?

 ……まさかとは思うけど、これも彼女の霊装なんだろうか?


「おい、メイドのねーちゃん、全員分のグラス寄越しな!」

「はい。ただいま」


 別にヴィヴィアンは本職のメイドではないんだけど……と内心思いながらも、当のヴィヴィアンは表情一つ変えずに言われた通り人数分のグラスを召喚する。

 グラスを受け取ったオーキッドが樽へとグラスを突っ込み、中に入っていた液体をくみ上げる。

 ……紫色の……何だろう、ぶどうジュース? だろうか。


「こいつぁアタシの奢りだ! 別に毒とか入ってねーよ。安心して飲みな!」


 まぁ対戦中でもないし、今更毒を盛ったところでどうにもならないだろうからそこは安心しているけど……。


「もらってやるでしゅ!」

「……うん」


 真っ先に口を付けたのはチビっ子二人。

 シオちゃんはよくわからないけど、ジュリエッタは多分『毒見』のつもりなんだろうな……。

 こくこくと紫色の液体を飲むと――


「……おいしーでしゅ!」

「うん、甘い。ぶどうジュース……」


 ああ、やっぱり見た目通りのぶどうジュースなんだ……毒とかよりもむしろお酒なんじゃないかってちょっと思ったんだけど。

 …………いや、私が飲みたいとかそういうわけではなく。


「ははっ、だろう? アタシの自慢の一品だぜ!」

”へぇ? これ、もしかしてオーキッドが作ったの?”


 私も口を付けてみるが、確かに甘くて美味しい。それでいて口の中にいつまでも甘味が残っているわけでもなく、さっぱりとした飲み口だ。


「いや、こいつぁこの樽の能力さ」

”……樽の能力?”

「ああ。この樽は……どこで手に入れたんだっけか、ライドウ?」

”確か、水没した古代遺跡のステージであったか”

「そうそう、そんな場所だったな。で、この樽なんだが、放っておくと勝手に樽の中にぶどうジュースが溜まっていく、って効果なんだぜ!」


 ふむん?

 どうやらオーキッド自身の能力ではなく、樽の効果がそうなっているようだ。


「……まー、似たようなので、中に入れた液体が何であろうとも真水に変える、っていう小汚ぇグラスとか何に使うんだってのもあるけどよ」


 …………それ、もしかして数多の騎士やら聖人が人生賭けて探し出そうとしていたアイテムだったりしない?

 まぁ使い道としてはないことはないけど……たとえ真水に変わっていたとしても、元が汚水とかだと飲む気はしないよねぇ……。

 それはともかくとして、何だろう。ジェムで買えるアイテムとは違って、何か特別なアイテムがどこかにあったりするのだろうか?


「この樽みたいに、いろんな効果のあるアイテム――アタシらは『秘宝(アーティファクト)』って呼んでるんだけどよ――そういうのを集めるのが、アタシらライドウ海賊団の目的さ!

 んで、アタシのギフト【探索者(エクスプローラー)】はそういう秘宝とかお宝の気配がわかるって能力なのさ」


 スカウターで見た時にはわかっていたけど、改めて彼女の口から【探索者】の能力について聞けた。

 どうもオーキッド自身が『価値のある』と思ったお宝に反応するギフトみたいだ。


”へぇ……もしかして、私たちが今まで気づかなかっただけで、クエストのあちこちにそういうアイテムが隠されてたりするのかな”

「ああ、かもな。ま、見つけたところで()()()()()()()()使いこなせないだろうけどさ」

”ん? どういうこと?”

「アタシの魔法――スティールを使って自分専用の霊装に変えなきゃ、大抵のアイテムは使えないってことさ。ま、この樽みたいなのはそのまま使えるんだけどな。

 ただ、手に入れたアイテムを保管する方法がねーだろ?」


 なるほど。確かに『ゲーム』が用意したアイテムでなければ、私のアイテムボックスに格納することがそもそも出来ないか。

 ということは、オーキッドには保管する方法があるってことかな? 霊装化させてしまえば幾らでも持ってられそうだけど……そもそも複数の霊装を持ってるユニット自体、オーキッドとアビゲイルしか知らない。その上、オーキッドは持っている霊装の数がかなり多いので比較にならない。


「アタシの霊装は、ほれ、おめーらも見ただろ? あの船さ」

”ああ、あの海賊船!?”

「そう――アタシの『鮫帝号(エンペルシャーク)』に載せたアイテムは全部アタシの霊装となるし、載せてある霊装は使い放題ってわけさ」


 それがオーキッドの本当の能力か。

 さっきの戦いやさっき樽を取り出したのも不思議な能力だと思ったけど、あの海賊船そのものだけでなく、海賊船に置いてあるアイテム全てが霊装扱いとなり自由自在に取り出せるということみたいだ。

 スティールで奪った魔法やアイテムも海賊船に保管しておけばいつでも使えるし、『ゲーム』の用意した以外のアイテムでも霊装にしてしまえば自由に使えるし保管も可能と……。

 うーん、どうやらオーキッドって、ものすごく偏った『霊装特化型』って感じの能力みたいだ。

 実はスカウターで見た時からわかってたんだけど、彼女の持っている魔法は『スティール』ただ一つなんだよね。

 同じ霊装特化型だとアビゲイルもそうだと言えるが、あっちは各種魔法が霊装での銃撃を強化する役割を持っていた。

 それに比べるとオーキッドの場合、霊装への依存度はアビゲイル以上だと言える。

 ……すごくバランスが悪い能力にも思えるが、上手い具合に霊装を増やしていければ少ない魔力消費で長期戦を行えるという利点もある。


”なるほどねぇ……”


 面白い話は聞けたけど……ペラペラと喋っちゃっていいのかな? ライドウもキンバリーも何も言わないところを見ると、知られても構わないと思っているのかそれとも気にしていないのか……。


「……それ、で……一体、貴女たち、この島に……何の、用があるの……?」


 おっと、話し合いの場を持ったにも関わらずすっかり雑談モードになってしまっていた。

 プラムの声にようやく我に返る。

 ……私も、オーキッドも。


「そ、そうだ! だから、この島にあるお宝にアタシは用があるんだよ!」

”それは――君のギフトが反応しているってこと?”

「そういうこと。別に、おめーらそのものに用があるわけじゃねーんだって!」


 と、どこかプラムに対して腰が引けているオーキッド。

 キンバリーに至ってはプラムと決して目を合わせようとしないのが見ててわかるくらいだ。

 ……もしかして、実は既にオーキッドたちってプラムと戦ったことがあるんだろうか? それで、ボロ負けしてたとか……?


「……ふぅー……だから、この島に……貴女が求めるようなもの、何もないって、言ってるのに……」

「そ、そんなわけねぇ! アタシのギフトが外れたこと、今まで一度もねーし!」


 何となく見えてきた。

 要するにオーキッドたちはこの島にあるであろう『お宝』を探したい。

 対するプラムたちは、この島に『お宝』なんてないし、『お宝』探しであちこち――特にこの花畑を――荒らし回れるのが嫌。

 そういう平行線で対立しているってわけか。

 ……うーん……どうしたものかな、これ……。


「わかった。んじゃ、この花畑は絶対に荒らさねー。だから、アタシたちに島を探検させろ!」

「…………仕方ない、わね……」


 ……え?


「貴女が欲しいものがあるかはわからない、けど……あっちの火山に、古い遺跡がある、わ……。

 そこなら、自由にして、いいわ、よ……」


 ……んん?


「本当か!? よっしゃ、ライドウ、キンちゃん!」

「くくく……よかろう、我が盟友」

”うむ。参ろうか!”


 プラムからの許可を得てオーキッドたちが立ち上がる。

 どうやら火山の方へと向かうみたいだ。


「……待って。ジュリエッタも、行っていい……?」


 そこへ待ったをかけたのがジュリエッタだ。

 どうやら彼女も一緒に火山へと行きたいらしい。

 オーキッドたちだけでなく、私にも尋ねているのだろう。


”…………そうだね。ジュリエッタも着いていってあげて”

「おう、構わねーぜ! むしろ、ジュリ公が来てくれるっつーんならありがたいくらいだぜ!」


 ほんと、さっぱりした性格してるなー。負けたことなんて微塵も気にしてないみたい。

 ジュリエッタ一人を着いて行かせるのは心配と言えば心配なんだけど、ちょっと気にかかることがある――ていうか、オーキッドたちのいないところでプラムには問い質したいことが出来てしまった。


”ヴィヴィアン”

「はい、心得ております。

 ジュリエッタ、《グリフォン》を一匹あなたにつけていきますので、連れて行ってください」

「うん、わかった」


 島の周囲を探らせていた《グリフォン》のうち、一匹をジュリエッタへと持たせる。

 火山までは距離があるし、私の『視界共有』も範囲外となってしまうだろう。でも、《グリフォン》を通じてヴィヴィアンには様子がわかるようになるので、それで事は足りる。

 何もジュリエッタを通じてオーキッドたちの監視をしようとしているわけではない。

 ……プラムがあっさりと火山への立ち入りを許可した理由、それは――おそらく()()()()()()()()()()()()、だと思う。

 ジュリエッタ、それに《グリフォン》の目を通じて何があるのかを確認したい。それがジュリエッタの同行を許可した理由だ。

 うーむ、プラム(海斗君)が何考えているのかわからないけど、ちょっと最初に言っていたのと話が違って来ている気がする……何か、ものすごく面倒な事態に巻き込まれかけている、そんな気がするのだ。

 ……今更か。


「火山に行く、なら、山の外側は……登らない方が、いい、わ……」

「ほう?」

「少し、離れた場所に、洞窟がある……から、そこから行きなさい……」


 細かい理由までは話さなかったが、プラムはそう忠告する。

 まぁ火山にある遺跡、とプラムは言っているし溶岩に埋もれてしまったものか何かだろう。確かに外側を探索しても意味がないような気はする。


「……無理、は、しないように……」


 更にはジュリエッタたちを心配するようなことまで言う。

 ますます彼女の意図がわからない……まぁそれも、ジュリエッタたちが出発した後に話を聞くことで解消されると思っておこう。




 ――この時、プラムが何を思って『無理するな』と言ったのか……。その意図は、割とすぐにわかることになる。

 彼女の話を聞いたからというのもあるけれど……火山へと向かったジュリエッタたちが()()()()()()によって……。


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