6-12. ラビさんチームvsライドウ海賊団
さて、ライドウたちとの対戦だが――
「へっへっへ、どうした!? さぁかかってきな!」
どこからか取り出した曲刀――霊装だろうか――を片手に、オーキッドが私たちを挑発してくる。
キンバリーはその横でこちらも不敵な笑みを浮かべつつ立っているだけだ。
こちらもジュリエッタが前には出たが積極的には攻めず、様子を見ているだけ。ヴィヴィアンは私を抱きかかえたまま最初の位置から動いてもいない。
……膠着状態、というわけではない。
「……ど、どうしたどうした!? オラ、かかってこいって!」
睨み合うこと一分くらい。何かオーキッドに焦りが見えてきた。
まぁ、そうだよねぇ……彼女の能力なら。
スカウターで能力は大体わかった。けど、ヴィヴィアンたちにそれを遠隔通話で教えようとしたら、二人揃って『いらない』と拒否してきた。
どうやら二人とも、自分たちで考えて初見の相手と戦いたい、という思いがあるようだ。
ヴィヴィアンが即時動かなかったことを見ると……どうやら彼女もオーキッドの能力は推測出来ていたらしい。
「ふふ、召喚魔法は使いませんよ? また奪われたら困りますので」
「……ぐぐっ……!」
そう、オーキッドの持つ能力――それは、強奪魔法だ。
船に向けて放った《ハルピュイア》の制御が奪われたことにより、ヴィヴィアンは気づいたみたいだ。
スティールという魔法、スペックだけみてもかなり強力な魔法だと思う。
その効果は、『相手の魔法を奪い取って自分の霊装へと変える』というものだ。
ポイントは『霊装へと変える』、というところだろう。
霊装って、服の方はともかく武器型の方は物凄く頑丈なのだ。ちょっとやそっとでは壊れることはない――かつて壊れた場面を見たことがあるのは、ジュリエッタがクラウザーに強制命令で操られて壊したところくらいか。アビゲイルの『シルバリオン』は壊れたというよりは元々バラバラに分解できるようだったし、実際壊れていなかった。
で、魔法を奪い取って霊装にするということは、奪うものによっては非常に凶悪な性能を発揮することになる。
特にヴィヴィアンの召喚獣が奪い取られた場合は大変だ。ただでさえ硬い召喚獣が更に硬くなる恐れがある上に、それが自律行動するというのだから。
「? ああ、そういう魔法なんだ……」
ジュリエッタは特に気付いていなかったみたいだけど、ヴィヴィアンの言葉を聞いて気付いたらしい。
まぁジュリエッタの場合、メタモル、ライズ、ディスガイズのいずれの魔法も流石にスティールでは奪うことは出来ないので気にするほどのことはないだろう。
彼女が動いてなかったのは、本当に様子見していただけみたいだ。
「じゃあ、ヴィヴィアンは……そこで殿様、守ってて」
オーキッドの魔法によってヴィヴィアンの召喚獣は封じられたも同然の状態となると、ジュリエッタが一人で戦うしかない。
とはいっても、まぁインストールを使うとかオーキッドが奪えないようなタイミングと位置で召喚するとか、色々とやりようはあるんだけどね。
それはともかくとして――今はジュリエッタ一人でもいいだろう。
というのも、オーキッドとキンバリー……ぶっちゃけ、二人合わせても多分ジュリエッタどころかヴィヴィアン一人にも普通に負けそうな感じがするのだ。
「ひ、一人で来るのか!? ちょ、調子に乗ってるんじゃねーぜ!?」
オーキッドは口調は乱暴だし威勢もいいんだけど、どこか腰が引けているように見える。本人は隠してるつもりなのかもしれないが。
キンバリーの方はよくわからないので油断は出来ない。が、こちらも能力を見る限りはアビゲイルとかみたいに強力な攻撃力を即時発揮できるようなタイプでもない。
こちらが手を抜かず、本気でかかっていけば問題なく降せるだろうとは思う。
「……ライズ《アクセラレーション》」
で、ジュリエッタは微塵も手を抜く気はなく、加速をして一気に二人との距離を詰める。
「くくく……我が魔法に死角なし――シャドウアーツ《ダークネスバインド》」
ジュリエッタが接近すると同時にキンバリーから動く。
彼女の魔法――シャドウアーツが発動、彼女の足元の影がゆらゆらと蠢き、そして地面から離れて真っ黒な触手となってジュリエッタへと襲い掛かる。
技巧系列の魔法か。いまいちよくわかってないんだけど、どうやら普通の魔法とは少し違う系統らしい。
キンバリーのアーツは、その名の通り『影』を自在に操る魔法のようだ。自在に操るついでになぜか実体化させているけど……まぁ魔法に突っ込みを入れても仕方ない。
影の触手がジュリエッタの動きを封じようと絡みつこうとする。
が、加速したジュリエッタはそんなものには捕まらない。
あっさりと触手の間をすり抜け――キンバリーの思惑だと触手を回避して回り道するだろうと思っていたのだろうが、それを裏切りほぼ直進してジュリエッタは二人の眼前へと現れる。
「メタモル!」
そして両腕をメタモルで巨大化させ、二人を同時に殴り飛ばそうとする。
「シャドウアーツ《ダークネスウォール》!」
が、素早くキンバリーが次の魔法を使う。
今度は影が大きく隆起、その名の通り『壁』となってジュリエッタの腕を防ぐ。
……キンバリーの方だけ。
「ぎゃわー!?」
哀れ、オーキッドはあっさりとジュリエッタに殴られ吹っ飛ばされてしまっていた。
とはいえ一撃で相手を沈められるほどではない。
海を自力で渡って来たということは道中、ターゲット以外のモンスターとも戦ってきたことは明らかだし、それなりに彼女たちもレベルが上がっているのだろう。体力とかステータスはそれなりに上げられているみたいだ。
「……む?」
すぐさま追撃をかけようとしたジュリエッタの足が止まる。
見ると、キンバリーに向けた拳が、影の壁に捕らわれて動けなくなっているみたいだ。
――なるほど、これが彼女のシャドウアーツの『特性』か! そこまではスカウターじゃわからないしなぁ……。
どうやらシャドウアーツで作り出した影は、ただ実体を持つだけではないようだ。
「くくく……一度我が影に捕らわれしもの、逃れること能わず」
意外に厄介な能力だ。
実体があるため攻撃を防いだりすることはもちろん出来るし、影故に物理的に破壊するということも難しい……何とも矛盾していて術者にとって都合のいい魔法だけど、まぁ魔法なんだしそれはいい。
問題なのは、これをどうにかする方法がジュリエッタにあるかどうか、という点だ。
「我が盟友よ!」
「お、おう!!」
吹っ飛んでいたオーキッドも大したダメージではなかったのか、すぐさま立ち上がると――
「キンちゃん、そのまま抑えてろよ!」
と言いながら左手に銃を持ちジュリエッタへと狙いを絞る。
……って、あれも霊装か!? さっきの曲刀だけじゃない……?
オーキッドが持っているのは、アビゲイルの霊装みたいな近代の拳銃ではなく、大昔の――何て言うんだっけ? フリントロック式だか何だか……まぁ名前は忘れたけど、映画とか漫画で見る古いタイプの銃だ。
でも見た目が古いからと言って威力まで大したことないとは思わない方がいいだろう。
「オラオラ!!」
オーキッドが拳銃を発射しながら、右手の曲刀を振りかざしてジュリエッタへと接近する。
銃で倒せればそれで良し、ダメなら接近して切り付けようという魂胆だろう。
……まぁ、片腕が封じられているし戦い方としてはそう悪いものではないんだけど……相手がジュリエッタだからなぁ……。
「……メタモル」
命中率が悪いのか、それとも単にオーキッドの腕が悪いのかはわからないが、銃弾はジュリエッタを掠めるものの命中しない。
焦ることなくジュリエッタはメタモルを使い、影に封じられた腕だけをスライム化させる。
ジュリエッタお得意の、身体の一部を切り離して本体は難を逃れるという回避法だ。今までならかなり大量の『肉』を消費して逃れていたのだけど、腕の先――拳だけが影に捕まっている状態なら切り離す『肉』は最小限で済む。
あっさりと影から逃れたジュリエッタは、地面を蹴り一気に向かって来ていたオーキッドへと自分から攻め、距離を詰め肉薄する。
「ライズ《インパルス》!」
「しゃらくせぇっ!!」
衝撃を付与した拳で殴りつけようとしたジュリエッタに対し、オーキッドは曲刀と銃を投げ捨てるとどこから現れたロープを投げつける。
また新しい霊装!? 魔法を使った様子が全くないことから、霊装だとは思うんだけど……一体幾つの霊装を持っているだろう? それとも、あれも以前誰かから奪った元・魔法なんだろうか?
投げつけられたロープはまるで生きているように蠢き、ジュリエッタへと絡みつこうとする。
「チッ……」
また捕まってもすぐにメタモルで逃げることは出来るかもしれない。
だけどスライム化するなり、切り離して逃げるということは『肉』を消費してしまう。
前回の『冥界』以後、それなりに補充はしているもののまだ足りない状態なのだ――サンドウォームみたいな巨大モンスターとはあまり戦えていないので、メタモルで使う分とちょうど釣り合いが取れているくらいでほんの僅かプラスになっている程度にすぎない。
立て続けに切り離しをすると、あっという間に『肉』を消費しつくしてしまうくらいしか貯蓄がない。
それを嫌ったジュリエッタが自分の足で移動してロープを回避しようとする。
「ちぇっ、仕切り直しか」
「くくく……」
オーキッドの言う通り、仕切り直しだ。
位置的にはオーキッドとキンバリーがジュリエッタの左右にそれぞれ、私とヴィヴィアンが少し離れた位置にいるがやはり左右に相手二人がいる。
ライドウはいつの間にか姿を消していたかと思ったら、小舟へと避難している。
オーキッドが一回殴られたくらいで、ダメージは互いに大したことはないみたいだ。
「むぅ……ちょっと面倒な相手……」
こちらは実質ジュリエッタ一人で相手にしているようなものだ。二対一でもまだ負ける気はしないけど、『面倒な相手』という彼女の評価は間違いではない。
ヴィヴィアンを実質封じ込めている上になぜか幾つもの霊装を取り出して自在な攻撃をしてくるオーキッド。
物理的に破壊不能、かつ変幻自在に影を操るキンバリー。
どちらもトリッキーな戦術を得意とする、正統派とは言いにくいけど戦闘においてはなかなか優秀なユニットと言える。
「へっ! 行くぜ、キンちゃん!」
「うむ、我が盟友!
……あとキンちゃん言うな」
勝てないとは思わないけど、油断したら危うい。
……もっとも、ジュリエッタが油断する場面とか想像できないけど。
「シャドウアーツ《ダークネスブレード》、更にシャドウアーツ《ダークネスアーマー》!」
「それをすかさずアタシがスティール!!」
「……む?」
何と!?
キンバリーのシャドウアーツで作り出した『影の剣』と『影の鎧』――それらをオーキッドがスティールで奪い取り、自身に纏う。
スティールって、味方の魔法にも有効なのか!?
漆黒の鎧を身に纏い、彼女の身長ほどもある巨大な漆黒の剣をオーキッドは手に取る。
かなり重厚な装備だというのに、実に軽やかにオーキッドは剣を振り回している。
どうやら元が影のため、重量はほとんどない――というより、むしろ重さが全くないみたいだ。
それでいて、先程の《ダークネスバインド》や《ダークネスウォール》みたいに物理的な影響を相手へと一方的に及ぼすことが出来るのだろう。
……キンバリーがオーキッドの補助と敵の妨害・拘束を行い、オーキッドが攻める――そういうスタイルか。これはこれで意外にバランスがいい。
「オラァッ!!」
影の大剣を振りかざし、ジュリエッタへと襲い掛かるオーキッド。
だが、ジュリエッタにただ振り回すだけの剣なんて当たるわけがない。
剣をかわしつつ懐へと潜り込んだジュリエッタの拳がオーキッドの腹へとめり込む――ことはなかった。
「……むー……」
「へっへっへ! これならおめーの攻撃も効かねーぜ!」
予想通り、影の鎧はただ硬いだけではなく、物理的な攻撃をシャットアウトしているみたいだ。
特にライズやメタモルを使ってなかったとは言え、ジュリエッタの攻撃で全くダメージを受けていない。
更に、
「くくく……闇に抱かれ永遠の眠りにつくがよい……シャドウアーツ《ダークネスレイン》!」
キンバリーも黙ってみているわけではない。
彼女の影が大きく隆起――影の柱と化すと、弾け飛び、ジュリエッタへと向けて影の『雨』を降らせる。
触れたらどうなるのか気になるけど、絶対にいいことは起こらないだろう、それはわかる。
先の影の触手のように最小限の動きで回避するのは難しいくらい、広範囲に小さい影の粒が降り注ぐ。
これを無理矢理回避しようとはせず、仕方なくジュリエッタは大きく後ろへと跳んで粒の範囲から逃れようとする。
「はーっはっはっ!!」
そこへ、降り注ぐ粒をものともせず――同じ影の鎧を身に纏っているためだろう――大剣を振りかざしてオーキッドが追撃をかける。
影の鎧にジュリエッタの打撃が通用しないのがわかっているため、かなり強気になったらしい。
更にキンバリーからの広範囲攻撃による支援もある。一方的に攻撃を仕掛けることが出来る……そう思ったのだろう。
……それがかなり甘い見通しだと、彼女たちは自分の身をもって知ることになる。
「……メタモル」
あわてず騒がず、ジュリエッタがメタモルを使う。
両肩から伸びる触手――それはヴォルガノフのものだ。
電撃ならば影の鎧で身を守っていたとしてもきっと防げないだろう。
だがジュリエッタの狙いは電撃による攻撃ではない。
「んなぁっ!?」
電撃触手が激しく明滅、辺り一面に強烈な光を放つ。
その光に晒され、キンバリーの生み出した影が消滅する。
――当たり前の話だけど、影ができるには光源が必要だ。そして、その光源の反対側へと影は伸びる。
ジュリエッタの作り出した光は、ほんの一瞬だけど非常に強く、キンバリーの影を後ろへと伸ばした。
そのため、キンバリー自身の影と、影から生み出したものが一瞬とは言え千切れてしまったのだ。
どうやら彼女のシャドウアーツはキンバリーの影を自由自在に操るとは言っても、キンバリー自身の影から離れて動くことは出来ないようだ。そして、性質そのものはやはり元の影と変わりないらしい。
戦いながらキンバリーの影が本体から離れていないことを見抜いたジュリエッタは、とにかく強烈な光を放つことでシャドウアーツを打ち破る方法を見出したのだろう。
「ぶぎゃんっ!?」
……見た目とはそぐわない悲鳴を上げ、キンバリーの身体が大きく跳ねて倒れる。
もちろん、ただ光を放つだけではない。放たれた雷光がキンバリーへと突き刺さったのだ。
「キンちゃん!?」
「……よそ見、してる場合じゃない」
雷撃を喰らわなかったオーキッドだったが、キンバリーがやられたことに気を取られてしまった。
その隙にジュリエッタが接近、今度こそ《インパルス》を込めた拳を叩きこもうとする。
これで決着か――そう思われた時だった。
「甘ぇんだよ!!」
「……ッ!?」
すぐさまジュリエッタの方へと意識を戻したオーキッドが叫ぶと共に、何もない空中に巨大な大砲が浮かび上がる。
一体どうやって? やっぱりアレもオーキッドの霊装なのか?
その謎を解くよりも早く、大砲が轟音と共に砲弾を吐き出す。
「ハッハァ!! これでどうだ!?」
大砲はこれまた漫画の海賊船に出てきそうな、古めかしい造形だった。
発射された砲弾も、近代の戦艦とかの砲弾とは違って真ん丸の砲丸のようなものだ。性能としてはそんなに高くないのかもしれない。
でもいくら性能が低いと言っても、それは船対船で撃ち合う場合の話――人間大の生き物が直撃を受けたら運がどれだけ良くてもミンチは免れない……はずだ。
相手がジュリエッタでなければ、だけど。
「……は?」
恐らくオーキッドの持つ霊装(暫定)の中では最大の威力を持つ大砲だったが――
「ふんっ!!」
両腕を巨大化させたジュリエッタは向かってくる砲弾を真っ向から受け止め、放り投げてしまったのだ。
……そりゃねぇ。大砲なんかよりもずっと威力のあるアリスの《赤色巨星》でもパワーで抑え込めちゃうジュリエッタだしねぇ……。
「……じゃ、終わらせる」
ジュリエッタもこれがオーキッドの切り札だと判断したのだろう。それを潰した以上、もう勝ちはほぼ確定したようなものだ。
「メタモル――《嵐剣形態》」
いつものように右腕を竜巻触手に変えるのではなく、右手から伸ばした棒――いや、『剣』か――を竜巻へと変えた、彼女にしては珍しい『武器』へのメタモルを使う。
これもスティールでは奪えないのか、忌々しそうに舌打ちをしつつ再び曲刀を手にするオーキッド。
でも流石にその曲刀では竜巻剣は受けることは不可能じゃないかな……。
「……シャドウアーツ《ダークネスワールド》!」
そこで倒れていたキンバリーがシャドウアーツを使用する。
しまった、まだとどめを刺し切れていなかったか――ジュリエッタはわかっていただろうけど。
キンバリーの影が大きく膨らみ、『ドーム』となりジュリエッタとオーキッド、それにキンバリー自身も包み込む。
これは……周囲を完全に影で包んで視界を奪う魔法、か。
ジュリエッタならば音響探査とか使えるし、視界が塞がれたところで何とかなるとは思うが、一瞬でも視界が途切れたらその隙に攻撃を受ける可能性もある。
「シャドウアーツ……《ダークネスブレイカー》!!」
大きく広がった影が急速に圧縮――中にいる者を押しつぶそうとする。
味方ごと無差別か!?
……と思いきや、影の中から全くの無傷でキンバリーとオーキッドが抜け出して来る。
そ、そりゃそうか。自分の魔法なんだし、そういうコントロールは出来るか……。
影はそのままどんどんと縮んでいき……やがて小さな球となり消え去る……。
「へへっ、まずは一人――ってぇっ!?」
「くくく……我が闇に抱かれて馬鹿なっ!?」
勝利を確信したであろう二人が同時に驚きの声を上げる。
それもそのはず、影に飲み込まれて押しつぶされたはずのジュリエッタが地中から飛び出してきたからだ。
……さっきまったりムードの時にも聞いたけど、シオちゃんとの対戦でも使った土遁の術だ。影の飲み込まれたと思った瞬間、ジュリエッタはすぐさま地中へと避難したのだろう。
これがあるからジュリエッタは怖い。彼女の動きを完全に封じるには、今やアリスの《天魔禁鎖》みたいな完全拘束用の魔法を使わなければならない。
「メタモル――《雷獣形態》!」
背中から二本の雷を纏った槍触手、右手には嵐の剣――どちらも食らえば無事では済まない必殺の威力を持つメタモルを使い、
「はぁっ!!」
嵐の剣がキンバリーを切り裂き、今度こそ体力ゲージを削り切る。
同時に雷の槍がオーキッドへと電撃を走らせるが、
「まだまだぁっ!!」
一体どういう仕組みか、電撃がオーキッドを避ける。彼女の持っている霊装に避雷針のようなものがあったのかもしれない。
ともかう、無事だったオーキッドがジュリエッタへと肉薄、曲刀で切り付けると同時に……。
「今度こそ吹っ飛べ!!」
至近距離から大砲を放つ。
今度はメタモルで受け止めることも出来ず、嵐の剣と雷の槍で受け止めようとするものの止められず、ジュリエッタも弾き飛ばされる。
……思った以上に体力ゲージがごっそりと減ってしまったのがわかる。まともに食らえばやっぱり危ない攻撃だ。
「ご主人様、そろそろ――」
”うん。ヴィヴィアン、加勢しよう”
ここまで様子を見ていて、ジュリエッタ一人でも何とかなりそうだとは思ったけど……そろそろ加勢に入った方が良さそうだ。
今の大砲の一撃でかなり体力が削られてしまった。回復すれば問題ない量ではあるけど、連続で攻撃を喰らえばいくらなんでも持たない。
とはいえ生き残っているオーキッドの魔法はヴィヴィアンの天敵とも言えるものだ。
果たして――
「サモン――」
「!! へへっ、貰ったぁ!!」
ジュリエッタへと追撃を仕掛けるのを防ぐようにヴィヴィアンが前へと出て、召喚獣を呼び出そうとする。
その気配を敏感に読み取ったオーキッドがチャンス、とばかりにスティールを使おうとヴィヴィアンの方へと手を伸ばす。
「――《ティーポット》」
「スティール!! ……は?」
……うん、残念だけどヴィヴィアンが呼び出した召喚獣は特に変わった効果のない、《ティーポット》なんだ……。
中に入った液体の温度が一切変わらなくなる、という究極とも言える保温性能を持っているとはいっても、ただの《ティーポット》なんだ……。
「な、な、な……なんじゃこりゃあぁぁぁぁぁぁっ!?」
右手に曲刀、左手にティーポットという何だかよくわからない格好の海賊少女が叫ぶと共に――
「……残念」
今度こそ、ジュリエッタの雷の槍がオーキッドへと突き刺さるのだった……。
オーキッドのスティール……確かにヴィヴィアンの魔法にとっては天敵と言える性能なんだけど……。
彼女の戦い方を見ていて二人とも気付いたように、どうも彼女は『霊装』に大分依存した戦闘能力を持っているらしい。
だから、スティールできる魔法を相手が使おうとしたら、即スティールで奪えるように本人は意識していたのだろう。
ただ――意識しすぎていて、今みたいな土壇場でのフェイントに引っかかると、かなり致命的な隙を晒すこととなってしまうのだ。
”……むぅ、拙者らの完敗、であるな”
小舟から降りてきたライドウが素直に負けを認め『降参』を選択する。
……ふぅ、何とか無事に終わったか。
”お疲れ様、二人とも”
一瞬だけひやっとしたけど、無事に終わって良かった。
……と思ったら、ジュリエッタは何やら少し不満気な顔だ。
…………あれか。一人でやれると思ってたのに、ヴィヴィアンに助けてもらって少し不満、と言ったところか。
ヴィヴィアンの方はというと、ドヤ顔するわけでもなく、いつものように静かに佇むのみだ。
「ジュリエッタ」
「……わかってる」
ヴィヴィアンの呼びかけに、小さくため息をついてからジュリエッタは頷くと――
パン、と二人は掌同士を叩き合う。身長差が大きいのでハイタッチ、とは言えないけど。
「ジュリエッタたちの――」
「――勝利、ですわね」
そう言って、ヴィヴィアンは小さく微笑むのであった。
 




