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6-11. パイレーツ・オブ・異世界

 砂浜へと移動した私たち。

 おそらく後数分もすれば肉眼でも接近してくるのが何なのか、確認することが出来るはずだ。


「……これは……?」

”ヴィヴィアン、どうしたの?”


 先行して一匹、《ハルピュイア》を飛ばしていたヴィヴィアンが眉を顰める。

 何か変なものを見つけたのだろうか。


「向かわせていた《ハルピュイア》ですが」

”うん”

「どうやら相手に()()()()ようです」

”……はい?”


 さらっと言ってのけたが、それって結構大変なことなのでは?

 奪われた、というのが言葉通りの意味なのだとしたら、ヴィヴィアンの召喚獣を乗っ取られたということだろうか。

 アリスの魔法がマジックマテリアルに干渉するため召喚獣に対しても魔法をかけられる、というのと少し似ているかもしれない。《ハルピュイア》を奪った相手も、マジックマテリアルに干渉する能力を持っているのだとしたら、やってやれないことはないだろう。


「《ハルピュイア》が奪われる直前、相手の姿も確認いたしました」

「……どんな、やつら、だった……?」

「はい。()()でした」

”……かいぞくぅ?”

「木製と思しき大きな、古めかしい船に、髑髏マークの大きな旗を掲げておりました」


 そ、それは確かに『海賊』だ……。

 どうやら相手はモンスターではないのは間違いなさそうだ。


”はぁっ……間違いないわねぇ”

「えぇ……ライドウたち、だわ……」


 タマサブローとプラムが言うのであればそうなのだろう。

 しかし『海賊』かぁ……しかもヴィヴィアンの見たものが正しいのであれば、どうやってかはわからないけど海賊船まで持っているということになる。

 うーむ、元々話し合いだけで解決はしないだろうなぁとは思ってたけど、『海賊』となるとますます話し合いは難しいような気がしてきた。


「殿様、見えてきた」


 こちらからわざわざ海上まで出て行って迎え撃つ必要はない。

 海の上でも飛べば普通に戦えるけど、足場のない場所は出来れば避けたい。

 ということで砂浜で相手が近づいてくるのを待っていた私たちだけど、ようやく水平線の向こう側から姿が見えてきた。


”……おお、本当に海賊船だ……”


 ヴィヴィアンの言葉を疑っていたわけじゃないけど、何かあまりにも雰囲気が違いすぎて戸惑っていたんだよね。

 でも、確かに水平線の向こうからゆっくりとこちらへと接近してくるのは――海賊船だ。そうとしか言いようがない。

 大型の帆船で、帆には大きく髑髏マークが描かれている。

 『海賊船』って聞いて真っ先に思い浮かぶイメージそのままの船が島へと接近してきている。


「殿様、どうするの?」


 手っ取り早く今回の件を終わらせるのであれば、このまま問答無用で海賊船を沈めてしまうのが一番早いだろう。

 ……やらないけどさ、そんな乱暴なこと。


”うーん……とりあえず、向こうが上陸するのを待とう。

 で、上陸したらまずはライドウの話を聞いてみたい”


 タマサブローたちを疑うつもりはないが、ライドウたちの言い分も聞いてみたいのだ。

 ……それに、何かタマサブローとプラム……隠し事をしているような気がするんだよね。私たちを騙し討ちしようとか、ライドウと共倒れにしようとかそういうのとはちょっと違う気もするんだけど……。

 とにもかくにも、一方の話だけ聞いて相手を先制攻撃で倒す、なんて真似はしたくない。

 それが原因でアンジェリカの時みたいに話が物凄くこじれるってのも嫌だし。

 私の言葉にジュリエッタとヴィヴィアンは共に頷く。


「わかった。ジュリエッタ、暴れない」

「わたくしがご主人様と共に話し合いの場に立ちます。ジュリエッタ、貴女はわたくしの後ろで警戒を」

「うん」


 相手もユニットだ。乱入対戦を承諾さえしなければ危険はないだろうけど、クラウザーのチートのような例外もある。警戒しておくに越したことはない。

 ジュリエッタもシオちゃんの時みたいなことがなければ冷静な判断は出来る方だ。安心して後ろを任せられる。


”わたしたちももちろん着いていくわ。まぁ、あなたたちの後ろにいるつもりだし、話し合いの邪魔はしないわ”

”…………? う、うん……それはいいけど……”


 ――ここで『話し合いをする』という点に突っ込んでこないということは……やっぱり、タマサブローたちは何かを隠しているような気がするんだよなぁ。

 彼女たちのお願いは、『ちょっと厄介なやつら』=ライドウたちをどうにかして欲しいということなんだけど、話し合いで解決できるならそれでも構わないということなのだろうか……?

 いや、ここで私が考え込んでいても仕方ない。とにかくライドウたちと話してみよう。


「ご主人様、船が止まるようです」

「……なんか、変なのが小舟に乗ってこっち来た……」


 沖合に海賊船は停泊。更にそこから小舟を出して島へと上陸しようとしているらしい。

 小舟は誰も漕いでないはずなのに、すーっと海面を滑るようにしてスムーズに移動してくる。

 ……あれも魔法、なのだろうか? それとも何か別の理由があるのか……今はまだわからない。


”小舟にいるのは……二人?”

「うん。海賊と…………何か、真っ黒いの」


 まだ離れていて私からは細かい姿はわからないのだが、人影は二つ。

 メタモルかライズで視力を強化したジュリエッタがそれを肯定する。

 んー、でも海賊はともかく、もう一人の『何か真っ黒いの』って一体なんだ……?

 私の疑問は、小舟が近づいてきたことで解消された。


「……フッ」


 小舟から降り立った一人――黒の海賊が被っている帽子に豪奢なコートを纏った、左目に髑髏のアイパッチを付けた人物……『海賊』の方が一瞬、私たちの方へと視線を向けた後小さく笑い俯く。

 ……何だ?


「フッ、フハハハハハーッ!!」


 俯いたと思ったら、急に高笑いをし始めた!?


「世界のお宝は全部アタシの物!! ライドウ海賊団船長――キャプテン・オーキッドとはアタシのことだぁっ!!」


 自己紹介だったらしい。

 キャプテン・オーキッドと名乗る海賊少女……。どうやら彼女がリーダーみたいだ、自分で船長って名乗ってるしね。

 そしてもう一人はというと……。


「くくく……」


 ……こちらはジュリエッタの言う通り、『真っ黒いの』だった。

 ただし、以前『嵐の支配者』戦で出会ったケイオス・ロアみたいな全身が靄に包まれていて正体不明、とかではない。

 とにかく黒ずくめなのだ。

 全身がひらひらふわふわの黒のドレス――誤解を恐れず言えば、いわゆる『ゴスロリファッション』と言えばわかりやすいだろう。桃香の普段着を更に痛々し――じゃなくて豪華にして色を黒系にした感じだ。

 手に持っているのは、これまた黒の日傘だ。

 特徴的なのは右目……こちらもキャプテン・オーキッド同様に塞いでいるのだけど、それがアイパッチではなくて……何か青い薔薇が生えている。そういう装飾品なのか……?


「我が名はキンバリー……煉獄に舞い降りし堕天使……」


 お、おう?

 ……これは、あれか。あっち(美鈴)の系譜なのか。

 そして最後に小舟から降りてきたのは小さな影――彼女たちの使い魔だ。

 その見た目は、猪……? いや、もしかして豚か……? とにかく、何かそんな感じの小さな生き物の姿をしている。

 ぶっちゃけ、ものすごく可愛らしい。

 使い魔の方はというと、右目が刀傷のようなものがついており塞がれている。

 ……そこだけ見ると、何か歴戦の強者っぽくてかっこいいんだけどね……。

 つぶらな左目が私たちを見ると、


”……拙者、ライドウと申す者。貴公らは?”


 と物凄く渋い声で問いかけてきた――見た目とのギャップが激しすぎる!

 ともあれ、どうやら彼がライドウのようだ。他の使い魔やユニットはレーダーに映らないので隠れていないとも限らないけど、少なくとも目に見える範囲にはライドウ、キャプテン・オーキッド、キンバリーの三名しかいない。


”えっと、はじめまして、ライドウ。私はラビ”


 タマサブローたちしかいないと思っていたのに私たちがいたことに驚いたろう。

 とにかく自己紹介をして、話し合いをしたい。


”ほほう! 貴公が()()名高きイレギュラーであるか!”


 えぇ……? 私、いつの間にそんな有名人になったの?


”貴公の名はトンコツ殿から聞いたことがあるぞ”


 トンコツぅ……あいつ、何かものすごく顔が広いな……そして口が軽いよ!


”ど、どうも……。

 でさ、ライドウ。ちょっと話があるんだけど――”


 ここでトンコツの話をしだしたりしたらどんどん本筋から逸れていってしまう。

 彼には後日話を聞くとして、今はこの島のことだ。

 私の方から話を切り出そうとしたが……。


「へっ、助っ人ってわけかい」

「くくく……」


 オーキッドとキンバリーがライドウを庇うように前へと出て来る。

 あれ? 思った以上に好戦的?

 どうしよう……正直あんまり彼らと戦いたくないんだけど……。


”ちょっと待って! 別に私は君たちと戦いたいわけじゃ……”

”ぬはははっ! あのイレギュラーと剣を交えることが出来るとは……うむ、光栄である!”

”いや、だから……”


 話を聞いてって……。

 こちらの言うことを聞きもせず、ライドウから私へと対戦依頼がやってくる。

 どうしてこう……いや、もう仕方ないか。


”……はぁ……ヴィヴィアン、ジュリエッタ。予定とは大分違っちゃったけど、いいかい?”

「問題ありません、ご主人様」

「うん、ジュリエッタも大丈夫」


 私の言うこと全肯定BOTと化したヴィヴィアンと、元々それなりに好戦的なジュリエッタは構わないようだ。

 ジュリエッタはシオちゃんに引き続いて連戦になってしまうけど、本人には全く疲れとかは見えない。


”しょうがない。ライドウ、この対戦受けるよ。で、終わったらちゃんと私の話聞いてね!?”

”うむ、承知した。オーキッド、キンバリー、()()()()()()もらうがよい”


 ……? んん? 何かライドウの言い方に引っかかるものがあるんだけど……。


”二人とも、わかってると思うけど、ライドウは直接攻撃しちゃダメだよ”


 ここでライドウを倒してゲームオーバーに追いやってしまうのは少々後味が悪い。

 まぁ倒しちゃえばタマサブローたちの悩みの種は消えるとは言っても、ライドウたちの事情も気になるし……ここはオーキッドとキンバリーに的を絞って戦いたい。

 で、戦いが終わってからが本番だ。

 ……何か既に勝った気になっちゃってるけど、ぶっちゃけ、何か負ける気が全くしないんだよね……。


”任せたわよ”


 タマサブローたちは私たちから距離を取り、完全に傍観モードだ。

 ……まぁいいけどさ……。


”それじゃ、ライドウ、行くよ!”

”応!”


 ダイレクトアタックありの乱入対戦を一日に二度もやることになるとは思わなかったなぁ。

 でもこの対戦さえ終われば、私はもう今日は乱入対戦は出来なくなるし、向こうも話を聞いてくれるとは思う。

 ライドウからの対戦依頼を承諾。

 対戦スタートの合図と共に、ジュリエッタが私たちの前へと立ちオーキッドたちへと向かい合う。


 さぁ、まずは彼女たちに勝たなければ話にならない。

 私は『偵察能力(スカウター)』を使ってオーキッドとキンバリーの能力を見、どう戦うべきかを考える。


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