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6-08. 綺麗な華だが毒もある

 花畑にある四阿、そのテーブルを私たちは囲んで座っている。

 私はヴィヴィアンに抱かれたまま、ジュリエッタと並んで座る。

 タマサブローは……相変わらず地面にお座りしたままだけど……まぁ本人がいいなら別にいいけど……。

 ちなみにシオちゃんは椅子をプラムの横に持ってきて並べ、その上で寝転んでいる――プラムの膝を枕にして。

 プラムはプラムで、こちらも変わらず気だるげな表情のまま、特に嫌がる素振りもなくシオちゃんに膝枕をしてあげている。

 ……ユニットの『中身』について話すのはタブーだと思うけど……中身が海斗君だと知っているだけに、何か色々と衝撃だ……。


”それじゃ仕切りなおしね。

 まずはわたしたちの話を聞きに来てくれてありがとう。本当に感謝しているわ”


 さっきも言いかけたけど、まだ手伝うって決まったわけじゃないんだけどなぁ……。


”プラムからは細かい話は?”

「してない、わ」


 『ちょっと厄介なやつら』に絡まれているとは聞いているけど、詳細まではまだだ。

 どうもクラウザーではなさそうだけど、やつの仲間とか同類である可能性は否めない。判断するのは話を聞いてからでも遅くないだろう。

 ……いや、まぁ何か話を聞いた時点でタマサブローたち的には承諾したものと思い込みそうな予感はしているんだけどさ。


”あなたたちも知ってると思うんだけど、わたしたちってそんなに『ゲーム』に熱心なわけではないのよね”


 シオちゃんの手前、少し言葉を濁すタマサブロー。

 熱心なわけではないというよりは、プラム(海斗君)が基本的に『ゲーム』の範囲内にいないから挑みたくても挑めない、という状態が正しいんだろう。

 シオちゃんはきっとそうではないのだろうけど……彼女一人でクエストに行くにしても、相当な実力がないとあまり難しいものには挑めない。

 ……割とタマサブローって『詰み』に近づいてないか、これ?


”ま、去年末からは毎日クエストに参加できるようにはなったんだけどね”


 それはきっと、海斗君が実家に帰省しているからだろう。

 昨日今日戻って来たわけではなく、クリスマス後――おそらく二学期が終わってからこちらに戻って来たのだと思う。

 で、冬休み期間はこっちにいるので、ようやく毎日『ゲーム』が出来るようになったというわけか。

 海斗君も受験に備えて勉強休暇と言っていたし、そんなに長時間『ゲーム』しているとは思えないけど……。


”わたしたちはこの島を拠点にしているんだけどね――”


 タマサブローは話を続ける。

 うーん、実はちょっと聞きたいことがあるんだけど……ま、後でまとめて聞けばいいか。


”何か最近になって、別の使い魔がちょっかいを出してきてるのよねぇ……”

”それが、プラムの言ってた『ちょっと厄介なやつら』ってことかな?”

「そう、よ……」


 ふむ?


”……そいつって、もしかしてクラウザーとか言う名前?”

”いえ、違うわよ?”

”じゃあ、マサ何とか……とかだったりしない?”

”何それ? そんな名前でもないわ”


 ふーむ……まぁここでタマサブローが嘘を吐く理由はないだろうし、今回の件にクラウザーは関わっていないと思っていいだろう。

 ちょっと気になってたマサ何とかについても聞いてみたけど違うみたいだ――ほんと、どこにいるんだろう?


”そいつの名前は『ライドウ』よ”


 おお、強そうな名前だ……。

 もしかしてクラウザーの同類だったりするのだろうか?


「あいつらうっとうしいでしゅ! せっかくプラムしゃまがつくったおはなばたけをメチャクチャにしようとするんでしゅ!!」


 気持ちよさそうに膝枕で寝ていたと思ったら話は聞いていたらしい。

 シオちゃんは寝転がったまま憤慨している。

 んー、そうか。よくわからないけど、この島で戦おうとしたついでに、この花畑を荒らされそうで困っている、というわけか。


”プラムが作った?”


 シオちゃんの言葉で気になった点はそこだ。

 確かにこの花畑……四阿もそうだし周囲を取り囲む柵なんかも人工物ではあるが、プラムが作ったというのはどういうことだろう?


「えぇ……私の魔法で、ね……」

”へぇ?”


 どういう魔法なんだろう? 花畑を作ったということは、植物を操るとかそういう魔法なんだろうか。何にしても始めてみるタイプの魔法かもしれない。


「シオちゃんもおみずあげたりしてるでしゅ!」

「そう、ね。えらい、わ……シオ」

「えへへ~」


 膝枕のまま頭を撫でられ、シオちゃんは嬉しそうに目を細める。

 話からすると、プラムがいない間にもシオちゃんはきっとこの島に来ているのだろう。そして、魔法で作った花畑の世話をしていると思われる。

 なるほど。だとすると、それを荒らされるのは確かに嫌だろうな……気持ちはよくわかる。


”その、ライドウって使い魔は何しにここに来ているの? というか、そもそもこの島って一体何なの?”


 『ちょっと厄介なやつら』がライドウたちのことだというのはわかった。

 でも、根本的な疑問がある。

 それは――タマサブローに問いかけたとおり、()()()()()()()()()()()()()()、ということだ。

 クエストのフィールド内にある島なのはわかる。

 わからないのは……この島が妙な位置にあるということだ。

 どういうことかというと、私たちはこの島に来るまでに結構な距離を移動してきた。普通に討伐対象のモンスターの相手をしているだけでは、きっと到達することのない位置に島はあるのだ。


”うーん……まぁ、この島そのものには特に意味はないわよ? わたしたちも偶然見つけたってだけだし”

「前、にクエストでたまたま……植物の気配があって、それで来た、だけ……」


 さらりと言ったけど、やはりプラムの魔法は植物に関係しているっぽいね。ま、それは今はいいや。


”たまにね、あるのよ。

 クエストのフィールドって、実は『制限』があるのって知ってる?”

”いや、知らない……”

”まぁ普通にプレイしているだけならそうそう『制限』を超えることってないんだけどね”


 今まで特に気にしていなかったけど、クエストの舞台となるフィールドには一定距離までという『制限』があるようだ。

 まぁ無限に広がるフィールドとか言われると、ゲームとしてはワクワクしてくるものはあるけれど、討伐対象がどこまでも遠くに逃げて行ってしまったりとか不都合もある。どこかに制限があるというのは納得だ。


”あなたたちに指定した海ステージはね、他のステージに比べるとかなり広いのよね。多分、ある程度の広さがないとモンスターが自由に移動できなくなっちゃうからじゃないかと思うんだけど”

”ああ、まぁそうかもね”


 一つところに留まっているようならいいんだけど、海って広いし、その中に住んでいる生物ってかなり広範囲に移動することが多いんじゃないかな。

 そうしたモンスターの移動をそこまで制限しないでいいように、広めにフィールドは設定されているみたいだ。


”で、広めのフィールドだからかしらね。本当なら予定にないような島も含まれているみたいなの。

 ここもそうだし、探したことはないけど他にもきっとあるんじゃないかしら”

”なるほど。タマサブローたちは、偶然この島を見つけてそのまま居ついたってことかな?”

”ええ。ま、普通にクエストに来ちゃうと海のど真ん中でこの島に来れないから、『ポータブルゲート』を使ってるんだけどね”


 本当に便利だな、『ポータブルゲート』……。

 どうやらタマサブローたちは最初に受けたクエストをクリアせず、『ポータブルゲート』を使うことで疑似的な拠点としてこの島に居ついているみたいだ。

 もしかしたら今まで行ったことのあるステージも、時間をかけて『境界』まで移動していけば何か変わったものを見つけられたのかもしれない。いや、まぁ別に探すつもりはないけど。


「……そのライドウってやつは?」


 おっと、忘れかけてた。

 焦れたジュリエッタがライドウについて尋ねようとする。


”ライドウねぇ……ライドウと言うより、あいつのユニットの方がこの島になんか執着しているのよね”

”ユニットの方が? それに、タマサブローたちじゃなくて()の方に?”

”そうなのよ。ま、ライドウも自分のユニットを止めるつもりはないみたいだから、わたしたちからしたら一緒だけどね”


 うーん……? ライドウたちの目的がよくわからないなぁ……。

 向こうが何を考えているのかわからない以上、無条件にタマサブローたちの味方をするってわけにもいかないと思う。

 そりゃ、まぁ海斗君が悪いことを企んでいるとも思いたくないけど、彼がどんな人物かってのを私は知らないわけだし……。

 かといって、じゃあ協力できません、と判断するのも流石に早計だろう。


”…………わかった。まぁとりあえず、そのライドウって使い魔たちと一度会って話してみるよ。この島に来るんだよね?”


 別にタマサブローとライドウがフレンド同士ってわけでもないだろうし、呼び出して来るとは到底思えない。

 目的は不明でもこの島に何かしら執着しているってことは、待っていれば来るんじゃないだろうか。


「多分、そろそろ、来る頃、かしらね……」

「ふんっ、あんなやつらボッコボコにしておいかえせばいいんでしゅ!」


 意外に攻撃的だなぁ、シオちゃん。

 でもそれをしないからこそ、私たちに声がかかったんだと思うけど。

 私の思ったことをジュリエッタも思ったのだろう。


「……なら、自分でやればいい。別に、ジュリエッタがやらなくてもいい、と思う……」


 ジュリエッタも対戦が嫌いなわけではない――まぁアンジェリカの件で若干苦い思い出はあるだろう――けど、わざわざ呼び出された上に、呼び出した方が何かデカい顔をしているのは気に障るのだろう。

 その辺は私もまぁ同感かな。海斗君の手伝いをするのは吝かではないんだけど。


「こら、シオ。……ごめんね、ジュリエッタ」

「むぅぅぅぅぅっ」


 プラムに窘められたシオちゃんが頬を膨らませ、不満気にジュリエッタの方を見る。

 そして、プラムの膝から起き上がるとてくてくとこちら側へと歩いて近づき、ジュリエッタの方を睨みつける。


「……」


 これを涼しい顔で受け流せるほど、ジュリエッタも大人ではない。

 椅子から降りると、無言でシオちゃんの前へと立ち視線を受け止める。こちらは表情こそ変わらないが、百戦錬磨の魔法少女だ。横で見ていてわかるほど『圧』が込められている。


「だいたい、おまえみたいなおチビ……たたかえるんでしゅか?」

「……おまえに言われたくない」


 並んで立つと二人はほとんど同じくらいの身長だ。ちょっとだけシオちゃんの方が小さいくらいかな? 誤差の範囲だとは思うけど。

 ジュリエッタの『圧』の籠った視線を平然と受け止め――いやもしかしたら気付いていないだけかもしれないけど――ジロジロとシオちゃんはジュリエッタを上から下まで疑わし気に不躾な視線を送ると……。


「とりゃっ!」

「っ!?!? ひにゃあっ!?」


 いきなりジュリエッタへと手を伸ばす。

 ……彼女の股間に向けて。

 対戦をしているわけではないのでダメージはないが、触られた感触はもちろんある。

 予想外のシオちゃんの行動に、今まで聞いたことのないような悲鳴をあげてジュリエッタが後ろへと飛び退る。


「……おんなのこでしゅ」


 ……見ればわか――らないかもしれない。ジュリエッタの大きさだと……服装も半纏に甚平とあんまり女の子っぽくないしね。

 いや、それはともかく……いきなり何してんの、この子!?


「おんなのこで、そんなチビで、なにができるんでしゅ?」


 君も人のこと言えないと思うんだけど……。


「殿様……こいつ、ぶっ飛ばす……!」

”ちょ、ジュリエッタ……落ち着いて……”


 見た目はチビっ子だけど、うちのジュリエッタはかなりスゴイんだよ?

 とにかくプライドを逆撫でされて、珍しくジュリエッタは怒りをあらわにしている。

 ……これは、口で言っても収まらないかなぁ……でも、ここでタマサブローたちと乱入対戦をするってのは……。


「……はぁ……シオったら……。

 仕方、ない……タマサブロー、シオとジュリエッタを、戦わせてあげて……」

”……いいの?”


 ジュリエッタもひと暴れすれば冷静になってくれるだろうし、乱入対戦でのダイレクトアタックに警戒する必要がある以外はこちらも歓迎だけど……。

 ええ、とプラムは気だるげな顔のまま頷く。


「今のは、シオが悪い……ジュリエッタも、思いっきり、やりたいでしょ……?」

「当然……!」

「だってだって、プラムしゃま~!!」


 うむむぅ……どうしようか……。


「ご主人様、ダイレクトアタックを気にされているのであれば、今回はあまり心配はないかと」


 こそっとヴィヴィアンが私に耳打ちする。


「ここでご主人様の身に何かあった場合、現実世界でのあやめ様たちが気付きます。そのような危険を冒すことはないかと。

 そもそも、わたくしがいるかぎりご主人様には指一本触れさせません」


 ――と自信たっぷりに言い放つヴィヴィアン。


「シオ、私は手伝わない、から……」

「そんなぁ~プラムしゃま~!」


 向こうもプラムは不参加。

 つまりは、ジュリエッタとシオちゃんの一騎打ちとなる。

 ヴィヴィアンとプラムが不参加というのは、乱入対戦の性質上ただの口約束にすぎないんだけど……まぁ確かにヴィヴィアンの言う通り、プラムがここでそれを反故にしてくる可能性は低いだろう。

 私たちを襲えば――そして万が一私が倒されれば、現実世界に残ったあやめと美々香がそれに必ず気が付く。というよりも、倒されないでも私に攻撃を仕掛けた時点でライドウをどうにかするという話はなしになる。

 じゃあジュリエッタの方を襲うかと言われると……可能性はないわけではないけれど、まぁ多分ない気はする。

 というのも、表情とか動作からもひしひしと伝わってくるが、プラムって本当に気だるそうなんだよね……気だるそうというか、何か全体的に『緩慢』な感じがするのだ。それこそ、植物みたいに。

 まぁ仮にジュリエッタに襲い掛かったとしても、ジュリエッタ的には割と望むところなんじゃないかな。アリス程ではないにしろ、かなり好戦的だし。


”よし、じゃあジュリエッタとシオちゃんが戦う。ヴィヴィアンとプラムは不参加――どっちかが負けた時点で、負けた方が『降参(リザイン)』する、それでいい?”

”……仕方ないわね。協力をお願いする身としては、そちらの要望には応えるわ”


 だったらそもそも喧嘩するような状態にしないで欲しいんだけど……今更言っても仕方ないけどさ。


「……二人、とも。ここで戦ったら、花畑が荒れる、から……あっちでやって……」


 場のセッティングは済んだとばかりに、プラムは興味なさそうに遠くの森の方を指さす。


”ジュリエッタ、森についたら遠隔通話で教えて。そこで対戦依頼をかけるから”

「うん。わかった。ごめんね、殿様。

 ……ヴィヴィアン、殿様を任せた」

「ええ。言われずとも」


 この時点でジュリエッタは頭に昇った血が下りてきたのだろう。ここで対戦したら私が襲われる危険に気づいたらしい。

 が、まぁそれも今更だ。ヴィヴィアンもいるんだし、さっき考えた通り向こうが襲ってくる可能性は低いと思う。

 ならば、ジュリエッタにはここで思う存分暴れてうっ憤を晴らして欲しいかな。


”行ってらっしゃい、ジュリエッタ”

「行ってくる……絶対、ジュリエッタ、負けない……!」

「し、シオちゃんだってまけないでしゅ!」


 そして、二人は睨み合いつつ、花畑を出て森へと向かって行った。


「……全く、相手の思惑に乗るというのも不快ですが、致し方ありませんね」

”え? どういうこと?”


 ヴィヴィアンがため息交じりに言った言葉の意味がよくわからない。


「はい。恐れながら申し上げます。この状況――()()()()()()()()()かと推測いたします」

「……ふふっ」

”えぇ?”

「大方、わたくしたちの実力を見ようという魂胆でしょう。

 シオ様がジュリエッタに突っかからなければ、適当な理由を付けてモンスターとでも戦わされていたかと思います」


 ……マジか。

 いや、でも確かにそれはありえそうだ。

 ライドウをどうにかしたいというのがプラムたちのお願いだけど、私たちがどの程度の実力なのか――下手したらプラムたちよりも戦力として劣っているのであれば話にならないのだ。

 それを確かめようとしていたってわけか……。

 微妙にショックを受けている私に向けて、ヴィヴィアンは続けて言った。


「……あやめ様が申しあげていた通り、やはり腹黒ですね」

「そんなこと、ない、わ……よ?」


 そう言いつつ、私たちと出会ってから初めてプラムはにぃっと笑うのだった。

 ……うわぁ、完全に乗せられたってわけかぁ……もはや手遅れだけどさ……。




 その場で待つこと数分。

 ジュリエッタから森に着いたと連絡が来た。

 タマサブローの方にもシオちゃんから合図が来たのだろう。


”それじゃ、タマサブロー、行くよ”

”ええ。こうなったら仕方ないわね。いつでもどうぞ”


 そして、私から乱入対戦を挑み承諾。

 ジュリエッタとシオちゃんの戦いが始まった。


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