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6-07. 名もなき島の魔法少女たち

 然程大きくない島だと思っていたけど、それは私たちがかなり上空にいたせいだったみたいだ。

 近くまで降りて来ると結構大きな島のように思える。流石に大陸とは言い難いくらいの大きさだけど、徒歩で一周回るのは結構辛い大きさだと思う。

 島の中央付近には大きな山がある。形は富士山に少し似ているかも? 高さはかなりあるみたいだ。

 山の周囲はゴロゴロとした岩と荒れた土地となっていることから見ると、もしかしたら火山なのかもしれない――噴煙が上がっていないので、死火山なのか、あるいは休火山なのか。

 荒れ地から離れると途端に景色が変わり、穏やかな平地とよくわからない植物の森となっている。


”うーん……何だかよくわからない島だね……”


 南国の楽園、とはちょっと言い難い。

 でもまぁ中央の荒れ地地帯を除いてみれば……まぁリゾートっぽいと言えないこともない感じだ。

 私は前世でもそんなに旅行とかしない方だったので適切な例えが思い浮かばないんだけど……ぱっと見た印象だと、そんなに大きくない海水浴場だろうか……。

 私たちが飛んできた方向に向かう合うところは砂浜となっているので、まぁそこまで間違いではないとは思う。ただ、島の反対側とかまではどうなっているかわからない――特に私たちから見て島の奥に当たる方は荒れ地が更に広がっており、もしかしたら切り立った崖とかになっているのかもしれない。


「一先ずあちらの砂浜に降り立ちましょうか?」

”そうだね。《ペガサス》はリコレクトしないでそのまま乗っていこう”

「……ジュリエッタは地上に降りる」


 私とヴィヴィアンは《ペガサス》に乗ったまま。ジュリエッタは《ペガサス》から降りて動くと主張する。

 確かに何が起こるかわからない。モンスターに突如襲われるかもしれないし、ジュリエッタが自由に動けた方がいいだろう。

 ゆっくりと様子を見ながら地上へと降下を始めた時、私の目にちょっとよくわからないものが映った。


”……? 待った、ヴィヴィアン!”

「はい。何かございますか?」

”あっち――あれ見て!”


 海岸から少し進んだ先には防風林? のような木々が立っており、その奥は少し平地となっていたのだが……。

 その平地に、何か変なものが見えたのだ。

 私の言葉にヴィヴィアンとジュリエッタもそちらの方を見ると……。


「……花畑?」

「柵で囲われている、みたい」


 平地のど真ん中に色とりどりの花が咲き乱れる『花畑』としか言いようのないものが見えたのだ。

 大きさとしてはそれほど広くはない。ちょっと大きめの一軒家分程度だろう。

 その周囲にはジュリエッタの言うように木の柵が作られて覆われている。

 明らかに人工物だ。


”もしかしたら、あっちの方かも。行ってみよう”

「畏まりました」


 私たちの目的はこの名もない島の探検ではない。

 ここにいるであろう海斗君とその使い魔との合流である。

 だったら、何かしら人工物のある方に行ってみた方がいいんじゃないかと思う。きっと、それが目印になっているのだろう。

 私たちは進路を変更し、島の内部――謎の花畑へと向かって行った。


 花畑っぽいと思ったら、本当に花畑だった……。

 というよりも、これはもはや『庭園』と言ってもいいのではないだろうか。

 中心付近には植物だけで作られた――木材で作ったとかそういう意味ではなく、本当に緑の自然に生えた植物だけで作られているのだ――藤棚、というか四阿(あずまや)がある。

 咲いている花は少なくともわたしは見たことのない植物だ。ひまわりに似ているけど、もっと色鮮やかで花も大きい。それでいて、丈はそれほど高くもなく、子供の腰位までだろうか。


「……来た、わね……」


 中央の四阿の中にはテーブルとイスがあった。これは流石に木材を加工してつくられたものみたいだ。

 その椅子の一脚に腰掛けている人物――『彼女』を見て、私たちは全員言葉を失ってしまった。


”…………え、あ……?”

「……ふぅっ……」

「……ほわぁ……」


 三者三様の反応だが、概ね方向は同じ――私たちは思わず彼女に()()()()しまったのだ。

 椅子に緩く腰掛け、優雅に足を組んでいる彼女……それはまさしく『美の化身』としか言いようがなかった。




 何というか、『オーラ』が違う。

 現実世界で初めて桃香を見た時に感じた、あの圧倒的な存在感を放つオーラとよく似ている。

 ただ、彼女の放つオーラはそれとはまた異なり、こちらが抵抗する気さえ起きないような……惹きつけて、そして離さないような、そんな感じがする。

 魔法少女(ユニット)全般に言えることだけど、顔の造形は非常に整っている。年齢はおそらく十代後半くらいだろうか、アリスと同じか少し上に見える。

 光の加減で緑のようにも見える黒髪――もしかしたら実際に暗緑色なのかもしれない――に、深い緑の瞳。ほっそりとした、今にも折れてしまいそうに華奢な体躯を、植物モチーフなのだろうか鮮やかな緑をベースとし様々な花で飾ったドレスで飾っている。

 どこか憂鬱そうな表情だけど、それがまた『愁いを帯びた』といった感じで実に様になっている……。

 だが彼女の見た目で一番特徴的なのは――


”……エルフ……ってやつなのかな?”


 ピンと先端がとんがった、いわゆる『エルフ耳』である。

 孤島の花畑に一人佇むエルフ――実に絵になる。


「待って、たわ……ラビ……」


 表情だけでなく口調もどこか気だるげな感じだ。

 ……その喋り方もまた、妖艶な雰囲気を醸し出しているように思える。


”あ、えっと……待たせちゃってごめん。

 ……あなたが……?”


 みなまで言わず、それでも私の言葉に彼女は頷く。


「そう……」


 どうやら、彼女が海斗君……らしい。

 う、うーむ……現実世界での海斗君も想像していたより柔らかい雰囲気でちょっと驚いたけど、変身後は更に雰囲気が違いすぎて何というか……。


”えっと、何て呼べばいいのかな……?”


 実はこのクエストに来るに当たって、一つ海斗君から注意されていたことがある。

 それは、クエスト内で『海斗』の名前を出さない事、というものだ。

 以前に『すべての使い魔が複数ユニットを持った』ということが運営からの通知で判明している。

 ということは海斗君の使い魔も、海斗君以外のユニットがいるということになる。

 彼の話では『ゲーム』内でもお互いに正体をわからないようにしているのだという――ヨームたちと同じ、マイルームに入った瞬間に強制的に変身させる機能をオンにしているようだ。

 まぁそうする理由はわからなくもない。海斗君は桃園台出身の有名人だし、無用な混乱を起こさないように秘密にしたいのだろう。

 で、ここで海斗君と呼ぶわけにもいかないので名前を知りたいのだ。


「……プラム、よ」


 プラム――そう彼女は名乗った。

 緑の魔法少女プラム、うん、理解した。


”わかったよ、プラム。

 私たちも一応自己紹介した方がいいかな?”

「そう、ね……でも、その前、に……」


 プラムが自分の背後を見ると、ゆらゆらと手招きをする。

 すると、花畑の中から一匹の――子犬? が現れる。

 小さなシベリアンハスキーとでも言うのか。大きくなったらきっと精悍な顔つきのかっこいい犬になるんだろうけど、今はふわふわもこもこの可愛い子犬だ。


「タマサブロー」

”……うぅっ、何でわたしがそんな名前なのよぅ……”


 ――そ、それが名前なのか……。

 プラムが『タマサブロー』と紹介した子犬が、可愛らしい()()の涙声でブツブツと文句を言っている。

 トンコツとどっちがマシな名前なんだろうか……と思わず遠い目をしてしまう。


”えーっと、タマサブロー?”

”くっ……その名前で呼んでほしくない! けど、呼ばれざるを得ない……!”


 どうやら彼女も苦悩しているらしい。


”……えっと、私たちの方の紹介ね。

 メイド服の子がヴィヴィアン、狐のお面を頭に載せている方がジュリエッタ”

「……ん……」


 私の紹介に、プラムは二人へ視線を向けて小さく頷く。

 現実世界で桃香と千夏君には会っているし、どっちがどっちかは――うーん、これわかるかなぁ? まぁこの場で説明しなくてもいいかな?

 タマサブローのユニットは、プラムと後もう一人いるはずなんだけど……この場にはいないっぽい。クエストに参加していないのか、それとも……?


「ほら、タマサブロー……」

”うぅ、わかってるわよぅ……”


 プラムに促され、タマサブローが前へと出て私たちへと向き直る。

 そうだ。私たちは別に一緒にクエストに参加したいがためにここに来たのではない。

 彼女たちに何か頼みたいことがあって呼び出されたのだ。


”あなたたち――が、プラムの呼んでくれた助っ人ね。

 まずはここまで来てくれてありがとう”

”うん。でも、まぁ……まだ細かい事情は聞いてないし、手伝うと決まったわけじゃ――”


 ――ないんだけどね。

 そう続けようとした時だった。


「プラムしゃまぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


 と、甲高い、舌ったらずな子供の声が聞こえてきたかと思うと……。

 花畑を突っ切り一直線にこちらへと突っ込んでくる影が。


「! 殿様」


 咄嗟にジュリエッタが私――を抱きかかえたヴィヴィアンを庇うように前に立つ。

 が、突っ込んできた影は私たちの横をあっさりと通り過ぎ……。


「プラムしゃま!」

「……シオ」


 そのまま体当たりするつもりかという勢いで、椅子に腰かけたままのプラムへと飛びついていった。

 そしてプラムへと抱き着くとぐりぐりと自分の頭をプラムのお腹へと擦り付ける。

 ……犬か、この子。


「会いたかったでしゅ、プラムしゃまぁぁぁ」

「……昨日も会ったでしょ……?」

「もっともっとあいたいのでしゅ!」

「……はい、はい……。今は、お客様とお話、しているから……」


 プラムにそう言われるものの、その子は全く離れる様子がない。

 おそらく、というか間違いなくこの子がもう一人のユニットなのだろう。

 年齢はかなり低い。ジュリエッタと同じ幼稚園児かそこらくらいと言った、かなり小柄な女の子だ。

 こちらもプラムに負けず劣らず印象深い姿をしている。

 一言で表せば、『ピエロ』だ。顔にメイクはしていないものの、来ている服が派手な柄のいかにも『ピエロ』な衣装である。トランプのジョーカーとか、そんな感じにも見えるかな? まぁ中身が小さな女の子なので、可愛らしい仮装だとは思う。


”……この子がわたしのもう一人のユニットよ。

 ほら、シオちゃん”


 『シオ』というのが名前なのだろう。ピエロ少女をタマサブローが促すが……。


「そんなことより、プラムしゃまのほーがじゅーよーでしゅ!」


 あっさりと使い魔は無視されてしまう。

 ……苦労してそうだなぁ、タマサブロー……。


”あ、いいよいいよ。シオちゃんもそのままで”


 このまま話が進まないのでは仕方ない。

 別に害があるわけではないし、シオちゃんはプラムに抱き着かせたままにしておこう――何だか引き離したら、それはそれで何か鬱陶しいことになりそうだし。

 タマサブローは大きくため息を吐く。

 ……ほんと、ご苦労さまです……。


”ごめんなさいね……。

 じゃあ、悪いけどこのまま話させてもらうわね……”


 さて、話し始める前から何か色々とあったけど――ここからが本題だ。

 一体タマサブローたちを悩ませる『ちょっと厄介なやつら』とは……?


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