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5-87. Fromidable Girls!! 6. イレギュラー・ワン -アリスvsアヴェンジャー(前編)

*  *  *  *  *




 『冥界への復讐者(ジ・アヴェンジャー)』……彼と『冥界』との間にどんな因縁があるのかは私は知らない。

 確かなことは、やつが私たちに向かってくる『敵』だということだけだ。


「はぁっ!!」


 戦闘開始直後、超巨大ムカデの突進をかわしてアヴェンジャーと戦うためにアリスは《邪竜鎧甲(ファヴニール)》を身に纏い、『(ザ・ロッド)』を《竜殺大剣(バルムンク)》へと変えていた。

 アヴェンジャーの方も他には目もくれず、アリスの方へと向かってきた。

 ヴィヴィアンたちの方も心配だけど今はアヴェンジャーに集中しないと……。

 何しろこいつ、この『冥界』で出会ったモンスターの中では群を抜いた強さなのだ。




 気合と共に振り払った《竜殺大剣》を、アヴェンジャーは片手であっさりと受け止める。

 ドラゴンの鱗を易々と切り裂くことのできる刃をいとも簡単に受け止めたのだ。それも、真剣白刃取りみたいな『技』で止めたのではない。無造作に突き出した掌で掴んで受け止めたのだから、その硬さがどれほどのものなのかは容易に想像がつく。


「ふん……」


 そのまま接近戦を仕掛けるほどアリスも迂闊ではない。

 《竜殺大剣》を止められたことについては面白くなさそうに鼻を鳴らすが、そのまま拘泥せずにすぐさま引く。

 アヴェンジャーは静かに佇み、こちらの様子を窺っている。すぐに攻めて来る気配はないが……。


”何て防御力だ……”


 《竜殺大剣》の刃が通らないくらい硬いとは……。

 大きさは人間大のサイズ――モンスター図鑑だと小型か中型に分類される程度の大きさだというのに、防御力は超大型のテュランスネイルの殻並かそれ以上あるということなのだろうか。

 だが、私の呟きにアリスは首を横に振る。


「いや――これはオレの技量の問題の方が大きいな」


 どうやらアリスは私とは違う意見らしい。

 まぁ確かに彼女は『ゲーム』の経験はそれなりに長いものの、別に元々武術やらをやっていたわけではない。

 剣だって力任せに振り回すだけでしっかりと扱えているとは言い難い。しっかりとした剣の振り方をしたら、もう少しうまい具合にダメージを与えられるのかもしれない。

 ……まぁそれは今言っても仕方ない。こういうのは練習の積み重ねだ、急にアリスが剣の達人になれるわけがないのだ。


「……使い魔殿、使うぞ」

”……わかった”


 何を、とは聞かない。

 このまま普通に魔法を使っていても攻めきれないだろう。

 であればこの場面で使う魔法は決まっている。


「――ext《滅界・無慈悲なる終焉(ラグナレク)》!」


 正体不明だが、とにかく魔法の威力を劇的に増大させる《滅界・無慈悲なる終焉》だ。

 ……この魔法、今に至るまで正体がさっぱりわからない。それなりの消費量はあるけれど、神装に比べたら全然少ないし、だというのに強化の幅は異様に大きい。後、使った後にアリス自身が謎の体調不良に陥ってしまう――そこまで長い時間ではないんだけど……。

 色々とわからないことが多いため、アリスには出来るだけ使わないように言い聞かせている……が、アヴェンジャー相手にそんなことは言っていられないか。

 《邪竜鎧甲》と《竜殺大剣》それぞれに《滅界・無慈悲なる終焉》をかけて強化、とりあえず他に神装は今のところ使うつもりはないらしい。


「行くぞ!」


 黒炎を立ち上らせ、アリスが再度アヴェンジャーへと向かう。

 ……だが、


「くそっ!?」


 再び《竜殺大剣》はアヴェンジャーによってあっさりと止められてしまう。

 ……いや、前に比べたら薄皮一枚傷つけるくらいは出来ている、か? でもそれじゃほとんどダメージになっていない。

 今度はアヴェンジャーも黙って受けたままではない。《竜殺大剣》を止めたのとは逆の手でアリスへと殴り掛かろうとしてくる。

 《邪竜鎧甲》に覆われていない顔面を狙いすました拳をかわし、反撃しようとするもアリスはすぐさま後ろへと下がる。

 パンチと同時に振り上げられた足が先程までアリスがいた位置を薙ぐ!

 蹴りは空振りに終わったものの、足を振り下ろす勢いで地面を蹴りアヴェンジャーの方から積極的に間合いを詰めてきた。


”早い!?”

「この程度ッ!」


 懐へと潜り込み鋭いボディブローをかわすが、突如アヴェンジャーの肘から刃が飛び出しアリスを切り裂く。


「ぐぅっ!?」


 《邪竜鎧甲》を身に着けているというのに、アリスの腹部が深々と切り裂かれてしまう。

 だが致命傷ではない。もちろん放置していていい傷ではないが……。

 回復している暇すら与えてくれず、接近したままアヴェンジャーは次々に攻撃を仕掛けて来る。

 そのことごとくをアリスは何とか回避して直撃は避けているものの、次第にダメージが蓄積してきている……。


「チッ……cl《赤色巨星(アンタレス)》!」


 離れて仕切り直したいところだが相手の動きが速すぎてそれも出来ない。

 そこでアリスは、超至近距離から《赤色巨星》を放つ――下手すれば自分ごと吹っ飛ばしてしまいかねない危険な方法だが、他にいい手も思いつかない。


「N?R@M/R@K@/N/S/R@」


 回避することも出来ない位置から撃ったにも関わらず、アヴェンジャーはしっかりとアリスの動きを捉えていた。

 放たれた《赤色巨星》を両手で受け止めてその場にとどまってしまう。

 ……さっきアトラクナクア戦でジュリエッタはメタモルで巨大化して《赤色巨星》を受け止めたが、アヴェンジャーは特に何かの能力を使って止めたわけではない。

 単純に腕力に物を言わせて止めてしまったのだ。

 が、流石に《赤色巨星》の勢いをすぐに止めることは出来ず、ほんの一瞬だが動きを止めることには成功。その隙にアリスは全力で後ろへと跳びアヴェンジャーとの距離を一旦取る。

 逃げるために逃げた、というわけではないけども、アリスに退かせるとは……。




 アヴェンジャー……ちょっとこれはアリスには辛い相手かもしれない。

 『嵐の支配者』のように膨大な体力と物量で押してくる相手でもないし、アトラクナクアのように無数の特殊能力を駆使してくる相手でもない。

 戦い方ははっきり言って『地味』だろう。身体のあちこちに武器を隠し持っているみたいだけど、基本的には徒手空拳の格闘戦をするしかないタイプのように見える。

 でもそれが脅威だ。

 攻撃力・防御力・機動力、その全てが高次元でまとまっており、こちらの攻撃をものともせずに突き進んでくるのが脅威なのだ。

 あえて言うなら、《狂傀形態(ルナティックドール)》を使ったジュリエッタが一番近い相手になるだろうか。アリスにとっては戦いにくい相手である。

 というのも、アリスは別に接近しての格闘戦に強いというわけではない。接近戦()()()()という程度に過ぎないのだ。一番実力を発揮できるのは、遠距離から高威力の魔法を撃ちまくって大群や大型を殲滅するような戦い方だと思う。

 ジュリエッタやアヴェンジャーのような、いわば『正統派』の格闘戦が得意な相手と戦うのは若干苦手としていると言える。


「へっ……!」


 一旦仕切りなおしたところで、アリスはそれでも笑みを浮かべる。


「色々とこのクエストに来てからムカつくことが多かったが――()()()()()()()()な、使い魔殿」

”……はぁ……”


 ため息をつかざるをえない。

 でも、これがアリスなんだから仕方ないか。

 一歩間違えば即死させられるような強敵相手であっても、アリスは恐れない。

 それどころか、逆に『楽しく』なってくるというのだから……ナチュラルボーン・バーサーカーここに極まれり、だ。


「使い魔殿、回復頼む! 速攻で決めるぜ!」

”わかった!”


 私がここで『嫌だ』と言ったらどうするつもりなんだろう、と興味は湧くがもちろん口にするつもりはない。

 ……何だかんだ言って、そんなことをこの状況で思えるとは、私もアリスのことは言えないかもしれない。

 とにかく、アリスは既に自分のアイテムホルダーのキャンディは大分消費してしまっている。私が回復しなければ長くは戦えない。

 そして今回の戦いについて私からアリスにアドバイスできることも多分ない……せいぜいが『無茶しないで』って言えるくらいだけど、残念ながら『無茶をしなければ』勝てないだろう相手だ。

 ならば、私は彼女が全力で戦えるようにサポートするまでだ。


「まずは――ext《屍竜脚甲(ニーズヘッグ)》!」


 《赤色巨星》が破壊され、アヴェンジャーがこちらへと飛び掛かってくる。

 その前にアリスが使ったのは、私も初めて見る魔法だった。

 全身を覆う《邪竜鎧甲》の甲殻が、アリスの腰から下へと集中する。

 下半身だけ分厚い甲殻に包まれた状態となる。

 ……多分だけど、この魔法は《邪竜鎧甲》のような全身強化の魔法ではなく、アリスの脚力だけを強化する魔法なのだろう。それも、わざわざ『ニーズヘッグ』と名付けられていることから、神装であることも確かだ。

 他の強化を捨てて脚力だけを強化する神装――となると、一体どれほどの強化になるか想像もつかない。《神馬脚甲(スレイプニル)》もある程度は脚力を強化してくれはするものの、あれの本質は『移動力の強化』だ。あちらと比較すると、こちらはかなり攻撃寄りの補助魔法と言える。

 んで、この局面でアリスが脚力強化をするということは、狙っているのは――


「M/T/M/N/T#R@M//S$T/K@K@/N/S$N@N?T/K$T/T#T/N?T/S$T/M/N@K/T/, T#T/K/T/T?/N?T/N/M/R@K@T/M?/T#T/S$/K$T/M?T/N?/S$N@T#T/N?/M/N/K$T/N/N?T/M/N@」


 この戦いは長引かない――それをアヴェンジャーもわかっているのだろう、こちらへと向かってくると同時に、肘や膝から鋭い刃を生やし更に両腕は一回り以上太く――篭手、というか楯を纏っているようになっている。

 攻撃も防御も更に高めた戦闘形態……互いにこの一撃で決めるつもりだ。


「ext《嵐捲く必滅の神槍(グングニル)》、ext《滅界・無慈悲なる終焉》!」


 アヴェンジャー相手に《竜殺大剣》はきっと通じない。

 それを理解しているアリスは魔力を惜しまずに極大火力魔法を解き放つ!


「ext《神喰らう暗冥の烈槍グングニル・ラグナレク》!!!」


 アリスの切り札の一つ、絶対命中の神装に《滅界・無慈悲なる終焉》を掛けた魔法が炸裂する。

 放たれた槍は普段とは異なり漆黒の光の奔流――『黒い嵐』を身に纏い、まるで周囲の空間そのものを抉り取るようにして突き進んでいく。

 それだけではない。アヴェンジャーへと命中する直前、槍は空中で()()に分裂、様々な角度から突き刺さろうとする。

 ――これは……見た覚えがある。

 『嵐の支配者』に私とヴィヴィアンが飲み込まれていた時、外側からアリスの魔法と思しきものが助けに来た時のことだ。

 あの時の黒い竜……それがこの《神喰らう暗冥の烈槍》だったのだろう。私がいない間に、神装に《滅界・無慈悲なる終焉》を重ねるとか、どうやら相当な無茶をしたらしい――いや、今それを責めることなんてしないけど。

 ともあれ、狙った相手に絶対に命中する《嵐捲く必滅の神槍》、それが合計九本同時に襲い掛かるのだ。普通のモンスターならば、まず間違いなく息の根を止めることが出来るだけの攻撃力を持っているだろう。事実、とどめこそ刺せなかったものの、『嵐の支配者』の肉体を貫きしばらくの間行動不能にするほどのダメージを与えることが出来たのだ。

 ……だと言うのに、


”……嘘でしょ!?”


 九本の槍は確かに命中はした。

 ……したのだけど、そのことごとくがアヴェンジャーの硬い甲殻に阻まれて貫通出来ていない。

 恐るべき防御力だ……。今までもテュランスネイルが殻で《嵐捲く必滅の神槍》を受け切ったことはあったが、あれは見るからに硬そうな殻だったしわからないでもない。

 けどアヴェンジャーはあくまでも『蟲』である。確かに蟲の中にはそれなりに硬いのもいるけど、貝殻ほど硬いのはいないと思う……。


”アリス!”

「おう、行くぜ!」


 でも、私たちは止まらない。

 これで決着がつくのであればそれに越したことはなかったけど、そうはならないかもしれないとは思っていた。

 驚きつつも私はすぐさまアリスにキャンディを与えて魔力を回復――負荷は非常に重いがここで畳みかけないと勝利は得られない。


「ext《嵐捲く必滅の神槍》!!」


 再びアリスは《嵐捲く必滅の神槍》を使う。

 『杖』は既に使ってしまっているために使えない。となれば、当然神装を掛ける対象は『麗装』の方となる。


「ヴィクトリー――」


 脚力強化の《屍竜脚甲》を使ったのは、このためだ。

 全身に嵐と雷を身に纏ったアリスが助走、九本の黒い竜に襲われているアヴェンジャーへと向けて飛び蹴りを放つ!


「キィィィィィクッ!!!!」


 合わせて10本、神をも殺す嵐の槍がアヴェンジャーへと突き刺さる……!


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